あれから数分ほど経って、俺は
話題は勿論、俺の
正直なところ、厳しいものと思っていたが。
「え? 別にいいんじゃね?」
拍子抜けするくらいにはあっさりと好意的な返事が来た。
もう少し渋られたり断られたりするものだと思っていたから、本当に意外である。
「いやいやいやいや、もうちょっと考えようぜリーダーさんよぉ?」
「そうそう。リーダーの決定に異を唱えるつもりはないけどさぁ……その、ほら、もうちょっとこう、色々と何か……ないの?」
「えぇー? いや、説明する必要あるか? 多分だがレット、俺たちの誰よりも強いだろ?」
「そりゃあ……まぁ、体格とかもあるしなぁ」
「ほっほっほ、魔法の腕で負ける気はしませんが……総合力となると負ける気しかしませんな」
実際、この4人と一対一で戦うとなった時、負ける気はあんまりしない。
特に剣士二人組には……彼らの持つ手札を知っているわけではないが、まず負けないだろう。
ソークさんも言っていたが、まず体格からして違うのだ。
ただでさえ俺の方が圧倒的に有利で、さらに俺は魔法も一通り使える。
余程のことが無ければ、負けはない……と、思いたい。
「でもまぁ分かりませんよ? 俺ってば対人戦の経験はあまりないので」
「そうなのか? 普通はするモンだろう」
「基本的に、母親と魔法無しの状態でやっていましたので。正直、母親以外だと、それこそ家を出てきたときに兄と父をボコしたくらいで……」
「フェグズの現当主の奥方と言えば、エリシア殿でしたかな」
「そんなことまで知っているんですか?」
「結構有名ですぞ。何せ先の戦争でも名を立てた、4代前の
「え、そうだったんですか?」
女性であるにも関わらず優れた騎士としての才覚を見せた貴族令嬢のために、
つまり我が国の女性の中では最強の立場にある人物だ。
そんな称号をかつて持っていた人物が俺の母親……あんな訓練を平気で課してきた時点で只者じゃないとは思っていたが……
「知らなかったんですけど……俺……えぇ……?」
本当か? 本当にそうなのか?
いやまぁそれなら、そんな彼女と常日頃から戦っていた俺が現役の騎士が弱いと感じられても不思議ではないが。
にしたって弱くないか?
「彼女に勝ったことがおありで?」
「いやまぁ、11歳くらいに初めて勝って、もう家を出る前には魔法無しでも連戦連勝でしたが……にしてもスリープ一発で寝ましたよ? そんな人が本当に?」
「ふむぅ……直近に出産などはありましたかな?」
「……5つの時に妹、13の時に弟が生まれました」
まぁ妹も弟も、ほとんど顔を合わせてないからほぼ他人なんだけどね。
精々マナー講座の時に一緒に色々やったくらいで。
「では魔法耐性の低さはそれが原因でしょう。出産後の女性の魔法耐性は、完全に戻るまでに10年は要すると言われておりますからな。そうも子供を産んでいては、魔法耐性などあったものではありますまい。体も衰えていたでしょう」
「それは……まぁ、そうでしょうね」
ウチの母親も、確かに出産直後の衰弱ぶりはすごかった。
……いや、数か月もすればすぐ元には戻っていたが、それでも完全に元通りとはいくまい。
で、俺と本格的な模擬戦を始める前に、兄、俺、妹と三度出産して、家を出る前にもう一度出産。衰えは相当なものだったと推測できる。
そう考えると、母が常々俺に言っていた、『自分に勝ったからって調子に乗るな』っていう言葉も、本当にそう思っていたからこそ出た言葉だったのかもしれない。
「でも、元々は女性で最強だったってことだろ? ヤベェじゃん」
「ひえー……騎士の家系、こわ」
「いやまぁ皆さんが思ってるほど強いわけじゃなくて、ただその代の
基本的に皆すぐに結婚してしまう上、そうなってはもう復帰は絶望的だからである。
だから貴族の間では
「……まぁ、そもそも
「うへぇ……で、レット君はそんな
「だったら強い事にも納得だよなぁ……」
「そうですかねぇ」
いかんな、自分が強いという事は理解したつもりだったが、それでもどのくらいのレベル帯にいるのか、よくわからん。
そもそも今になって考えてみれば、騎士団で俺より強いヤツは居なさそう、という父親の台詞も、父親の主観でしかないからなぁ。
はてさて、困った。
「まぁ何にせよ、
「え? いやー、だが、本当にそれでいいのか? 正直俺はまだ反対したいぞ」
「こっちの事情とかも説明した方が……………………あ」
「おや? ……あー……」
言葉の途中で、アーデさんが何かに気付き、さぁっと顔を青ざめさせた。
ゼストさんと一緒にそちらの方を見てみれば、あの空色の人がめっちゃこっちを睨んでいた。
死ぬほど不服そうである。何なら殺気すら混じっていそうだ。
「……なぁレット、あの人に何か変なことしたか?」
「フロットさんと別れた後に、ちょっとしたことを尋ねたりしましたが……マズかったですかね?」
「マズかったかも知れないなぁ……」
そういうフロットさんの顔色も、少々悪くなっている。
「……そんなにヤバい人なんですか?」
「ヤバいって言うか……怖い。銀等級だから、変なことはしないだろうってわかってるんだが……こう、刺さるんだよ、色々と」
「あー……」
既にこちらから目を離し、『何も見てませんよ』みたいな空気を醸し出している空色の人だったが、それでもオーラは『気になります!』と叫んでいる。
そしてそのオーラがこちらに刺さっていた。
正直なところ、居心地が悪い。
「もしかしてだけど、目ェつけられてたんじゃないの? レット君」
「む? ……あぁ、アレですか」
「アレって言うのは?」
「アレですよ、冒険者用の掲示板の端の方です」
ゼストさんに指さされた方を覗いてみれば、そこには一枚の張り紙があった。
「えーと、
成程ねぇ。
だから受付嬢さんは俺を空色の人……ソフィさんと組ませようとしていた、と。
「ふむぅ……でしたら、儂はソフィ殿と一緒に行ってみることをお勧めしましょうかのう」
「え?」
「『貴族狩り』から守るのでしたら、儂らで無くとも彼女にも務まりましょう。何より……」
「それ以上は言わなくていいぞ、ゼスト」
ソークさんが、一段階低い声で言った。
見れば、ソークさんが険しい顔でゼストさんを睨んでいる。
アーデさんは困り顔で、フロットさんは無表情だ。
ゼストさんはいつも通り飄々としていて、特に気にしていないようだったが……
ソークさんとフロットさんの反応で、裏に何かあるという事は容易に想像がついた。
「……すまんなレット。俺達には……俺達にもまぁ、事情があるんだよ、色々と」
「つまりそういう事です。儂はもうこの年ですが、レット殿はまだ若いですからな。こういうことに首を突っ込むのは、もう少し見聞を広めてからにした方がよろしい」
「そう……ですかね」
うーん、いい環境だと思ったんだがなぁ、
いやまぁよく考えれば、復讐を名前として掲げている時点で、何か事情があることは察するべきか。
「ごめんね、最初に説明すればよかったね」
「いえいえ、どうかお気になさらず……では」
と、そうして
すると待ってましたと言わんばかりに彼女がこちらを向いた。
「えーっと、ソフィさん、でいいんですよね?」
「……うん」
「話は既にお聞きになっていた感じで?」
「うん」
「えーっと、その、ちょっと失礼な感じにはなってしまいますが……
「いいよ。お願い」
「あ、では、どうぞよろしくお願いします」
と、こんな具合で、我々は実にぬるっと