女の子の魂を封印したカードって凄い高値付きそう 作:好みのタイプはエルフェンノーツ
表通りから一本外れた細い路地。看板もなければ、営業時間を示す札もない。なんならOPENとかCLOSEとかそういう札もない。初めて見る人は店ということすら認識出来ないんじゃないかな。まあ実際店かって聞かれると何とも言い難いんだけど。
それでも扉を押せば、小さな鈴が澄んだ音を鳴らす。一応客が来る事は想定している……のかな?
「いらっしゃい」
店の奥から返ってきた声は、今日も変わらず穏やかだった。
棚という棚には、カードが並んでいる。展示品、といった感じでもあるけど、別にケースに収めたりとかスリーブに入れたりとかの保護がされてないあたり、ただ置いているだけなのだろう。不思議パワーが無かったら湿気ですぐ曲がってそう。
「数日ぶり~。買取りしてもらっていい? 出来ればデッキごと」
カードケースから取り出したのは先日闇のバウトで手に入れた【冥府王】のカード……というか【冥府】デッキそのもの。一応【冥府王】が本来のものとちょっとだけイラストが違うけど……まあこの世界のエース級のモンスターって基本お被りしないし、分かる人は居ないでしょう。偶然同テーマで対戦することも無くはないけどさ。そもそもここではそんなこと関係ないし。
店主──と呼んでいいのかは分からないけど──は白い手袋越しにカードを受け取り、ゆっくりと眺める。目隠ししてるのに見えてるのかな。毎回気になってます私。
「【冥府王】ですね」
「そうだよ〜。チンピラAのソウルカード。どう? やっぱ価値無し?」
「いえ。状態も良好ですし、それなりにエネルギーは感じます。そこそこ強かったのでは?」
「えー……封殺しちゃったからなぁ……というか、貴女がトドメを刺したでしょうに」
「カードの私とここに居る私は別物ですから」
店主──改め、【裁きの天使】はそんな事を宣う。多分カードの精霊とかそういう存在。ちなみに別物とか言ってるけどカードの方の【裁きの天使】も時々私に話しかけてくる。もしかしたら携帯みたいな感覚でこの子が話しかけてきてるのかもしれないけど。
「──ご苦労様でした。我が神もお喜びになるでしょう」
「うーん、ありがとう? いつも言ってるその神って結局誰なの?」
「神は神ですよ。唯一の存在に名前など不要でしょう?」
「色んな神話をモチーフにしてるゲームが流行ってる世界の癖にそんな事言っていいのかな……」
この子も一応名前は『ミカエル』な訳だし。でも同じ天使が別の宗教で登場したりするもんな……あんま深く突っ込んじゃいけない気がする。まあこんなこと言ってるけど八百万分の一でしょう。
「【冥府王】は気に入りませんでしたか?」
「え? うん。男に興味無いし。あー、でもテーマによっては男の方が良さげなカードになってくれたりするのかな……でも騎士とかでも私女騎士の方が好きだしな……」
「そうですか」
「え、そっちから聞いといてそんな反応?」
まあいつもの事だけどさ。私に興味があるのか無いのか分かんないよ。そんなやり取りの間に【裁きの天使】が一冊の本を出現させる。もう慣れてきたから何処から出したの? とかは気にしない。人の魂をカードに封印してる女にツッコミ役の権利は無い気がするし。
「代金として、次の候補です」
「うーん話が早い。ミカちゃんのそういうとこ好きだよ」
本に貼られた数枚の写真。多分大会の表彰台かな? そこに立っているのは栗色の髪を肩まで伸ばし、人懐っこそうな笑顔を浮かべている少女。可愛いね。
「天才バトラー、だそうですよ? 世界大会も視野に入るほどの腕前だとか。まあ、貴女はそんな肩書きより見た目の方が大事なんでしょうが……」
「面食いで悪うござんしたね。昔っから女の子が好きなの。カードなら余計にね」
「その割には私以外もきちんと使いますよね」
「そりゃあ別に、【戒律】って百合テーマでも無いし」
「百合……?」
む、天使には難しい概念だったかな。LGBTを禁止する宗教もあったぐらいだし……この世界だとどうなんだろ……ちなみにソウルカードには百合テーマのデッキもあります。ソウルカード絶対の世界だし百合も肯定されてそうだなとは思う。王道のボーイミーツガールなテーマの方が強かったりもするんだけどね……
「私達に性別の概念はありませんが」
「あれ? 心読まれた? ……というか、その胸しといて性別の概念が無いは無理でしょ」
もしかして下脱がせたらモノがあったりする? 両性具有みたいな。
「ふふ、確かめてみます?」
「うーん……また今度かな……なんか裁きとか受けそうだし。とりあえず今はこの写真の子かな。どこの子?」
「おや、ご存知でない?」
「しょうがないでしょ。忙しいからそこら辺の大会の結果とかまで追ってられないの」
「いえ。その子、貴女の職場に通ってますよ?」
「え、嘘」
そう言われてみると見覚えのあるような……? 無いような……仕事中は仕事モードだからな……人をヒトとしか見てないので。多分面会とかで来てるんだろうけど……そのうち来るかな?
「週1ぐらいでしたかね、確か」
「うーん……面会の対応もしてるはずなんだけどな……」
まああんなところでカードゲームする訳にもいかないからバトラーとして認識してないのは当然として、こんな可愛い子なら覚えてても良さそうなものなんだけどな。ミカちゃんの写真撮影が上手すぎるだけだったりする?
「ま、とりあえず一回会ってみようかな。見た目が綺麗でも中身がどうかは分かんないしね」
「ええ。天使のような見た目をしてても人類の味方とは限りませんからね」
「自虐ネタだったりする? 反応しにくいんだけど……」
「では、今回はこれで」
ミカちゃん──もとい【裁きの天使】は写真だけ私にくれた後本を閉じた。ぱたり、と小さな音が店内に響く。他に客とか居ないから静かなんだよね。というか私以外にここ訪れる人は居るのかな?
「うん。結果はどうあれ、あの子に会えたらとりあえずまた来るよ」
「ええ。良い収集を」
どういう挨拶? とは思いつつもその言葉に軽く手を振って店を出る。どうせ対戦する時にはまた会う……というか呼び出すことになるんだけど……一応別存在なのかな……? 何回会ってもよく分かんないね。
でもまあ、初めて会った頃はもっと気になっていたはずなのに、人間って慣れる生き物だ。今じゃ「魂を封印したカードを買い取ってくれる天使が経営してるよく分からない店」に違和感を覚えなくなってしまった。多分頼んだら現金化もしてくれる。いつかお金に困ったら提案してみようとは思ってる。
「さて」
バッグからさっき貰った写真を取り出す。写っているのは栗色の髪に柔らかな笑顔を浮かべた少女。大会で優勝した時の一枚らしく、トロフィーを胸に抱いて少し照れたよう。
「可愛いねぇ」
思わず声が漏れる。
うん、やっぱり可愛い。なんだろう。守ってあげたくなる系? 歳下だからかもしれないけど。まあ私の場合結局カードにしちゃうんだけどさ。寧ろ私から守ってあげる誰かがいた方が物語としては王道だと思う。
「……あ。名前聞き忘れた」
……まあいいか。病院に来るなら、そのうち分かるでしょ。見た目は分かってるわけだし。
写真をしまい、夕暮れの街を歩き出す。とりあえず今日はこのまま帰宅。明日からまた仕事だ。出勤が楽しみなのは初めての経験かもしれない。
翌朝。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様」
白いナースシューズに履き替え、ナースステーションへ入る。夜勤明けの人が死んだ顔をしてないから落ち着いてたかな? 書類とかが散らばってないから多分ステった人は居なそう。
「それじゃ吸引回ってきますね〜」
「はい、よろしくね」
いつも通りの一日が始まる。お仕事モードに切り替えないとね。まあ脳内で手持ちの可愛いカードを勘定したりはするけど。流石に集中しなくてもルーティーンぐらいはこなせる。
申し送りも受けて、夜勤組が帰ったあと検温と毎日の処置を終えて。胃瘻に繋ぐ経管栄養を用意してた頃。
「カノンさん、患者さんのご家族来られてます」
「あー……はい、すぐ向かいますんでちょっとステーションで待っといてもらってください」
とりあえず病室に案内しないと。経管栄養は多少遅れても問題ないし。最悪流す速さを調整すればいい。
「すいません、お待たせしました。ええと、どなたの面会で──」
肩まで伸びた栗色の髪。
見覚えのある顔──というか、写真と同じ人懐っこそうな柔らかい笑顔。
「あ、おはようございます。朝比奈の孫です。ええと……305号室の」
その笑顔を見た瞬間、私の頭の中で昨日の写真と目の前の少女が重なった。
(……おお。この子だね、あの写真の子)
ミカちゃんが次の候補として見せてくれた少女。世界大会にも通用するような天才バトラー……まあそれは実力見てないから何とも言えないけど。
「おはようございます、ご案内しますね。もしかして、結構頻繁に来てたりします?」
「え? はい。……もしかして、噂になってたりします?」
「ええ。おばあちゃん思いの可愛い女の子がよく来てるって」
「うわー! 恥ずかしい!」
これが、私と天才少女バトラー、朝比奈ミオとの最初の出会いだった。
儂はあの中からは選ばん。絶対に。あそこのデッキはイラストが全て美少女だ