俗物オジ神父は闇堕ち天使から逃げられない! 〜神の烙印で周りが敵ばかりと知って天使は病んだ。嫌ってた俺が数少ない味方と知って、後悔でさらに病んだ〜 作:輝く背中
ふむ。……他人の悪意を知らない純真無垢の天使様は、どうもたいそうショックを受けているご様子。
これはチャンスか……?
「ぁ、ああ、天使様! これは、これは何かの誤解に違いない! 敬虔な信徒であるこの私に烙印など……!」
おっと。フラフラと寄ってくる司祭の目……追い詰められて余裕がない、なにをするか分からない者の視線。
それに、額で怪しく光る烙印が。
「っひ。こ、こないでください……」
「天使、様……!?」
天使様が小さく震えながら僕の影に隠れる。
「いいのですか? 天使様。僕は信仰を切り売りしていた不心得者なはずですが」
「……っ! そ、それはいけないことですけれど……! でもいまは……ど、どうか――――イジワルを言わないで……」
ふふ。いじめ過ぎてはいけないね。せっかくの、天使様からの印象を良くできるチャンスだ。
「さあ、天使様。どうぞ部屋の外へ。僕もすぐに追いますから」
「! い、いっしょに来ては……?」
「僕は司祭様に少し。すぐですから」
「…………はい」
扉を開けて、心細そうに出ていく天使様。しばしば問題を起こす僕は彼女に好かれてはいないはずだけれど、この状況ではそうも言っていられないらしい。
やはりこの機会をうまく使えれば、いまよりずっと早く上に行けそうだ……。
そう薄く笑みながら、僕は痛みと絶望に顔を歪める司祭様へ近づく。
「……っなんだ、今さら! ぐぅ……! 天使様との間を取り持とうともせずにぃ!」
「ははは。どうか勘弁してください、司祭様。こう見えて僕も神の、天使様のしもべです。目の前の天使様を優先しないわけにはいきませんから」
「ただ」と。僕は続ける。
「僕が今よりもさらに――協会内での地位を上げれば。過去便宜を図ってもらった司祭様のことを口添えしやすくはなるでしょうね……」
「! ……貴様。ッええい、分かった! 私の人生が台無しになるくらいなら、お前のような欲深い男にも力を尽くしてみせる! その代わり……ッ頼んだぞ……!」
「ええ。もちろんですよ、司祭様」
「本当にッ、頼むぞ……ッ。聖都の大聖堂でこの地位につくまでどれだけ大変だったか……!」
ふふ。思っていたよりだいぶうまくいったぞ。もしも司祭が「烙印を押された人間はごく一部」と判断したならこうはならなかっただろうからね。
天使様に悪意を持つ。それがいったいどの程度で引っ掛かる条件かは分からないけれど、天使様をあからさまに害そうとする人間なんて少ないに決まっている。
しかし、それはこの司祭にも当てはまるはずで、なのに烙印を押されているところを見るに。
「他にも、私を頼ってくる方がいたとして。私は覚えておきますよ? ――はじめに私を取り立ててくれると決めたのが、貴方であったことを」
「ッくぅ……そうしろ、間違いなくな……!」
この歳で助祭ですらない僕に、本当は頭なんて下げたくなかろうに。
別に優越感など欠片もないけれど、上への強力なパイプが手に入ったことは非常に喜ばしい。
追い込まれた人間を突きすぎるのもよくないし、今日はひとまずこれくらいで。
僕はそう、司祭に背を向けて天使様の後を追おうとした。
その時だった。
「――――ぁあ、ああぁああぁぁああ!?」
!
「この声……天使様の?」
いったい何が! すぐに向かおう。
今回の混乱の中で上手く立ち回るには天使様の存在が必須。僕はけっこう嫌われてはいるけれど、だからこそこの非常時に力を貸して好感度を稼いでおこう。
ということで。恨めしい視線を向けてくる司祭を置いて部屋の外に出て、声が聞こえた方向に廊下を走って。
そして……談話室と呼ばれる、扉のない開放された部屋に辿り着いた僕が見たのは。
「ぁあああ、うあぁ……っ」
――――部屋から少し入ったところでうずくまる、真っ白な天使様。
「なッ……」
そして、それよりも。僕は驚愕した。
談話室にはたくさんの人がいた。この大聖堂で働く聖職者が、おおよそ二十人ほど。
だというのに。
ここにいるすべての者の額には……――
「烙印が……」
天使様とその他の背信者のうめきの中の呟き。
すぐに気づいた天使様は、絶望に染まって表情で顔を上げる。
よたよたと、逃げるように僕の元へと駆け寄って。
涙と涎で汚れた顔で、僕の服の裾を掴む。
「ぁ、ぅ……こーすとさんん……っ」