「おーい、セレスさーん?」
「....」
「そのー、重いっす。こう、のしかかるにしても、もうちょい床が柔らかい所とか、ほら」
「....」
「なんでもっと体重預けて、ぐえっ」
なんか押し倒されて床とサンドイッチにされたでござる。どうして....
今のセレスは、餌を貰えると思ってたら貰えなかった子犬くらい可哀想な顔をしている。そうされると、強く言えない。自分の性格が憎い。
体格差が酷い。十五~七くらいに見える彼女と、推定十歳?の俺だと流石に色々とキツい。特にこう、胸の辺りとか。色々マズい。
........
にしても。
「お前、柔らかくなったな」
「..は?」
旅の、終わり際。
皆の髪はゴワゴワで、体は傷だらけ。俺とメルクリアがいくら治しても、次の戦闘の時にはダメになってて。
風呂に入る時間も、寝る時間もなくて。気術で無理くり体調を整えて前進、前進。酷かった。
今の、彼女は。
いい匂いがした。血も、泥も無縁な。花に似た甘い匂いが。
手が、剣を握り続けた人間の硬さを持っていなくて。
余分な物が全て削ぎ落とされていた体は、乗られても痛くない程に肉が付いていた。
彼女が今、戦わなくて済んでいる。それが、触れ合っただけで分かる。
あの傷だらけの勇者が、今はちゃんと
「良かった、本当に」
つい、手が勝手にふわふわになった髪を梳く。彼女は、抵抗せず、しかして肯定もしなかった。
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しばらくの間、セレスを無心で撫でていた。そうしていないと理性というか、色々ヤバかったので。
俺だって男なんだよね、多分このおバカは忘れてるんだけど。
「そろそろ落ち着いた?」
「....うん」
「起きれる?」
「うん」
「取り敢えず退いてくれない?」
「....」
なんで急に黙るんですかぁ....?
クッションにしても、もうちょっとマシなのがそこら辺にあるだろ。何故俺を。なんだ、寒いのか。
「いやだ」
「えぇ」
「まだのるの」
幼児退行セレスver始まる模様。なにこれ。
「俺腹減ったんだけど」
「だめ」
「ダメてなんやねん」
「だめ!」
三大欲求禁止されたわ。笑えるね。
「別にさぁ、元気になればなんでも付き合うからね?今はちょっと我慢しない?」
「....」
「じゃあ分かった。あと五分とか。それでどう、ですかね」
「....にじゅっぷん」
すぅーっ(深呼吸)
「結構ガチでお腹減っててぇ、せめて十とか「にじゅっぷん」はい....」
おかしいな、こんな押しが強い子だったかなぁ。
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「ただいま、マスター」
「おかえ....ここはテメエの家じゃねえって何度も言ってんだろうが!!」
「流石にもうちょい手前で止めないと説得力無いよ....」
家賃入れておけば普通に住まわせてくれるし美味しいご飯が朝昼晩出てくるんだよね、凄くない?
ルーカスはいつも通り片隅の席で本を読んでいたが、こちらを向いてちょっとビックリした顔をする。
「おや、久しぶり」
「ルーカスか。久しいな」
「なんで背中に乗ってるのかとかは....うん、聞くだけ無駄そうだね」
「聞いてくれないかなぁ!?」
誰か突っ込めよ、この状況に!!可哀想と思わないのか俺が!!
「日頃の行いだボケ」
「僕も経験者だから擁護できないかなぁ」
「心を読むなよ二人ともぉ」
表情筋鍛えたほうが良いかなぁ??そんなに分かりやすいのかなぁ??
「というか降りろ。普通に重いわ」
「ふんっ」
「てやっ」
すげぇ、可愛い掛け声と共に熊くらいなら即死する攻撃が前と後ろから飛んできた。怖くない?
避けるために曲芸染みた姿勢になったので自動的に後ろのゴリラはずり落ちた。結果オーライ。
「マスター、頼んでた奴よろしく」
「あいよ」
「私にも、同じ物を頼めるだろうか」
「....ちょっと待たせるが」
「大丈夫だ」
セレスにも優しいねマスター?もしかして顔が良いやつに優しいだけなのでは?
「ほらよ、注文通りステーキ4kgとバゲット三本、キノコ、茄子、芋のアヒージョだ」
「わーい」
「すまないキャンセルをお願いできるか?」
「だろうな」
うん。おすすめはしない。不足した生命力ってアホほど食わねえと賄えないんだよねぇ。
なるべく迅速に、下品にならない範囲で食べ進めていたのだが。
気付いたら両隣に座っていたセレスとルーカスがジト目でこちらを見つめる。
「何、両手に花?....花ではないか」
「お前、今日どれだけ使った」
「....心配だよ、マスクス」
「さあね」
覚えとらんわ、そんな事。別に喰えば治るわけですし。
「まあね、気術で後遺症が残る不器用な皆さんとは違うという事で(笑)」
「死ね」
「心配を返してくれ」
いつまで経っても自分で治せなかったの俺は覚えてるからな?俺が治療しなきゃ神経も臓器もボロボロだったの覚えてるからね❤
気術はまあ、デメリットの多い技術だ。なんたって一定値を越えると臓器と神経に特殊なダメージが行く。不可逆的な。
ただ、行くとこまで行ってしまえば自力で治せるようになってしまう。俺とかね!!!気術が無理ならメルクリアクラスとは行かないまでも上位の聖術使いでもOK。
最終的に戦闘が終わっても俺とメルクリアがひいひい言って働いてたのが懐かしい。マッサージの技術もあそこで上達したのだ。
そう考えると後々役に立つもんだなぁ。
「....それは、それとして。茶化すな」
「ええ」
茶化すのが生き甲斐なもので。
「最後に治るとしても。お前は苦しいし、痛いんだろう」
「多少はね」
「ならば、私達の前でくらいは、笑うな。」
「今日だけで食欲と笑顔を否定されたんだけど」
「そういう所だと言っている」
はぁー、と深い溜息を吐くセレス。真面目な顔だ。一時間前のあの幼女と同一人物とは思えない。
「まあいい。これから教えるのだから」
「これからってどのくらい」
「さあな。自分で考えておけ」
........うーん。
「今になってクールぶっても過去は消えな「聖剣顕現」いやあとっても頼りになるクールなお姉さんだなぁ!!」
まだ使えるんですねそれぇ?!?!
公爵家一同
娘の不在に気付いた模様