先生が来て半年ほどたった。
先生の教え方がいいのか、俺もルディも中級まではあっさりと習得できた。
最も、俺は発動こそできても離れたら四散するので最初こそモチベが下がっていたんだが…
「ハァッ‼」
氷の刃を生成して親父に切りかかる。
「おぉ!なかなかに筋がいいぞ、レイド!」
親父はすべて軽く流すが満足げにしている
今生成したのは初級の水魔術で
最初は魔術=中・遠距離攻撃というイメージが強かったこともあって無尽蔵の魔力も宝の持ち腐れだと思っていたが。親父から闘気という、魔力を用いて身体能力を向上させる技術があると聞かされやる気を取り戻した。
ほかにも治癒魔術なんかはその場で行使することから四散する心配がないし、今の
つまり工夫次第でいくらでもなるということだ。
親父や先生の話し合いの結果、俺は剣術、ルディは魔術の時間を多めに取り、魔術の鍛錬は俺だけ自身が扱える治癒魔術や離れなくても使うことができるものを中心に練度をあげていくというものになった。
治癒魔術に関しては母さんも教えられると張り切っていたな。
そして夜には…
「―そもそも魔術というのは、大昔とある種族が外敵から身を守るため、精霊と対話し風や土を操ったのがルーツとされています今の魔術は、人族が魔族との長い争いの中で、その魔術を真似て形態化させていったものです」
先生の授業はわかりやすくて面白いからか、勉強が苦手な俺でもすぐに覚えられる。
まぁ、それはそうとて…
「いてっ…」
さっきからいらん知見を広げている
「レイド、助かります」
「いえ、なんかバカがすみません」
俺と先生のジト目が覗きをしていたルディにささる。
「そ、それにしてもこの世界には精霊や魔族なんてのもいるんですね!」
うやむやにする気か…
「もちろんです。あぁ、ちなみに私も魔族です」
そうだったのか。
「パウロさんたちも私の姿を見て、驚いていたでしょう」
「先生が小さいからですよね」
「小さくありません!」
このバカは何でこんな地雷を踏むのか…
「あれは私の髪を見て驚いてたんですよ」
「「髪?」」
「聞かされていませんか?スペルド族という恐ろしい魔族のこと」
スペルド族?
俺はルディと目を合わせるが、彼も首を横に振る。
「今から4~500年ほど前ですが、ラプラス戦役という人族と魔族の大きな争いがありました。その争いの中で彼らスペルド族は敵味方、女子供関係なしに虐殺を繰り返し、暴れまわったそうです。そのせいであらゆる種族から忌み嫌われ、戦争が終結した後、魔大陸から追放されたと聞きます。それくらい危ない種族なんです」
そんなヤバイ種族がいたのか。
「子供のころ、よく言われたものです。夜遅くまで起きてると、スペルド族がやってきて食べてしまうぞ、と」
こっちの世界にもそういうのあるのか。
「いいですか、とにかくエメラルドグリーンの髪で、額に赤い宝石のようなものを持った種族には、絶対に近づいてはいけません」
「近づいたらどうなるんですか?」
「家族を皆殺しにされるかもしれません」
こわっ…
あれ?でもなんで先生が驚かれることとスペルド族が…
「私の髪は光の加減でその緑色に見えなくもないんです」
そういうことか。
「先生の髪はきれいですよ」
この弟は…
「ありがとうございます。でもそういうのは将来好きな子ができたときに言ってください」
「僕先生のこと好きですよ」
「俺も好きです」
面白そうだしのっかっとこ。
「ルディはともかく、レイドもそんなことを言うなんて珍しいですね。二人ともあと十年たって考えが変わらなかったら、もう一度言ってください」
そんなこんなあり、今日の夜の勉強は終わった。
ルディは先生の着替えをのぞこうとしていた。
いっそお前だけスペルド族に食われてしまえ。
先生が来てから一年がたった。
魔術に関しては…残念ながら攻撃魔術は打ち止めになりつつある。元々中・遠距離の魔術が使えないということもあって幅は小さくなってたからな。
極めるなら治癒魔術だそうだ。持ち前の魔力総量に、もし上級以上の治癒魔術を習得できれば、あらゆる傷を癒せるようになるのではないか、とのことだ。
剣術に関しては…
「ふん!」
親父に言われた通り木剣を構えて地面を蹴り岩に向かうが…
「ぐふっ!」
勢いあまって顔面から突っ込んだ。
「「くっくっくっ…」」
「笑うな!」
腹を抑えて笑いをこらえる親父とルディに一喝しながら治癒魔術で怪我を治す。
今のは決してウケを狙ったわけではない、闘気の制御ができていないのが原因だ。
闘気を纏う、これに関しては割とあっさりできた。問題は魔力が多すぎて身体能力が爆発的に上がってしまっていることだ。本来なら段階を踏んで慣らしていくんだろうが、あいにく俺はそういう細かい制御がうまくできずに、結局醜態をさらしてしまっているわけだ。
闘気纏ったままドア開けようとしてそのまま外した時はマジでビビった…
そんなわけで剣術は剣術、闘気は闘気で特訓することになったんだが、闘気に関しては御覧のあり様…
一方で剣術は…
「セァ!」
木剣で親父に力いっぱい切りかかる、軽く受け流されてしまうがすぐに地面を蹴って距離をとると再度接近し、今度は速さを主体に連続で切りつけるが同じように流されてしまう。
「よし、次はルディだ!」
「はい!」
ルディの番になったので俺は一旦下がる。ルディも懸命に切りかかってはいるが簡単にあしらわれているのがわかる。多分俺とやる時よりよっぽど手を抜かれてるだろう。
あの受け流す技は水神流の技で『流』という。
この世界で剣士とは三大流派の使い手のことを言うらしく、それ以外は戦士などと呼ばれているそうだ。
三大流派とは
速度と威力を重視した『剣神流』
受け流しとカウンター主体の『水神流』
型にはまらない多彩さが特徴の『北神流』
この三つになるらしい。
親父はこの三つ全てを上級まで会得しているのだとか。この世界での基準がよくわからないが優れた剣士なのは間違いないはずだ。
しかし、親父は一番好きなのが剣神流らしく、稽古はほとんどが剣神流で水神流はそこそこ、北神流に至っては好みじゃないとかで教えてくれない。
好き嫌いで指導を左右するのはいかがなものか…
ちなみに今の俺はこの一年で剣神流は中級、水神流は初級を会得した。水神流に関しては魔物との実戦経験を積めばすぐに中級になれるだろうとのことだ。さすがにまだ魔物とは戦わせてもらえないらしく、10歳になったら戦わせてくれるそうだ。
今からワクワクが止まらない!
それからさらに半年がたった
今日は俺とルディの5歳の誕生日で、お祝いがある。この世界では誕生日を毎年祝うという習慣はないが、生まれてから5年ごとに大きなお祝いをするらしい。
成人は15歳らしいから非常にわかりやすいものだ。次にお祝いする時は約束の10歳だから実戦に出れると思うと早くも次のお祝いも待ち遠しい。
「「「「レイド、ルディ、5歳の誕生日おめでとう‼」」」」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
そしてご馳走も食べ終わると、まずは親父が剣を俺たちに一振りずつ差し出した
「誕生日おめでとう。プレゼントだ」
俺たちは剣を受け取る。
ルディは剣の重さで転げそうになってしまっていた。
「ありがとう、父さん」
「ありがとうございます、父さま」
「お前たちにその剣はまだ早いかもしれないが、男なら心の中に一本の剣を持っておかねばならん。大切なものを守るには、心構えが必要だ」
大切なもの…
「妻や子供、お前たちにもいずれ、そういうものができるだろう。その者たちを守るのはお前たちの義務だ。ちょっとは力をつけたからって、調子に乗ってはいけない。それとレイド」
名指しか。
「お前は剣に関してはいずれ確実に俺を追い抜くだろう。絶対に力の使い方を見誤るんじゃないぞ」
「はい!」
「いい返事だ。そしてルディ、お前は…」
「長い!」
まだまだ話そうとする親父の頭に母さんが手刀を入れる。
「レイド、ルディ、お誕生日おめでとう。私からはこれ」
母さんは俺たちに本を一冊ずつ渡した。
俺に渡された本のタイトルは『三大流派指南』とあった。
「ありがとう!母さん!」
「ありがとうございます母さま!こういうのが欲しかったんです!」
俺たちは目を輝かせる。
「まぁ!なんていい子たちなの~!」
母さんは俺たちを抱きしめる。
「はい、レイド、ルディ」
先生からは赤い石が埋め込まれた杖が贈られた。
杖を受け取った俺たちは埋め込まれている石を見つめる。
「それは魔石です。魔力を増幅してくれる機能があるので、きっと役に立つはずです」
「きれいですね」
あぁ、本当にきれいだ。
「本当は初級魔術が使えるようになった生徒に杖を送るのが通例なのですが、二人は最初から使えていたので失念していました。申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます。先生!」
「大切にします!師匠!」
ルディの師匠という言葉に先生は困ったような笑みを浮かべる。
「ルディはこの年で四種の上級攻撃魔術をすべて習得し、レイドも中級の治癒魔術を無詠唱、ほかの使える魔術も高い精度で使えるようになったんです。もう少し偉そうにしてもいいのですよ」
「いえ!師匠の教え方がうまいからですよ!」
「ルディの言う通りです!」
先生はまた困ったような笑みを浮かべると、俺とルディの頭を撫でた。
「しかし、私からあげられるものはレイドにはすべて渡してしまいましたし、ルディも残りわずかとなってしまいました」
「「え?」」
親父と母さんが悲しそうにしているのが目に入る。
「まず、レイド」
「はい」
先生は俺の目をじっと見つめると…
「今日、この時をもって、あなたは卒業です」
そっか…
先生は家庭教師としてここに…
「あなたはその呪いで魔術師としての大成は難しいかもしれません。しかしその膨大な魔力があるなら可能性はゼロではありません。魔術師を目指すなら、諦めないでください」
「…はい!」
だめだ…涙があふれそうになる…
「ありがとうございました!」
先生は優しげな眼差しで少しの間俺を見つめると、意を決したようにルディのほうを見る。
「ルディ、あなたは明日、卒業試験を行います」
「…卒業?」
辺りが静寂に包まれた。
「フッ!ハァ‼」
あれから俺は庭に出て、これまで親父から教わった型を、寂しさを紛らわすようにひたすら繰り返していた。
「ハァ…ハァ…」
いつもより力みすぎているからか息が上がるのが速い。
「ルディは明日、上級より上の魔術師になる」
俺の中には確信があった。ルディは明日の卒業試験を突破するという確信だ。そしてそれは聖級魔術師になるということだ。
剣は俺が上、それは間違いない。だけど魔術も加われば勝ち目なんてない。
魔術も闘気も中途半端で一向に先が見えないのに、ルディはどんどん前に進んでいく…
どうすればいい、どうすればルディと並べる…
剣術、闘気、魔術…
「…そうだ」
片腕で剣神流、もう片方で水神流を操れるようになればどうだ?
左右それぞれで切り替えられれば、片腕での力不足は闘気で補えれば…そうだ、一瞬だけ闘気を解放させれば。
「できるかもしれない」
俺は両手で木剣を一振りずつ持つ、普段は両手で持つからかいつもより重く感じる。
「シィッ!」
まずは剣神流、一振り一振りの瞬間にだけ闘気を解放して速さを出す。勢いにもっていかれそうになるが、気合で踏ん張れ!そして水神流、前世で見た舞踊を意識しろ、滑らかに、かつ力強く!
左右それぞれで剣神流と水神流の技を交互に使い分けていく、動きはまだぎこちないが、それでも曇っていた何かが晴れていくような感覚と冷水に沈んでいく感覚を覚える。
「これで!フィニッシュだ‼」
最後に剣を振り下ろす、これまで一振り一振りの瞬間にだけ開放していた闘気をそのまま継続させる。
瞬間、最後の一振りが音を置き去りにした。
「は?」
何が起きたかわからず固まっていると、遅れたように辺りに砂煙が舞った。
「今のは…」
「レイド!」
親父が慌てて家から出てきていた。
「父さん、今のって…」
「光の太刀、かもな」
光の太刀?
「剣神流の奥義だ。昔、仲間が使っていたのを見たことがある」
「剣神流の、奥義…」
「俺は使えないから詳しくはわからないが、光の太刀は両手で真っすぐ振る必要があったはずだ」
両手で振る必要がある?
じゃあ、今のは違う技なのか?
「それよりレイド、今、左右で剣神流と水神流を使い分けていたな」
「うん、ルディは明日、さらに上に行く、いてもたってもいられなかったんだ」
「そして考えた結果が、これか?」
「うん、だけど、何かが足りない、剣神流と水神流をつなぐ何かが足りないんだ」
俺の言葉に親父は何か考えていた。
少しして意を決したように俺を見る。
「レイド、明日からは北神流も教える」
え?
「北神流って、でも父さん嫌いなんじゃ…」
「確かに嫌いだ、剣士の戦いって感じがしないからな。だが、お前の剣に足りないのは恐らく北神流だ、剣神流と水神流の繋ぎに北神流の体裁きがあれば、お前の剣はこれまで以上に昇華されるはずだ」
そして次の日、北神流の稽古も始まった、時を同じくしてルディは卒業試験に合格して水聖級魔術師となり、先生は村を後にした…