夜中にふと目が覚めた。いつもはぐっすり快眠なのに。
何故か全身に汗を掻いている。というか、暑い。そして、全身に謎の柔らかな圧が掛かっている。え、なにこれ?
瞼を開けても何も見えない。おかしい、寝る時でも俺は小さなランプを灯けているのに。
というかすげえ息苦しいぞ、意識して吸わないと窒息するんだけど!?頭を振ってみても何かが顔に張り付いてマズい。
え、何?誘拐?何処ここ?
寝ぼけた頭をフル回転させるが、答えは出てこない。だが、それはすぐ上から降ってきた。
「....うぅん....」
声がした。若い女の。今日、散々聞いた。
....
「殺す気かぁっ」
「ぅぎゃっ!?」
回復した体を使って跳ね飛ばす。
案の定、仰向けの俺を上からセレスが押し潰す姿勢になっていた。あのさぁ....?
「おいボケ、起きろ。なーに入り込んどんじゃご令嬢さん」
「....」
「無言で押し倒すな、おい、ちょっ力強ぉっ!」
おかしい、筋肉量は減ってるはずなのに一切抵抗出来ねえ。結構全力で強化してるんですけどね??
ジリジリとシーツと頭の距離が縮まっていく。ちょっとまてまてまておい。
「家族にバレない内に領主邸戻るとか言って、ませんでしたっ!?」
腕がミシミシ鳴っております。そうですね、自分+俺の転生特典分強くなってますもんね君!!抵抗出来る筈無かったわガハハ!!
うおおお気術絶招《生質変....あっ悠長な技使ってる暇全然無いですねこれ助けて。
「セレス、ステイ!!!」
ぴくっ、と止まる。流石に寝ぼけた頭も冷えてきたか。
「交渉だ。せめてこう、息が出来る姿勢で寝かせてくれ。頼む。あとなんで入ってきた?」
「う....その、あれだ。生存確認、と、言うか」
「俺は何処からどう見ても生きてるというか....お前のせいで死にかけてたけどな今さっき」
「....す、すまない....」
涙目だ。つまり俺が抵抗出来ないモードに入った。そろそろ自分の精神を鍛え直す頃かもしれない。
生存確認....生存確認?寝息でも心音でも聞けば十分だと思うんですけど....?
疑惑の目で彼女を見つめると、おずおずと口を開く。
「い、一応邸宅には戻ったんだ、けど、その、悪い夢を....見て....」
「はあ」
「その、お前の....最期の、夢を。それで不安になってしまった」
「お、おう....」
「....だからしょうがないだろう、納得しろ。ほら寝るぞ」
「いやぜんっっぜん....」
上から押し潰して寝る理由にはなんねえよ?なんならその心配で殺されかけてるよ?
あっ力強、もういいや横抱きなら息は出来るし....
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「ということがあったのでマスター、寝不足の俺の目を盛大に覚ます様な料理とかねえっすか」
「鷹の爪でも齧ってろ」
「辛っ!?マスターの人非人!!」
舌が痛い。普段ならさっさと再構成でもするとこだが今日は無駄遣い出来ない。なんたって病気のガキの団体様が控えてる訳だ。
肉とパンとチーズと申し訳程度の野菜を胃に詰め込みながら、事前に貰っておいたカルテを読み込む。臓器不全、呪傷、毒物。一般的な聖術の範囲だと確かに治しにくいのが集まってる。
こりゃあもうちょい喰わないとアカンそうだな、と思って追加注文。
「マスター、何でも良いから肉二kgとパン適当に。チーズとミルクも有るだけ持ってきて」
「....お前は朝からうちの店を閉めさせる気か?」
「二人っきりだね❤」
「出禁だ」
そんな事を言いつつも、子供の命の為って分かってるせいか。
マスターの手つきもいつもより素早い。流石だ。日に日に腕に磨きがかかっていて、最近弛んでいる俺も見習うところが有るかもしれん。
大体二十分程で食い切って、急いで職場に向かう。予約の時間的には余裕があるが、もし早く来ていた場合体の弱い子供をまだ寒い中立たせることになる。それはちょいと気分が悪いのでね。
さてさて、今日の仕事は何時間掛かることやら。叶うなら、日が沈むまでに終われば良いのだが。
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まあ終わる訳ねえんだけど。
開店祝いに爺さんから贈られた魔導式の時計を見ると、既に日付は変わっていた。
今日だけで何個臓器を作ったのか。神経と血管を何十km分作ったのか。我ながら器用が過ぎるな。
俺の気術が万能たる所以はシンプルにモチヅキからの入れ知恵だ。彼女のおかげで、人体のある程度正確な構造を知れた。今までは雑に傷を塞いで終わりだった所を、根本的な治療まで持っていける。
今日も疲れた。多分明日も。
のんびり、昼に訪れたセレスが渡してきたサンドイッチを齧る。中々に美味い。一人でじっくり味わっていた、のに。
ゴンゴンゴン!と扉が叩かれた。
あれ、おかしいな。こんな時間に訪ねてくるのは、セレスかルーカス、何か事情があればマスターくらいだと思うのだが....その内の誰の気配でもない。
一応、戦闘に関わる者の....殺気を出している。ただ、まあ。疲れた自分でも相手は出来るだろう、程度の。
........無視でいいよな、うん。
段々と、ノック音が大きくなっていた。構わずにサンドイッチを食べる。
ミルクも飲む。サラミもつまむ。
ゴンゴンゴンゴン!!!!
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン
....うん。
開けよう。そして半殺しにしよう。
そろり、そろりとドアに近付く内にも音は大きくなっていく。
一度深呼吸をしてから、ドアを開けると--------
「死ねぇっ馬の骨ぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!!!」
「多分人違いですぅ」
そこには、躊躇無く剣を振り下ろすガチギレした金髪ニーチャンがいました。
この街の夜って呪われてたりします?
ルーカス
今は喫茶店で働いている。何故か偶にメイド服。