第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記―   作:TETORU

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『自己修復という名の無断改造』

第三格納庫の整備予定表は、ついに壁一面を埋め尽くしていた。

 

赤。

 

赤。

 

赤。

 

どの機体も、修理期限超過を示す赤色だった。

 

νガンダム、左腕駆動系。

 

ランスロット、推進制御系。

 

イングラム一号機、右脚全交換。

 

マジンガーZ、冷却系洗浄。

 

エヴァンゲリオン初号機、肩部装甲再生待ち。

 

ゲッターロボ、分類不能。

 

ウイングガンダムゼロ、主砲返却待ち。

 

ガンダムエクシア、主砲使用による全身関節再調整。

 

ビッグ・オー、右腕。

 

VF-19改、整備妨害。

 

最後の一項を見た熱気バサラが、ギターを鳴らした。

 

「俺は壊してねえ!」

 

榊清太郎が赤いペンで項目を二重線にする。

 

そして、書き直した。

 

VF-19改、騒音による整備遅延。

 

「悪化してんじゃねえか!」

 

「事実を書いただけだ」

 

整備予定表の前には、各作品の整備責任者が集まっていた。

 

アストナージ・メドッソ。

 

イアン・ヴァスティ。

 

赤木リツコ。

 

リーロン・リットナー。

 

マキナ・中島。

 

ヤン・ノイマン。

 

ロイド・アスプルンド。

 

シバシゲオ。

 

そして、新たに配属された三人。

 

フリーデン整備班長、キッド・サルサミル。

 

ナデシコ整備班、ウリバタケ・セイヤ。

 

ネオジャパン代表、レイン・ミカムラ。

 

キッドは壁一面の予定表を見上げ、目を輝かせた。

 

「すげえ! こんだけ機体があれば、部品を組み合わせて一機くらい新型を作れるな!」

 

榊が即座に振り返る。

 

「作らんでいい」

 

「余った部品だけでさ」

 

「余っている部品などない。所属不明の部品があるだけだ」

 

格納庫の隅には、持ち主の分からない部品が山積みにされていた。

 

巨大な歯車。

 

紫色の装甲片。

 

赤い羽根。

 

人間の手ほどの大きさがあるボルト。

 

脈打つ金属片。

 

シゲが山の前に立ち、札を下げる。

 

『触るな』

 

脈打つ金属片が札を飲み込んだ。

 

シゲは新しい札を用意した。

 

『本当に触るな』

 

ウリバタケは工具箱を机に置き、予定表を眺めた。

 

「で、整備班の人数は?」

 

アストナージが答える。

 

「機体数の三分の一だ」

 

「工作艦は?」

 

「ない」

 

「自動修理装置は?」

 

「ない」

 

「じゃあ根性で?」

 

榊の表情が険しくなる。

 

「その言葉を整備班で使うな」

 

リーロンが微笑んだ。

 

「螺旋力なら貸せるわよ」

 

「貸すな」

 

キッドが予定表を指さした。

 

「自分で直る奴から後回しにすればいいじゃん」

 

リツコが答える。

 

「初号機の生体組織は再生するけれど、装甲や拘束具は直らないわ」

 

「中身が直るなら楽じゃないか」

 

「中身が直った結果、壊れた装甲を内側から押し広げることがある」

 

キッドは少し考えた。

 

「……楽じゃないな」

 

「学習が早い」

 

レインが初号機の資料を読む。

 

「生体組織の再生には、かなりのエネルギーが必要なのね」

 

リツコが頷く。

 

「加えて、パイロットとの同期状態にも左右されるわ」

 

「精神状態で修復速度が変わるの?」

 

「変わる可能性がある」

 

榊が顔を覆った。

 

「修理にまで感情が要るのか」

 

ロイドが嬉しそうに言う。

 

「素敵じゃないか。機体に優しく話しかければ、早く直るかもしれない」

 

「お前が話しかけたら悪化する」

 

「試してみないと分からないよ」

 

「試すな」

 

その時、格納庫の扉が開いた。

 

白い機体が、ゆっくりと入ってくる。

 

頭部に二本の髭を持つ、∀ガンダム。

 

その足元を、小柄な老人が端末を片手に歩いていた。

 

シド・ムンザだった。

 

「遅くなった。機体の調査に時間がかかってな」

 

∀ガンダムは所定位置に立ち、静かに停止した。

 

外装に目立った損傷はない。

 

キッドがすぐに駆け寄る。

 

「こいつ、戦闘に出てたよな? 傷が全然ないぞ!」

 

シドは機体の脚を叩いた。

 

「ナノマシンによる自己修復だ」

 

格納庫が静まり返った。

 

全員が、∀ガンダムを見上げる。

 

その視線には、羨望があった。

 

希望があった。

 

そして、整備員特有の疑念があった。

 

アストナージが慎重に尋ねる。

 

「どの程度まで直る」

 

「装甲、駆動系、内部回路。時間と材料があれば、かなりの範囲を修復する」

 

イアンが一歩近づく。

 

「部品交換は?」

 

「損傷が小さければ不要だ」

 

榊が歩み寄る。

 

「調整は?」

 

「自動で行われる」

 

「清掃は?」

 

「異物も分解する」

 

「点検は?」

 

「自己診断がある」

 

榊はしばらく黙っていた。

 

「……嫌な機体だ」

 

シゲが目を丸くする。

 

「楽できるんですよ?」

 

「自分で直ったと言い張る機械ほど信用できん」

 

シドは苦笑した。

 

「正しい反応だ。私も完全には信用しておらん」

 

「どこが問題なんだ」

 

「何を基準に元の状態と判断しているのか、分からない」

 

全員の顔から、希望が少し消えた。

 

シドは続ける。

 

「ナノマシンは機体を修復する。だが、我々が施した改造まで故障と判断して元へ戻す場合がある」

 

キッドが∀ガンダムの脚へ顔を近づけた。

 

「じゃあ、パワーアップしても勝手に消されるのか?」

 

「場合による」

 

「面白え!」

 

「面白くない」

 

榊が言った。

 

ウリバタケは端末を取り出し、∀ガンダムを撮影し始めた。

 

「自己修復ナノマシンか。ナデシコの設備へ応用できれば、整備時間を大幅に減らせるな」

 

イアンが制止する。

 

「仕組みも分からん物を持ち込むな」

 

「調べるだけだよ」

 

アストナージがウリバタケを見る。

 

「技術者の『調べるだけ』は、パイロットの『少し試す』と同じくらい信用できん」

 

ヤンが強く頷いた。

 

「全面的に同意します」

 

マキナが手を挙げる。

 

「少量だけ採取して、バルキリーの装甲に使うのは?」

 

「駄目だ」

 

「まだ最後まで言ってません!」

 

「最後まで聞いたら許可するとでも思ったか?」

 

一方、ロイドはすでに∀ガンダムの足元へ小型採取器を置いていた。

 

セシルがいないため、誰も止める者がいない。

 

榊が採取器を蹴り飛ばす。

 

「何をしている」

 

「自然に落ちたナノマシンを集めようかと」

 

「お前は盗みを科学的観測と言い換えるな!」

 

その時だった。

 

格納庫内の警報が鳴った。

 

汚染警報。

 

隔壁が降り始める。

 

リツコが端末を確認する。

 

「微小機械反応を検出。発生源は∀ガンダム周辺」

 

シドが顔を上げる。

 

「おかしい。通常は機体外へ拡散しないはずだ」

 

格納庫の床を、銀色の粉が流れていた。

 

∀ガンダムの足元から広がり、床材の亀裂へ入り込んでいく。

 

キッドがしゃがみ込む。

 

「こいつら、床を直してるぞ」

 

亀裂が塞がった。

 

削れていた塗装が再生し、新品のような光沢を取り戻す。

 

シゲが感動した。

 

「便利じゃないですか!」

 

銀色の粉は、次にイングラム一号機の足元へ到達した。

 

損傷していた右脚へ這い上がる。

 

野明がコックピットから声を上げる。

 

『一号機が、くすぐったいって言ってます!』

 

榊が叫ぶ。

 

「機械の感想を代弁するな!」

 

イングラムの失われた右脚が、ゆっくりと再生し始めた。

 

金属粉が骨格を作り、装甲を形成する。

 

整備員たちから歓声が上がった。

 

「直ってる!」

 

「脚が戻ってるぞ!」

 

「設計図を読み取ったのか?」

 

榊だけは、黙って再生する脚を見ていた。

 

やがて右脚が完成する。

 

左右対称。

 

新品同様。

 

しかし、シゲが首を傾げた。

 

「班長」

 

「何だ」

 

「この脚、旧型です」

 

榊の眉が動いた。

 

「何だと」

 

「一号機は現場改修で膝関節を強化してます。でも再生したのは、納入時の初期仕様です」

 

再生した右脚が一歩踏み出す。

 

関節から、カタカタと音がした。

 

榊が怒鳴る。

 

「戻せ! 壊れやすい時代へ戻すな!」

 

ナノマシンに怒鳴っても反応はなかった。

 

銀色の粉は、次にランスロットへ移動した。

 

マキナが声を上げる。

 

「ランドスピナーが直ります!」

 

破損していた車輪が再生する。

 

しかし、増設されていた姿勢制御スラスターが、逆に分解されていく。

 

ロイドが目を輝かせた。

 

「興味深い。純正状態を正常と判断している」

 

榊が振り返る。

 

「嬉しそうに分析している場合か!」

 

「純正は美しいからね」

 

「では、お前の試作装備を全部消してもらえ!」

 

ロイドの顔から笑みが消えた。

 

「止めよう」

 

「急に現実的になるな!」

 

ナノマシンは、格納庫全体へ広がっていく。

 

νガンダムの損傷した左腕。

 

ガンダムエクシアの関節。

 

VF-31の翼。

 

マジンガーZの冷却配管。

 

次々と銀色の粉が取り付いていく。

 

アストナージがνガンダムの整備記録を確認する。

 

「待て。サイコフレーム増設部分が分解されている!」

 

イアンも叫ぶ。

 

「エクシアの現地改修用補強材が消えている!」

 

マキナがVF-31を見上げる。

 

「ランドスピナー用の取り付け部がなくなってる!」

 

ヤンが答える。

 

「それは消えていい!」

 

「せっかく作ったのに!」

 

「作るなと言われていたでしょう!」

 

マジンガーZから、せわし博士の悲鳴が上がる。

 

「光子力ガトリング用の変換回路が消えた!」

 

榊が叫び返す。

 

「それも消えていい!」

 

「研究成果じゃぞ!」

 

「事故の残骸だ!」

 

銀色の粉は、初号機の足元へ到達した。

 

リツコの顔色が変わる。

 

「隔離して!」

 

床から伸びたナノマシンが、初号機の脚へ触れる。

 

初号機の紫色の装甲が、白く変色し始めた。

 

マヤが端末を見て叫ぶ。

 

「装甲材を再構成しています!」

 

リツコが画面を見る。

 

「設計情報を読み取れていない。別の機体として修復しようとしているわ!」

 

初号機の脚部が、∀ガンダムの装甲に似た白色へ変わっていく。

 

榊が呟く。

 

「他人の機体を、自分と同じ形に直しているのか」

 

シドが青ざめた。

 

「ナノマシン同士の通信範囲が拡大している。修復対象の基準が、∀ガンダム自身に固定されたのかもしれん」

 

キッドが目を輝かせる。

 

「じゃあ、このまま放っておけば全部ターンエーになるのか?」

 

「嬉しそうに言うな!」

 

リツコが緊急停止コードを入力する。

 

反応はない。

 

初号機の足元から、生体組織が装甲の隙間を押し広げた。

 

再生した肉がナノマシンを取り込み、紫色と白色の装甲が混ざり始める。

 

マヤの声が震える。

 

「初号機側の自己修復機能が、ナノマシンを組織の一部として利用しています」

 

シドが後ずさる。

 

「それは、まずい」

 

リツコが尋ねる。

 

「どの程度?」

 

「分からん」

 

「便利な言葉ね」

 

初号機の右肩から、∀ガンダムの髭に似た白い突起が生えた。

 

格納庫が静まり返る。

 

バサラが初号機を見上げる。

 

「似合わねえな」

 

「感想は求めていないわ」

 

さらに悪いことが起きた。

 

床の隅に置かれていた、脈打つ金属片。

 

ゲッターロボから剥がれ落ちた、分類不能部品。

 

銀色のナノマシンがそれを包み込んだ。

 

部品が大きく脈打つ。

 

シゲが後ずさる。

 

「札、食べた奴です」

 

金属片が膨張した。

 

銀色の粉と融合し、複数の小さな脚を生やして動き始める。

 

アストナージが叫ぶ。

 

「隔離しろ!」

 

動く部品は床を走り、部品棚へ飛び込んだ。

 

棚に積まれていた予備部品が、一斉に動き始める。

 

νガンダムの関節部品に、ゲッターのような翼が生える。

 

ランスロットの予備車輪が、足を生やして走り出す。

 

VF-25のガンポッドが、勝手にバトロイド形態へ変形しようとして折れた。

 

マキナが悲鳴を上げる。

 

「ガンポッドちゃん!」

 

ヤンが叫ぶ。

 

「ちゃん付けしている場合ではありません!」

 

榊は飛び回る部品を見ながら、静かに工具を手に取った。

 

大型の金槌だった。

 

「全部、叩き潰す」

 

シドが止める。

 

「待て! ナノマシンは衝撃を損傷と判断して、さらに増殖する!」

 

榊は金槌を下ろした。

 

「嫌な機体だ」

 

「最初に言ったでしょう!」

 

「私の直感が正しかったことを喜べん!」

 

レインが初号機とゲッター部品を交互に見ていた。

 

「自己修復同士が干渉している。ナノマシンは機械を、初号機は生体組織を、ゲッター線は進化を優先している」

 

リーロンが笑みを消す。

 

「三つの答えが、同じ物を奪い合っているのね」

 

「止める方法は?」

 

「修復する必要がない状態だと、認識させるしかない」

 

アストナージが言う。

 

「どうやって」

 

シドは∀ガンダムを見上げた。

 

「完全な設計情報を与える」

 

「全機体分か?」

 

「そうだ」

 

榊が予定表を見た。

 

数十機。

 

それぞれ違う技術体系。

 

設計図が存在しない機体もある。

 

機密指定された機体もある。

 

パイロット本人しか分からない機体もある。

 

「無理だ」

 

キッドが端末を掲げた。

 

「外見だけなら、三次元スキャンでいける!」

 

イアンが反論する。

 

「内部構造が分からん」

 

ウリバタケが工具箱を開く。

 

「分解して調べよう」

 

全員がウリバタケを見る。

 

「冗談だよ」

 

「顔が本気だったぞ」

 

レインが言う。

 

「完全な設計図でなくても、各整備システムの診断データを統合すれば、現在の正常状態を教えられるかもしれない」

 

ヤンが頷く。

 

「バルキリーの自己診断データを基準形式へ変換します」

 

イアンも端末を開く。

 

「ガンダムの整備履歴を出す」

 

リツコが言う。

 

「エヴァの生体情報は、機械系統とは分離して送るわ」

 

榊がシゲを見る。

 

「イングラムの最新改修記録を出せ」

 

「紙です」

 

「何?」

 

「最新の現場改修、班長が端末へ入力してません」

 

榊の顔が固まった。

 

「メモはある」

 

「どこです?」

 

「私の机だ」

 

「どの紙です?」

 

榊は答えなかった。

 

机には大量の書類が積まれていた。

 

アストナージが肩へ手を置く。

 

「後で整理しろ」

 

「今言うな」

 

整備員たちは一斉に動き出した。

 

各機体の診断データ。

 

改修履歴。

 

部品交換記録。

 

現場判断の補強。

 

パイロットが勝手に行った調整。

 

すべてが統合端末へ集められていく。

 

問題は、記録の形式がまったく違うことだった。

 

地球連邦軍形式。

 

新統合軍形式。

 

ネルフ独自形式。

 

ブリタニア軍形式。

 

特車二課の紙。

 

光子力研究所の手書き図面。

 

ゲッターチームの記憶。

 

リーロンが画面を見る。

 

「ゲッターの整備履歴、空白ね」

 

隼人が答える。

 

「動かなければ叩く。動けば出撃する」

 

「履歴とは呼べないわね」

 

「だが事実だ」

 

ウリバタケが変換プログラムを組む。

 

キッドが欠落部分を推測する。

 

ヤンが検証する。

 

イアンが怒鳴る。

 

ロイドが勝手に最適化する。

 

アストナージがロイドの変更を元へ戻す。

 

マキナが画面へ可愛い機体アイコンを追加する。

 

ヤンが削除する。

 

マキナがもう一度追加する。

 

その間にも、ナノマシンは修復を続けていた。

 

イングラムの左脚まで旧型へ戻った。

 

ランスロットの塗装が純白へ戻った。

 

マジンガーZの胸部へ、∀ガンダムの髭模様が浮かんだ。

 

初号機は肩だけ白くなった。

 

ゲッター部品は、机の下で小型の∀ガンダムらしき形へ成長していた。

 

バサラがそれを拾い上げる。

 

「こいつ、歌を聴いてるぜ」

 

小型の∀ガンダムが口のような部分を開いた。

 

甲高い音を発する。

 

リツコが端末を見る。

 

「歌ではないわ。自己診断信号よ」

 

「歌だ」

 

「違う」

 

「魂が乗ってる」

 

「乗っていない」

 

統合データが完成した。

 

シドが∀ガンダムへ送信する。

 

機体の目が光った。

 

銀色の粉の動きが止まる。

 

格納庫内に、長い沈黙が落ちた。

 

初号機の肩から白い装甲が剥がれ、元の紫色へ戻る。

 

イングラムの脚が、現場改修後の形へ再構成される。

 

ランスロットの追加スラスターが復元する。

 

マジンガーZの髭模様が消える。

 

飛び回っていた部品が床へ落ちる。

 

整備員たちから、安堵の息が漏れた。

 

榊は再生した一号機の膝を調べる。

 

「強化材も入っている」

 

シゲが笑った。

 

「これ、上手く使えば本当に便利ですね」

 

榊は膝関節を何度も動かした。

 

異音はない。

 

精度も高い。

 

現場で施した改修まで、完全に再現されている。

 

「……認めたくはないがな」

 

アストナージがνガンダムを確認する。

 

左腕は直っている。

 

増設したサイコフレームも元どおり。

 

イアンもエクシアの診断結果を見る。

 

「修復完了。誤差なし」

 

マキナが目を輝かせる。

 

「ナノマシンちゃん、正式採用しましょう!」

 

榊が即座に答える。

 

「却下だ」

 

「今、便利だって認めましたよね?」

 

「便利と安全は別だ」

 

シドが深く頷く。

 

「賢明だ」

 

その時、ロイドが端末を見ながら首を傾げた。

 

「一つ、問題がある」

 

全員が身構える。

 

「統合データの中に、登録されていない機体が一機ある」

 

画面に、小さな機体の設計情報が表示された。

 

∀ガンダムに似ている。

 

ゲッターロボにも似ている。

 

肩はエヴァンゲリオン。

 

脚にはランドスピナー。

 

背中にはフィン・ファンネル。

 

胸にはマジンガーZの放熱板。

 

頭部にはマクロス系の可変翼。

 

武装はガンポッド。

 

機体名称欄。

 

『自己修復試作機・分類不能』

 

榊がゆっくりと机の下を覗いた。

 

バサラが先ほど持っていた、小型の機体がいない。

 

格納庫の換気口が開いていた。

 

シゲが呟く。

 

「逃げましたね」

 

キッドの目が輝いた。

 

「探そう! あれ、絶対面白いぞ!」

 

榊がキッドの襟首を掴む。

 

「お前は動くな」

 

格納庫内へ、緊急放送が流れた。

 

『艦内通路にて、小型未確認機を発見。清掃ロボット三機を吸収し、現在も成長中』

 

全員が換気口を見る。

 

続報。

 

『未確認機、食堂へ侵入』

 

榊の顔色が変わった。

 

「食堂?」

 

ノーマンが静かに立ち上がる。

 

「厨房設備には、触れさせられません」

 

初めて、ノーマンの声に怒気が混じった。

 

さらに続報。

 

『未確認機、業務用炊飯器を取り込みました』

 

ノーマンが走り出した。

 

誰よりも速かった。

 

「炊飯器は、兵器の部品ではありません!」

 

整備責任者たちが後を追う。

 

キッドも榊の手を振りほどいて走る。

 

「炊飯器とゲッター線か! 何ができるんだろうな!」

 

「米だ!」

 

榊が叫ぶ。

 

「米以外を作るな!」

 

第三格納庫の予定表に、新たな項目が追加された。

 

小型未確認自己修復機。

 

修理担当、未定。

 

捕獲担当、全員。

 

備考。

 

自己修復機能を持つ機体を、同じ格納庫へ置いてはならない。

 

特に、ゲッター線と接触させないこと。

 

その下へ、アストナージが一文を書き足した。

 

ロイドに採取器を持たせないこと。

 

ロイドは不満そうに眺めた。

 

「僕だけ名指しかい?」

 

榊は赤いペンの蓋を閉じた。

 

「お前だけは、規則を現象ではなく人物で書いた方が早い」

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