いい景色だ。
凄く。いい景色だ。
子供が笑っている。
大人も笑っている。
老人がそれを見て、微笑んでいる。
泣いている子もいる。けど。それを、慰める人がいる。
街で、男女のカップルが、当然のように歩いている。
御者のおっちゃんに連れられ、ざっと、二日。辿り着いた街は....何の変哲も、無い。いや、何個か驚く箇所はあったが----前世で見た王都をそのまま小さくした?ような、あまり派手ではない場所だった。
誰も。本当の意味で、泣いていない。人の根底に、絶望ではなくて幸福があった。それが、嬉しい。
広場で露天が並んでいた。そして、小銭を握ってどれを食べるか悩み顔の子供達が居た。
食料が、奪うものでも、配られるものでもなくて。選べるものになっていた。
善い景色だ。
建物が破損していなかった。
不健康な血の匂いも、毒の匂いもしなかった。
死体が転がってもいなかった。
いいけしきだ。
ふふふ。悪くない気分だ。なんというか、自分が結構辛めに死んだことが....無駄じゃあねえんだな、ってのが分かると。達成感とも、違う。不思議な感情が湧いてくる。
「坊主、なんか年寄りみたいな目してるぞ?大丈夫か?」
「ふぉふぉふぉ、だいじょうぶじゃよ。おっと腰が....」
「大丈夫じゃなさそうだな。元気で何より」
いい街だ。本当に、いい街だ。
俺は表向き『ド田舎で暮らしていたが親が死んだので出てきた小坊主』ということになっていた。
森の爺さんと一緒に考えた設定だ。さすが元商人、頭が働く。少なくとも御者は信じ切っていて、常識のズレを突っ込んでくることは無かった。
「ところで、坊主、お前これからどうすんだ?大旦那は運ぶだけで良いって言ってたが....ツテは?無いなら、お前くらいの年齢でも働ける場所は紹介できるぞ。この街は比較的景気が良いしな」
「大丈夫だよ、おっちゃん。爺さんが『ワシの紹介状がありゃどこでも雇う』って言ってたから、適当に気に入ったとこ申し込んでみる。小遣いも結構貰ったしね」
「....マジかよ。よっぽど気に入られたんだな、お前。いや喉治したんだから当然っちゃ当然かもしれないが....大旦那がどれだけの人か、分かってる?」
「二週間みっちり自慢話されたから、多分大抵の人よりは」
「苦労したんだな。じゃ、いいや。流石にソレがありゃどうとでもなんだろ。じゃあな、坊主。街で見かけたら一杯奢ってやる」
と、いうことで御者と分かれた。中々に気のいい男だったな。
取り敢えず、散歩するか。しているだけで、きっと、今日の俺は満足だ。
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街を歩いていると、知識には有っても、前世では見たことのない種族の人々を当然のように見かける。戦場でギリ見かけたかどうか、という感じの。
御者と街に入った時、つい驚いて大声を上げてしまったのは秘密だ。怪訝な顔で見られた。
咄嗟に、田舎では見ないタイプだから、と言い訳したが。
少し考えれば、簡単に理由はわかった。魔王が居ないからだ。
妙に目に付く景色、全ての理由がそう。
前世では、他の種族とは敵対はしていなかったが、交流はほぼ無かった。新型の魔物の報告、そして実戦と生存に関する知識交換を定期的にする程度。
何故かって、それぞれの戦いで精一杯だったから。それに尽きる。
機動力が違いすぎる空の魔物には、龍人と鳥人にしか戦いが成立しない。
戦場の環境が違いすぎる海の魔物には、魚人しか対処できない。
地中に張った『根』そのものが本体という特殊な植物型には、優れた魔術を持ったエルフしか対抗できず。
あらゆる魔術を軽減。ほぼ無効化さえしてしまう鉱物型には身体能力が圧倒的な獣人とドワーフでしか抗えない。
そして、シンプルに魔物の数が多すぎた魔領には、高火力範囲兵器たる『聖剣』並びに勇者を持った人類にしか対抗できない。
もし魔王が倒されても、復興、そして次の魔王への備えとなる拠点や都市の制作で時間が取られ、交流が産まれる間もなく魔王がまた現れる。
何百年と文化交流や友好といった概念は皆無だった。連帯意識、というか。
勢力が一つでも負ければ滅びるという認識は、全員に多分あったけど。
だが....魔王が消え。人々は余暇を手に入れた。それがこの景色を産んだ、という事なのだろう。
魚人らしき女性が龍人らしき男性に横抱きにされ、満更でもなさそうな顔をしている。けどその龍人さん帽子からして憲兵だよね....?何した....?
酒場の前でドワーフの中々に眼福なボディをした女性と獣人の男性が腕相撲して、男性が負けた。つんよ。けどデレデレしてる。そりゃそうなる。バルンバルン。
人の子供に群がられ、エルフの女性が魔術を使いながらも困惑してる。可愛いね。あっ逃げた。
知らず知らずの内に、頬が濡れていた。ガキの体でも感傷は湧くんだな。
どこでも、目を開けているだけで良い気分になれる。少なくとも、森で彷徨った甲斐はあったと断言できた。
何時間も歩くだけだと流石に腹が減ってきたので、適当な人の多い酒場に入る。妙な目で見られるが、俺の精神力の前ではその程度無に等しい。いやごめんちょっと気まずいかも。
「適当に腹に溜まる飯。あと飲み物」
「ガキは帰れ」
「金はあるよ」
「そういう問題じゃねえんだよ、帰れ。周りの面子見ろ。頭身が違いすぎるだろ」
「えーおじさん腹が減ってる可哀想な子供を見捨てるの??人の心足りてなくない??」
「うるせえ、あと自分でそれを言うガキは可哀想じゃねえ」
なーんて軽口を叩いていると、渋々といった様子でマスターがジュースと肉、そしてパンを出してくれる。嬉しいね。
「ところで野菜は?」
「叩き出すぞクソガキ」
「はい金貨」
「苦手な物はございますでしょうかお客様??」
中々の掌返しの早さ。プロだね----
金払いの良さで何か勘違いしたのか、変わらずラフではあるもののそれなりに接客の中で礼儀が交じる。
残念ながら酒は出してくれなかったが。気術で分解できるからくれって言ってもダメだった。
あんまりにも綺麗な水がない時、結構やってた技術なんだけどなぁ。どうにも豊かなこの世界だと廃れた技術らしい。
痴話喧嘩に揉め事。
自慢話をする人にそれを聞いて気まずそうな人。
コップを掃除するマスターに飛び交う注文。
酒場の中で、人々を観察しながら夜が更けていく。
まずは一つ、ちょっとした夢が叶った。良い日だ。今日は。
少年(?)
初めて笑顔で寝れた。
その後、叩き起こされたけど。
マスター
変なガキが常連になった。悩みのタネ。