第三格納庫は今日も修羅場 ―スーパーロボット大戦・整備班奮闘記―   作:TETORU

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『合体した後で誰のせいか決めろ』

第三格納庫・統合機体健康管理室。

 

開設二日目。

 

入口の看板には、すでに三枚の紙が追加されていた。

 

患者が合体する場合、構成機すべての受付を済ませること。

 

分離後に部品数が増減していないか確認すること。

 

診察室内で必殺技の口上を始めないこと。

 

榊清太郎は三枚目を貼り終え、椅子へ戻った。

 

「病院の注意書きではないな」

 

アストナージ・メドッソが受付端末を見ながら答える。

 

「患者がロボットの時点で諦めろ」

 

待合区画には、五台の小型戦闘機が並んでいた。

 

バトルジェット。

 

バトルクラッシャー。

 

バトルタンク。

 

バトルマリン。

 

バトルクラフト。

 

五台とも、それぞれ別の場所を損傷している。

 

バトルジェットは機首が焦げている。

 

バトルクラッシャーは左翼が歪んでいる。

 

バトルタンクは履帯が一部外れている。

 

バトルマリンは水漏れしている。

 

バトルクラフトは、なぜか車体後部へ巨大な岩が挟まっていた。

 

榊は受付表を見た。

 

「これで一機なのか」

 

四ッ谷博士が酒瓶を抱えたまま答える。

 

「合体すればコン・バトラーVじゃ」

 

「分離中は五機だろう」

 

「そうじゃ」

 

「整備記録は何冊だ」

 

「六冊じゃな」

 

榊が顔を上げる。

 

「なぜ増える」

 

「合体後にしか現れん異常があるからじゃ」

 

榊は受付表へ新しい欄を作った。

 

構成機一。

 

構成機二。

 

構成機三。

 

構成機四。

 

構成機五。

 

合体状態。

 

「病院で家族欄を増やすような気分だ」

 

五人のパイロットも並んでいた。

 

葵豹馬。

 

浪花十三。

 

西川大作。

 

南原ちずる。

 

北小介。

 

豹馬が机へ身を乗り出す。

 

「合体した時、右腕の反応が遅れるんだ」

 

十三が横から言う。

 

「お前の操作が乱暴なんや」

 

「俺のせいじゃねえ! 腕はお前のバトルクラッシャーだろ!」

 

「操縦してるんは合体後のお前や!」

 

大作が二人の間へ入る。

 

「まあまあ。喧嘩したらいかんたい」

 

ちずるが腕を組む。

 

「合体前の点検では異常がなかったのよ。だから、接続部分か制御同期の問題じゃないかしら」

 

小介はすでに端末を開いていた。

 

「合体後、右腕へ送られる制御信号が〇・〇三秒遅延しています。ただし、原因はまだ特定できません」

 

アストナージが小介の画面を覗き込む。

 

「機体側の記録は揃っているな」

 

「はい」

 

「パイロット側の操作記録は」

 

豹馬が胸を張った。

 

「気合いだ」

 

榊が受付表へ赤字を入れた。

 

参考にならず。

 

豹馬が叫ぶ。

 

「何でだよ!」

 

「単位のない報告は記録できん!」

 

格納庫中央では、五機の分解点検が始まった。

 

アストナージがバトルクラッシャーを担当する。

 

榊とシゲがバトルジェット。

 

イアン・ヴァスティがバトルマリン。

 

マキナ・中島とヤン・ノイマンがバトルクラフト。

 

レイン・ミカムラが五人のパイロットを診察していた。

 

豹馬が不満そうに尋ねる。

 

「俺たちも診るのか?」

 

「合体時の神経負荷を確認します」

 

「機体の故障だぜ?」

 

「ゴッドガンダムの件で学んだの。機体の異常とパイロットの異常を、最初から分けて考えない方がいいわ」

 

十三が豹馬を指さす。

 

「こいつの頭を診てもろた方がええで」

 

「お前から先にしてもらえ!」

 

レインが二人の額へ体温計を当てた。

 

「両方黙って」

 

二人は黙った。

 

少し離れた場所では、シゲがバトルジェットの操縦席を覗き込んでいる。

 

「操縦桿、ずいぶん強く握ってますねえ。指の跡みたいに変形してますよ」

 

豹馬が答えた。

 

「力を入れた方が、機体も応えてくれるんだ」

 

榊は変形した操縦桿を見た。

 

「応えているのではない。耐えている」

 

点検開始から三十分。

 

各構成機には、右腕の遅延を起こす異常が見つからなかった。

 

四ッ谷博士が酒を飲む。

 

「じゃから言ったじゃろう。合体後にしか出ん」

 

榊が大型整備架台を見上げる。

 

「合体状態で点検するしかないか」

 

豹馬が勢いよく立ち上がった。

 

「よし! レッツ・コンバインだ!」

 

「格納庫内でやるのか?」

 

「合体しないと分からないんだろ?」

 

「機体を固定して、低出力で行え」

 

五人が搭乗する。

 

構成機が所定位置へ移動した。

 

格納庫の警告灯が黄色へ変わる。

 

五機が順番に変形し、接続される。

 

バトルジェットが頭部。

 

バトルクラッシャーが胸部と腕。

 

バトルタンクが胴体。

 

バトルマリンが脚部。

 

バトルクラフトが足。

 

巨大な人型が、整備架台の中央に立ち上がった。

 

コン・バトラーV。

 

榊は全高を見上げた。

 

「合体するだけで、随分と偉そうになるな」

 

四ッ谷博士が笑う。

 

「強いからのう」

 

低出力試験が始まった。

 

右腕を上げる。

 

反応正常。

 

肘を曲げる。

 

正常。

 

指を開閉する。

 

正常。

 

豹馬の通信が入る。

 

『異常なしだぜ』

 

榊が答える。

 

「次は負荷を三十パーセントまで上げる」

 

右腕が動く。

 

正常。

 

五十パーセント。

 

正常。

 

七十パーセント。

 

右腕が、〇・〇三秒遅れた。

 

小介が叫ぶ。

 

『出ました!』

 

アストナージが記録を確認する。

 

「右肩の接続部で信号が一度分岐している」

 

十三が答える。

 

『わいの機体のせいやないで! 合体後の制御回路や!』

 

豹馬が言う。

 

『じゃあ、コン・バトラーのせいか』

 

榊が顔をしかめる。

 

「コン・バトラーという六人目を作るな」

 

ちずるが答えた。

 

『でも、合体後は一つの機体として動いています』

 

小介も続ける。

 

『五機の制御装置が連携し、新しい統合制御系を形成します。独立したシステムとして考える方が合理的です』

 

榊は受付表へ新しい欄を追加した。

 

構成機六。

 

合体後の人格または統合制御。

 

「冗談で増やした欄が、本当に必要になったぞ」

 

その時、格納庫入口から咆哮が響いた。

 

四台の獣戦機が運び込まれてくる。

 

イーグルファイター。

 

ランドライガー。

 

ランドクーガー。

 

ビッグモス。

 

獣戦機隊だった。

 

藤原忍がイーグルファイターから飛び降りる。

 

「おい! こっちも合体状態で調子が悪い!」

 

榊が天井を見上げた。

 

「一日に一組ずつ来い」

 

葉月考太郎博士が後から歩いてくる。

 

「ダンクーガは通常時には問題ない。だが、野生化状態から合体すると、出力制御が不安定になる」

 

アストナージが尋ねる。

 

「野生化状態とは」

 

忍が拳を握る。

 

「やってやるぜって感じだ!」

 

榊が受付表へ赤字を入れた。

 

参考にならず。

 

忍が机を叩いた。

 

「何でだ!」

 

豹馬がコックピットから笑う。

 

『お前も気合いで動かす側か!』

 

「誰だお前!」

 

『コン・バトラーVのメインパイロット、葵豹馬だ!』

 

「合体ロボの先輩面してんじゃねえ!」

 

『先に合体してるんだから先輩だろ!』

 

「年代で上下を決めるな!」

 

榊が通信を切った。

 

「格納庫の回線を、喧嘩に使うな」

 

獣戦機隊の四人も受付へ並ぶ。

 

藤原忍。

 

結城沙羅。

 

司馬亮。

 

式部雅人。

 

レインが問診を始めた。

 

「合体時に、身体的な違和感は?」

 

忍が答える。

 

「熱くなる」

 

沙羅が答える。

 

「腹が立つ」

 

亮が答える。

 

「集中する」

 

雅人が答える。

 

「テンションが上がる」

 

レインは記録した。

 

身体反応。

 

忍、熱感。

 

沙羅、交感神経亢進。

 

亮、集中状態。

 

雅人、軽躁傾向。

 

雅人が画面を覗く。

 

「俺だけ病名っぽくない?」

 

「医学的に書いた結果よ」

 

ダンクーガの分離点検も始まった。

 

ビッグモスの脚部には大量の泥。

 

ランドライガーの爪には敵装甲。

 

ランドクーガーの吸気口には樹木の枝。

 

イーグルファイターの翼には焦げ跡。

 

シゲが泥を見た。

 

「どこを走ってきたんです?」

 

雅人が答える。

 

「森」

 

「ロボットで森へ入るなとは言いませんけど、木を一本持って帰らないでくださいよ」

 

ランドクーガーの吸気口から、鳥の巣が出てきた。

 

中には卵が三つあった。

 

格納庫が静かになった。

 

雅人が言う。

 

「これは俺のせいじゃないよな?」

 

榊は鳥の巣をノーマンへ渡した。

 

「保護しろ」

 

「承知いたしました」

 

コメタケタが近づく。

 

「タマゴ?」

 

ノーマンはコメタケタを遠ざけた。

 

「炊きません」

 

獣戦機の点検中、さらに搬入警報が鳴った。

 

三機のベクターマシンが格納庫へ入ってくる。

 

ベクターソル。

 

ベクターマーズ。

 

ベクタールナ。

 

その後ろから、ソフィア・ブランが大量の診断資料を抱えて現れた。

 

「アクエリオンも、合体状態でしか確認できない異常があります」

 

榊は受付端末を閉じた。

 

「今日は合体禁止日にする」

 

ソフィアは困ったように微笑む。

 

「そうすると診断できません」

 

アポロがベクターソルから飛び降りた。

 

「腹が減った!」

 

榊が指さす。

 

「食堂は向こうだ」

 

アポロは鼻を動かした。

 

「米の匂いがする」

 

コメタケタの目が光る。

 

「コメ、タケタ」

 

アポロがコメタケタへ近づく。

 

「お前、いい匂いするな」

 

コメタケタが後ずさる。

 

ノーマンが二人の間へ入った。

 

「食べられる部分と食べられない部分を区別してください」

 

シルヴィア・ド・アリシアがアポロの耳を引っ張った。

 

「来て早々、炊飯器を口説かないで!」

 

「口説いてねえ! 食えるか見てただけだ!」

 

「もっと悪いわよ!」

 

シリウスが優雅に機体から降りる。

 

「品性というものがないのか」

 

アポロが振り返る。

 

「お前は匂いが薄い」

 

「何の評価だ!」

 

ソフィアが榊へ診断結果を見せた。

 

「アクエリオンは三機の組み合わせと搭乗者の位置によって、形態と性能が変化します」

 

榊は資料を見る。

 

ソーラーアクエリオン。

 

アクエリオンマーズ。

 

アクエリオンルナ。

 

その他、複数形態。

 

搭乗者の組み合わせによる出力変動。

 

感情状態による同期率変動。

 

過去生への反応。

 

榊は資料を閉じた。

 

「故障診断に、前世を持ち込むな」

 

ソフィアが答える。

 

「持ち込みたくて持ち込んでいるわけではありません」

 

「現場はいつもそう言う」

 

アクエリオンの症状は、さらに面倒だった。

 

ソーラー形態では、左脚が遅れる。

 

マーズ形態では、右腕が震える。

 

ルナ形態では、異常が消える代わりに、搭乗者全員の心拍数が上昇する。

 

榊が最後の記録を見た。

 

「機体故障か?」

 

ソフィアは少し言いにくそうに答える。

 

「合体感覚による反応です」

 

「何だ、それは」

 

アポロが言う。

 

「気持ちいいんだ」

 

格納庫が静かになった。

 

シルヴィアが顔を赤くする。

 

「言い方を選びなさいよ!」

 

シリウスが目を閉じる。

 

「下品だ」

 

アポロが反論する。

 

「本当のことだろ!」

 

榊は受付表へ記入した。

 

症状説明はソフィアを通すこと。

 

アストナージが覗き込む。

 

「賢明だ」

 

三組の合体ロボットが同じ格納庫へ集まった。

 

コン・バトラーV。

 

ダンクーガ。

 

アクエリオン。

 

整備責任者たちは、合同診断を行うことにした。

 

理由は単純だった。

 

一組ずつ合体させている時間がなかった。

 

格納庫を三つの区画へ分ける。

 

第一試験区画、コン・バトラーV。

 

第二試験区画、ダンクーガ。

 

第三試験区画、アクエリオン。

 

榊が全員へ通達する。

 

「合体開始は、管制室の許可を得てから行う」

 

豹馬が通信で答える。

 

『了解!』

 

忍も答える。

 

『さっさと始めようぜ!』

 

アポロは食堂へ行こうとして、シルヴィアに引き戻された。

 

格納庫内の全整備員が退避する。

 

固定具を確認。

 

出力制限を確認。

 

緊急停止装置を確認。

 

榊が管制席へ座った。

 

「第一試験区画、合体準備」

 

コン・バトラーチームが応答する。

 

「第二試験区画、待機」

 

忍が不満そうに言う。

 

『何であいつらが先なんだ』

 

「受付順だ」

 

『戦場で順番なんか待てるか!』

 

「ここは病院だ!」

 

「第三試験区画、待機」

 

アポロが尋ねる。

 

『いつ合体するんだ?』

 

「待てと言っている」

 

榊は第一試験区画のマイクを開いた。

 

「合体開始」

 

豹馬が叫ぶ。

 

『レッツ・コンバイン!』

 

その声が、格納庫全体へ響いた。

 

問題は、マイクの接続先だった。

 

第一試験区画だけではなく、全館放送へ切り替わっていた。

 

ダンクーガの制御系が、合体指令を検知する。

 

忍が反応した。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

葉月博士が叫ぶ。

 

「待て! まだ許可は出ていない!」

 

アクエリオン側でも、アポロが立ち上がる。

 

「合体だ!」

 

ソフィアが止める。

 

「今の指令は、あなたたちに向けたものではありません!」

 

「合体って聞こえたぞ!」

 

「条件反射で動かないで!」

 

三組が、同時に合体を開始した。

 

格納庫の天井から警報が鳴る。

 

コン・バトラーの構成機が上昇。

 

獣戦機が変形。

 

ベクターマシンが軌道へ入る。

 

三組の合体経路が、一部重なっていた。

 

ヤンが管制画面を見て叫ぶ。

 

「衝突します!」

 

榊が緊急停止ボタンを押す。

 

反応しない。

 

アストナージが画面を見る。

 

「各機の安全装置が、パイロット操作で解除されている!」

 

榊が通信を開く。

 

「全員、合体を中止しろ!」

 

豹馬が答える。

 

『ここまで来たら止められない!』

 

忍も叫ぶ。

 

『勢いを殺すな!』

 

アポロが笑う。

 

『面白くなってきた!』

 

榊は通信機を握り潰しかけた。

 

「合体ロボのパイロットは、途中で止まるという発想がないのか!」

 

三組の構成機が格納庫中央で交差する。

 

バトルジェットがイーグルファイターの上を通過。

 

ランドライガーがベクターマーズを回避。

 

バトルマリンの翼がベクタールナへ接触しかける。

 

マキナが管制画面を見ながら目を輝かせた。

 

「すごい! 別作品同士で合体経路を共有しています!」

 

ヤンが叫ぶ。

 

「感動している場合ですか!」

 

ロイドは映像を記録していた。

 

「組み合わせを変えたら、新しい機体になるかもしれない」

 

榊が振り返る。

 

「口に出すな! パイロットが聞く!」

 

遅かった。

 

忍が通信で言う。

 

『別の奴と合体できるのか?』

 

豹馬も反応する。

 

『俺たちの方が腕になるぞ!』

 

アポロが叫ぶ。

 

『誰でもいい! 合体だ!』

 

ソフィアが顔を覆った。

 

「言葉を選んで!」

 

三組の接続システムが、互いを構成機と誤認し始めた。

 

コン・バトラーの胸部接続口が、ランドライガーを捕捉。

 

ダンクーガの脚部固定装置が、バトルクラフトへ接近。

 

アクエリオンのエレメントシステムが、周囲すべてのパイロットへ精神同期を試みる。

 

管制室にいた榊の頭へ、突然声が流れ込んだ。

 

腹が減った。

 

負けたくない。

 

やってやる。

 

右腕が遅い。

 

誰か米を炊いている。

 

榊は頭を押さえた。

 

「何だ、これは!」

 

ソフィアが端末を確認する。

 

「エレメントシステムが、格納庫内の人間まで搭乗候補として認識しています!」

 

アストナージも顔をしかめる。

 

「アムロのサイコミュより無遠慮だぞ!」

 

イアンは耳を塞ぐ。

 

「刹那のガンダムへの執着まで流れ込んでくる!」

 

格納庫の隅にいた刹那が顔を上げる。

 

「ガンダムではない機体が、ガンダムになろうとしている」

 

「今は黙っていろ!」

 

榊が叫ぶ。

 

合体経路は、あと十秒で完全に交差する。

 

リーロンが冷静に画面を見ていた。

 

「一度、全部の合体信号を同じ周期に合わせたらどうかしら」

 

榊が振り返る。

 

「どうなる」

 

「少なくとも、衝突は避けられる」

 

「その後は」

 

「分からないわ」

 

「この格納庫の技術者は、なぜ最後の一言を軽く言う!」

 

だが、他に方法はない。

 

リーロン、ロイド、ヤン、小介が制御系へ接続する。

 

三種類の合体信号。

 

機械式接続。

 

獣戦機統合制御。

 

エレメント精神同期。

 

まったく異なる信号を、強引に同じタイミングへ合わせる。

 

小介が叫ぶ。

 

『同期率、七十パーセント!』

 

ヤンが答える。

 

「八十二!」

 

ロイドが勝手に補正する。

 

「九十六」

 

リーロンが笑う。

 

「あと少しね」

 

榊が叫ぶ。

 

「百にするな! 接触を避けられれば十分だ!」

 

ロイドが首を傾げる。

 

「技術者として、九十六で止めるのは気持ちが悪い」

 

「お前の気持ちを整備基準にするな!」

 

同期率、百パーセント。

 

三組の合体軌道が、一瞬だけ完全に揃った。

 

格納庫全体が光に包まれる。

 

激しい風。

 

金属音。

 

パイロットたちの叫び。

 

そして、沈黙。

 

煙が晴れた。

 

格納庫中央には、三機の合体ロボットが立っていた。

 

コン・バトラーV。

 

ダンクーガ。

 

ソーラーアクエリオン。

 

外見上、異常はない。

 

榊は安堵した。

 

「成功したのか」

 

小介が診断画面を見る。

 

「構成部品に異常なし!」

 

葉月博士も答える。

 

「ダンクーガ、正常!」

 

ソフィアがエレメント反応を確認する。

 

「アクエリオンも問題ありません!」

 

整備員たちから歓声が上がった。

 

その時。

 

コン・バトラーVが、両腕を獣のように広げた。

 

豹馬の声ではない。

 

忍の声が響く。

 

『やってやるぜ!』

 

ダンクーガが優雅に片手を掲げる。

 

シリウスの声が響く。

 

『この姿、実に美しい』

 

ソーラーアクエリオンが腰へ手を当てた。

 

十三の声が響く。

 

『なんでやねん!』

 

格納庫が静まり返った。

 

榊が管制画面を見る。

 

「機体は合っている」

 

アストナージが答える。

 

「パイロットが混ざっている」

 

合体信号の同期により、搭乗者転送経路まで一時的に接続されていた。

 

コン・バトラーV。

 

頭部、忍。

 

胸部、ちずる。

 

胴体、亮。

 

脚部、アポロ。

 

足部、小介。

 

ダンクーガ。

 

イーグル、シリウス。

 

ランドライガー、十三。

 

ランドクーガ、雅人。

 

ビッグモス、大作。

 

アクエリオン。

 

ヘッド、豹馬。

 

胴体、沙羅。

 

脚部、シルヴィア。

 

本来の組み合わせは、跡形もなかった。

 

四ッ谷博士が酒瓶を落とした。

 

「どうして、そうなる」

 

ロイドが楽しそうに答える。

 

「合体信号を統一したからじゃないかな」

 

榊がロイドの襟首を掴んだ。

 

「他人事のように言うな!」

 

コン・バトラーVの中で、忍が操作する。

 

『こいつ、思ったより素直に動くな!』

 

ちずるが叫ぶ。

 

『勝手に動かさないで!』

 

アポロは脚部を動かす。

 

『腹が減った! 食堂へ行こうぜ!』

 

小介が止める。

 

『全高五十メートルを超える機体で、食堂へ行かないでください!』

 

コン・バトラーVが、一歩踏み出した。

 

床が沈んだ。

 

榊が叫ぶ。

 

「動くな!」

 

ダンクーガでは、シリウスが姿勢を確認していた。

 

『獣の姿にしては、悪くない』

 

十三が答える。

 

『人の機体を品評すな!』

 

大作はビッグモスの操縦席で感動していた。

 

『広か操縦席たい!』

 

雅人が笑う。

 

『気に入ったなら交換する?』

 

葉月博士が叫ぶ。

 

「しない!」

 

アクエリオンでは、豹馬と沙羅が操縦権を争っていた。

 

『俺がメインだ!』

 

『知らないわよ! この機体、勝手に考えが流れ込んでくる!』

 

シルヴィアが叫ぶ。

 

『二人とも動かさないで! 脚が私なのよ!』

 

豹馬が拳を握る。

 

『試しに一発――』

 

榊が全回線へ怒鳴った。

 

「必殺技は禁止だ!」

 

三機が同時に止まった。

 

整備班は、パイロットを元へ戻す作業へ入った。

 

問題は、分離操作にも搭乗者の意思統一が必要なことだった。

 

コン・バトラーVでは、忍とアポロが分離を拒否。

 

理由。

 

面白いから。

 

ダンクーガでは、シリウスが操縦系統の美しさを分析し始める。

 

理由。

 

興味深いから。

 

アクエリオンでは、豹馬が必殺技を一つ試すまで降りないと言い張った。

 

理由。

 

せっかくだから。

 

榊は管制室で呟いた。

 

「パイロットを交換しても、問題を起こす種類は変わらんな」

 

アストナージが答える。

 

「機体ではなく、人選の問題だ」

 

レインが全搭乗者の精神状態を確認する。

 

「強制分離は危険です。まず、全員を落ち着かせないと」

 

ソフィアが言う。

 

「エレメントシステムを通じて、全員の感情が増幅されています」

 

榊が尋ねる。

 

「落ち着かせる方法は」

 

ノーマンが静かに答えた。

 

「食事でしょう」

 

全員がノーマンを見る。

 

「アポロ氏をはじめ、複数名が空腹を訴えています。空腹は判断力を低下させます」

 

コメタケタが蓋を開く。

 

「コメ、タケタ」

 

格納庫の中央に、巨大な炊飯用コンテナが運び込まれた。

 

コメタケタが炊いた米。

 

ノーマンが用意したカレー。

 

香りが格納庫へ広がる。

 

アポロが最初に反応した。

 

『降りる!』

 

忍が叫ぶ。

 

『お前、さっきまで面白がってただろ!』

 

『飯の方が大事だ!』

 

コン・バトラーVが即座に分離を開始した。

 

他の二機も続く。

 

パイロットたちは元の構成機へ戻り、格納庫の床へ降りた。

 

アポロは誰よりも早く食堂へ走った。

 

忍も後を追う。

 

豹馬が負けじと走る。

 

シルヴィアが叫ぶ。

 

「まず検査を受けなさい!」

 

誰も止まらなかった。

 

レインは診察表へ書いた。

 

合体事故からの回復確認前に、食事へ行かせないこと。

 

その日の夜。

 

整備責任者会議が開かれた。

 

議題。

 

合同格納庫における合体機構の安全運用。

 

新規則が読み上げられる。

 

第一条。

 

合体試験は、一度に一組だけ行う。

 

第二条。

 

合体命令は、専用回線で送信する。

 

第三条。

 

「合体」という単語を、全館放送で使用しない。

 

第四条。

 

他作品の合体信号と同期させない。

 

第五条。

 

搭乗者の混在を確認した場合、必殺技を試す前に分離する。

 

第六条。

 

分離を拒否した場合、食事による誘導を認める。

 

アストナージが第六条を見る。

 

「機体安全規則に食事を書く日が来るとはな」

 

ノーマンが答える。

 

「人間は空腹には勝てません」

 

隼人が壁際から言う。

 

「ゲッターチームには効かんぞ」

 

榊が尋ねる。

 

「お前たちは何なら止まる」

 

「止まる必要があるのか?」

 

「規則の対象外にする」

 

第七条。

 

ゲッターロボは、他の合体試験中に格納庫へ入れない。

 

隼人は何も言わなかった。

 

反対しない時点で、全員が危険性を理解した。

 

会議終了後。

 

榊は整備予定表へ、新しい分類を追加した。

 

単独機。

 

変形機。

 

人格機。

 

生体機。

 

合体機。

 

複数合体形態機。

 

搭乗者入れ替え可能合体機。

 

合体後に人格または制御系が変化する機体。

 

合体信号を聞くと勝手に反応する機体。

 

分類不能。

 

シゲが一覧を見上げた。

 

「合体機だけで、随分増えましたねえ」

 

榊は赤いペンを置いた。

 

「合体とは、複数の問題を一つにまとめる技術ではない」

 

「では、何です?」

 

格納庫の奥では、コン・バトラー、ダンクーガ、アクエリオンの整備員が、それぞれの構成機を数えていた。

 

分離前と分離後で、部品数が合わない。

 

どこかの機体に、別の作品の接続ピンが一本残っているらしい。

 

榊は長く息を吐いた。

 

「複数の問題が、一つになったふりをする技術だ」

 

コメタケタが炊き上がり音を鳴らす。

 

「コメ、タケタ」

 

格納庫の全員が、作業を止めて食堂へ向かった。

 

合体ロボットは分離できる。

 

整備員の疲労は、そう簡単には分離できなかった。

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