第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記― 作:TETORU
統合整備基準策定会議が崩壊する、三時間前。
第三格納庫の管制室に、未確認艦から入電があった。
『こちら、新統合軍所属試験部隊。着艦許可を求む』
管制官が識別情報を確認する。
モニターに映ったのは、航空機だった。
少なくとも、その時点では。
白と赤に塗られた前進翼機。
青い二本角を持つ可変戦闘機。
大型のスーパーパックを背負った機体。
そして、派手な赤色に塗られ、機体各部へスピーカーを搭載した正体不明の航空機。
榊清太郎は映像を見上げた。
「飛行機か」
その声には、久しく失われていた安堵があった。
翼がある。
吸気口がある。
ノズルがある。
人型でもなければ、生物でもなく、気合いで巨大化している様子もない。
整備という言葉が通用しそうな形をしていた。
シバシゲオも頷く。
「ようやく、まともな乗り物が来ましたねえ」
アストナージ・メドッソが端末を確認する。
「可変戦闘機、バルキリーか。航空機なら専門外だが、少なくとも部品が脈打つことはないだろう」
格納庫へ警告音が響いた。
先頭を飛んでいた白と赤の機体が減速し、主翼とエンジンブロックを折り曲げた。
機首が持ち上がる。
脚が生えた。
腕が出た。
航空機は着陸直前、人型へ変形した。
榊の顔から安堵が消えた。
「帰れ」
シゲが慌てて止める。
「まだ降りてもいませんよ!」
「飛行機が空中で人型になるような部隊を入れるな!」
続く機体は、完全な人型にはならなかった。
脚部だけを展開し、両腕を機体下部へ伸ばした中間形態で滑るように着地する。
榊は頭を抱えた。
「途中で諦めた形まであるのか」
通信機から若い女の声が届いた。
『ガウォーク形態です! 低速時の機動性と作業性を両立した、合理的な形態なんですよ!』
桃色の整備服を着たマキナ・中島が、VF-31ジークフリードのコックピット横から身を乗り出していた。
機体が停止すると、マキナは昇降ワイヤーも待たず、脚部から軽やかに飛び降りる。
「うわあっ! ここが混成部隊の格納庫!?」
目を輝かせ、周囲を見回す。
νガンダム。
エヴァンゲリオン初号機。
マジンガーZ。
ゲッターロボ。
イングラム一号機。
マキナは両手を胸元で握った。
「メカメカ天国!」
榊が即座に言った。
「地獄だ」
「この子がイングラムちゃん? 装甲の角張り方が硬派で可愛い!」
「ちゃん付けするな」
「こっちはマジンガー君! 胸の放熱板が大胆!」
「放熱板ではない! ブレストファイヤーじゃ!」
せわし博士が抗議する。
マキナは初号機を見上げた。
「この紫の子、ちょっと生っぽいですね」
初号機の露出した皮膚が、かすかに動いた。
マキナは笑顔のまま二歩下がった。
「この子だけ、後で紹介してください」
「賢明な判断だ」
アストナージが言った。
白と赤のYF-19から、二人の男が降りてきた。
先に降りたパイロット、イサム・ダイソンは格納庫内を見渡し、愉快そうに口笛を鳴らす。
その後ろから降りたヤン・ノイマンは、端末を見たまま怒鳴った。
「イサム!」
「着いた早々、何だよ」
「主翼の基部に亀裂が入っている!」
「着艦できただろ」
「着艦できたことと、壊れていないことは別です!」
ヤンは翼の下へ走り、亀裂を指さした。
「なぜ機体制限を解除した!」
「追いつけなかったから」
「誰に!」
イサムは顎で、後方の青いVF-31を示した。
「青い奴」
VF-31からハヤテ・インメルマンが降りてくる。
「俺は普通に飛んでただけだ」
「踊るように飛びやがって。面白そうだったから追った」
「空は競技場じゃないぞ!」
ヤンが叫ぶ。
榊はアストナージへ顔を向けた。
「飛行機の方がまともだと言ったのは誰だ」
「俺ではない」
「お前も同意した顔をしていた」
「顔まで責任を負わせるな」
その横で、イアン・ヴァスティがYF-19を観察していた。
「熱核反応エンジンで大気圏内外を飛び、人型へ変形するのか」
ヤンは少し誇らしげに頷いた。
「機体制御には高度なAI補助を使用しています。空力特性、推力偏向、変形時の姿勢制御をリアルタイムで――」
「リミッターを外せるのか?」
ロイド・アスプルンドが、いつの間にか隣へ立っていた。
ヤンの表情が固まる。
「なぜ最初にそこを聞くんです」
「外せるんだね」
「外しません」
イサムが親指を立てた。
「外せるぜ」
「あなたは黙っていてください!」
少し離れた場所では、ルカ・アンジェローニがVF-25メサイアの電子装備を展開していた。
無数の小型無人機が周囲を飛び、格納庫内の設備を測定している。
アストナージが眉をひそめた。
「その小さいのは何だ」
「ゴーストです。索敵、電子戦、情報収集に使います」
「自律兵器か?」
「制御下にあります」
「暴走したことは」
ルカは一瞬だけ黙った。
「……安全策は講じています」
「暴走したことがある奴の答えだな」
マキナはすでにランスロットの脚部へ潜り込んでいた。
「この車輪、面白い! 飛ばずに地面を高速移動するんだ!」
セシル・クルーミーが隣で説明する。
「ランドスピナーです。市街地での機動性を確保するための装備で――」
「バルキリーの脚に付けてみません?」
セシルは少し考えた。
「ガウォーク形態なら、有効かもしれません」
榊が二人の間へ割って入った。
「止めろ」
「まだ相談しているだけです」
「技術者が面白いと言って始めた相談は、必ず実物を作るところまで行く!」
ロイドが遠くから声を上げる。
「そのとおり!」
「お前は賛同するな!」
最後に、赤いVF-19改が着陸した。
着陸と同時に、格納庫内へ大音量のギターが響いた。
『俺の歌を聴けぇっ!』
整備員たちが一斉に耳を塞ぐ。
VF-19改はガウォーク形態へ変形し、翼下のスピーカーポッドを展開した。
榊が叫ぶ。
「格納庫内で武装を開くな!」
機体から降りてきた熱気バサラは、ギターを背負ったまま答える。
「武装じゃねえ。歌を届けるための物だ」
「兵器の翼に付いている物は、ひとまず武装として扱う!」
「歌は兵器じゃねえ!」
その後ろから、Dr.千葉が大量の測定器を抱えて現れた。
「いえ、歌エネルギーは対象の精神状態と生体反応に作用します。条件によっては、兵器以上の効果を――」
「では危険物だ!」
榊が即断した。
Dr.千葉は初号機を見上げる。
「素晴らしい。あの人造人間へ歌エネルギーを照射すれば、シンクロ率に変化が起きる可能性がある」
赤木リツコの声が背後から飛んだ。
「無許可の実験は認めません」
「科学の発展には検証が必要です!」
「検証対象が暴走した場合、あなたが止めるの?」
「歌で!」
「却下します」
バサラは初号機の前まで歩き、見上げた。
「こいつ、歌を聴いてねえな」
榊が眉を寄せる。
「寝ているのではないか」
「起きてるとか寝てるとかじゃねえ。心を閉じてやがる」
初号機の指先が、ほんのわずかに動いた。
整備員たちは全員、後ずさった。
バサラだけがギターを構える。
「よし。まずは一曲――」
リツコがバサラの襟首を掴んだ。
「外でやりなさい」
「歌に場所なんか関係ねえ!」
「ここには音圧で誤作動する試験機器が四百点あるの」
「だったらそいつらにも聴かせてやる!」
「機械は観客ではありません」
マキナが元気よく手を挙げた。
「機械にも心はあります!」
アストナージ、榊、イアンが同時にマキナを見る。
マキナは笑顔で続けた。
「比喩的な意味で!」
三人は少しだけ安心した。
「でも、たまに本当にあります!」
安心は即座に失われた。
ヤンは格納庫の整備設備を確認しながら尋ねた。
「可変戦闘機用の整備区画はどこですか」
榊が答える。
「ない」
「変形機構用の支持架台は?」
「ない」
「航空機用のエンジン整備設備は?」
「ない」
「では、どうやって整備を」
榊はνガンダム用の大型架台、イングラム用の移動足場、ランスロット用の小型クレーンを指さした。
「組み合わせて使え」
ヤンは絶句した。
マキナは喜んだ。
「わあ、現場合わせ!」
「喜ぶところではない!」
ルカが端末で寸法を計算する。
「VF-25をファイター形態で固定するなら、νガンダムの脚部架台を横倒しにして、イングラム用の支持具を四基追加すれば可能です」
アストナージが首を振る。
「νガンダムが出撃したらどうする」
「バトロイド形態で立たせます」
「整備中の機体を自立させるな」
マキナが提案する。
「ガウォークなら三点で支えられますよ」
榊が机を叩く。
「だから途中の形で妥協するな!」
マクロス勢の到着から、一時間後。
第三格納庫の整備分類表に、新たな項目が追加された。
人型機動兵器。
生体兵器。
自律変形兵器。
気合い駆動兵器。
航空機。
航空機兼人型機動兵器。
航空機兼人型機動兵器兼音響装置。
榊は最後の項目を見つめた。
「分類したことで、余計に分からなくなった」
ヤンが隣で頷く。
「バルキリーとは、そういう機体です」
「誇らしげに言うな」
格納庫の奥で、マキナとセシルがランドスピナーをVF-31の脚へ当てて寸法を測っていた。
ロイドはYF-19の制御プログラムを覗き込んでいる。
Dr.千葉はエヴァンゲリオン用スピーカーの設計図を描いていた。
バサラはマジンガーZの頭上に座り、ギターを鳴らしていた。
せわし博士は「光子力と歌エネルギーの共鳴」という題名の資料を読み始めている。
榊は深く息を吸った。
「全員、手を止めろ!」
誰も止めなかった。
マクロス勢は格納庫へ到着した。
そして、整備班が守ろうとしていた最後の常識は、三段変形しながら飛び去った。
『非承認兵装交換会』
統合整備基準策定会議が崩壊した直後。
整備責任者たちは第三格納庫へ走っていた。
先頭を走るイアン・ヴァスティが、格納庫の大型扉を蹴り開ける。
「刹那ぁっ! それは剣じゃない!」
中央作業区画では、ガンダムエクシアがウイングガンダムゼロのツインバスターライフルを両手で構えていた。
刹那・F・セイエイは、コックピット内で真剣に照準を調整している。
隣にはヒイロ・ユイが立っていた。
アストナージが叫ぶ。
「ヒイロ! なぜ渡した!」
「使用できる可能性があった」
「可能性で他人の機体に主砲を持たせるな!」
刹那の声が通信機から返る。
『この武器なら、より迅速に紛争を根絶できる』
イアンは頭を抱えた。
「エクシアは近接戦闘用だ! 機体の電力系統も照準システムも合っていない!」
『俺が合わせる』
「お前は機械規格ではない!」
その隣では、ガンダムデスサイズヘルのビームシザースを、ゲッター1が握っていた。
流竜馬が笑う。
『いいじゃねえか! ゲッタートマホークより長い!』
神隼人は冷静に観察していた。
『重量配分も悪くない』
アストナージが隼人を睨む。
「お前は止める側だろう!」
『使える物を試しているだけだ』
「それを止めるのが整備会議の参加者だ!」
格納庫の反対側では、マジンガーZがガンダムヘビーアームズのビームガトリングを装備していた。
兜甲児が上機嫌で銃身を回転させる。
『すげえ! 弾切れを気にしなくていい機関銃だ!』
トロワ・バートンが地上から見上げる。
「エネルギー供給が続けばな」
せわし博士が配線を確認した。
「光子力エネルギーを変換すれば撃てるかもしれん」
榊が博士を睨んだ。
「なぜ協力している!」
「科学者として、可能性を確かめたくてのう」
「さっきの会議で何を学んだ!」
「変換アダプターを作ることになった」
「決定事項を最悪の速度で実行するな!」
さらに奥。
ランスロットはVF-25用のスーパーパックを背負っていた。
枢木スザクが推進器を試験稼働させる。
ランドスピナーが床を滑り、背部ブースターが白煙を噴いた。
機体は前方へ高速移動し、そのまま整備資材の山へ突っ込んだ。
セシルが悲鳴を上げる。
「スザク君!」
資材の中から、スザクの声が返る。
『推力配分に問題があります』
ロイドは拍手した。
「分かったことが一つ増えたね」
榊はロイドへ詰め寄った。
「お前が付けたのか!」
「僕だけではないよ」
マキナがランスロットの足元から顔を出した。
「取り付けは私です!」
「嬉しそうに名乗るな!」
マキナは端末を見せる。
「ナイトメアフレームは軽いので、バルキリー用ブースターとの相性は良いと思ったんです。でも、姿勢制御用スラスターが足りませんね」
ラクシャータが煙管を揺らす。
「フロートユニットと併用すればいいんじゃないのぉ?」
セシルが考え込む。
「制御系を統合できれば……」
榊が叫ぶ。
「反省しろ! 考察を始めるな!」
νガンダムの背中には、VF-31用のフォールドクォーツ搭載コンテナが仮固定されていた。
アムロがコックピット内から通信する。
『サイコフレームとフォールドクォーツには、似た反応がある』
アストナージの顔色が変わった。
「外せ」
『まだ測定中だ』
「外せ!」
『人の意思を増幅する素材同士なら、干渉を確認する必要がある』
「お前まで技術者みたいなことを言うな! 自分で実験機に乗る技術者が一番危険なんだ!」
その横では、ルカが大量のゴーストを展開していた。
ゴーストの一機が、νガンダムのフィン・ファンネルへ接近する。
ルカが興奮気味に説明した。
「自律制御とサイコミュ誘導を統合すれば、操縦者の負荷を減らせます!」
アムロが答える。
『自律判断が介入すると、意図した動きから遅れる』
「予測アルゴリズムを調整します!」
アストナージが二人の間へ割り込んだ。
「失くしたファンネルの代わりを、勝手に無人機で埋めるな!」
ルカは小さく言った。
「同じような物かと……」
「大きさ以外、ほとんど違う!」
その時、大音量のギターが響いた。
全員が音の方向を見る。
熱気バサラのVF-19改が、エヴァンゲリオン初号機の肩へ巨大なスピーカーポッドを取り付けていた。
赤木リツコの眼鏡が、照明を反射した。
「誰の許可を得たの」
バサラはギターを鳴らしながら答える。
「許可を待ってたら、歌いたい時に歌えねえ」
「エヴァにスピーカーは必要ありません」
Dr.千葉が資料を掲げる。
「しかし、エヴァンゲリオンとパイロット間の同期に、歌エネルギーが作用する可能性は高い!」
伊吹マヤが端末を確認する。
「先ほどの試験音で、初号機の脳波パターンに変化が出ています!」
リツコが振り返る。
「試験したの?」
マヤは青ざめた。
「私ではありません!」
初号機のエントリープラグ内部から、碇シンジの声が聞こえた。
『僕が……少し聴いてみたいと言いました』
リツコは目を閉じた。
榊が同情するように肩へ手を置く。
「部下だけではなく、パイロットまで乗り気になると止められん」
「慰めになっていないわ」
バサラが叫ぶ。
「シンジ! 機械に歌わせるんじゃねえ! お前が歌え!」
『えっ』
「エヴァに乗ってる時だけが、お前の全部じゃねえだろ!」
初号機の肩に取り付けられたスピーカーから、ギター音が流れ始めた。
シンジは困惑したまま、小さく声を出した。
『残酷な――』
リツコが即座に通信を切った。
「その選曲は駄目」
榊が尋ねる。
「なぜだ」
「説明すると長くなるわ」
格納庫の端では、イングラム一号機がVF-1用のガンポッドを構えていた。
泉野明が楽しそうに照準を動かす。
『これ、リボルバーカノンより弾が多いです!』
シゲが足元で叫ぶ。
「野明さん、引き金には触らないでくださいよ!」
『安全装置は?』
「規格が違うので分かりません!」
『じゃあ、どれが引き金ですか?』
「触らないでと言ってるでしょう!」
榊が一号機の前へ走る。
「泉! 今すぐ置け!」
『でも、持ちやすいですよ』
「レイバーの手は、物を持てば壊れる可能性がある!」
『手って、持つためにあるんじゃないですか?』
榊は一瞬、言葉に詰まった。
「今は哲学をしている場合ではない!」
その上空を、VF-31がガウォーク形態で通過した。
両腕には、ランスロットのヴァリスと、ガンダムエクシアのGNソードを持っている。
ハヤテが通信する。
『この剣、ガウォークでも振れるぞ』
刹那が即座に反応した。
『返せ』
『今、お前はバスターライフルを持ってるだろ』
『GNソードはガンダムだ』
『会話になってないぞ』
マキナが地上から歓声を上げる。
「異作品装備の空中試験! データ取れました!」
ヤンが頭を抱える。
「なぜ試験飛行を許可した!」
「ハヤテが、ちょっと浮かせるだけって」
「パイロットの『ちょっと』を信用するな!」
その言葉に、格納庫内の整備責任者たちが一斉に頷いた。
イサムがYF-19のコックピットから顔を出す。
「何だよ。ちょっとくらいいいだろ」
ヤンは振り返った。
YF-19の翼下には、ウイングガンダムゼロの予備シールドが二枚取り付けられていた。
「あなたは何を付けているんです!」
「空力が変わって面白そうだから」
「今すぐ外してください!」
「一回飛んでから」
「飛ばせません!」
「じゃあ、滑走だけ」
「同じです!」
混乱の中心で、ノーマン・バーグだけが静かに紅茶を注いでいた。
その背後には、ビッグ・オー。
交換用の右腕として、マクロスクォーターの艦載砲が無理やり固定されている。
榊がカップを受け取りながら尋ねた。
「おい」
「はい」
「あれは何だ」
ノーマンはビッグ・オーを見上げた。
「ミスター・スミスが、交渉力の強化を希望されまして」
「お前まで参加したのか!」
「腕の修復には時間が必要です。使用可能な代替品を探すのは、整備士として自然な判断かと」
「戦艦の砲を腕にするな!」
ビッグ・オーの通信機から、ロジャー・スミスの声が響く。
『兵器の威力は、交渉開始前の説得力に影響する』
榊は紅茶を一気に飲んだ。
「お前の交渉は、最初から最後まで暴力だ!」
警報が鳴った。
敵部隊の接近。
出撃まで、十分。
整備責任者たちは動きを止めた。
格納庫には、本来の装備を失った機体と、他作品の兵装を抱えた機体が並んでいる。
イアンがエクシアを見上げる。
「十分で元に戻せるか?」
整備員が首を振った。
「変換アダプターを溶接しています。取り外しには二十分以上かかります!」
アストナージがνガンダムを見る。
「フォールドコンテナは」
「固定解除に十五分!」
榊がイングラムを指さす。
「ガンポッドは置くだけだろう!」
シゲが叫ぶ。
「指が食い込んで外れません!」
リツコが初号機を見る。
「スピーカーは」
マヤが答える。
「装甲の再生組織が固定具を取り込んでいます!」
リツコの顔が引きつった。
バサラが親指を立てる。
「気に入ったみたいだな!」
「あなたは黙って!」
出撃指令が繰り返される。
整備責任者たちは互いの顔を見た。
元へ戻す時間はない。
このまま出すしかない。
アストナージが低い声で言った。
「帰ってきたら、全員説教だ」
イアンが頷く。
「パイロットだけではない。手伝った技術者もだ」
榊が腕を組む。
「帰ってきた機体は、一機ずつ完全に元へ戻す」
リツコが初号機のスピーカーを見上げる。
「戻せればね」
出撃ゲートが開く。
最初に飛び出したのは、ツインバスターライフルを抱えたガンダムエクシア。
続いて、スーパーパックを背負ったランスロット。
ビームシザースを振り回すゲッター1。
ビームガトリングを装備したマジンガーZ。
フォールドクォーツを背負ったνガンダム。
VF-1用ガンポッドを両手で抱えるイングラム一号機。
巨大スピーカーを肩に載せたエヴァンゲリオン初号機。
艦載砲を腕にしたビッグ・オー。
最後に、熱気バサラのVF-19改が飛び立つ。
『武器なんか交換して喜んでんじゃねえ!』
バサラの歌声が戦場へ響いた。
『お前ら全員、俺の歌を聴けぇっ!』
榊は出撃していく機体を見送り、静かに呟いた。
「最もまともなことを言っている奴が、最もうるさい」
ヤンが隣で頷く。
「マクロスでは、よくあることです」
「慣れたくない文化だ」
十分後。
戦場から最初の報告が届いた。
ツインバスターライフルを撃ったエクシアが、反動で後方へ吹き飛んだ。
スーパーパック付きランスロットが、制御不能のまま敵陣を一周した。
ゲッター1のビームシザースが、なぜか巨大化した。
マジンガーZのビームガトリングは、光子力エネルギーを流した瞬間、光子力ガトリングへ変質した。
νガンダムのサイコフレームとフォールドクォーツが共鳴し、周囲の敵味方へ歌声が直接届き始めた。
初号機は肩のスピーカーを自ら増殖させた。
アストナージは報告書を閉じた。
「整備基準に、新しい禁止事項を追加する」
榊が端末を開く。
「何と書く」
アストナージは戦場の映像を見た。
武装も技術も世界観も混ざり合い、誰にも説明できない光を放っている。
「他作品の装備を、面白そうという理由で取り付けてはならない」
ヤンが付け加える。
「空力を試したい、も入れてください」
イアンが言う。
「紛争を根絶できそう、もだ」
リツコが眼鏡を直す。
「歌を聴かせたい、も追加して」
榊は入力を終えた。
禁止事項、全四項目。
その直後、戦場からマキナの通信が入る。
『ランドスピナーとガウォーク形態の相性、すっごく良かったです! 次は正式に試作しましょう!』
榊は端末を机へ伏せた。
「禁止事項は、読まれないためにあるのか」
第三格納庫に、答える者はいなかった。
全員、心当たりがあったからだ。