「なんで作っちゃったんだろうなー、こんなの」
目の前のちょっと大きすぎる機械を眺めながら、ふとつぶやく。
どうにも、人と長らく話していないと独り言が多くなってしまう。
ボクの前に佇むこれは、言ってしまえば....70年掛けて作った
いや、正確に言えば、起動コストにボクの命、維持にボクの死体が必要な装置、かな?
効果は単純。魔王を【消す】事。殺す、じゃない。根本的に、発生しないように出来る。
いやー、中々に大変だった。その癖、帰ってくるリターンは。もう、ボクにとっては誰も居ない世界で、魔王が消えるだけ。
なんでかなー、本当になんでだろうなぁ。
コレを起動したとこで、彼らが蘇る訳でも無くて。
彼が褒めてくれるわけでも、メルが撫でてくれるわけでも、大好きなセレスちゃんが笑う訳でもない。
誰も居ない。誰も居ないのに。何で彼らの望みの為の装置なんて。
…なんでだろうなぁ。
こんなのすぐにやめて。魔女として老いない見た目と無駄な名声を生かして。イケメンでも可愛い子でも侍らせば、幸せ…だとは、思うんだけど。
何故か、やっちゃった。
原因を突き止めるのに15年掛かった。
対処法を考えるのに20年。
対処法を実行出来る機械の設計図に15年。
素材集めに10年、作るのに、10年。
見た目は綺麗なままでも、臓器や脳は既におばあちゃんだ。つらいよ。
自分でも馬鹿だとは思う。というか、途中で何度も辞めようとした。
金、名声、実力、容姿がある。自分が生きてる間は、原因を突き止めた時点で絶対に魔王が沸かない事も分かっていた。
何度もサボろうとした。逃げようとした。
その度に。頭に浮かぶ声に邪魔された。
決戦前夜に夢を語る仲間の声。
魔王を恨みながら死ぬ戦友の声。
けど、そんなものは途中で消えて。同じ声だけがリフレインする。
ふざけた遺言と共に死んだ初恋の声。何度も何度も色んな場所で聞いた声。
「....馬鹿みたい」
『俺の爺が言ってたんだけどさぁ、ザリガニって俺等の知ってる【アレ】じゃないらしいんだよな、なんでも』
『なんか手のひらサイズで、相撲させれたらしい。いや、嘘じゃないから。俺の爺ちゃんの話は五割は真実だから。マジで』
『....いや、だから、ビーム撃ってこないんだって本当のザリガニ。マジで。川を凍らせても来ないんだって。一旦俺等の知ってるザリガニを脳内から片付けてくれ』
『メルクリア、冗談じゃないから。本当に。大笑いしないで。うおっ眼福....おっと』
『....うん。だからさ、俺ザリガニ相撲が夢だね。マジで』
『あと、親戚のガキ森に連れて行って滅茶苦茶ドヤ顔する。俺のおかげだぞって。活躍も盛る。魔王殺したことにしていい?』
「ふふ」
『アレだね。メルちゃんとモチヅキお菓子屋さん開くって言ってたよね?食べに行くからさ。ガキ共といっしょに』
『あとそうだなあ、ルーカスが開くって言ってた道場も乗り込みたいね。あいつ絶対指導下手だろ、一緒に笑いに行こうぜ。勇者パーティの戦士が開いた道場がスカスカっておもろいぞ』
『セレスは近衛兵とかふざけたこと言ってたよなー、誰があのアホ暴力の権化を王城に置くんだよ。半年で王城から国宝もアーティファクトも消えるわ。
で、多分電撃解任だろうな。号外が出るぜ』
「あはは」
『なあ、モチヅキ。異世界ってどんな感じ?』
『....なんだそのネットとかいうクソ愉快なもん。よし、それ作ろうぜ。魔王討伐の金でそれ作ろう。ケイジバンアラシってやつめっちゃ面白そう。え?ダメなの?』
『へー、お前の作る飯が美味いのってそういう....じゃあお前の父ちゃん母ちゃんに感謝だな。いつか会い行こうぜ』
「....」
『モチヅキ、明日の魔王殺したらさ、話があんだよ。大事な話ね』
『フラグ?フラグってなんだ?ダメなんだ』
邪魔なんだよなあ、この声が。
離れないんだ。ボクの鼓膜から。
何年経ってもこびりついて。
セレスちゃんも、メルも、ルーカスも。顔も声も、薄ぼんやりとしてる。好きな人達だった。それは本当だ。
けど、彼の顔と声だけは、ずっと残っている。
ああ、初恋。叶わなかった初恋。きっと叶えられた初恋。多分、依存とか、不安の預け先も混ざってた。けど、大事な初恋。
馬鹿みたいだ。居ない人の夢を叶えるなんて。
彼が来る店はない。彼が笑う道場はない。彼が見て笑うニュースも無い。
なのになんで、こんなの作っちゃったんだろう。
スイッチは目の前にある。エネルギーはもう充填されている。
なんか、ちょっと明るい考え方をしたいな。
まあ、ほら。異世界転移があるんだし。
転生もきっとある。巡り合うことも、きっとあるよね。
心臓がバクバク鳴ってる。冷静になると、体中に刺した管がチクチクする感覚が嫌になってくる。
暫く濡れていなかった瞳が濡れている。体が震える。
ボクは彼等と違って、ちゃんと、死ぬのが怖いよ。
けど、押すんだ。だからさ。
天国があったら。もしくは、次があったら。
ちゃんと、私を褒めてね。
望月春香(ハルカ=モチヅキ)
好きな人には尽くすタイプ