ザ・ワールド・ザ・サバイバル   作:きゅぼ

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一日目 夜

夕食の会場に着くと、既にたくさんの生徒がいた。戦闘に行かなかった生徒たちが夕食を摂っているようだ。俺たちは用意された席に座り、一息ついた。

「はー、今日は疲れたねー」

喋り出したのは薫だ。

「ああ。今日の朝まではこんなことになるなんて誰も思ってなかったのにな」

敦が反応する。そういえばこの魔物騒ぎは今朝始まったことだ。何だか遠い昔のことのように感じる。

「なんで…私たちなんだろうね」

そう言ったのは麗馨だ。

「私たち何も悪いことしてないのに、死ぬかもしれないっていう状況に置かれて…」

「理由なんて、ねぇよ」

麗馨に俺が答える。

「どういうこと?」

「多分全国の高校から無作為に抽出された高校がこの零藍高校で、そこから無作為に選ばれた人間が俺たちなんだろ。運動神経がいい四十人って坂田は言ってたけど、そんな面倒なことを坂田(あいつ)がするとも思えない。俺たちは運が悪かっただけだよ。だからこの状況も、諦めて受け入れていくしかないんだ。これが俺たちの運命だったんだ…死ぬほど癪だがな…」

あぁ、久々にこんな格好つけたことを言った気がする。麗馨はひいていないだろうか。麗馨の顔を見る。驚くべきことに麗馨は泣いていた。

「そうだよね…運命なんだよね…」

湿った声でそう呟いている。

「な、なぁ、目の前に美味そうなモンがあるんだから飯食おうぜ?てか飯食うの催促したの湊のくせにお前食わないでどうするんだよ。それに麗馨。そんなしょげた顔はお前に似合わないぞ?」

本当に敦は気が利く。

「そ、そうだね!なんか変なこと言ってごめん!みんな食べよ!」

麗馨のその言葉でようやく夕食が始まった。俺は用意された料理を全て食べ尽くす勢いで食べた。成長期の高校生の胃袋を舐めてはいけない。

「お前、食うのはいいけど後からお腹壊すなよ」

「ははっへふっへ!(分かってるって!)」

「お前も元気だな…」

こうして夕食は終わり、俺たちは部屋に戻った。

 

「はぁー今日は本当に疲れた!」

「だな」

「ねぇ湊、お風呂入る?」

「ななな何を言っているんだい麗馨さん?!」

「いや、どっちから先に入ろうかなって。湊こそ何をそんなに驚いてるの?」

俺はてっきり麗馨が一緒に風呂に入ろうと言ってきたのかと思ったのに…残念だ。

「い、いや、なんでもない…麗馨が先に入れよ。俺はテレビでも見てるからさ」

「そっか、じゃあ私先に入るね」

「おう、いってら」

「覗き見しないでね」

「するかよ」

口ではそういったものの…見たかった。俺は脱衣所に消えていく麗馨を見届けた後、テレビを点けてベッドに座った。しかしどの番組も死を運ぶ者(デス・ブリンガー)のことを取り上げるばかりだ。俺はつまらなくなってテレビを消し、ベッドに横になった。今日一日、本当にいろいろなことがあった。朝学校に来て徴兵され、魔物と闘わされ、今に至る。そういえば今日は一日中麗馨といた。嬉しい。だがこんなシチュエーションでは…それと、麗馨は今日どことなくおかしかった。戦闘が終わってホテルまで俺と競走した時は麗馨はとても楽しそうだったのに、夕食の時、麗馨は泣いていた。めまぐるしく変わっていく麗馨の感情。俺にはついていけなかった。麗馨に一体何が起こっているんだ…

気が付くと、誰かの声がした。

「…て、湊、起きてってば」

いつの間にか俺は寝てしまったようだ。

「おう…」

俺は眠い目を擦り、起き上がった。

「!!」

そこに立っていたのは、あまりにも可愛い女の子。風呂上がりのためか顔はほんのりと上気し、美しい黒髪は絹のようにしなやかだ。しかも、ホテル備え付けのパジャマを着ているため、肌の露出が若干多い。俺の大好きな女性(ひと)、桐山麗馨がそこにいた。これで眠気も吹っ飛んだ。

「…なにジロジロ見てんの?」

「な、何でもない、何でもないよ…じゃあ俺もお風呂入るわー」

見惚れていた、とは言えない。

「変なの」

麗馨はその一言を残し、携帯をいじりだした。

 

俺は湯に浸かりながら考える。何してて寝ちゃったんだっけ。あ、そうそう、麗馨の言動がどことなくおかしいのは何故かと考えていて寝てしまったのだ。今日見た限りでは、麗馨の感情は目まぐるしく変化していた。みんなでわいわい盛り上がっていると思えば、急にシリアスな感じで話し出す。そんなこともあった。どんどん変わっていく麗馨を前に俺はどうすることもできない。大好きな、人なのに。俺は今まで麗馨の何を見てきたのだろう。

「はぁ…」

ため息が出てしまった。しかし憂いていても仕方がない。俺は取り敢えず風呂から上がった。麗馨はもう携帯を触っておらず、ベッドに座ってぼんやりと外の景色を眺めている。

「上がったね」

俺に気付き、麗馨が声をかけてきた。

「おう」

俺は麗馨の隣に腰掛けた。

「今日一日…色々大変だったね」

麗馨が喋り出す。

「だな…」

それ以上は二人とも言葉を発することなく、無言で座っていた。無言の空間の中で俺は首を動かして麗馨の顔を見る。物憂げな表情だ。俺が見たいのは麗馨のこんな顔じゃない…もう我慢できなかった。俺は麗馨を救う。それしか頭になかった。

「なぁ、麗馨」

「ん?」

「もう一回聞くけどお前おかしいよな、今日」

「だから、何が?」

麗馨が氷のように冷たい表情で冷たい言葉を放つ。怖い。逃げたい。でもここで逃げるわけにはいかなかった。

「いつもみたいに明るく振る舞うかと思えば、急にシリアスな感じで話し出したり、泣いたり、笑ったり」

「湊は何が言いたいの?」

「一人の人間が、ここまでたくさんの違った表情をできるのは不自然じゃないか?」

「っ…」

どうやら核心を突いたようで、麗馨は動揺している。

「いや、それがわるいって言ってるんじゃなくて…ただ、なんでなんだろうなって。言うと失礼だけど麗馨は今まで、少なくとも俺が知ってる中ではこんなに表情豊かじゃなかった」

麗馨は何も、喋らない。俺は麗馨が口を開くのを待っていた。ただ無言で、彼女の瞳の奥を見つめる。

 

どのくらい時間が経っただろうか。麗馨が不意に話しだした。

「私、死ぬのが怖くて…怖いからって何もしないのはいけないと思うから、たまにはみんなを元気づけるようなことも言うんだけど…いつもそうやって元気なふりをするの、私にはなかなかできなくてさ…」

「死ぬのが怖いってのに理由は…ないか」

「うん…」

そうだろう。誰もが死ぬのを恐れている。麗馨の肩の荷を軽くする方法はないのだろうか。…いや、ある。自分が犠牲になればいいのだ。俺が麗馨を守ればいいのだ。俺は確かな覚悟を決め、話し出す。

「俺だって死ぬのは怖いさ。でも、もっと怖いことが俺の中にはある」

「?」

「お前を守れないことだよ、麗馨。お前とはガキの頃からの付き合いだしさ、大切な人だから」

すごくクサい台詞を言った気がするが、これが俺の本心だ。麗馨が口を開く。

「その…えっと…あ、ありがと。こんな私を、守りたいって、思ってくれて」

「おう」

「私も、湊を守るよ」

「おう…って、え?俺守られるの?」

「私だってそんなにひ弱じゃないよ」

「おう、そっか、ありがとな」

「もう、湊さっきから『おう』ばっかり」

と言って、麗馨は少し怒ったような顔をした。

「あ、わりぃ」

「そんな注意散漫な人に守ってもらうんじゃ、私不安になっちゃうな〜」

麗馨がこちらを覗き込んでくる。

「だ、大丈夫だって!俺だって伊達にバレー何年もやってる訳じゃないし!」

「ほんとかなぁ〜?」

そう言って麗馨は俺の目の前で首をかしげた。その小動物のような動作に元からの美貌が加わり、その…もうだめだった。可愛い、を超えていた。

「?!」

麗馨が声にならない悲鳴を上げた。気付いた時には、俺は麗馨を抱きしめていた。

「!?」

今度は俺が、自分に驚愕する番だった。慌てて麗馨から離れ、顔を背ける。流れるのは気まずい沈黙。

「いやぁ〜、ご、ごめん…」

俺は力なく麗馨に謝罪した。

「いや、いいよ。…てか、その…私も言いづらいんだけど…も、も、もう一回…して?」

「!?!?!?」

もう俺は興奮しすぎて自分が分からなくなっていた。やばいやばいやばいやばい。もう一回だと…

「あの、ごめん、嫌ならいいんだけど…湊に抱かれた時、すっごい気持ちよかったっていうか安心したっていうか…私、いつからこんなに弱くなっちゃったのかなぁ…」

「いや、俺はいいよ。麗馨は弱くないし。今日だって頑張って戦ってたじゃん。俺には到底できない芸当だよ」

「あ、あの時は必死で…でも、自分一人じゃ、何もできないんだよ…正直、もう戦いたくない…」

「まぁ、みんなそれは思ってるよな…でも俺は麗馨を守るって決めたし、戦うよ。大して役に立たねーだろうけどな」

「いや、そんなことないよ。私を守ってくれる、湊だもん!」

そう言いながら、彼女は俺に抱きついてきた。俺は一瞬驚いたが、先ほどの彼女の「もう一回」という言葉を思い出し、大人しく受け容れた。

「湊ったら『俺はいいよ』とか言っときながら華麗にスルーしようとするんだから〜」

俺の腕の中で笑いながら、麗馨が毒づいてくる。

「ごめんって!俺、スルーする気はなかったんだけど、喋ってるうちに有耶無耶になって、タイミングが掴めなかったんだよ」

俺も笑いながら、返す。

「あぁ〜この感じ。湊の腕の中ってやっぱいい…」

麗馨はそんなことを言っているうちに、すうすうと寝息を立て始めた。俺の腕の中で寝てしまうとは、よほど疲れていたのだろう。今日は大人しく寝かせてやろう。

「ったく、少しは警戒しろよな。俺は男で、お前は女なんだぞ」

はぁー、と一つ溜息をついてから、俺はふと考えた。麗馨は俺の腕の中で寝てしまっている。起こすというのは酷な話だ。となると、俺が麗馨をベッドに寝かせなければならない。現時点で俺はベッドに腰掛けているので、麗馨を寝かすのはそんなに難しいことではないが、短い距離とはいえ、俺は麗馨を運ばなければならない。途端に、心臓が早鐘のように鳴りだす。やばいやばい。俺は麗馨を抱っこするのか。こんなに、可愛くて、愛おしい人を。ぬわぁぁああ〜…

ーーー5分後ーーー

「よし、やろう」

こんなところで麗馨に風邪を引かれてはたまらない。と、その時。

「ん…どしたぁ?」

麗馨が目を覚ましてしまった…!俺のさっきの覚悟は何だったのだ。

「お、わりぃ、起こしちゃったな」

「うん…今何時?」

「十一時半くらいだな」

「あれぇ?全然時間経ってないね。私、もう朝かと思った」

「もう朝だとしたら、俺はこの体勢で何時間いたことになるんだよ…」

「ん〜、7時間くらい?」

いや、真面目に答えさせようと思って聞いたんじゃないんだけど…

「まぁそんなもんだろうな、うん。つーかそれより、もう寝たら?」

「んー、寝たいけど、湊と話したら目が覚めちゃった」

「あぁ、わーったよ。お前が寝られるまで付き合ってやっから」

「やったー」

笑いながら麗馨は俺に抱きついてきた。

「おいおいまたかよ…お前、寝ぼけてんの?俺にこんな思わせぶりってか…そういう態度取って…俺期待しちゃうよ?」

「ん?何を期待する?」

「いや、麗馨って俺のこと、いい感じに思ってくれてんのかな〜みたいなさ」

「?」

麗馨にはどうやら俺の意味するところが分かっていないようだ。ったく、鈍感な奴である。俺が意味の分からないことを言っているだけかもしれないが。

「だからさ、えっと…その…まぁ…俺らって結構ガキの頃から一緒に遊んだりしてるよな?」

「うんうん」

「それで…麗馨と接する機会も多かった訳で…今でもこうやって友達やってるしさ」

「うん」

「それで…何だろう…一緒にいる時間が長ければさ、相手の色々な面が見えてくる訳じゃん」

「…うん」

「そうこうしてると、魅力的なところがたくさん見えてくる訳で…」

「…」

先ほどまで相槌を打ってくれていた麗馨が遂に相槌をやめた。聞き入ってくれているといいのだが…。

「だからさ、麗馨は俺からすると、すっごい魅力的に映ったの。昔も、今も」

「…」

「ここまできたらもう分かるだろ、俺の言いたい事が」

「いや、全然…」

おいおい、ここまで言わせといてとぼけるのかよ…じゃあもう俺の口から言うしかないのか。今まで、ひたむきに俺が想い続けてきた麗馨。ずっと、好きだった。それが今、叶うかもしれないし、叶わぬ夢になるかもしれない。でも、ここまで言ったのだ。もう後戻りはできない。俺は意を決して口を開いた。

「俺はな、麗馨。お前が…すっ、す…」

「?」

やばい、ちょっとミス。テイク2。

「俺はな、お前の事が好きなんだよ。あ、もちろん恋愛的な意味でな」

「…!」

麗馨は驚きすぎてどうリアクションしたらいいか分からないようだ。

「そりゃびっくりするよな。何年も幼馴染やってて、今更好きなんて。正直、俺なんか眼中にないだろ?やっぱ敦くらい格好よくないと麗馨には釣り合わないか…」

刹那、麗馨は笑い出した。

「はっはっは、あーおかしい!おかしいよ!湊いきなりどうしたの?雰囲気重すぎ!もっと軽くいきなよ!まぁ返事としてはこちらこそってところだけど!」

はぁ、笑われた…軽くあしらうくらいに思っていたのに、まさか笑われるとは…

「お前、俺の真剣な気持ちを…」

「ごめん、悪かったって。大丈夫、多分私は君が私のことを好きって想ってる以上に君のこと好きだから」

「なっ…好き、だと…」

「うん好き!大好きだよ」

満面の笑みでその言葉は反則だ。

「でもこんな俺の…」

「はいはいそうネガティブにならない!好きなことに理由なんかいらないんだよ。そんなこと言ったら、湊は私のどこが好きなのさ?」

「ん?俺か?麗馨はやっぱ可愛いじゃん?あと性格いいし」

「私の性格をいいって言ってくれる湊の方が性格いいと思うけどなぁ」

「そ、そうか?」

「あー、湊照れてる〜。顔赤いよ?」

「ちっ、違う!これは夕陽のせいだ!」

「あははっ、冗談面白いね湊」

「なんか俺遊ばれてね…?」

「うん、ごめん遊んだ。…そろそろ寝よっか?」

「おう」

俺がベッドに入ると、麗馨も"俺が入ったベッド"に入ってきた。

「どうせならさ、同じベッドで寝ない?」

「なっ…いいけど…お前そんなにグイグイ攻めるやつだっけ?」

「うーん、どうかなー?だってさ、湊って消極的じゃん。湊がこうしてくれるの待ってたら、私おばちゃんになっちゃうよ」

それは言い過ぎじゃないか…と思ったが、あながち間違いでもないので黙っていた。

「んー、やっと寝られるー。あ、湊、電気消してくれる?」

「りょーかい」

俺は電気を消し、麗馨のいるベッドの中に入った。

「湊やっぱ大きいね」

「そりゃ男だからな」

「そだね」

その会話を最後に、麗馨は黙った。俺は、先ほど起きた出来事を整理してみることにした。前からずっと好きだった麗馨にダメ元で告白。まさかのオッケーをもらえた。つまり、麗馨は俺の彼女。今隣にいる人が、俺の彼女なのだ。改めてそう認識すると、恥ずかしさが込み上げてきた。ちょ、今思ったらこの状況やばくね?!俺、こんな可愛い麗馨と付き合ってるけど!心が訳の分からない悲鳴を上げている。いや、歓喜の声、とでも言うべきか。麗馨の顔が見たくなって、顔を横に向けると、麗馨が同時にこちらを向いた。顔を見合わせ、一瞬フリーズしたが、麗馨が笑いかけてくれたのを見て、俺も笑顔になった。やばいやばいやばいやばい。この顔はアウトだ。可愛すぎる。

「二人とも同じタイミングなんて、すごい偶然だね」

「あぁ、そうだな…あのさ、俺…寝られないんだけど」

「うん、私も同じ」

夜なので大きな声も出せず、俺たちはくすくすと二人して笑った。

「湊、その…ありがとね。私もずっと湊のこと好きだったけど、自分からいく勇気がなくて…片想いのまんま、終わっちゃうのかなって思ってた。だから私は今すっごい嬉しい。それが寝られない理由だと思うけど」

「俺もずっと片想いなのかと思ってたよ。思い切って言ってよかった」

「よかった、よかったね…」

「おう…」

寝られない、と言って数分、俺たちは眠くなってきた。数分前の俺たちは何だったのだ。そんなことを思いながら、俺たちはほぼ同時に眠りについた。




3話目にしていきなり動きがありました。笑
どうでしょうこのバカップルぶりwww
僕もいつかこんな事してみたいものです。
出来ないから小説という自分だけの世界でするわけですけどww

魔物を倒すのはまだ少し時間がかかりそうですが、どうかこれからも温かく見守ってください。
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