趣味全開で書いていますので、解釈違いの可能性があります。
大丈夫そうな方だけお付き合いください。
ピノコニーの終盤からなので一部原作のネタバレありです。すでにご存じの方向けです。
歌が聞こえた、優しい歌が
旋律は穏やかで女をまた微睡へと誘う
──姉様、あのね
柔い日差し、肌に触れるそよ風、草の匂い
揺蕩う意識の向こうで微笑むコマドリ
──兄様、どうして
歌が、旋律が、変わっていく
責め立てる音に、追い詰める声に
「どうして…?」
不思議に思い、女は瞼を開けた
瞬間、景色が崩れ始める
柔らかな日差しは消え去り、彼女を受け止めていた大地は冷たい石床に変わる
風もなく、寒いほどの静寂だけが残された
ここが自分にとってふさわしいのだと、なぜか思った
はあと息を吐くと冷たさに白いもやとなってとける
何もない夜空
星も月もなくビロードのような濃紺だけがそこにある
辺りを見渡せど見える範囲には何もなく
石床だけがここでの人工物であった
女は、ゆっくりと足を踏み出した
革靴を履いてるのに足音すらしない
踏み出すたびになぜか足元だけが軋む感覚があった
遠くに聞こえる旋律だけを頼りに進む
もうどれほど歩いたかわからない
けれど歩き続けねばと何故か強く思う
歩いて歩いて、その先に
その先に……──?
旋律が、消えたことに気づいた
「ワタシ、は……」
ぼんやりと女は自分の手を見つめた
細くて小さい、なんとも頼りない女の手のひら
それをかつては誰かがあたためてくれた気がする
果たして誰だったか
思い起こそうとした瞬間、激しい痛みがこめかみに走る
次いで焦燥が心を責め立てる
急げ急げと女の背を押す
どこに行けばいいのかすらわからぬまま、女は再び歩き出す
先ほどよりも足取りは重く、遅い
濃紺の空からほこりのように雪が降り注ぐ
肩に積もった雪は不思議と溶けずに女の肩に残り続けた
けれど身体は冷たさを感じず、足取りも変わらない
「もう止めにしたらどうですか?」
この場所において、それは初めて聞いた言葉だった
「?」
歩き続けた女はやっと足を止め声の方を向く
見ればそこには”私”がいた
泣き虫で弱虫でいつも心配性の私は、拗ねたような顔でワタシを見つめている
雪が二人の間に積もる
「止めるとは、何を…?」
「全部ですよ、今やってることも、
これからやろうとしていることも」
女の疑問にも呆れたように肩をすくめて私は答えた
だって私はウェンズデーなのに、なんて皮肉に笑う
「あの子の願いを叶えようとしたのも、
育ての親の期待に応えたかったのも全部無駄でした」
「無い無い無い物尽くしのワタシが何かを成そうだなんて、嗚呼、本当に可哀想」
それには同意する、とワタシも頷く
私の意見はいつだって悲嘆にくれて、現実的だったから
ああ、思い出してきた自分が何故ここにいるのかも、自分が”何”に応えたのかも
「あれは、確かにひどいものですね」
「最悪ですよ、なんてもの食わせるんですか」
鐘も、小鳥も、星核すらも飲み込んで
舞台は開かれ、そして終わらぬ演目が始まった
サンデーは微笑む
その顔を見てウェンズデーは嫌そうに顔を顰めた
「本当に嫌になりますね、鏡というのは」
「多重人格でも無いのに不思議なことですね」
同じ記憶を見ていた、同じ道を歩んだ
違うのは曜日だけ
けれど、それが永遠に交わらない
「恨みの言葉でも伝えにきたのですか?」
「まさか、逆ですよ」
笑うのはウェンズデー
悲嘆にくれていた彼女が答えを掴んだから
妬ましくて、誇らしくて笑ったのだ
「おめでとう、サンデー」
あなたはようやく、
その言葉に、祝辞に、今度こそサンデーは肩の力を抜いた
ああ、ようやくたどり着けた
「ありがとう、
自己問答の果て、閉幕を告げる鐘は鳴らない
獣の中でまどろみながら出来損ないは微笑んだ
───どこかでコマドリの歌が聞こえた
「星……目が覚めたの!?」
夢境から飛ばされた開拓者は、ロビンに覗き込まれていた
周囲を見渡すと夢から覚めた彼らが各々立ち上がる
「さがってロビン!!…チュリ男!」
パチンっともう聞きなれたスナップ音ともに身体が存護の光に包まれる
けれど油断はできない、獣は変わらずに私たちを見下ろしているから
「全く派手なサプライズだね…らしくない」
アベンチュリンは余裕を装い笑うも冷や汗を隠さなかった
開拓者たちは己の武器を構えそれを見据えた
旋律が再び聞こえ始める
「気をつけろ、踏み込むとくるぞ!」
「分かってはいるん……だけど!」
瞬く黄金と灰色の旋律がなぜか激しい火花を生む
旋律のカーテンによって阻まれ獣に刃を届けることができない
「やりづらいなぁ!」
しばし距離をとる、不思議と旋律が遠くなり彼らには攻撃せず獣は漂うばかり
まるで微睡にいるように、ゆらゆらと浮いている
「あくまで防衛機構のようだな、攻めれば応じるがそうでなければ静止状態となる」
「うぅ、どこ見てんのかわかんなくて怖いよぉ」
冷静に分析する者、怖がりつつも武器を構える者
「ロビン、大丈夫?」
星は座り込んでいるロビンに声をかける
先ほどからただじっと獣を見上げている彼女
その表情はこちらからは見えない
旋律が形をなして降り注ぐ
その剣戟のような力を捌きながら
彼らは一歩、また一歩と獣へと近づいていく
その様を、獣の悲鳴のような旋律を聞きながら
ロビンは小さな声で呟いた
「姉様は、」
星はそっと彼女に寄り添う
「とっても泣き虫で」
「うん?」
あれ、と思い星はロビンをここにきて初めて真正面から見た
向こうではヨウが杖を振るも、現れたブラックホールは旋律を吸い込むだけで壁を崩せない
「でも意地っ張りで」
「う、うん」
「頭が固くて、真面目ぶっていて」
「ちょ、ちょ、ロビン!?」
驚いてる間もロビンはどんどんと言葉を連ねる
彼女の視線は未だ獣から離れない
「本当に、音痴で、ちっともうまくならなくて」
星が強く握り込んだロビンの手を優しく包んでくれる
暖かく頼もしい手に、僅かに肩の力が抜ける
かつて、自分の手を握り返してくれた彼女の手を、そのか細さがよぎる
人前で歌うのを極度に嫌がる姉様だった
それは<兄様>になっても変わらなくて
いつだって観客として舞台上のロビンに向けて賛辞を送ってくれていた
「そんなあの人が一度だけ歌ってくれたんです」
あれはいつかの記憶
風邪でうまく寝付けぬロビンを落ち着かせるためだけに歌われたララバイ
ロビンの明日へ導くための優しい不協和音
それは、今も時折、ロビンの手のひらを包む
だから、
──これはワタシにとっても祈りなんですよ
だからこそ
──
「
ロビンの瞳に宿るのは明確な怒りだった
握ってくれた手を、さらに強く握りかえす
「あの人の今までの道のりのその先が…!」
努力が、修練が行き着く先で奏でられた旋律が
歌姫の胸を、妹の首の傷を刺し続ける
「あんな
そう、だからこそ、それは少女の願い足り得た
わがままでただ気に食わないからという理由が
彼女の立ち上がる動機となる
「改めてお願いします、皆さん」
立ち上がり、声を張り上げた
先ほどの悲壮感は消え、あるのは強く揺るがぬ眼差し
「サンデーを、私の姉様を……!」
その願いは、動機は、とある運命を開かせるに値した
星々の間を駆け抜け、銀河を跨ぎたどり着く光明
其は、開拓と調和の相入れぬ星神の一瞥すらも潜り抜けて届く
「─── 一緒に助けてください!」
──以上の決意を以て、彼女のクラスは決定された。
獣がいる故に与えられる資格、
討つのではなく、救うべく手を伸ばす者へ課される茨の冠
──その名は、救世主(セイヴァー)
「夜なんて、すぐに明けます」
悲鳴のような旋律を発する獣を前に歌姫は笑った
「恐ろしく優しい夢はもうおしまいにしましょう」
第二幕
舞台に上がったのは獣の他にもう一人
「星神の祝福ではないのか?」
「すごい……綺麗!」
ヨウとなのはは驚いた顔で、調和ではない力を宿したロビンを見た
「さすが歌姫、ようやくオールインかな」
「皮肉しか言えないの!?アベンチュリン」
「僕は間違ったことは言ってない……ここからが本番ってことだよ」
その言葉に誰もが気を引き締めた
ロビンも己の武器を手に、地に足をつけて見据える
星もまた自身の獲物を握りしめて答えた
「それは、間違いないね」
歌姫の、ロビンの歌声が天高く響く
彼らを照らす星に、包み込む羽となる
開拓の列車を導く道標となる
「さぁ、続きを始めよう!」
女は一人、古びた劇場にいた
薄らいだ夢境に沈むような、朧げな意識の中で
スクリーンに映し出される情景を見ていた
どうして、彼女は諦めないのでしょうか?
映像をただ見るような、感情の伴わないが故に浮かぶ疑問
どうして立ち上がるんだろう、なんで頑張るんだろう
痛くて苦しくてきっと辛いだろうに
「どうして、あの子は、彼らは進むのでしょうか?」
それはね、と傍らのコマドリは歌う
気づけばそれは、当たり前みたいに彼女の隣の座席にいた
無防備なまま、真っ直ぐに女を見つめている
ワタシを導いた愛らしい小鳥
お前の
いつまでも続きますようにと心の底から願っていた
だから、女も彼女の答えを優しく待つ
スクリーンの向こう側では依然として誰かが歌を歌っていた
「ええ、それは?」
瞬きの間に小鳥は少女の姿を象った
それはね、と幼い頃のロビンが画面の向こうと歌を重ねる
開拓者の一撃が羽根の壁を貫き、獣の眼前まで迫る
レンジャーの銃弾が、砂金石のダイスが降り注ぐ
轟音の中でもそのワガママだけはいつだって彼女の元まで届く
「姉様!お願い!!」
それはね、と目の前の少女が今にも泣きそうな顔で笑った
見えない滴を拭おうと、女は咄嗟に手を伸ばす
「帰ってきて!!」
──あなたが、いてくれたからなんです。
伸ばされた手を、
小さな細い指先が、それでも力強く掴んだ
ぱきんと乾いた音がした
旅子。。。。