「……ふむ、まぁこんなものか」
あの後、俺は随分と目まぐるしく街を歩き回った。
冒険者御用達らしい服飾店に行って生地を選んで、採寸してから宿を探しに行くついでに飯を済ませて、良い感じの宿を見つけて取り合えず一か月分の代金を払って、街を回って主要な店とかを確認して行って夕飯を食べて寝て、次の日朝一番で服を取りに行って早速着て、その足で換金屋の再利用コーナーとかちゃんとした防具屋とかも回って……最終的に、インナーの上を革製のズボンと上着で固め、金属製の胸当てと腕甲、脚甲をその上から装着する、極めて一般的な剣士スタイルに落ち着いた。
まぁ、騎士スタイルにしても戦い以外のことがまるでやりにくくなるしな。こっちの方が動きやすくていい。
しかしそれにしても、自分で服や道具を選んで買い、身に着けるのが初めてにしては、かなり格好良くコーディネートできたのではなかろうか。素材が良いのもあるんだろうがな。
ちなみにこれだけ色々と出費しても俺の手元には金貨で3枚残っている。
どれだけあの服の価値が高かったのかって話だ。
この分なら私物の一つでも持ってきていれば、マジで向こう一年は金に困らなかったのかも知れん。
が、そんな事を今更気にしていてもやはり仕方ない。
そんなことよりもこれから稼ぐ方法を考えることにしよう。
「というわけで、今日は早速、依頼とやらを受けてみるか」
ギルドへと移動し、掲示板を覗く。
「………………………………………………うん、雑用だな」
粘土等級にも受けられる依頼は、大半が雑用であった。
というか雑用しかない。荷物運びに、街の清掃に、店の手伝いに……アルバイトだなほぼ。
報酬金も銅貨5枚とかしかないし……まぁ、その日の食糧とプラスアルファって金額か。
そして報酬金に大きな差は無し、と。
そう考えた時、俺に一番向いていそうなものは……荷物運びだな。
荷物運びの仕事の中で一番報酬が高い依頼書を剥し、受付へ。
「すみません、こちらをお願いします」
「はい、承ります。……荷物運びですね、では依頼書の所定された場所に、この依頼書を持って移動してください」
「分かりました」
幸いなことに、重いものを大量に運ぶことには慣れている。
ウチの母親が行軍の訓練とか言い出して、大量の荷物と一緒に何十キロと歩かされたからな。
それもクソ重い鎧を着た状態で。
だからまぁ……何と言うか。
正直、何の訓練もしていないヒョロガリにも出来るような依頼が、俺にできないわけがないという話であった。
「すーげぇな、アンタ……さん」
「鍛えてますのでね」
「お貴族様……なんだろ? ……ですよね? 元々は。お貴族様が力仕事何てやることはねーとか思ってたが……んですが……」
「騎士の家系でして」
「あー…………」
とまぁ、こんな具合に。
本日の分の仕事として俺に割り振られた量の仕事は一瞬で片付いたわけだ。
一時間も経っていないのではなかろうか。
「その……まぁ、お疲れ……です、はい」
「はい、お疲れさまでした」
と、そんな風に依頼主と別れ、ギルドに戻り、受付嬢さんに報告して、報酬金を貰う。
そして、ついでみたいな感じに黒曜石製のプレートを手渡された。
「昇格おめでとうございます。レットさんはこれから、黒曜石等級として、本格的な討伐任務の受注が可能になりますよ」
「いやいやいやいや、急すぎません?」
「急とは?」
「いや、昇格がですよ。俺ってば、まだ荷物運びを一回やっただけですよ?」
「粘土等級は年齢的、体格的、精神的に冒険者に不適格な方を、最低限討伐任務が受けられるようになるまで留めておく役割が強い位階ですので……まぁ、その点貴方は……その……」
騎士の家の出身なんでしょ? と。
彼女の目が俺に問いかける。
「…………………………あー…………」
反論できない。
実に合理的な判断であると認めざるを得なかった。
俺の場合、年齢的には問題ないし、騎士の家出身であるのみならず、体つきを見るだけでも相当量の訓練を積んでいたであろうことは読み取れるわけで、実力的にも精神的にもまぁ問題なさそうだと。
であるなら、むしろ粘土等級に留めておく理由がない、と。そう言う事らしい。
「ってなると……最低限の依頼遂行能力を測るために、一つは受けてもらう必要があっただけで、本来なら粘土等級は飛ばしてもいいものだと」
「そうなりますね」
ぶっちゃけたことを聞いてしまえば、特に濁すことも無く、ストレートな肯定が返って来た。
「しかしそれにしても、随分と柔軟で迅速な対応が出来るんですね? ギルドって」
「依頼の難易度設定、問題冒険者へのペナルティなど、柔軟に対応すべき事項が山ほどありますので。粘土から黒曜石への昇格程度は、と」
「はー……まぁ、貰えるものは有り難くもらっておきます。こちらは返しますか?」
粘土板を首から外し、プラプラと下げる。
たった一日の付き合いであったが、既に所々が削れ、ひび割れていた。
しかし、まぁ、このペースで昇格するのなら、この程度の強度の作りやすい材料の方が適しているのかも知れない。
「はい、返却をお願いします」
「分かりました」
粘土板を受付嬢さんに渡す。
すると次の瞬間には容赦なく砕かれて屑籠に捨てられた。
「えぇー?」
「再利用できませんし、誰かに盗まれても面倒ですので」
「そういうモンなのですか」
「はい、そうです。流石に鋼等級以上にもなると、ちゃんと然るべき場所で処分しなくてはなりませんがね。材料的に」
「材料的にですか」
しっかりとしているようで、どうやら思った以上にギルドはライブ感で運営されているようである。
現代社会よりも情報通信技術が発展していないから、現場判断が主というのも大きいのだろう。
黒曜石のプレートを首から下げながら、そんなことを思う。
「……そう言えば、さっき、本格的な討伐任務が受けられると言っていましたね」
「あぁ、はい、そうです。本格的な討伐任務が受けられますよ、最初はゴブリンなどの小型の魔物や、通常の獣が対象ですが」
「倒して帰って来ればいいと?」
「そう単純な話でもありませんが……おおむねはその通りです」
「何か、他に必要なことがあるんですかね?」
「不正防止のために、幾つかあります。今から説明はしますが……まだ日も高いですし、折角ですから一件、近場の討伐依頼を受けてみては?」
そんな受付嬢さんからの提案を、俺は受け入れてみることにした。