きっとこのブチギレお兄さんは、良い騎士なのだろうな、と思った。
感情的ではあるが、体がそれに振り回されている訳では無い。
剣を持つ手に力みはなく、背筋には綺麗な軸が入っている。
顔は怒っている。だが、目だけは冷静にこちらの行動を伺っていた。
素早く無駄の削ぎ落とされた剣筋が、俺の体を綺麗に割る-----
目と鼻の先。というか、僅かに俺の鼻先を削って。彼の剣が前を通り過ぎた。微妙に痛い。
「....なんの用すかね」
「微動だにせんとは....フン。どうやらただのクズでは無いらしいな、貴様」
「そりゃ、どーも」
上を見ると、新品の玄関がちょっと傷付いていて萎える。どうせなら、もうちょっと踏み込んで俺だけに損害を絞って欲しかったが。
修理代も中々バカにならないんだよ、この唐突な面倒事が終わったらこのお兄さんは果たして支払ってくれるのかしら。
そんなに睨まれても。出てくるのは愛想笑いだけだよ。
「私にはな、愛する妹が居るのだ」
「ほへぇ」
「幼い頃から、信じられない程出来た子だった。私に似ずな」
「いいっすね」
話しながら当然のように、今度はちゃんと殺しに来る。さっきのような寸止めではなく。
アバラ。腰骨。避けた足先。対人も学んでいるのだろう。徒手のこちらにとってキチンと嫌な、ジリジリ詰める選択肢を取ってくる。
「そんな、そんな妹がだ。昨日、夜中に帰ってきてな。こんな事を言うのだよ」
「ほうほう」
「私はこの街に住みます。『みなさんは』どうぞお帰りに、だそうだ」
「....そうですか」
加速し、より合理的になっていく剣。疲れた体で、相手を傷付けないようにともなると。ひたすら躱し続けるのは流石に厳しい。
彼が弱ければどうとでも出来たのだが。思ったよりも手強い。きっと、この兄ちゃんは最前線でも数分は生きていられるだろう。運が、良ければ。
こちらの苦悩など知らないかのように、語りが続けられる。どっちか片方にしてくれないかな。
「知らない顔だった」
「知らない声だった....」
「彼女は、あんな喋り方じゃあ、無かった!!!!」
「事情を問うたよ、家族総出だ。一番下の二人は、見たことが無いほど泣いた」
「一点張りだ、『彼がいるから』の」
「何があった」「何をした!?」「調べさせても、何も出てこん!!」
「....なあ、教えてくれ。」
「貴様は、何者だ?」
「うーん」
凄い、なんだか真面目な空気だ。クソみたいなジョークとかぶち込みたいんだけど。ダメかなぁ、ダメかも。俺は自分のジョークに笑いが無いのが一番嫌いだ。
何者って聞かれたら、森の中出身の大道芸人、兼マッサージ師って答えるしか無いんだよなぁ。アレか、前世の事を話せって事?
「ダスト・マスクス。前世は28歳、今10歳、つまり38歳?特技は気術とジャグリングと----」
「黙れ、巫山戯るなよ」
やっべ右腕取れた。いたっ。
せっかく丁寧に説明しようとしたのにぃ!?今日は理不尽続きだ、うーむ。
人同士のトラブルはなるべく話し合いで、血を流さずに解決したいんだけどなぁ。
相手にその気が無いと、どうにも。
取り敢えず右腕くっつけて....あっ首がぁっ。
首も、くっつけて。
おっと、足が。くっつけて、おいしょっ。
手、足、肩、胴体、左右、上下、斜めに後頭部。
継ぎ接ぎツギハギ、うっかり右足を左肩に付けそうになるハプニングも起きつつ、ひたすら修繕に集中する。血溜まりの池が、街のタイルに染み込んでいく。夜が明けたら、虫が大量だろうね。
「きっ、き、きっきさ、きさまは!?なんなのだ、あくまかぁ!?」
おいおい、太刀筋雑になってんぞ。まあ雑になったとこで子供の体なんて簡単に切れちゃうけどさぁ、戦士としては良くないと思うなぁ。
あと悪魔て。失礼な奴だ。ほら見て笑顔、中々にプリティーじゃない?....いや、自分の顔考えたら虚しくなってきた。辞めとこ。
あら、どうしたの剣落としちゃって。痛いは痛いけど、別にくっつけるだけならどうとでもなるから。君が満足するまで付き合うんだけど。
「あ、ああぁ、ああああ゛ぁあ゛ぁ゛!?!?なん、、なん、で」
「え、泣いちゃった。どうした?大丈夫?ジャグリングとか見る?」
まあね、俺の実年齢考えたら多分年下ですから、うん。泣く人には優しくってやつ。
あ、首の位置ミスってるわ。確かに、脇から頭が生えてる人間ってちょっと怖いかも。よっこっっっらっせ。よし完璧。鏡が無いとどうしてもミスるな。
「どう?」
「た、たすけ、ゆるしへ、お、お゛か゛あさ゛ま゛ぁ!!!」
悪化した....なんで....?
足
腕腰首踝手
胴
足
手 踝腕
頭
マスクス的にレベル1〜6まである戦闘法の中の2くらい。
痛いので好きじゃないらしい。