俗物オジ神父は闇堕ち天使から逃げられない! 〜神の烙印で周りが敵ばかりと知って天使は病んだ。嫌ってた俺が数少ない味方と知って、後悔でさらに病んだ〜 作:輝く背中
「――ささ、司祭様。今月も信仰値を」
「うむ。悪いな」
大聖堂の一室、僕と司祭以外は誰もいない空間で。
司祭が僕に手を伸ばすと、そこから柔らかな光が降り注ぐ。
「テディ・コーストを清め給へ――――」
祝詞とともに、ふわりと体が温かくなったような、なっていないような。
けれど、実際に効果があるかどうかなんてどうでもいいんだ。これは単なるパフォーマンス。集めた信仰値を移譲するに足る善行、それを積んでもらっているだけ。
この仕組みを自覚し、ある程度操れる唯一の人材として…………僕は教会内で地位を得てみせる。
手始めに、この司祭の部下として取り立ててもらわないと、と。
頭を下げつつ、弱くなっていく光を眺めながら考えていた、その時だった。
バン! と、ものすごい勢いで部屋の扉が開いた。
おっとまずい。この方は……――
「――――コースト、さん! あなたはまたっ、なにを……っ」
視界に飛び込んでくる真っ白。大きな白い羽に、同じ色の清潔でシンプルな服。頭は綺麗な金髪で、ふわふわと金糸のように揺れている。
……さて。見られてはいけない人に見られてしまったね。どうしようか?
「あー……。弁明の機会はいただけるので? ――天使様」
「ダメですっ。もう、ぜんぶ見えてしまっているのですからね!? あなたの信仰が! なぜか! そちらの方に移っているのが!」
「て、天使様……! いや、これはその……こやつが勝手に……!」
あ。こいつ、自分だけ逃れようとしているな。……まあ、ここは恩を打っておこうか。
「……ああ、天使様。どうぞ誤解なきように。こちらの司祭様がおっしゃる通り、今回のことは僕の独断で行ったものなのです」
「……そう、なのですか?」
「う、うむ! 間違いありませんぞ! 私はこやつから話したいことがあると呼ばれ、洗礼を依頼されただけでな! それがまさかこのような、信仰の操作を目的にしたものとは……」
困ったように僕と司祭を見比べる天使様。可愛らしい顔には迷いが浮かんでる。
「私はこれまで、ずっとこの聖十字教会に、白神様に、そして天使様に! 強い信仰を捧げてきた! それをこのようなせせこましい真似で汚すような、考えもしたことがない……!」
そうだろう、みたいな感じで僕を見られても。信仰値の移譲も僕から提案したら喜んで受け入れたものを。
しかし、この自らの保身に必死な様を良い方向に誤解したのか、天使様は納得した様子で――
「――わかりました。ではやはり……通報通り、コーストさんが企んだことなのですね? 詳しくお話しを聞かせてもらいます……!」
「はい、もちろんです……。ただ、色々と誤解もあるように思います。僕からも事情を正直に語らせていただきますよ」
さあ、話術の見せ所だ。今日はどんな言い訳で切り抜けようか。
ただ、信仰値の操作は僕もだいぶ慎重に扱ってきた領域だからね。気合いを入れて誤魔化さないと。
そんなことを考えていた僕は…………まだ、これからとんでもない事が起こるなど予想だにしていなかった。
『――不遜なる我が子らへ、鉄槌を下す』
「!」
頭の中に響く、ふつうではない雰囲気の声。しかも、聞こえたのは僕だけではなく、近くにいる者たち全員にみたいだった。
そして、続く言葉にみんな声を失う。
その声は言った。
『我が名は黒神、聖なる十字の一翼を担う神。この頃の信徒の水準低下を是正するためにも――――我が教えに背き世を乱す叛徒に、消えぬ烙印を与えよう』
! 背信者に、それと分かる印を? ……それは、僕の聖職者生命が絶たれるのでは。
まずいぞと、さすがに焦っていると。
黒神とやらは、力強く告げた。
『――では……背信の咎をその身に受けよ……!』
直後。
まるで目に見えない強大な力が、この聖都中を駆け巡ったような感覚。もちろん僕の体も通り抜けていった。
まずい、もしは今の力はその烙印とやらの? 防ぐ間もなく……!
だとすれば、僕の計画は完全に崩れ去る。この数年聖都でなんとか築いてきた地位が完全に崩れ去って……。
『烙印は成った。あとの裁きは…………我が化身たる天使ルミエルに一任しよう。烙印を刻んだ条件は……ルミエル、お前に悪意を向けることだ。ルミエルよ。己が身の安全にも繋がると心得、必要な処置を行え』
天使様への……悪意? 悪行ではなく? 僕は天使様にいかなる感情も向けていない。なら、もしかすると僕には烙印が押されていない可能性も……!
はやく確認を…………と思った、その時。
「――ぐ、ぅううう゛……! あ、頭がいたいぃ!」
司祭が額を押さえて……あれはッ。
押さえた手の隙間から見える、濃い紫の紋様。さっきまでそんなものなかったはずの、神曰く「天使様の敵」である証。
痛みなんて感じていないし、やはり僕には関係ない? 鏡がある場所へ行きたい……と、ん? 天使様……?
急にそばに寄ってきた天使様に首を傾げる。
なんだかすごく不安そうというか、ショックを受けていそうな表情だ。猜疑心の塊みたいな目を司祭に向けて……あぁそうか! 天使様が僕のところにきたわけは――
「――っこちらの司祭さまが、わたしの敵? こ、コーストさんは……違いますよね……?」