音楽が高らかに鳴り響く
人々は手を掲げ笑う
混じり合う音楽に身を任せながら揺れて
まだ見ぬ明日へ期待を寄せて
開拓者たちは翔ける
足が止まることはない
誰かの歓声が、祈りが、また彼らに力を与える
歌姫の声が風となって背中を押し、
黄金の旋律をかき分けて進む
獣もその光景を見て笑う
開拓者とともに駆け上る歌姫を見下ろして
いつかの舞台を思い出す
斜陽の中、歌う少女はもういない
月明かりすら霞むほどのスポットライトを浴び、
銀河の光を束ねて歌う、救世の歌姫がそこにいた
「お前の歌は、明るいですね」
そのありきたりな賞賛に、
歌姫は嬉しそうに笑って答える
「ええ、だって貴方が教えてくれたんですもの!」
貴方がくれたはじまりの音
「貴方が、私を愛した
白銀が輝きを増し、世界が崩れる音が大きくなる
「私もやっと貴方に返せるの!」
だから、だからとロビンはめいっぱい手を広げて姉へと差し出す
「姉様!!起きて!!」
泣くのはよして、夜泣きどり
一緒に朝を迎えに行こう
その眩しさに目を細めながら
サンデーは天へと手を翳す
「それでもと、ワタシは言い続けます」
なぜなら、なぜならば
「これは──お前と愛した夢なのだから!!」
収束された力が今度こそ振り下ろされる
刃のようなそれをロビンの白銀の波が受け止める
二つの色が紺色の世界へと満ちて
反発し、重なり、拮抗する
そして、その最中
「皆さん!今です!!」
──タン、タタン!
旋律が相殺された一瞬の空白に、足音が響いた
タップダンスのようにリズムよく、軽快な音が駆け抜ける
開拓者は暗闇の中でも活路を見出す
祈りでも、願いでもなく
人類が切り開くからこそ現れる可能性への足がけ
それこそが──開拓の精神
調和の導きを纏い、救世の加護を浴びて
前を向くための一撃に愛を込め
白銀に輝くバットを振りかぶる
回避しようと動いたサンデーに
開拓者の声が届いた
「サンデー」
宵闇の中で一番最初に光るもの
終わりを知らせる、明け星
開拓者の瞳にうつるそれ
その輝きが、いつかの小鳥と重なる
「アンタの歌、悪くなかったよ」
『──ねえさま!おうたおじょうずね!』
サンデーの回避の動きがわずかに鈍くなる
その隙を逃さず、迷いなく振り抜かれた一打が、
サンデーの翼を、星核を、今度こそ打ち砕いた
星核を砕かれた獣が動きを止め、黄金の旋律が霧散する
終わりを示すように亀裂からより多くの光が降り注ぐ
「これってどうなったの!?」
「わからない、だが星は確かに星核を砕いた」
「手応えはあった、けど……」
警戒を解けぬまま構えている開拓者たち
固唾を飲んで結末を見守る観客
その様子をぼんやりと見下ろしながら
サンデーは思う
ここが、果てか
歌を褒められたのは、これで二度目だ
皮肉なことにその二度目がこんな時だとは
ぼろりと羽が落ち、獣の体が崩れゆく
夢境の人々が己の意識を取り戻していくのが感覚でわかる
夢の国が、終わりを迎え始めた
朧げになってきた感覚で顔を上げた
招かれざる開拓者
予期せぬカンパニーからの使者
暗躍した時計屋たち
そして、歌姫
全く異色の組み合わせだ、脚本家はどうかしている
どんどんと身体の感覚が失せていくが、
それでも意地で彼らに眼差しを送った
崩れてできぬ拍手の代わりに
賞賛できぬ口の代わりに
──ああ、見事な
満足げに笑って、
獣は、サンデーは、迫り来る闇に身を委ねた
次いで、暗転
「姉様!!」
───羽ばたいたのは、一羽の小鳥
崩れゆく獣の身から姿を現したサンデーを受け止めるべくロビンは走り出した
杖を投げ捨て、崩壊していく床にも怯まずに姉の元へ向かう
「アベンチュリン!」
「全く慌ただしいね!!」
パチン!とスナップ音が鳴り響きロビンの体がオレンジの光に包まれる
そのおかげで、落ちてきたサンデーの衝撃をどうにか耐えた
「ナイスキャッチ!」
「やるじゃん!ギャンブラー!」
「最後まで目が離せないよ」
わいわいと騒ぐ開拓者たちに目をくれずに
動かない姉を抱え込んで、ロビンが呼び掛けを繰り返す
「ねえさま、おねがいよ」
どうか眠ってくれるなと、目を開けろと
一心に祈りながら声をかけ続ける
獣が消え失せたことにより、
維持されていた夢の国はどんどんと崩れていく
その隙間から空が見えた
雨のように光が降り注ぐ
そのうちの一筋がサンデーへと届き
彼女の瞼を震わした
「──姉様、」
ロビンの呼びかけに応えるように、彼女の唇が震えた
震えは大きくなり、指先からつま先までかけめぐり
羽化のように、サンデーの羽は再び白銀を取り戻す
ぱちり、と姉と呼ばれた女は目を開けた
視界いっぱいに映るのは、泣き出しそうな妹とボロボロの開拓者たち
存護の加護を纏うロビンは、光を浴びてさらに輝いていた
そのオレンジの光が眩しくて、サンデーは顔を顰めて聞く
「朝ですか?」
その言葉にロビンは顔を綻ばせた
仕方のない人を見るように慈しみを持って答えた
「ええ、姉様!もう明日よ!」
太陽が東の空から顔をのぞかせる
差し込む橙色に世界が染まる
崩壊するピノコニーの舞台の中心に、
二羽の小鳥がいた
朝日に包まれ、手を固く握り
崩れゆく床を気にせずに身を寄せ合っていた
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これにて閉幕