義務レットは自由に生きてみる   作:POTROT

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準備開始

 さて、どこで何をすればいいのかサッパリ分からないぞ。

 服が売れる場所とか、装備を整えられる場所とか、何一つとして分からん。

 いやはや困った。本当に困った。もう少しフロットさんに案内とか頼んでおけばよかった。

 しかし、今からフロットさんを追いかけても迷惑になるよなぁ……

 

 仕方ない。

 他の冒険者さんに話を聞いてみるとするか。

 確か、高い等級に至るためには人徳とか信頼とかも必要って話だったな。

 ってなると、なるべく位階の高い冒険者さんに話を聞いてみるとするか。

 

「どれどれ……?」

 

 ぐるり、と周囲を見渡してみる。

 パッと見た感じ、鋼等級の人が多いようだ。

 次いで多いのが黒曜石。銅等級の人は、今はギルドにいないらしい。

 となると、この中で一番等級が高いのは鋼か。

 であれば…………ん?

 

「……あ」

 

 居た。銀等級の冒険者が。

 ギルドの奥の方、他の冒険者たちや柱の陰に隠れて見えにくい場所だったが、確かに居る。

 これから仕事に行くのか、それとも先程帰って来たのかは知らないが、食事を取っているようだ。

 食事中に悪いが、是非とも話を聞かせていただこう。

 

「すみません」

「…………」

「あの、すみません」

「…………」

「ちょっとー?」

「…………」

「銀等級のあなたですよ、銀等級の。空色の髪で、弓背負ってるあなたですよあなた」

「……!!?」

 

 近づきながら話しかけても、真隣に立って話しかけても全く反応せずに黙々と食事を続けていた彼女だったが、等級と特徴を伝えると途端にバッとこちらを向いた。

 そして目を見開いて驚愕を示し、指で自分を差して、『……私か?』みたいな表情でこちらを見るので、俺は頷いて肯定を示した。

 

「おい、マジかアイツ……」

「うわぁ……お貴族様は相変わらず意味不明すぎるぜ」

 

 俄かに周囲が騒然とする。

 まぁ、銀等級の人だし、有名な方なんだろう。

 ……しまったな、よく考えずとも、俺は駆け出しどころかついさっきスタートラインを切ったばかりのニュービーである。それがいきなり銀等級の超大物に話しかけるのは、確かに分不相応だ。

 しかもこんな近寄り難い雰囲気の、私に関わるなって感じの人に。

 やらかしたな……しかし話しかけちまったからには仕方ない。もうなるようになれだ。

 

「質問をしたいんですが、この服を売れる場所をご存知ありませんか? この刺繡とか、ボタンとかに値段が付けばそれでいいのですが」

「…………あ、換金所が……」

 

 うーん、声が小さすぎる。

 ……まぁ、距離が近いから聞き取れなくもないんだが……。

 

「換金所、ですか。具体的にはどこに?」

「それは………………」

 

 彼女は困ったような表情で受付嬢さんを睨む。

 見れば、受付嬢さんもこちらを見ているようだった。

 何やらハンドサインを出しているようだが…………

 ……成程、詳しいことはこっちに聞けと、そう言う事か。

 他人に迷惑をかけるな、と。

 まぁ見るからに他人と関わるのが苦手そうというか、冷徹な一匹狼って感じの人だからな。仕方あるまい。

 

「有難うございました。早速、聞いてみますね」

「あ、いや、ちが…………」

 

 軽く頭を下げて礼を示し、再び受付待ちの列に並ぶ。

 

「……すげぇな、アンタ。あの人相手に」

 

 俺の前に立っていた戦士らしき人に、畏敬の目で見られながらそんな言葉をいただいた。

 

「見ての通りですから」

 

 俺がそう返せば、それもそうかと笑って戦士の人は前を向いた。

 貴族に比べればあんなのは可愛い部類である。

 ウチの母親と比べれば特に。

 

「次の方ー」

 

 そうして待っていると、俺の番が回って来る。

 受付さんはさっきの会話を当然のごとく聞いていたようで、なんか微妙な顔をしつつも換金所について、分かりやすく教えてくれた。

 換金所というのは、ギルドの横と、街の門に一つずつある冒険者用の施設なんだそうだ。

 冒険者が冒険の最中に手に入れた、依頼とは関係の無い物を現金に換えてくれるのだとか。

 

 例えば、先日のオウルベア討伐では、オウルベアの討伐それ自体が目的の依頼だったため、オウルベアの爪や嘴などの素材が換金可能。

 その依頼がオウルベアの嘴の採集であったのなら、嘴以外の素材が換金可能。

 ダンジョン攻略や竜の討伐では、手に入れたお宝も換金可能な対象になるんだとか。

 

 で、ギルド横の所ではその他にも、冒険者が不要になった装備品などの買い取り、販売という、リサイクルショップのようなサービス等も行っているらしく、そこであれば俺の服も売れるのだとか。

 

「ただ、この制度を悪用し、追剥まがいの行為が横行しています。十分お気をつけてください」

「えぇ……? いや、お気を付けくださいって、ギルドはどんな対策を?」

「判明次第、資格剥奪並びに犯罪者として衛兵に連行させますが……基本的に依頼遂行の最中を狙われるので、発見自体が難しく……」

「ふーむ……」

 

 冒険者は死亡率が非常に高い仕事であり、依頼で死ぬことなどに日常茶飯事。

 だから依頼で死んだと聞いても一々その真偽を確かめることは不可能であると、つまりそう言う事のようだ。

 

「死亡者の武具は取引禁止とか」

「戦利品か死者の防具の判別がまずつかず……何より、まだ使える防具が死蔵されることになる、或いは朽ち果てるのを待つだけになるという状況は望ましくなく……」

「成程……」

 

 つまり、デメリットよりもメリットの方が勝る、と。

 確かにそういったシステムがあれば、駆け出しからベテランにも利があるわけだし。

 むしろ下手に規制する方がマイナスがデカいか。

 

「分かりました。何にせよ、この隣ですね?」

「はい、その通りです」

「有難うございました。早速行ってみますね」

 

 俺はそれからすぐにギルドを出る。

 すると確かに、ギルドの隣に換金所という場所があった。

 中に入ってみれば、複数の職員が慌ただしく働いていた。

 

「こんにちは! 初めまして! 新人の方ですよね! 何か売りたいものが!? それとも買いたいものが!? でしたらあちらに色々まとめてありますよ!」

 

 カウンターから身を乗り出して俺に話しかけてきたのは、何とも熱意の凄い女性の方だった。

 眼鏡をかけているが……そのせいだろうか、なんか、目が怖い。

 

「あー……この服を売って……その金で幾らか防具を買いたいんですが」

「その服ですか!?」

「はい、ボタンとか刺繍とかに値段が付きませんかね」

「付きますよ! 金色ですけど、純金ですか!?」

「あぁー……結構格式高いヤツですから、純金では?」

「では金貨で2、3枚にはなるんじゃないですかね!? 脱いで渡してください!」

「あ、はい」

 

 言われるがままに服を脱ぎ、渡す。

 ……もうシャツとズボン、パンツと剣以外は全部渡してしまおう。

 どうせもう不要なものだ。

 

「これでどうですかね」

「お預かりしました! 少々お待ちください!!」

 

 と、そう言って彼女は作業に入ったので、俺は近くに並べてあった武器防具類に目を向ける。

 これが件の、再利用品というヤツなのだろう。

 

「……………………………………………成程、確かに分からないな」

 

 防具はどれも、大なり小なり、かなりの数の傷がついている。

 使い込まれた証拠だろう。

 ……だからこそ、それが人によるものなのか、他の何かによるものなのか、判断できない。

 新品そのものみたいな代物も無くは無いが……やはり、それが人によって剥ぎ取られた、盗品であるか否かは、不明だ。

 

 しかしまぁ何であれ、売り物である事には変わりないか。

 剣はもうあるから十分として、防具は必要だ。

 鎧とかは服を買った後に合うものを買うとして、あとは、一応になるが盾も買っておこう。

 動作の邪魔にならない、小さめのものが良いだろうな。

 

「終わりましたー!!」

「おぉ、早い」

 

 カウンターから声が掛かるので、再びそちらへ。

 

「いくらになりますか?」

「金貨で5枚と銀貨1枚、銅貨7枚ですね!」

「おや、そんなに」

 

 ちなみに金貨五枚は、それだけあれば街中に小さめの家は建つってレベルである。

 つまり大金だ。

 

「結構どころじゃなくて滅茶苦茶いいやつですねコレ! オーダーするときには金貨100枚くらいしたんじゃないですか!?」

「まぁ……そうでしょうね」

 

 だって爵位名、デュオンだし。

 騎士団長とかも輩出できなくはないって格の家系だし。

 

「これでよろしいでしょうか!?」

「あぁ、はい。それで大丈夫ですよ。それで……あー……あそこに置いてあるラウンドシールド、一番新しいのを一つ貰いたいんですが」

「分かりました! では差し引き金貨5枚と銅貨17枚でお返ししますね!」

 

 と、そうして俺はようやく金を手に入れることができたわけである。

 ついでに盾も。

 さて、この二つが揃ったなら、次は服と宿、その次に鎧とかの防具かな───っと、おや?

 

「あ」

「貴女は……先程の銀等級の」

 

 換金所から出れば、先程の銀等級の冒険者さんが居た。

 ここに用事があったのだろうか。

 

「あぁ、丁度いい。できればでいいのですが、おすすめの服飾店と宿を教えてくださいませんか?」

「ぁ、服なら、そこの……」

 

 彼女が指さした方を見れば、今まさに冒険者らしき人が入っていく店があった。

 看板には服を示すマークがあるので、恐らくアレだろう。

 

「宿は……その……あの……」

 

 続いて彼女は宿について言及しようとするが、しかし何とも気まずそうだ。

 

「…………あぁ、もしかして、特典の無料のものを?」

「そ、そう」

「だから粘土等級の俺の参考にはなれない、と」

「ぁ」

「無茶言ってすみませんでした。それと、ありがとうございました」

「…………」

 

 再び頭を下げて礼を示し、件の店へ。

 さて、どんな感じの店なのだろうか。




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