第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記― 作:TETORU
会議開始予定時刻、午前九時。
実際の開始時刻、午前九時四十二分。
遅延理由は、参加者の半数が夜通し格納庫にいたためだった。
会議室中央には、長い楕円形の机が置かれている。
地球連邦軍代表、アストナージ・メドッソ。
特車二課代表、榊清太郎。
黒の騎士団技術部代表、ラクシャータ・チャウラー。
神聖ブリタニア帝国特派代表、ロイド・アスプルンド。
ソレスタルビーイング代表、イアン・ヴァスティ。
大グレン団代表、リーロン・リットナー。
ネルフ代表、赤木リツコ。
光子力研究所代表、せわし博士、もりもり博士、のっそり博士。
代理出席として、ノーマン・バーグ。
そして、なぜかゲッターチーム代表として神隼人が座っていた。
「整備責任者の会議だぞ」
榊が言った。
「なぜパイロットがいる」
隼人は資料をめくった。
「ゲッターを整備できる人間が、現時点で俺たちしかいない」
「博士はどうした」
「ゲッター線の観測に行った」
「整備会議より優先することか?」
「博士に聞け」
榊はすでに疲れていた。
会議の進行役を任されたアストナージが、机上の端末を操作する。
正面スクリーンに議題が表示された。
第一号議案。
共通整備規格の策定。
第二号議案。
補給部品の統一。
第三号議案。
未知の動力源および超常現象の取り扱い。
榊が三番目を指さした。
「これを最初に決めろ」
「一番揉めるから最後に回したんだ」
「最後まで体力が保つと思うか?」
アストナージは反論できなかった。
イアンが分厚い資料を机に置く。
「まずは共通規格だ。ボルト、ナット、配線、端子。最低限、この辺だけでも統一したい」
ラクシャータが煙管をくゆらせながら、資料を一枚めくった。
「無理ねぇ」
「まだ説明していないぞ」
「規格を統一すると言った時点で無理よぉ。ナイトメアフレームの部品は、小型化を優先して独自規格にしてあるものぉ」
ロイドが笑顔で頷いた。
「そうそう。量産性のために美しさを犠牲にするなんて、兵器への冒涜だよ」
榊の手が机を叩いた。
「量産性を軽視する奴は、戦場で壊れた機体を手で押して帰れ!」
「それは兵士の仕事じゃないかな」
「整備員に押させるつもりか!」
リーロンが資料の余白に何かを書き込んでいた。
「グレンラガンなら、部品の形が違っても螺旋力で何とかなるわよ」
アストナージが顔を上げる。
「何とかなる、を規格書に書ける表現に直してくれ」
「勇気と勢いで適合可能」
「悪化した」
リツコが淡々と言う。
「そもそも、機械ではない機体まで同じ規格で扱うことに無理があります」
榊がエヴァンゲリオンの資料を見る。
「装甲固定用のボルトくらいは統一できるだろう」
「内部組織が成長して、固定具を押し出す場合があります」
「勝手に?」
「勝手に」
「規格以前の問題だな」
「その認識で合っています」
せわし博士が手を挙げた。
「マジンガーZの装甲材は超合金Zじゃ。他の機体の工具では加工できんぞ」
イアンが尋ねる。
「交換する場合は?」
「光子力研究所で作る」
「ここには設備がない」
「なら作ればよい」
「簡単に言うな」
「マジンガーを作ったのじゃぞ。設備くらい作れる」
「どこに置く」
博士たち三人が窓の外を見た。
格納庫はすでに満杯だった。
のっそり博士が言う。
「地下はどうじゃ」
リツコが即座に答える。
「地下はネルフが使用しています」
「では、その下」
「巨大空洞があります」
「ちょうどよいではないか」
「そこには触れないでください」
声の温度が三度ほど下がった。
せわし博士は静かに資料へ目を戻した。
ノーマンが紅茶を配りながら口を挟む。
「共通規格そのものではなく、変換用の中継部品を用意してはいかがでしょう」
アストナージが顔を上げた。
「変換アダプターか」
「各機体の規格を変えるのではなく、接続点だけを共通化するのです」
イアンが頷く。
「現実的だな。電力、冷却、データ通信、燃料供給。それぞれに変換ユニットを作る」
榊が腕を組む。
「最初からまともな案が出たな」
ロイドが紅茶を飲みながら笑った。
「ただし、変換による性能低下が発生するね」
「緊急整備で動けばいい」
「性能が九十八パーセントになるかもしれない」
「二パーセントくらい我慢しろ!」
「二パーセントを笑う者は、二パーセントに泣くよ」
榊はロイドの白衣を掴みかけた。
セシルがいないので、止める者はいなかった。
ラクシャータが煙を吐く。
「でもぉ、エネルギー供給は無理じゃないかしらぁ」
正面スクリーンに、各機体の動力源一覧が表示された。
核融合炉。
熱核反応炉。
光子力エネルギー。
ゲッター線。
GNドライヴ。
サクラダイト。
S2機関。
螺旋力。
有機的自己再生機構。
その他。
榊が「その他」を指さした。
「この三文字に何機入っている」
アストナージが確認する。
「十七機」
「分けろ」
「分類不能なんだ」
「分類不能を十七機まとめるな!」
リーロンがスクリーンを見上げる。
「螺旋力とゲッター線って、近い部分があるんじゃない?」
隼人が即座に答えた。
「同じにするな」
「あら、心外ね」
「ゲッター線は進化を促す」
「螺旋力もよ」
「ゲッター線は選ぶ」
「螺旋力も選ぶわ」
「ゲッター線は暴走する」
「螺旋力も暴走するわね」
二人はしばらく見つめ合った。
榊が低い声で言う。
「同じ箱に入れておけ」
「断る」
「嫌よ」
隼人とリーロンの声が重なった。
アストナージは額を押さえた。
「では第三号議案に移る」
「まだ第一号も終わってないぞ」
「終わらないから進めるんだ」
スクリーンの表示が切り替わる。
第三号議案。
超常現象を整備項目として認めるか。
会議室が静まり返った。
アストナージが読み上げる。
「現状、複数の機体において、機械的説明のつかない出力上昇、自己修復、形状変化、操縦者との精神感応が確認されている」
ロイドが嬉しそうに手を挙げた。
「賛成」
「まだ質問していない」
「認めよう。面白いから」
「科学者の発言とは思えんな」
「再現できない現象を無視する方が、科学的ではないよ」
リツコが腕を組む。
「観測された以上、現象として記録する必要はあります。ただし、再現条件が不明なものを整備手順に含めるべきではありません」
イアンが資料を叩く。
「だが、実際に戦場では起きている。昨日もグレンラガンの出力が設計値を二百七十パーセント超えた」
リーロンが首を傾げる。
「少なかったわね」
「二百七十だぞ」
「あの子たち、調子が良い時は桁が増えるもの」
榊の手からペンが落ちた。
「設計値とは何だ」
リーロンは微笑んだ。
「越えるための目安よ」
「技術者が一番言ってはいけない言葉だ!」
せわし博士が机を叩く。
「気合いによる出力上昇は、マジンガーでも確認されておる!」
もりもり博士も続く。
「パイロットが叫ぶと、なぜか反応速度が上がる!」
のっそり博士が頷く。
「声が大きいほど強い」
アストナージが尋ねる。
「音声入力なのか?」
「違う」
「精神感応か?」
「分からん」
「では、なぜ断言した」
「毎回そうなるからじゃ!」
榊が静かに立ち上がった。
「休憩にしよう」
「まだ開始から二十六分だぞ」
「私は今、気合いを点検項目に入れろと言われている」
アストナージは何も言えなかった。
十五分の休憩後。
会議は再開した。
机の上には、新しい資料が置かれていた。
題名は「操縦者精神状態による機体性能変動調査」。
リツコが説明を始める。
「各機体の戦闘記録を比較した結果、操縦者の心理状態と出力上昇には一定の相関が確認されました」
榊が恐る恐る尋ねる。
「一定の相関とは」
「怒り、悲しみ、決意、愛情、仲間への信頼、絶望からの再起などです」
「整備員が管理できる項目ではない」
「そのとおりです」
「なら、なぜ資料にした」
「無視できないためです」
ロイドが資料を読みながら楽しそうに言う。
「面白いねえ。パイロットに過去の悲しい記憶を思い出させれば、出力が上がる可能性がある」
リツコがロイドを見る。
「その発想は、すでに複数の組織が実行し、重大な事故を起こしています」
「先行研究があるのか」
「失敗例です」
ラクシャータが煙管を置いた。
「精神状態を上げるなら、褒めればいいんじゃないのぉ?」
イアンが答える。
「パイロットによるな」
「叱った方が伸びるタイプもいるわねぇ」
「それを整備班の仕事にするな」
隼人が資料を閉じた。
「ゲッターチームの場合、精神状態は気にしなくていい」
アストナージが少し安心した顔を見せる。
「安定しているのか」
「三人とも常に危険域だ」
安心は一秒で消えた。
ノーマンが静かに手を挙げた。
「整備班が操縦者の精神状態を管理する必要はないのではありませんか」
榊が頷く。
「そのとおりだ」
「ただし、出撃前に食事と睡眠を確認することは可能です」
「それは必要だな」
「また、機体に話しかける操縦者も多く見受けられます」
アストナージがアムロを思い出した。
榊は野明を思い出した。
イアンは刹那を思い出した。
全員が少し遠い目をした。
ノーマンは続ける。
「話しかけること自体に害はありません。むしろ、機体の異常に早く気づく場合もあります」
榊が低く唸る。
「泉は音で異常に気づく。報告しないが」
アストナージも頷く。
「アムロは反応の違いに気づく。限界まで使うが」
イアンが腕を組む。
「刹那はガンダムの感情まで分かると言う。こちらには分からんが」
リーロンが笑った。
「なら決まりね。機体との対話を点検項目に入れましょう」
榊が立ち上がる。
「待て!」
しかし、アストナージはすでに端末へ入力していた。
出撃前点検項目。
一、外装確認。
二、駆動系確認。
三、動力炉確認。
四、武装確認。
五、通信確認。
六、操縦者の健康状態確認。
七、機体との関係性確認。
榊は画面を見つめた。
「七番を消せ」
「多数決を取る」
賛成。
ロイド。
ラクシャータ。
リーロン。
博士三名。
ノーマン。
隼人。
反対。
榊。
アストナージ。
イアン。
リツコ。
可決された。
榊は椅子に座った。
「人類は終わる」
ロイドが微笑む。
「大丈夫。終わりそうになれば、誰かが叫んで出力を上げるよ」
榊は机に突っ伏した。
その時、会議室の扉が開いた。
若い整備兵が駆け込んでくる。
「緊急報告です!」
アストナージが立ち上がる。
「敵襲か!」
「違います!」
「機体の暴走か!」
「それも違います!」
整備兵は息を切らしながら告げた。
「格納庫で、ガンダム同士が部品を交換しています!」
全員が黙った。
イアンが最初に口を開いた。
「誰の指示だ」
「パイロット同士で、こっちの武器が似合うとか話していて……」
アストナージの顔から血の気が引いた。
「どのガンダムだ」
「ウイングガンダムゼロのバスターライフルを、ガンダムエクシアに持たせようとしています!」
椅子が一斉に倒れた。
整備責任者たちは、会議室から飛び出した。
誰よりも速かったのはイアンだった。
「刹那ぁっ! それは剣じゃない!」
アストナージが後を追う。
「ヒイロも止めろ! なぜ渡した!」
廊下の奥から、ヒイロ・ユイの冷静な声が聞こえた。
「使用可能と判断した」
「誰が判断しろと言った!」
榊は最後尾を走りながら、会議資料を床へ投げ捨てた。
共通整備規格策定会議。
決定事項。
変換アダプターを開発する。
気合いを現象として記録する。
機体との関係性を確認する。
未決事項。
それ以外のすべて。
会議は、参加者全員の退席により終了した。
所要時間、一時間十九分。
人類史上もっとも短く、もっとも疲労の大きい技術会議だった。