働けねえ。つまるところ金がねえ。
爺さんの小遣いは底を尽きた。今は適当に日雇いの場所に潜り込んで食いつなぐ日々だ。
爺さん、確かにあんたの紹介状は立派だったよ。立派すぎて扱いが変なんだよ!!!
最初は酒屋に雇われた。俺だけ休憩の頻度がおかしくて、周りからの視線が段々と歪んでいった。一週間で辞めた。
次は喫茶店で働いた。新人でろくに働いていないのに、給料があからさまにおかしかった。
次も、その次も、真っ当な場所に潜り込むと扱いが変だ。思ったよりもこの紹介状は立派なものらしい。
じゃあ紹介状無しで職に就くか?試した。そもそも身元不明の9歳のガキを雇う所は碌なもんじゃねえ。壊滅させた。けっ。今頃牢屋さ。
むしゃくしゃして広めの公園でガキ共と戯れる。いや身体で言えば俺より大きい子も居るんだけど。
鬼ごっこにかくれんぼ。手加減はしない。だってむしゃくしゃしてるから。卑怯とも大人気ないとも呼ぶが良い、今の俺は無敵なり!!!
そんなこんなでしらばく無双していると、皆がぶーたれる。よええのが悪いんだよええのが。
あ、小さい子は泣くな。ごめんね。あっ連鎖して別の子も。うわーん、俺も泣いて良い?だめ?はい。成人男性なので頑張ります。
前世の俺ってどうやって泣いてるガキ慰めてたっけ。えーっとまずは撫でて....ジャグリングして....口から旗だして....
なんてしていたら、知らないガキもどんどんと集まってきた。気分がいい。可愛い奴らだ。泣いていた子もちょっとこちらを興味の目で見始めている。
ボールが投げ込まれる。ジャグリングに組み込む。木の枝が投げ込まれる。足の甲を駆使しつつジャグリングに組み込む。
追加されていくボール。ボール。ボール。木の枝。串焼き。串焼き?!あっ美味い。薫る炭の香り。後で店教えてもらお。
9個のボールと3つの木の枝を全身で適当にジャグリングしていると、ガキ共の親っぽい連中も集まってきた。
「なーに見てんだ芸はガキ以外にはタダじゃねえぞぉ?!」
「口が悪い....」
子供には優しく。大人には厳しくのスタイルで行かせてもらいます。
背中、足の裏、適当に見栄え良く身体の上で跳ねさせていく。器用さだけが頼りなもんでね、この程度は余裕だ。
背後からピリッとした気配がした。咄嗟に手を出す。
「おい誰だ後ろからナイフ投げ込んだやつ!!」
しかも三本同時に!!我、一応九歳ぞ?幼気なやわらかボディ(最前線基準)になんてことを....まあ別になんとでもなるけどさ.....
人が集まる集まる。そして俺はどんどんと調子に乗る。ガキ共は笑顔で親たちも感心してる。ふふふもっと見るがよい。
収拾が付かなくなってきたので、全部上に打ち上げて、落ちてきたのを全部持ち主の方向に弾いていく。後ろから来たナイフは特に強くな!!
「はい、これで終わり。頑張ったから泣き止んでちょうだいな」
「すごかったぁ」
「おにーちゃんかっこいい!!」
さらっと後ろを確認してみると、顔の横の木にぶっ刺さったナイフを見て涙目の冒険者がいた。ざまあみろ。
ガキの前で制裁なんか考えてもしょうがないので懐いた子供達に適当に応対していると、大人の群れから落ち着いた若い男がそろそろと寄ってきた。指輪と靴と香りからして金持ちそうだ。羨ましい。寄越せ。
「君、凄いねぇ。サーカスにでも所属しているのかい」
「いんや?無職。芸見たんなら金くれ、腹減ってんだよ」
「そ、そうか。まあ、凄かったし....良いけど」
「お、サンキュ....(金貨三枚)....何かご希望の芸などはありますでしょうか?」
マスターの気持ちがわかった。おかねだいじ。
「掌を返す速度がなんというか、はは、芸にも劣らず凄いねぇ君。」
「財布の重みは何よりも大事ですから」
「ふふ。そうだなぁ....じゃあ、マジックなんかも出来るかい?向こうにいるボクの弟が大好きでね」
「任せてください。全員の財布を空にするマジックをお見せします」
「やめてね?」
-----------------------------------------------------
なんやかんやあって大道芸人、兼なんでも屋になった。気楽だしそこそこに稼げる神の職業かもしれない。
前世では散々人を笑わせる芸を練習したもんで、ネタは尽きない。マジックから純粋な曲芸までなんでもござれだ。最近は広場で昼間から夕方に掛けて働くだけで、そこそこに豪華な飯と宿が取れる。嬉しいね。
大体この街に来て、半年は経ったか。生活はそれなりに安定していて。
変わったことと言えば少し前、新聞屋から取材を受けた事ぐらいか。
新進気鋭の芸の達人、とかいうタイトルで一面に載る自分の姿は、恥ずかしいが誇らしかった。
今日も仕事が終わり、ベンチで座って串焼きを喰う。美味い。ぷりっとした歯応えと繊維質が両立していて、口の中が中々に楽しい。
夕日を眺めて、ただ、飯を食べてぼーっと出来る。
二本目、三本目。肉体労働は腹が減る。当然串焼きだけでは賄えない。この後、いつもの酒場で山盛りのキノコと野菜、パンを出してもらう予定なのだ。
もぐもぐ。
ぱくぱく。
もそもそ。
ぽす、
と横から軽い音がする。
気付くと、自分の隣、ベンチのもう一枠に誰か座っていた。
気付いたら。そう。『気付いたら』
転生してからまだ勘を取り戻しきってないとは言え----最高の斥候たる俺に察知されること無く。
向くと、そこには全身が真っ白な、虎の耳を持った少年が居た。腰に剣を帯びて、ここいらでは見慣れない緩い格好をしている。
歳は俺より少し年上に見えた。肉体の方が。
目が合う。
手が勝手に、残りの串焼きを差し出していた。
「おう、久しぶり」
「....ああ。久しぶり」
知らない顔が、知っている目をしていた。
理解には、それだけで十分だった。
子供達
夜が更けるまで遊んだ。