第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記― 作:TETORU
地球連邦軍、黒の騎士団、ミスリル、ネルフ。
本来なら同じ会議室に集めるだけでも問題が起きそうな組織の機体が、第三格納庫には肩を並べていた。
νガンダムの隣にランスロット。
その向こうにはイングラム一号機。
隔壁を二枚挟んだ先では、エヴァンゲリオン初号機が拘束具に固定されている。
格納庫の端にはマジンガーZまで立っていた。
もはや兵器展示会というより、技術体系の墓場だった。
「誰だ」
榊清太郎が、床に落ちている銀色の部品を拾い上げた。
「誰だ、このボルトをここに置いた奴は」
整備員たちが一斉に目を逸らした。
榊はボルトを鼻先まで持ち上げた。
「どの機体の部品か分からん物を床に転がすなと言っただろうが! ランスロットの部品をイングラムに付けたらどうする!」
シバシゲオが工具箱を抱えたまま首を傾げた。
「付かないと思いますけどねえ。規格が全然違いますから」
「付くか付かないかの話じゃない!」
「でも整備班って、付かない物をどうにか付ける部署じゃありません?」
「お前は黙って二号機の脚を洗ってこい!」
榊の怒声が格納庫に反響した。
少し離れた場所で、アストナージ・メドッソがνガンダムの装甲板を外しながら顔を上げる。
「洗うだけで済むなら楽な方だな」
「そちらはどうです?」
シゲが尋ねると、アストナージは奥に露出した配線を指で示した。
「フィン・ファンネルの制御系に負荷が集中してる。パイロットは問題ないと言っていたが、機体の方は正直だ」
「アムロさん、無茶するんですか」
「無茶をしない腕があるから、限界まで使うんだよ」
アストナージは疲れた目で配線を見つめた。
「下手な奴なら壊す前に被弾する。上手い奴は壊れる寸前まで性能を引き出して帰ってくる。整備する側からすれば、どっちも大差ない」
「名言だねえ」
陽気な声とともに、ロイド・アスプルンドがランスロットのコックピットから顔を出した。
白衣の裾には油染みが付いている。
「でも限界を確かめずに兵器を使うなんて、せっかくの高性能機が可哀想じゃないか」
榊が振り返った。
「お前さんの機体は限界を確かめる前に、操縦者の方が限界を忘れているだろう」
「枢木スザク君は優秀だからね」
「装甲の裏側まで熱変形しているぞ」
「優秀だからねえ」
「褒めてない!」
セシル・クルーミーがロイドの後ろから降りてきた。
「榊班長、申し訳ありません。ランドスピナーの交換部品は、こちらで用意します」
「交換だけで済むのか?」
「駆動部を一式です」
「それは交換とは言わん。載せ替えだ」
榊が頭を抱える。
シゲはランスロットの脚部を覗き込み、感心したように口笛を吹いた。
「しかし、よくこんな細い脚で飛んだり跳ねたりできますねえ」
「イングラムは随分と頑丈そうだね」
ロイドが言った。
「見た目は少々、工業製品らしさが強すぎるけれど」
榊の眉が動いた。
「工業製品で何が悪い」
「美しさも性能の一部だよ」
「現場で三十分以内に部品を交換できる方が美しい」
二人の間に、見えない火花が散った。
シゲがアストナージのそばまで後ずさる。
「始まりましたよ。天才設計者対、現場絶対主義」
「放っておけ。どこの軍でも起きる」
アストナージは手を止めなかった。
そこへ、大型の工具を肩に担いだイアン・ヴァスティがやって来た。
「喧嘩する元気があるなら手を貸せ。エクシアのGNコンデンサーを点検したいんだが、ネルフから電力使用の制限を食らった」
格納庫の奥から、赤木リツコの声が飛んできた。
「制限ではありません。初号機の生命維持設備を優先しているだけです」
榊が隔壁の向こうを見る。
「生命維持という言葉が出てくる時点で、あれを兵器と呼んでいいのかね」
「兵器である前に、人造人間です」
「なら医務室へ運べ」
「全高四十メートルの患者を受け入れられる医務室があるなら、紹介してちょうだい」
榊は口を閉じた。
シゲが小声で言う。
「班長が負けた」
「聞こえてるぞ」
イアンはエヴァ初号機を見上げた。
「機械じゃない物を機械として整備する。面倒な話だな」
アストナージが答えた。
「機械だと思っていた物が、急にパイロットの考えを読んだり光ったりするよりはましだ」
「サイコフレームか」
「分解して調べろと言われても困る。整備マニュアルに『人の意思に反応します』なんて項目はない」
ロイドが楽しそうに目を細める。
「素晴らしいじゃないか。意思によって物理現象が変化するなんて」
「お前は絶対に触るな」
アストナージ、榊、イアンの声が重なった。
ロイドは肩をすくめた。
その時、格納庫の反対側から若い整備兵が駆けてきた。
「大変です!」
「今度は何だ!」
榊が怒鳴る。
「ゲッターロボの部品が、整備中に形を変えました!」
全員が黙った。
「……どの部品だ」
イアンが尋ねる。
「分かりません!」
「変形する前は何だった」
「多分、左腕の内部フレームです!」
「今は?」
「翼みたいになっています!」
アストナージが工具を置いた。
「マニュアルは」
「三種類ありますが、全部書いてあることが違います!」
榊は深く息を吸い込んだ。
そして、格納庫全体に響く声で命令した。
「総員、ゲッターから離れろ! 分からん物を無理に直すな!」
「でも、次の出撃まで二時間です!」
「だったらパイロットを連れてこい! あいつらなら気合いで戻せるだろう!」
警報が鳴った。
赤い照明が点滅し、艦内放送が敵部隊の接近を告げる。
出撃予定時刻が、二時間後から十五分後へ変更された。
整備員たちは一瞬だけ天井を見上げた。
誰も祈りはしなかった。
祈って直るなら、最初から工具など持っていない。
「アストナージ、νガンダムは!」
「出せる。ただしファンネルの連続使用は禁止だ」
「ランスロットは?」
セシルが答える。
「右脚部の出力を八十パーセントに制限します」
「イングラム一号機!」
シゲが端末を叩いた。
「リボルバーカノンの給弾不良、直りました!」
「本当だろうな!」
「三回試しました!」
「十回やれ!」
榊が叫び、格納庫の空気が一変した。
先ほどまで言い争っていた技術者たちが、一斉に機体へ走り出す。
思想も規格も所属も違う。
だが、出撃灯が点灯すれば関係なかった。
英雄を戦場へ送り出し、生きて帰ってきた機体をもう一度動かす。
世界がいくつ混ざろうと、整備班の仕事は変わらない。
ただし。
「誰だ! マジンガーの光子力エンジンに連邦軍規格の冷却材を入れた奴は!」
問題の種類だけは、毎日増えていた。