女の子の魂を封印したカードって凄い高値付きそう 作:好みのタイプはエルフェンノーツ
私の本業はまあ看護師である。カードゲーム世界でも一般的な仕事をしない訳にはいかないのだ。そりゃプロとかは別だけどさ。というかなんかこういう世界の大人キャラって仕事ありきでその職業からイメージするようなデッキを使ってるような気もするし。
そして私の勤め先はパッと病院と言われて想像するような忙しいそれではなく、穏やかないわゆる看取り病棟と言われるようなところなのだけど……まあ、そんな所を詳しく語っても仕方がない。あんまり忙しくない職場でルーティーンな業務を行っていると思ってもらえればいい。
そしてそんな中だとやはり、いつも面会に来る人というのは目立つわけで…いや、覚えてなかった私が言っても説得力無いか?
「朝比奈さん? 週に一回は来てるらしいけど……いい子よねぇ。爪切りとかもしてくれるし、口うるさくあれやってこれやってって言ってこないし。318号室のご家族さんなんて──」
先輩の終わらないお喋りはとりあえず愛想笑いと適当な相槌で流しておいて、さっさと業務の準備を済ませておく。薬を溶かしておいたり、点滴を作っておいたり、まあ色々。別に急ぐことじゃないから今やる必要はないんだけど、時間を作りたいから。
処置に必要な物品を乗せたカートを押しながら目的の病室へ。個室でもないそこはカーテンで申し訳程度に区切られているだけで、だから話し声も丸聞こえ。
「──おばあちゃんも昔やってたんだってね。凄いね、あのデッキ。私、そのまま優勝しちゃった」
この世界、デッキを受け継いでいくのもおかしいことではないらしい。嫁入り道具として受け継ぐとかもなんかありそうだなって私は予想してるけどどうなんだろね。
「世界大会も行けるかもって。私は……まあ、そんなに興味はないんだけど。でも、あの子達を活躍はさせてあげたいかなって──」
「……失礼します」
「あ、ごめんなさい! 気付いてませんでした! お仕事ですよね? いつもお世話になって……」
「いえいえ……こちらこそ面会中にすいません」
まあ別に積極的な治療をするわけでもないから何をするって訳でもないんだけど。軟膏塗ったりとかそれぐらい。あとは整容……爪切りだったり顔を拭いたりとかも仕事ではあるのだけど……
「……大変じゃないですか? 爪切ってあげたり、髪整えたり」
「え? いえ! 全然! 毎日来られるわけでもないし、このぐらいしてあげなきゃ、むしろ申し訳ないって言うか……」
「私達に任せてくれてもいいんですよ?」
なにせ面会にすら来ない人が大半だ。生きてて年金さえ入れば後はどうでもいい……ホビアニ世界でもそういうところはシビアらしい。まあアニメでそんなところが語られるわけないけどさ。ジャンル変わっちゃうし。
「大丈夫ですよ。私がやりたくてやってることですから。それにまあ、私おばあちゃんっ子だったので。こうして一緒に居ないと却って調子狂っちゃうっていうか……」
「ご無理なさらないようにしてくださいね? 学生さんなんて、色々大変でしょうに」
とはいえ表情を見る限り言葉に嘘は無いのだろう。おばあちゃんっ子だったと照れ臭そうに笑う表情は自然で、写真で見るより愛らしいものだった。……うん。ミカエルちゃんがあんな言い方するから裏がある子だったりしないか心配だったけど、そんなことなさそうだね。
それから何度か交流を重ねた……と言っても毎日来るわけでは無いから時間はかかったけれど、それなりに親しくなれたと思う。看護師の規則的には本当はダメなんだけどね。
まあこんな世界だから……なんて言い方もちょっと露悪的だけど、ソウルカードの話題を出したのが良かったのだと思う。ミオちゃんが使ってるデッキの話とか、大会の話とか、色々話題が広がったから。
「【星詠み】って難しくない?」
「まあ決まった流れが無いのは大変ですけど……その分対応力も高いので」
【星詠み】は自分のデッキをめくって特定のモンスターを特殊召喚したり、デッキトップを弄って次のターンに引き込んだりするデッキ。あとなんか魔力カウンターみたいな要素もあったかな?
「カノンさんはどんなデッキなんですか?」
「私? なんか可愛いやつかな。こういうのとか」
「わ、ほんとに可愛い」
見せるのはお菓子モチーフのデッキ。お子様に見せる用のデッキはいくつもあるのです。全部闇のバウトで奪ったやつだけど。これ使ってたのはパティシエール志望の女の子だったな。ソウルカード…エースモンスターは魂を封じて大切に保管してあるのでデッキパワーは落ちてます。
そして仕事終わり。
「いらっしゃいましたね」
「え、分かってたの?」
「いえ。いつ来るか楽しみにしていただけですよ」
「まあ、最近は闇のバウトもしてないしねぇ……」
棚に無造作に並べられたカード群。全部が全部魂を封じたカードって訳じゃないと思う。でも時々なんとなく目に留まるようなものがあって、それについて聞いてみるとまあ誰かしらの魂らしい。私が持ってきたカードも混ざってるらしいんだけど……基本手放すのは興味ないやつだから覚えてないんだよね。
「今日は何の用ですか?」
「んー……なんだろ。冷やかし?」
この手の世界にありがちだけど、デッキはその人の魂と結びついているとか、長く使っているデッキとは特別な結びつきが産まれるとか色々噂話がある。私みたいにいくつもデッキを持っている人間はほぼいないと言っていいぐらい、デッキ一つを大切にするのが常識なのだ。
だからまあ、こうして並んでいるカードにも人の想いとかが宿っていて、それが神の贄になる……らしい。ぶっちゃけ胡散臭いなぁぐらいにしか思ってなかったからあんま真面目に聞かなかった。
「そろそろコレクションにしちゃおうかなぁ……」
「おや、あの子はもう堪能しましたか?」
「うーん……まだ堪能はしてないけど……熟しすぎるよりは今のうちにかなって」
「こちらとしてはもう十分なのですがね」
「相変わらず基準が分かんないなぁ」
「貴女の基準も分かりませんが」
「え、何度も言ってるじゃん」
私のコレクションの基準は第一に可愛い女の子であること。これは譲れないね。使ってるテーマは正直なんでも……いや、グロいのはちょっと嫌かも。そして何より──
「これからの未来が楽しみな子だよ。どんな素敵な未来が待ってるのか想像するのが楽しいんだから」
正確に言えばどんな未来が待ってたか、になるのかな? どんな人と恋をしたのかとか、どんな夢を叶えたのかとか。まあ私が負けたら解放されるのかな? 知らないけど。
「……それならもっと育てた方が良いのでは?」
「分かってないなぁ……ね、世界で一番美しい女性ってどんな人だと思う?」
「見る人の好みによって違うのでは?」
「うわ、つまんない答え。正解はね、顔が見えない女性だよ」
旅はする前が一番楽しく、雨の夜の月が一番綺麗で、食べたことのない物が一番美味しい。人間、手に入っていないものが一番欲しい物、なのである。
「私が踏み躙った子が本当はどんな風に幸せになってたか想像するのが好きなの。そもそも永遠の若さなんて美しさの象徴みたいなもんでしょ? 安っぽいけどさ」
青い果実だからこそ、熟した時のことに思いを馳せられる。まあ、例外もあるけどさ。
「……では、もうお心は決まっているのでは?」
「……おお、確かに」
あれだけ家族思いの愛らしい子だ。きっと素敵な旦那さんでも捕まえて、暖かい家庭を作ったりするんだろう。その前にソウルバトルの方かな? 案外世界チャンピオン……は無理にしても、世界大会に出て実績を残すぐらいはあるかも。プロとして将来それを仕事にしたりして。うーん、悪い癖だな。ついつい色々考えちゃう。まあ、だからこそというか、そのためにというか……
「これ以上先は要らないね。時よ止まれ、お前は美しい……だっけ?」
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