第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記― 作:TETORU
第三格納庫・統合機体健康管理室。
開設二日目。
入口の看板には、すでに三枚の紙が追加されていた。
患者が合体する場合、構成機すべての受付を済ませること。
分離後に部品数が増減していないか確認すること。
診察室内で必殺技の口上を始めないこと。
榊清太郎は三枚目を貼り終え、椅子へ戻った。
「病院の注意書きではないな」
アストナージ・メドッソが受付端末を見ながら答える。
「患者がロボットの時点で諦めろ」
待合区画には、五台の小型戦闘機が並んでいた。
バトルジェット。
バトルクラッシャー。
バトルタンク。
バトルマリン。
バトルクラフト。
五台とも、それぞれ別の場所を損傷している。
バトルジェットは機首が焦げている。
バトルクラッシャーは左翼が歪んでいる。
バトルタンクは履帯が一部外れている。
バトルマリンは水漏れしている。
バトルクラフトは、なぜか車体後部へ巨大な岩が挟まっていた。
榊は受付表を見た。
「これで一機なのか」
四ッ谷博士が酒瓶を抱えたまま答える。
「合体すればコン・バトラーVじゃ」
「分離中は五機だろう」
「そうじゃ」
「整備記録は何冊だ」
「六冊じゃな」
榊が顔を上げる。
「なぜ増える」
「合体後にしか現れん異常があるからじゃ」
榊は受付表へ新しい欄を作った。
構成機一。
構成機二。
構成機三。
構成機四。
構成機五。
合体状態。
「病院で家族欄を増やすような気分だ」
五人のパイロットも並んでいた。
葵豹馬。
浪花十三。
西川大作。
南原ちずる。
北小介。
豹馬が机へ身を乗り出す。
「合体した時、右腕の反応が遅れるんだ」
十三が横から言う。
「お前の操作が乱暴なんや」
「俺のせいじゃねえ! 腕はお前のバトルクラッシャーだろ!」
「操縦してるんは合体後のお前や!」
大作が二人の間へ入る。
「まあまあ。喧嘩したらいかんたい」
ちずるが腕を組む。
「合体前の点検では異常がなかったのよ。だから、接続部分か制御同期の問題じゃないかしら」
小介はすでに端末を開いていた。
「合体後、右腕へ送られる制御信号が〇・〇三秒遅延しています。ただし、原因はまだ特定できません」
アストナージが小介の画面を覗き込む。
「機体側の記録は揃っているな」
「はい」
「パイロット側の操作記録は」
豹馬が胸を張った。
「気合いだ」
榊が受付表へ赤字を入れた。
参考にならず。
豹馬が叫ぶ。
「何でだよ!」
「単位のない報告は記録できん!」
格納庫中央では、五機の分解点検が始まった。
アストナージがバトルクラッシャーを担当する。
榊とシゲがバトルジェット。
イアン・ヴァスティがバトルマリン。
マキナ・中島とヤン・ノイマンがバトルクラフト。
レイン・ミカムラが五人のパイロットを診察していた。
豹馬が不満そうに尋ねる。
「俺たちも診るのか?」
「合体時の神経負荷を確認します」
「機体の故障だぜ?」
「ゴッドガンダムの件で学んだの。機体の異常とパイロットの異常を、最初から分けて考えない方がいいわ」
十三が豹馬を指さす。
「こいつの頭を診てもろた方がええで」
「お前から先にしてもらえ!」
レインが二人の額へ体温計を当てた。
「両方黙って」
二人は黙った。
少し離れた場所では、シゲがバトルジェットの操縦席を覗き込んでいる。
「操縦桿、ずいぶん強く握ってますねえ。指の跡みたいに変形してますよ」
豹馬が答えた。
「力を入れた方が、機体も応えてくれるんだ」
榊は変形した操縦桿を見た。
「応えているのではない。耐えている」
点検開始から三十分。
各構成機には、右腕の遅延を起こす異常が見つからなかった。
四ッ谷博士が酒を飲む。
「じゃから言ったじゃろう。合体後にしか出ん」
榊が大型整備架台を見上げる。
「合体状態で点検するしかないか」
豹馬が勢いよく立ち上がった。
「よし! レッツ・コンバインだ!」
「格納庫内でやるのか?」
「合体しないと分からないんだろ?」
「機体を固定して、低出力で行え」
五人が搭乗する。
構成機が所定位置へ移動した。
格納庫の警告灯が黄色へ変わる。
五機が順番に変形し、接続される。
バトルジェットが頭部。
バトルクラッシャーが胸部と腕。
バトルタンクが胴体。
バトルマリンが脚部。
バトルクラフトが足。
巨大な人型が、整備架台の中央に立ち上がった。
コン・バトラーV。
榊は全高を見上げた。
「合体するだけで、随分と偉そうになるな」
四ッ谷博士が笑う。
「強いからのう」
低出力試験が始まった。
右腕を上げる。
反応正常。
肘を曲げる。
正常。
指を開閉する。
正常。
豹馬の通信が入る。
『異常なしだぜ』
榊が答える。
「次は負荷を三十パーセントまで上げる」
右腕が動く。
正常。
五十パーセント。
正常。
七十パーセント。
右腕が、〇・〇三秒遅れた。
小介が叫ぶ。
『出ました!』
アストナージが記録を確認する。
「右肩の接続部で信号が一度分岐している」
十三が答える。
『わいの機体のせいやないで! 合体後の制御回路や!』
豹馬が言う。
『じゃあ、コン・バトラーのせいか』
榊が顔をしかめる。
「コン・バトラーという六人目を作るな」
ちずるが答えた。
『でも、合体後は一つの機体として動いています』
小介も続ける。
『五機の制御装置が連携し、新しい統合制御系を形成します。独立したシステムとして考える方が合理的です』
榊は受付表へ新しい欄を追加した。
構成機六。
合体後の人格または統合制御。
「冗談で増やした欄が、本当に必要になったぞ」
その時、格納庫入口から咆哮が響いた。
四台の獣戦機が運び込まれてくる。
イーグルファイター。
ランドライガー。
ランドクーガー。
ビッグモス。
獣戦機隊だった。
藤原忍がイーグルファイターから飛び降りる。
「おい! こっちも合体状態で調子が悪い!」
榊が天井を見上げた。
「一日に一組ずつ来い」
葉月考太郎博士が後から歩いてくる。
「ダンクーガは通常時には問題ない。だが、野生化状態から合体すると、出力制御が不安定になる」
アストナージが尋ねる。
「野生化状態とは」
忍が拳を握る。
「やってやるぜって感じだ!」
榊が受付表へ赤字を入れた。
参考にならず。
忍が机を叩いた。
「何でだ!」
豹馬がコックピットから笑う。
『お前も気合いで動かす側か!』
「誰だお前!」
『コン・バトラーVのメインパイロット、葵豹馬だ!』
「合体ロボの先輩面してんじゃねえ!」
『先に合体してるんだから先輩だろ!』
「年代で上下を決めるな!」
榊が通信を切った。
「格納庫の回線を、喧嘩に使うな」
獣戦機隊の四人も受付へ並ぶ。
藤原忍。
結城沙羅。
司馬亮。
式部雅人。
レインが問診を始めた。
「合体時に、身体的な違和感は?」
忍が答える。
「熱くなる」
沙羅が答える。
「腹が立つ」
亮が答える。
「集中する」
雅人が答える。
「テンションが上がる」
レインは記録した。
身体反応。
忍、熱感。
沙羅、交感神経亢進。
亮、集中状態。
雅人、軽躁傾向。
雅人が画面を覗く。
「俺だけ病名っぽくない?」
「医学的に書いた結果よ」
ダンクーガの分離点検も始まった。
ビッグモスの脚部には大量の泥。
ランドライガーの爪には敵装甲。
ランドクーガーの吸気口には樹木の枝。
イーグルファイターの翼には焦げ跡。
シゲが泥を見た。
「どこを走ってきたんです?」
雅人が答える。
「森」
「ロボットで森へ入るなとは言いませんけど、木を一本持って帰らないでくださいよ」
ランドクーガーの吸気口から、鳥の巣が出てきた。
中には卵が三つあった。
格納庫が静かになった。
雅人が言う。
「これは俺のせいじゃないよな?」
榊は鳥の巣をノーマンへ渡した。
「保護しろ」
「承知いたしました」
コメタケタが近づく。
「タマゴ?」
ノーマンはコメタケタを遠ざけた。
「炊きません」
獣戦機の点検中、さらに搬入警報が鳴った。
三機のベクターマシンが格納庫へ入ってくる。
ベクターソル。
ベクターマーズ。
ベクタールナ。
その後ろから、ソフィア・ブランが大量の診断資料を抱えて現れた。
「アクエリオンも、合体状態でしか確認できない異常があります」
榊は受付端末を閉じた。
「今日は合体禁止日にする」
ソフィアは困ったように微笑む。
「そうすると診断できません」
アポロがベクターソルから飛び降りた。
「腹が減った!」
榊が指さす。
「食堂は向こうだ」
アポロは鼻を動かした。
「米の匂いがする」
コメタケタの目が光る。
「コメ、タケタ」
アポロがコメタケタへ近づく。
「お前、いい匂いするな」
コメタケタが後ずさる。
ノーマンが二人の間へ入った。
「食べられる部分と食べられない部分を区別してください」
シルヴィア・ド・アリシアがアポロの耳を引っ張った。
「来て早々、炊飯器を口説かないで!」
「口説いてねえ! 食えるか見てただけだ!」
「もっと悪いわよ!」
シリウスが優雅に機体から降りる。
「品性というものがないのか」
アポロが振り返る。
「お前は匂いが薄い」
「何の評価だ!」
ソフィアが榊へ診断結果を見せた。
「アクエリオンは三機の組み合わせと搭乗者の位置によって、形態と性能が変化します」
榊は資料を見る。
ソーラーアクエリオン。
アクエリオンマーズ。
アクエリオンルナ。
その他、複数形態。
搭乗者の組み合わせによる出力変動。
感情状態による同期率変動。
過去生への反応。
榊は資料を閉じた。
「故障診断に、前世を持ち込むな」
ソフィアが答える。
「持ち込みたくて持ち込んでいるわけではありません」
「現場はいつもそう言う」
アクエリオンの症状は、さらに面倒だった。
ソーラー形態では、左脚が遅れる。
マーズ形態では、右腕が震える。
ルナ形態では、異常が消える代わりに、搭乗者全員の心拍数が上昇する。
榊が最後の記録を見た。
「機体故障か?」
ソフィアは少し言いにくそうに答える。
「合体感覚による反応です」
「何だ、それは」
アポロが言う。
「気持ちいいんだ」
格納庫が静かになった。
シルヴィアが顔を赤くする。
「言い方を選びなさいよ!」
シリウスが目を閉じる。
「下品だ」
アポロが反論する。
「本当のことだろ!」
榊は受付表へ記入した。
症状説明はソフィアを通すこと。
アストナージが覗き込む。
「賢明だ」
三組の合体ロボットが同じ格納庫へ集まった。
コン・バトラーV。
ダンクーガ。
アクエリオン。
整備責任者たちは、合同診断を行うことにした。
理由は単純だった。
一組ずつ合体させている時間がなかった。
格納庫を三つの区画へ分ける。
第一試験区画、コン・バトラーV。
第二試験区画、ダンクーガ。
第三試験区画、アクエリオン。
榊が全員へ通達する。
「合体開始は、管制室の許可を得てから行う」
豹馬が通信で答える。
『了解!』
忍も答える。
『さっさと始めようぜ!』
アポロは食堂へ行こうとして、シルヴィアに引き戻された。
格納庫内の全整備員が退避する。
固定具を確認。
出力制限を確認。
緊急停止装置を確認。
榊が管制席へ座った。
「第一試験区画、合体準備」
コン・バトラーチームが応答する。
「第二試験区画、待機」
忍が不満そうに言う。
『何であいつらが先なんだ』
「受付順だ」
『戦場で順番なんか待てるか!』
「ここは病院だ!」
「第三試験区画、待機」
アポロが尋ねる。
『いつ合体するんだ?』
「待てと言っている」
榊は第一試験区画のマイクを開いた。
「合体開始」
豹馬が叫ぶ。
『レッツ・コンバイン!』
その声が、格納庫全体へ響いた。
問題は、マイクの接続先だった。
第一試験区画だけではなく、全館放送へ切り替わっていた。
ダンクーガの制御系が、合体指令を検知する。
忍が反応した。
「俺たちも行くぞ!」
葉月博士が叫ぶ。
「待て! まだ許可は出ていない!」
アクエリオン側でも、アポロが立ち上がる。
「合体だ!」
ソフィアが止める。
「今の指令は、あなたたちに向けたものではありません!」
「合体って聞こえたぞ!」
「条件反射で動かないで!」
三組が、同時に合体を開始した。
格納庫の天井から警報が鳴る。
コン・バトラーの構成機が上昇。
獣戦機が変形。
ベクターマシンが軌道へ入る。
三組の合体経路が、一部重なっていた。
ヤンが管制画面を見て叫ぶ。
「衝突します!」
榊が緊急停止ボタンを押す。
反応しない。
アストナージが画面を見る。
「各機の安全装置が、パイロット操作で解除されている!」
榊が通信を開く。
「全員、合体を中止しろ!」
豹馬が答える。
『ここまで来たら止められない!』
忍も叫ぶ。
『勢いを殺すな!』
アポロが笑う。
『面白くなってきた!』
榊は通信機を握り潰しかけた。
「合体ロボのパイロットは、途中で止まるという発想がないのか!」
三組の構成機が格納庫中央で交差する。
バトルジェットがイーグルファイターの上を通過。
ランドライガーがベクターマーズを回避。
バトルマリンの翼がベクタールナへ接触しかける。
マキナが管制画面を見ながら目を輝かせた。
「すごい! 別作品同士で合体経路を共有しています!」
ヤンが叫ぶ。
「感動している場合ですか!」
ロイドは映像を記録していた。
「組み合わせを変えたら、新しい機体になるかもしれない」
榊が振り返る。
「口に出すな! パイロットが聞く!」
遅かった。
忍が通信で言う。
『別の奴と合体できるのか?』
豹馬も反応する。
『俺たちの方が腕になるぞ!』
アポロが叫ぶ。
『誰でもいい! 合体だ!』
ソフィアが顔を覆った。
「言葉を選んで!」
三組の接続システムが、互いを構成機と誤認し始めた。
コン・バトラーの胸部接続口が、ランドライガーを捕捉。
ダンクーガの脚部固定装置が、バトルクラフトへ接近。
アクエリオンのエレメントシステムが、周囲すべてのパイロットへ精神同期を試みる。
管制室にいた榊の頭へ、突然声が流れ込んだ。
腹が減った。
負けたくない。
やってやる。
右腕が遅い。
誰か米を炊いている。
榊は頭を押さえた。
「何だ、これは!」
ソフィアが端末を確認する。
「エレメントシステムが、格納庫内の人間まで搭乗候補として認識しています!」
アストナージも顔をしかめる。
「アムロのサイコミュより無遠慮だぞ!」
イアンは耳を塞ぐ。
「刹那のガンダムへの執着まで流れ込んでくる!」
格納庫の隅にいた刹那が顔を上げる。
「ガンダムではない機体が、ガンダムになろうとしている」
「今は黙っていろ!」
榊が叫ぶ。
合体経路は、あと十秒で完全に交差する。
リーロンが冷静に画面を見ていた。
「一度、全部の合体信号を同じ周期に合わせたらどうかしら」
榊が振り返る。
「どうなる」
「少なくとも、衝突は避けられる」
「その後は」
「分からないわ」
「この格納庫の技術者は、なぜ最後の一言を軽く言う!」
だが、他に方法はない。
リーロン、ロイド、ヤン、小介が制御系へ接続する。
三種類の合体信号。
機械式接続。
獣戦機統合制御。
エレメント精神同期。
まったく異なる信号を、強引に同じタイミングへ合わせる。
小介が叫ぶ。
『同期率、七十パーセント!』
ヤンが答える。
「八十二!」
ロイドが勝手に補正する。
「九十六」
リーロンが笑う。
「あと少しね」
榊が叫ぶ。
「百にするな! 接触を避けられれば十分だ!」
ロイドが首を傾げる。
「技術者として、九十六で止めるのは気持ちが悪い」
「お前の気持ちを整備基準にするな!」
同期率、百パーセント。
三組の合体軌道が、一瞬だけ完全に揃った。
格納庫全体が光に包まれる。
激しい風。
金属音。
パイロットたちの叫び。
そして、沈黙。
煙が晴れた。
格納庫中央には、三機の合体ロボットが立っていた。
コン・バトラーV。
ダンクーガ。
ソーラーアクエリオン。
外見上、異常はない。
榊は安堵した。
「成功したのか」
小介が診断画面を見る。
「構成部品に異常なし!」
葉月博士も答える。
「ダンクーガ、正常!」
ソフィアがエレメント反応を確認する。
「アクエリオンも問題ありません!」
整備員たちから歓声が上がった。
その時。
コン・バトラーVが、両腕を獣のように広げた。
豹馬の声ではない。
忍の声が響く。
『やってやるぜ!』
ダンクーガが優雅に片手を掲げる。
シリウスの声が響く。
『この姿、実に美しい』
ソーラーアクエリオンが腰へ手を当てた。
十三の声が響く。
『なんでやねん!』
格納庫が静まり返った。
榊が管制画面を見る。
「機体は合っている」
アストナージが答える。
「パイロットが混ざっている」
合体信号の同期により、搭乗者転送経路まで一時的に接続されていた。
コン・バトラーV。
頭部、忍。
胸部、ちずる。
胴体、亮。
脚部、アポロ。
足部、小介。
ダンクーガ。
イーグル、シリウス。
ランドライガー、十三。
ランドクーガ、雅人。
ビッグモス、大作。
アクエリオン。
ヘッド、豹馬。
胴体、沙羅。
脚部、シルヴィア。
本来の組み合わせは、跡形もなかった。
四ッ谷博士が酒瓶を落とした。
「どうして、そうなる」
ロイドが楽しそうに答える。
「合体信号を統一したからじゃないかな」
榊がロイドの襟首を掴んだ。
「他人事のように言うな!」
コン・バトラーVの中で、忍が操作する。
『こいつ、思ったより素直に動くな!』
ちずるが叫ぶ。
『勝手に動かさないで!』
アポロは脚部を動かす。
『腹が減った! 食堂へ行こうぜ!』
小介が止める。
『全高五十メートルを超える機体で、食堂へ行かないでください!』
コン・バトラーVが、一歩踏み出した。
床が沈んだ。
榊が叫ぶ。
「動くな!」
ダンクーガでは、シリウスが姿勢を確認していた。
『獣の姿にしては、悪くない』
十三が答える。
『人の機体を品評すな!』
大作はビッグモスの操縦席で感動していた。
『広か操縦席たい!』
雅人が笑う。
『気に入ったなら交換する?』
葉月博士が叫ぶ。
「しない!」
アクエリオンでは、豹馬と沙羅が操縦権を争っていた。
『俺がメインだ!』
『知らないわよ! この機体、勝手に考えが流れ込んでくる!』
シルヴィアが叫ぶ。
『二人とも動かさないで! 脚が私なのよ!』
豹馬が拳を握る。
『試しに一発――』
榊が全回線へ怒鳴った。
「必殺技は禁止だ!」
三機が同時に止まった。
整備班は、パイロットを元へ戻す作業へ入った。
問題は、分離操作にも搭乗者の意思統一が必要なことだった。
コン・バトラーVでは、忍とアポロが分離を拒否。
理由。
面白いから。
ダンクーガでは、シリウスが操縦系統の美しさを分析し始める。
理由。
興味深いから。
アクエリオンでは、豹馬が必殺技を一つ試すまで降りないと言い張った。
理由。
せっかくだから。
榊は管制室で呟いた。
「パイロットを交換しても、問題を起こす種類は変わらんな」
アストナージが答える。
「機体ではなく、人選の問題だ」
レインが全搭乗者の精神状態を確認する。
「強制分離は危険です。まず、全員を落ち着かせないと」
ソフィアが言う。
「エレメントシステムを通じて、全員の感情が増幅されています」
榊が尋ねる。
「落ち着かせる方法は」
ノーマンが静かに答えた。
「食事でしょう」
全員がノーマンを見る。
「アポロ氏をはじめ、複数名が空腹を訴えています。空腹は判断力を低下させます」
コメタケタが蓋を開く。
「コメ、タケタ」
格納庫の中央に、巨大な炊飯用コンテナが運び込まれた。
コメタケタが炊いた米。
ノーマンが用意したカレー。
香りが格納庫へ広がる。
アポロが最初に反応した。
『降りる!』
忍が叫ぶ。
『お前、さっきまで面白がってただろ!』
『飯の方が大事だ!』
コン・バトラーVが即座に分離を開始した。
他の二機も続く。
パイロットたちは元の構成機へ戻り、格納庫の床へ降りた。
アポロは誰よりも早く食堂へ走った。
忍も後を追う。
豹馬が負けじと走る。
シルヴィアが叫ぶ。
「まず検査を受けなさい!」
誰も止まらなかった。
レインは診察表へ書いた。
合体事故からの回復確認前に、食事へ行かせないこと。
その日の夜。
整備責任者会議が開かれた。
議題。
合同格納庫における合体機構の安全運用。
新規則が読み上げられる。
第一条。
合体試験は、一度に一組だけ行う。
第二条。
合体命令は、専用回線で送信する。
第三条。
「合体」という単語を、全館放送で使用しない。
第四条。
他作品の合体信号と同期させない。
第五条。
搭乗者の混在を確認した場合、必殺技を試す前に分離する。
第六条。
分離を拒否した場合、食事による誘導を認める。
アストナージが第六条を見る。
「機体安全規則に食事を書く日が来るとはな」
ノーマンが答える。
「人間は空腹には勝てません」
隼人が壁際から言う。
「ゲッターチームには効かんぞ」
榊が尋ねる。
「お前たちは何なら止まる」
「止まる必要があるのか?」
「規則の対象外にする」
第七条。
ゲッターロボは、他の合体試験中に格納庫へ入れない。
隼人は何も言わなかった。
反対しない時点で、全員が危険性を理解した。
会議終了後。
榊は整備予定表へ、新しい分類を追加した。
単独機。
変形機。
人格機。
生体機。
合体機。
複数合体形態機。
搭乗者入れ替え可能合体機。
合体後に人格または制御系が変化する機体。
合体信号を聞くと勝手に反応する機体。
分類不能。
シゲが一覧を見上げた。
「合体機だけで、随分増えましたねえ」
榊は赤いペンを置いた。
「合体とは、複数の問題を一つにまとめる技術ではない」
「では、何です?」
格納庫の奥では、コン・バトラー、ダンクーガ、アクエリオンの整備員が、それぞれの構成機を数えていた。
分離前と分離後で、部品数が合わない。
どこかの機体に、別の作品の接続ピンが一本残っているらしい。
榊は長く息を吐いた。
「複数の問題が、一つになったふりをする技術だ」
コメタケタが炊き上がり音を鳴らす。
「コメ、タケタ」
格納庫の全員が、作業を止めて食堂へ向かった。
合体ロボットは分離できる。
整備員の疲労は、そう簡単には分離できなかった。