「湊…?」
麗馨がポカンとした顔で俺に声をかけてくる。そりゃあびっくりするだろう。もう死んだと思った人間が、明らかに違う風貌で蘇ったのだから。背中からは翼が生え、鉤爪が伸び、顔も普段の間抜けな顔からキリッとした美貌に変わった。
「これが俺の力だ。瀕死になると覚醒する。全く、使えねぇ能力だぜ」
「お前…」
敦も俺の変貌に絶句している。
「多分あの魔物は、俺一人で十分戦える。でも、やっぱみんなの協力は欲しいんだ。その方が戦いやすいし。その辺、敦、お前が何とかしてくれないか?作戦立てるの上手いしお前」
「外見が変わっても、中身はそのままだな湊は。いいよ。俺が作戦立ててやるよ」
敦は俺にそう言って、少し離れた場所にいる他の皆に向かってこう叫んだ。
「おーいみんな!火球受けて死んだと思われた湊が超イケメンになって生き返ったぞ!そんな湊からこんな依頼がある!」
「ここからはお前の口で言え。多分お前のその顔なら女子はイチコロだ」
と敦が耳打ちしてきたので、俺はこういった。
「いいかみんな。あの魔物は全員で協力しないと倒せない。だからみんな本気で戦って欲しい。それが俺からのお願いだ」
途端に皆がざわめきだす。そのうちの一人に、
「なんで今は攻撃が来ないんだ?」
と、少し場違いと思われる質問をされたと思ったらそいつは髙木諒磨だった。
「俺が結界を張ったからだよ。んで、そんな事はどうでもいいからもう一つ聞いてくれ。俺は確かに今、凄い事になってるけど、この身体がいつまで持つかは分からない。でも身体能力は飛躍的に高まったし、魔物を倒すとしたら今しかないと思うんだ。もしこの機会を逃せば多分いつまで経ってもみんなが逃げて、俺たちだけが戦って…そうこうしてるうちに俺たち四人のうちの誰かが死んで…そんな事してたら一生終わらねーと思うのよこの戦い。もう…終わらせようぜ?こんな理不尽な戦い。終わらせなくてもどうせ死ぬんだしさ」
文章構成はかなり滅茶苦茶だが、言いたい事は全て言った。これでみんなが動いてくれなかったら、その時はその時だ。
「どうだみんな?やってくれるか?」
敦が俺の後ろから再び畳み掛ける。皆ざわめいているが、否定的な言葉は殆ど聞こえてこない。その時、あの男、髙木諒磨が進み出てきた。
「今までお前と接してきて、凄い奴だとは思ってたけど、どこへ行ってもその凄さは変わらないよ。お前に言われると何故かやる気になれる。なぁみんな?」
諒磨が皆にそう言うと、全員が拍手した。
「そうと決まれば話は簡単だ。敦、あとは宜しく」
「よし。じゃあまず、今ここにいる十六人全員の持っている能力を確認したい。一人ずつ聞いていくから教えてくれ」
「え、全員、物体を移動させる能力じゃないのか?」
諒磨が信じられない質問をした。
「お、おい、それは本当か⁉︎」
敦が全員に問うた。どうやらその通りのようだ。
「よし、それなら俺にとっちゃあ余計に都合がいいぜ。あ、一つ聞かせてくれ。物体を移動させるっていうのは、瞬間移動か?」
敦が再び聞いた。
「いや、瞬間移動じゃない。じわじわと物を動かしていく感じだ。分かり易く喩えるなら、念力かな?みんなもそうだよな?」
諒磨の言葉に全員が首肯する。
「そうか。よし、じゃあ今から作戦の説明をするからよく聞いてくれ。まず、俺と麗馨を含めた十八人で、三人のグループを六つ作ってくれ。そして、六つのグループで代わる代わる魔物を拘束し続ける。その間に湊が一気に攻撃してフィナーレだ。みんな大丈夫か?」
敦の言葉に全員が頷いてくれた。
「よし、じゃあもうここの結界は解くから。みんな、しっかりやってくれ。んじゃ俺はちょっと行ってくる」
俺は全員に手を振って、麗馨に微笑みかけてから大空へ飛び立った。
魔物はすぐに俺の姿を確認してこちらへ襲ってきた。
「うわー、こいつ意外と速いし」
俺はそんな間抜けな独り言を呟いて、皆がいる方向へと魔物を誘導した。向こうは俺を追うのに夢中で、地上にいる皆には気付いていないようだ。ある程度近づいたところで、俺は敦に叫んだ。
「よし、今だ!」
「任せろっ!」
その瞬間、魔物の動きが止まった。
「うぉぉらぁぁああ!」
俺は雄叫びを上げて、肉質が柔らかい首に向かって鉤爪を突き立てた!ぐしゃ、っと鈍い音がして魔物の身体がよろめきかけるが、拘束をされている為、それすら許してもらえない。
俺はここぞとばかりに猛攻撃を開始した。鉤爪で一心不乱に魔物の首を切り裂く、切り裂く、切り裂く!
十発くらい攻撃をした時だろうか、不意に魔物の拘束が解けた。どうしたのかと思って皆の方を見ると、息も絶え絶えにその場に座り込んでいる皆が見えた。敦だけは立っているが、もう力は残っていそうにない。
「もう俺たちは限界だ…湊、あとは頼んだぞ…」
敦が出来る限り声を張り上げてそう言っている。ここまできたら負ける訳にはいかない。
「おう!お前の気持ち、しかと受け取った!」
俺はそう答えて再び魔物に向き合う。魔物は明らかにダメージを受けていて、勝算はこちらにあると思われた。のだが。
「ぐるぁぁあああ!」
魔物が雄叫びを上げた。まだ体力が残っているというのか。そのまま、魔物の猛攻撃が開始される!
俺は防戦一方になった。しかし、避けきれない攻撃が俺の腕や足に掠り、それだけでこちらはかなりのダメージを食らう。
「くっそ…」
何か…何かいい方法はないのか…と、その時。俺は魔物の棘だらけの腕に、一部だけ棘のない部分がある事に気付いた。
俺は火球を吐いてばかりいる魔物がパンチしてくるよう、一気に距離を詰めた。そうすると、案の定、魔物はパンチを繰り出した。
「かかったな…」
俺はニヤッと笑い、繰り出されたパンチを紙一重で避け、棘のない部分に掴まった。
「ぐるぉぉぉああ!」
勝利を確信したのだろう、魔物は雄叫びを上げた。後ろから戦闘を見ていた皆も、口々に俺の名前を叫んでいる。
その時。
「あめぇーんだよ」
俺は腕から首へと一気に距離を詰め、魔物の首に渾身の一撃をぶっ放した!
魔物はよろめき、そのまま四散した。
「終わったな」
俺のその一言で、隠れていた全員が俺に向かって走ってきた。
「やった、やったぞ湊!」
「七木くん最高!」
皆が口々に賞賛の言葉をかけてくれる。その中に、一際(ひときわ)俺の注意を引く声があった。
「湊!」
その声の主は、そう、麗馨だ。麗馨は俺の前に立つと、
「もう、無茶ばっかして!」
いきなりビンタしてきた。俺は抵抗する事も出来ずに、そのまま麗馨に倒れ込む。
「私も、愛してるよ…」
麗馨がそう言った瞬間、俺の身体が光に包まれ、気が付くと、いつもの姿に戻った俺が、麗馨に抱きついているだけだった。
実はここで終わり…ではないんです。
もう少し続きがあるのでどうぞご期待ください。