第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記―   作:TETORU

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『第三格納庫、午前三時四十七分』

敵部隊の撤退が確認されてから、十二分。

 

第三格納庫の大型扉が開いた。

 

最初に帰還したのはνガンダムだった。

 

右肩の装甲は焼け、左腕には敵機のものらしいケーブルが絡みついている。背中のフィン・ファンネルは、出撃時より一本少なかった。

 

誘導員が発光棒を振る。

 

νガンダムは指定位置まで進み、膝をついた。

 

コックピットハッチが開き、アムロ・レイがワイヤーを伝って降りてくる。

 

その足が床に着く前に、アストナージが声を飛ばした。

 

「フィン・ファンネルの連続使用は禁止だと言ったはずだ!」

 

「連続では使っていない」

 

「一本なくなってるぞ!」

 

「敵艦の砲塔に突き刺した」

 

「ファンネルは投げ槍じゃない!」

 

アムロはヘルメットを外し、νガンダムを見上げた。

 

「戻ってこられただけでもいい」

 

「それはパイロットの台詞だ。整備員は戻ってきた後の話をしている」

 

アストナージは端末を操作し、機体から送られてきた記録を確認した。

 

眉間の皺が深くなる。

 

「左腕の駆動系、規定値を三割超えている。何を持ち上げた?」

 

「イングラム一号機」

 

格納庫の奥で、榊清太郎が振り返った。

 

「何だと?」

 

続いて入ってきたイングラム一号機は、腰部をνガンダム用の牽引ワイヤーで固定されていた。

 

右脚が膝から下ごとなくなっている。

 

コックピットから泉野明が顔を出した。

 

「すみませーん! 帰り道で足が取れました!」

 

「帰り道で足が取れる機械があるか!」

 

榊の怒声に、野明は肩を縮めた。

 

「戦っている時は付いてたんです!」

 

「それは見れば分かる!」

 

シバシゲオが一号機の下へ走り込み、断面を見上げた。

 

「班長、切断じゃありませんね。ボルトが全部抜けてます」

 

「全部?」

 

「全部です」

 

榊がゆっくりと野明を見上げる。

 

「泉」

 

「はい」

 

「出撃前に、脚部の異音はなかったか」

 

「少しだけ、カタカタいってました」

 

「なぜ言わなかった」

 

「いつもの音かなって」

 

榊は目を閉じた。

 

その横で、アストナージが小さく頷く。

 

「分かる」

 

「分かるな!」

 

榊は床に転がっていたナットを拾い、シゲに突きつけた。

 

「お前、出撃前に十回確認したと言ったな」

 

「給弾機構は十回確認しましたよ」

 

「脚は!」

 

「聞かれませんでした」

 

「整備員が政治家みたいな答えをするな!」

 

格納庫の警告灯が、再び黄色く点滅した。

 

次に帰ってきたのはランスロットだった。

 

着地した瞬間、右脚のランドスピナーが外れた。

 

車輪は床を転がり、νガンダムの足元に当たって止まった。

 

アストナージがそれを見下ろす。

 

「これは、いつもの音がしていたのか?」

 

セシル・クルーミーが額に手を当てた。

 

ロイド・アスプルンドは楽しそうに拍手した。

 

「見事な到着だね。格納庫に入るまでは保った」

 

榊がランドスピナーを拾い上げた。

 

「お前たちの整備基準は、敷地内で壊れれば成功なのか」

 

「合理的だろう?」

 

「一度、工場勤務を経験してこい」

 

ランスロットから降りた枢木スザクは、右腕を押さえていた。

 

セシルがすぐに駆け寄る。

 

「スザク君、怪我を?」

 

「少し捻っただけです」

 

ロイドはランスロットの操縦記録を開いた。

 

「機体の右腕も捻れているよ。操縦者と機体が同じ場所を負傷するなんて、仲が良いねえ」

 

「笑い事ではありません!」

 

セシルが叫ぶ。

 

スザクは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「敵機を投げた時に、少し負荷がかかりました」

 

「少し?」

 

ロイドが記録を拡大する。

 

「自重の四倍ある機体を、片腕で?」

 

「掴めそうだったので」

 

アストナージがアムロを見る。

 

「お前たち、操縦席に座ると重量という概念を忘れるのか?」

 

アムロは答えなかった。

 

否定できない時の顔だった。

 

格納庫内に、重い振動が響いた。

 

全員が扉の方を向く。

 

マジンガーZが、全身から白い蒸気を噴きながら入ってきた。

 

胸部装甲は赤熱し、頭部のホバーパイルダーから兜甲児が叫んでいる。

 

「冷却水! 冷却水を頼む!」

 

三人の博士が、機体の足元へ走った。

 

せわし博士が計器を確認し、声を裏返す。

 

「誰じゃ! 光子力エンジンに連邦軍の冷却材を入れたのは!」

 

格納庫の隅で、若い連邦整備兵が震えながら手を上げた。

 

「規格表では、耐熱性が最も高かったので……」

 

もりもり博士が配管を叩く。

 

「耐熱性だけで選ぶ奴があるか! 光子力反応液と混ざってゲル状になっとるぞ!」

 

のっそり博士が排出口から垂れた青い塊を棒でつついた。

 

「……きれいじゃのう」

 

「鑑賞するな!」

 

せわし博士が叫んだ。

 

兜甲児がコックピットから身を乗り出す。

 

「戦闘中、急に出力が上がったんだよ! いつもの二倍くらい!」

 

「それは冷却されていなかっただけじゃ!」

 

「でも敵は倒せたぜ!」

 

三博士と榊、アストナージが同時に甲児を睨んだ。

 

甲児は静かに座席へ戻った。

 

その時、格納庫の天井近くから何かが降ってきた。

 

赤い翼だった。

 

地面に突き刺さり、床材がめくれ上がる。

 

若い整備兵が端末を確認した。

 

「ゲッターロボ、帰還します!」

 

「どのゲッターだ!」

 

イアン・ヴァスティが叫ぶ。

 

「識別不能です!」

 

「そんな報告があるか!」

 

格納庫へ入ってきた機体を見て、全員が黙った。

 

上半身はゲッター1。

 

下半身はゲッター2。

 

背中にはゲッター3のキャタピラが、翼のように生えていた。

 

左腕だけが、見覚えのない巨大なドリルになっている。

 

神隼人がコックピットハッチを開いた。

 

「着地地点を空けろ。形状が安定していない」

 

「見れば分かる!」

 

イアンが叫ぶ。

 

流竜馬が隼人の後ろから顔を出した。

 

「途中までは普通だったんだけどな!」

 

「途中で何をした!」

 

「気合いを入れた!」

 

榊が工具を床に落とした。

 

「それは整備記録に書けん」

 

「書かなくていい。直せば動く」

 

隼人は当然のように言った。

 

アストナージがゲッターの脚部を見上げる。

 

装甲の隙間では、金属とも生物とも判別できない部品が、ゆっくりと脈打っていた。

 

「直すとは、元の形に戻すことか?」

 

「次に出撃できればいい」

 

「何形態で?」

 

「敵による」

 

「先に決めろ!」

 

背後で、柔らかな靴音がした。

 

リーロン・リットナーがゲッターの周囲を歩き、脈打つ部品を眺める。

 

「あら。随分と情熱的な機体ね」

 

イアンが振り返る。

 

「分かるのか?」

 

「分からないわ」

 

リーロンは笑顔で答えた。

 

「でも、分からない物を怖がっていたら、螺旋力を扱う技術者なんてやっていられないもの」

 

指先で部品に触れる。

 

部品がリーロンの指へ向かって伸びた。

 

リーロンは即座に手を引いた。

 

「ただし、これは嫌い」

 

全員が一歩下がった。

 

流竜馬だけが腕を組んで笑った。

 

「な? 元気だろ」

 

「機体の部品に元気という評価を使うな」

 

アストナージが言った。

 

奥の隔壁が開き、エヴァンゲリオン初号機が運び込まれてきた。

 

初号機は拘束台の上で沈黙していた。

 

右肩の装甲が砕け、紫色の皮膚が露出している。

 

赤木リツコと伊吹マヤが並んで端末を確認していた。

 

マヤが報告する。

 

「右肩部に裂傷。装甲板は全損しています。ただ、生体組織の再生が始まっています」

 

榊が露出した肉を見つめる。

 

「装甲を外せば勝手に直るのか」

 

「条件が揃えば」

 

「便利だな」

 

「痛覚もあります」

 

榊は初号機を見上げた。

 

数秒前まで浮かんでいた羨望が消えた。

 

「……便利ではないな」

 

リツコは静かに頷いた。

 

その横を、ノーマン・バーグが台車を押して通り過ぎた。

 

銀色のティーポットと、人数分のカップが載っている。

 

「皆様、ひとまず温かい物をどうぞ」

 

アストナージが目を丸くする。

 

「この状況で茶か?」

 

「この状況だからこそです」

 

ノーマンは落ち着いた手つきで紅茶を注ぐ。

 

「焦燥は工具を滑らせます。疲労は確認を省かせます。いずれも、巨大兵器の整備には好ましくありません」

 

榊は受け取ったカップを見つめた。

 

「まともなことを言う人間が来たな」

 

格納庫の入り口で、巨大な黒い足が止まった。

 

ビッグ・オーだった。

 

右腕が肩からなくなっている。

 

ノーマンはそちらを一瞥した。

 

「もっとも、私も他人事ではありませんが」

 

榊は紅茶を吹き出した。

 

「腕はどうした!」

 

ビッグ・オーの胸部通信機から、ロジャー・スミスの声が流れる。

 

『交渉に使った』

 

「腕を使う交渉があるか!」

 

『相手が合意した以上、交渉は成立している』

 

ノーマンは静かにカップを置いた。

 

「ミスター・ネゴシエーターの認識については、後ほど私から説明いたします」

 

「説明で腕が生えるなら頼む!」

 

格納庫の損害表示が更新された。

 

大破、四機。

 

中破、七機。

 

軽微な損傷、十二機。

 

分類不能、ゲッターロボ一機。

 

整備完了予定時刻の欄には、計算中という文字が点滅していた。

 

榊は格納庫を見渡した。

 

脚のないイングラム。

 

車輪のないランスロット。

 

腕のないビッグ・オー。

 

冷却材が固まったマジンガーZ。

 

形態の定まらないゲッターロボ。

 

勝手に傷が塞がっていくエヴァンゲリオン。

 

そして、失ったファンネルの代わりに敵艦の砲身を背負って帰ってきたνガンダム。

 

「よし」

 

榊は紅茶を飲み干した。

 

「まず、分類できる故障から片づけるぞ」

 

若い整備兵がおそるおそる尋ねる。

 

「分類できない方は、どうしますか」

 

榊はゲッターロボを見た。

 

部品がまた一つ、別の形へ変わった。

 

「見なかったことにする」

 

神隼人が腕を組む。

 

「賢明だ」

 

「お前が言うな!」

 

格納庫に怒声が響いた。

 

夜明けまで、あと二時間十三分。

 

整備終了までの時間は、依然として計算不能だった。

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