私を育ててくださったシスターは、いつもこう諭しました。
『人を【救える】のは人だけよ』
『神様は私達を見て、偶に【手助け】するだけ』
『だからね、メルクリア。『強い』貴方は沢山の人を、弱い人を助けてあげてね?』
ええ。救いましょう。沢山の人を、どんな人も救いましょう。
聞きましょう。
赦しましょう。
治しましょう。
弱き過去を慰め。
悪しき行いを赦し。
傷付いた貴方を癒しましょう。
言われた通りに。教わった通りにやりました。沢山、沢山の人を救いました。
皆様が私に言うのです。人々が私を称えるのです。
『真の聖職者だ』
『姿ならず心までもが美しいとは』
『貴方のお陰で私の息子が....』
『ありがとう、聖女様。長年の悪夢が貴方の癒しで』
ありがとう。ありがとう。皆が言う。私も言う。
救ったら、救われる。
人は助け合って生きていける。そう信じています。
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本当でしょうか。
人は人を救えるのでしょうか。
腕が千切れかけた戦士の肩を治しました。彼は笑顔でまた前線に向かい、私の仲間達の為に散りました。
不意打ちで後頭部が削れた魔女の方を治しました。彼女は『ごめんね』と言いながら死にました。
親とはぐれながらも必死に私達の元に辿り着いた少年は、毒素で天へ逝きました。
最初はぶっきらぼうでも最後には心を許してくれた龍人の男性は、飛竜と相打ちになっておちてきました。
分かっています。分かっています。これが人類種族を救うための戦いであることは。
例え目の前の善人が救えずとも、彼らの行いが積み重なって救いになることは。
私の仲間達は強かった。とてもとても強くて。だから彼らだけが生き残る。
死にゆく人々も。弱いわけではないのに。むしろ。むしろ。弱きを救う意志を持ち、鍛え上げてきた方々なのに。
なぜ、こんな、冬の枯れ葉のように散っていくのですか。
人を救う者を、救ってくれるのは誰なのですか。
ねえ。シスター。強さには、救うことしか出来ないのですか?
弱きは救われるだけで良いのですか?
ダメです。こんな考え方は間違っています。ずっと昔から分かっています。けど、けど、けど、けど
街を歩くと、私達に様々な声が降ります。
それは嫉妬でした。『ただ才能があっただけでチヤホヤされて』と言われました。
それは憎悪でした。『あいつらがもっと早く来ていれば』と言われました。
時に善意も、感謝だって来ました。
そして、悪意を飛ばす方々も、普段は悪い人ではないのかもしれません。
魔王が存在するだけで人類は、全てが、生活に関わる全てが少しづつ厳しくなっていく。そんな状況では、心の安寧の為、強い者に矛先を向けるのが楽なのかも知れません。
それを、許すべきなのかもしれません。
じゃあ私達を誰が許すのですか。
ねえ、セレス。いつからでしょうね。貴方と街で服を眺められなくなったのは。
ねえ、モチヅキ。街で振る舞うお菓子を作らなくなったのは、雷獣の封印戦からでしたっけ。
ねえ、ルーカス。貴方はいつから、街で子供達と遊ばなくなったんですか。
ねえ、マスクス。その手に持ってる奇っ怪なものはなんですか?え、そこら辺の爺さんから貰った?そこら辺の爺さん?なんで??
背中に『バカ』って張り紙されてますよ。子供の悪戯でしょうね。
あ、ちょっと。そんなお菓子買っちゃダメです。『どうせこんな不味いモノ買うやついねえし』....じゃあなんで買うんですか??
ああ、おかしい。うふふ。
貴方だけですね、昔と変わらないのは。
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ダメなことばかり思うようになってしまいました。
もう、街の人間と目を合わせたくないのです。
前線で何人も死んで。けど彼らは、人々を信じて死んで。報酬を復興に寄付してくれと言い遺す人もいました。
そして、帰ってきた私達に投げられた言葉は『遅えよ』。
ああ。
分かっている。けどいい。自分を曲げない善人もいることを理解はできる。だが、善人の恩恵を何故ゴミが受ける?
いつからか、街へ、村へ、帰ると、感謝よりも罵倒と文句の割合が多くなり。
仲間の顔が、濁っていく。
何人の戦友が散ったのか。彼らの笑顔と、ゴミ共の顰め面が頭の中を埋め尽くす。
もう、いっそのこと、次帰ってきた時、こいつら
「メルちゃん。なんか日記の内容荒れてんな」
え
「すまんすまん、最近顔おかしかったからさ。ついついね~ほら斥候は覗き見が仕事だし?」
その、違うんです。
「違うって言われてもなー、見ちゃったもんはしょうがねえよ」
....どうする、つもりですか。
「どうするっつっても。別になんも。メルちゃんの顔の理由が知りたかっただけだし」
そうですか。
ねえ。マスクスさん。
軽蔑しますか、私のことを。上辺だけの聖女を。
「.....んー」
ねえ、そうでしょう。いいですよね。貴方はずっと、本当の意味で人を愛していて。
羨ましいです。街に行けば、貴方には子供が寄ってきますもんね。気が付けば沢山の贈り物を背負っていて。
どうせ、どうせ私のことなんて....
「なあ、メルちゃん」
.......なんですか。
「別にさー、仕事はしてるじゃん。メルちゃん。日記の、最後の文だけちょっとアレだけど。
見ろよ、俺。基本的に魔物ぶん殴ってフラフラしてるだけだぜ?ずーっと死にかけの奴と顔を合わせてるメルちゃんとはさぁ、楽さがちげえよ。楽さが」
「そりゃさー、全部許せたら楽だよ。全部救えたら嬉しいよ。けど無理じゃん」
っ.......ですが。
「多分さ、メルちゃんって。最初の方は、【皆のため】で頑張れてたんだろうね。皆って、俺達だけのことじゃなくて、町の人とか、市民、まあそういうね」
「だからさ、頑張るってのが全部、そいつらの為になると思ってんじゃねえかな。実際そうなんだけど」
「俺はカスだから。戦ってる時に考えてるのは。モチヅキとルーカスとセレスとメルちゃん、あと隣で戦ってる知らんおっさんとか、酒奢ってくれた人とか」
「もしさ、嫌なら逃がすよ。ちょちょいっと俺が手を掛ければ出来るよ。けどきっと、魔王は倒せずに皆死ぬ」
脅しですか。
「もちろん。クズだし」
「えーっと、本題からズレた。つまるところさ、目に入る範囲くらいの人のためでいいんだよ。頑張るのなんて」
「女の子の手はちっちゃいんだから。伸ばしすぎんなよ」
彼の言葉は、ただの気休めだった。言ってしまえばただの屁理屈で、彼らしいと言えば彼らしい。
街の中でこみ上がる嫌悪感も、死にゆく戦士も、辛い出来事は起き続ける、変わらない日常。
けど、
ほんの少し、
ほんの少し、
救われたんだ。貴方が救ったんだ。
見られてるんだって、どれだけゴミ共に嫌な見られ方をしても。貴方だけはきっと笑顔で、胸をガン見してくるんだろうけど。なんだかんだ私を見てくれるんだって。思えたんだ。
きっとルーカスも、セレスも、モチヅキも、キミに救われたんだ。
だからさ、救わせてよ。おっぱいさ、吸わせてあげるよ。
貴方のことは、誰が救うのさ。
シスター、きっと、強い人はもっと強い人が救うんだろうね。
じゃあ、もっと強い人は、いつになったら救われるんだろうね。
聖女
禁術の使用を試みた後、死亡。