前置きなんて飾り、そう思ってた時期が私にはあります
あれからハクの散歩は午前中に済ませた。
じっとしているのもなんか暇だしどこかに行ってみようかな…ハクは朝の散歩で満足したのか寝ちゃってるし。
月夜「うーん…」
そう考えてみたものの、やっぱりそう簡単には思いつかない。千玉市の大きいショッピングモールでウインドウショッピング…なんていうのは今に始まったことじゃない。
動画のネタになるわけでもなく、特にアテもなくフラフラするなんて一人暮らしになってから何回もあったくらいに
月夜「でも、何もしないで帰るのもなぁ…」
聞き覚えのある声「あれま、月夜くんではないですか。どしたんですか、こんな真昼間から唸っちゃって」
月夜「あれ、和泉さん?」
和泉さんが声をかけてきた。それも一人で。そういえば和泉会長ができるだけ妹さんのスケジュールを共有しておきたいからって連絡を貰ってた気がする。
そうか、今日はお仕事がないんだった
月夜「あー、いえ、あまりお気になさらず。今日は一日中暇なものなので家にいるのも時間の有効活用ができませんから昼からはお出かけしようかなって思ったんですけどいざ行動に移すとなると何も思いつかなくて…あはは」
妃愛「あー、分かります。うちの兄も『今日は戦デレのイベント周回だー!』って言って部屋から動いてませんし。」
月夜「それにしても…」
妃愛「なんでしょう?」
月夜「…変装、ですか?」
妃愛「ですです。さすがに有名人となるとこれくらいはしておきたいので」
まあ気持ちは分からなくもないです。
11月ですし肌寒くなってきましたから。
月夜「変装とか抜きにしても、似合ってると思いますよ。髪、和泉会長に結んでもらったんですか?」
妃愛「はい。といっても簡単な結び方ですけども」
たしかに、いかにも慣れてない人がやったという結び方だ…サイドテールっていうんだっけ?それに裾が少し長めのコートで袖も手首がギリギリ隠れる程度。
おしゃれ用にメガネもかけてる…これ、変装にしても結構力はいってません?
妃愛「もしお暇なら、このままモール内を一緒に歩きませんか?さっきアメリ先輩と詩桜先輩と別れたのでちょっとお暇になっちゃいまして」
月夜「かといって、ボディーガードが欲しかったんじゃないです?」
妃愛「あちゃー、バレちゃいましたか。」
そう言って和泉さんはちょっと苦笑いをした。
え、というかなにこれ。疑似的にも和泉さんとデートってこと?
妃愛「あ、そうでした。羽月さん、お昼は食べました?」
月夜「あ、はい。午前中はハクの散歩に行ってましたので少し早めですが食べちゃいました」
妃愛「ふむ、そうでしたか。となるとこの時間なら…よし、あれに行きましょう」
月夜「あれ、ですか?」
妃愛「はい、あれです。映画です。ちょうど今気になってる映画がこれからあるんですよ。昼食前にアメリ先輩とチケットを取ったのはいいんですけど、急な用事が入っちゃったとかで行っちゃいまして」
なるほど、午後からモデルの仕事が急ピッチで入ったから一枚余ってしまったと。
月夜「僕でよければお付き合いしますよ。それで、どんな映画なんです?」
妃愛「えとですね、ネットの情報だと…」
月夜「…意外でした、和泉さんでもああいったのを見るんですね」
妃愛「いやー、アメリ先輩が勢いで二枚も買っちゃったので…あ、でも興味がなかったわけじゃないですよ?まだ私には早かったかなーって」
和泉さんと一緒に見たのは学園系の恋愛ものの映画だった。
最初はどこかぎこちない二人だったけど、部活を通して二人の心は惹かれていって結ばれた、といった恋愛ものとしてはかなり定番のようなものだった。
月夜「まさかあそこで女性が猛アタックをかますとは思ってませんでした。二人ともすごく楽しそうにしていたのに途中からは女性の方が押すような感じでしたから」
妃愛「ですねぇ。こういうのって憧れたりとかしないんです?」
月夜「憧れたりはしますけど、特別ああいう状況じゃなくてもいいと思ってしまいますね。結ばれるにしてもその場その場の雰囲気とかありますし」
妃愛「羽月さんって結構現実的なんですね。もうちょっと夢見がちだと思ってました」
月夜「そこまで深く考えるのは苦手なもので…それに…」
妃愛「それに、なんです?」
月夜「…いえ、なんでもありません。」
いくら同じ生徒会のメンバーとはいえ、昨夜見た夢の内容をホイホイと語るわけにはいかない。それに、あまり思い出したくないような…あれ?なんで『思い出したくない』って考えられるんだ…?もしかしてあれは本当に…?
妃愛「羽月さん?」
月夜「え?あ、はいなんでしょう」
妃愛「顔色、少し悪いですよ?少し横になります?」
月夜「いえ、大丈夫です。お気遣いなく」
…ダメだな、こういうのに深く考えるようになるのは。悪い癖だ
妃愛「それならいいんですけど…あまり無理はしないでくださいね。」
月夜「いえ、和泉さんが気にされる必要はありませんよ。
これからどうしましょう?」
妃愛「うーん…今日はもう帰っちゃおうかなって。もしまた時間があったら誘ってもいいですか?」
月夜「ぜひ。和泉さんの都合の合う時間があればまたお付き合いしますよ。
あ、でもいくら昼間とはいえ一人で帰るのは危なくないです?」
妃愛「いえいえ、羽月さんが気にするようなことではありませんので。」
月夜「そうは言いますけど、和泉さんだって有名人です。昼間に一人でいても、白昼堂々と問題行動を起こす人がいないとは限りませんし。」
妃愛「でも、家まで送ってもらうのはなんか申し訳ありませんから。」
月夜「そこはご心配なく。ハクにお迎えを頼んで時間を指定していただければ家までハクがお送りしますよ。」
妃愛「さすがにそこまでは…」
月夜「ふむ、ではこうしましょう。
今日僕は時間を持て余していた。そこに和泉さんが声をかけてくれて映画に誘ってくれた。その代金は和泉さん持ちになったのでそのお返しでハクに家まで送り届けてもらう、ということで。」
妃愛「そこまで言われましたら無碍にはできませんなぁ。羽月さん、実はこういうのに慣れてたり?」
月夜「そんなまさか。女性と二人きりで映画を見たことはないですしなんなら女性とお出かけするような機会もありませんでしたから今日が初めてですよ」
妃愛「その割には言葉選びができてたといいますか…普段から役作りができてる私からしたらこれはオちるぜ」
月夜「え…?」
妃愛「ああいえ、こちらの話なのでお構いなく。」
その後、2時過ぎにハクがショッピングモールの前に迎えに来てくれて、そのまま和泉さんを家まで送ってもらった。
月夜「…にしても、映画だけであんなに楽しめたのは久しぶりだな。」
…あれ、今僕は久しぶりって?それに映画を見てた時に感じたあの感覚…あれに似たようなのを僕は知っている。
でも思い出そうとすると頭の中でモヤがかかったような感覚になる…
それに…
月夜「…夢のことだけじゃなくて、まだみんなには言えないことがある。
それはまだ言えない…でもそっちが気付かれるのは時間の問題だ。こればかりはどうしようもないことだ…願わくばみんなに気づかれないまま学園を卒業したい。」
そんなことを考えながら、僕は和泉さんとハクが一緒に歩く背中を見ていた…
柑凪と伊々奈の二人の動向と他のキャラのその後を描写していなかったので軽く補足をば
柑凪・伊々奈:昼から柑凪の家でゲームをして遊んでいた
月夜:その後、ハクの帰りを待ちながら他の動画を見て時間を潰していた。その後夕方にショッピングモールまで買い出しに出かけるところで天梨と遭遇、映画のチケット代を渡す
妃愛:智宏と資正が玄関で帰りを待っていて、資正はハクと少し遊んでいた
天梨:モデルの仕事が終わった後、ショッピングモールで再度買い物をしてから帰る際に月夜と遭遇、詫びを入れながらも映画の代金を渡される
詩桜:ショッピングモールで妃愛と天梨と別れた後すぐ帰宅。小説を書いていた
あすみ:朝の散歩の様子を動画(月夜には了承済み)にしてすぐに再生数が伸びる。この動画の件で休日の散歩を日課にしたのだとか
華乃:散歩の後、すぐ家に帰る。その後すぐにイラストを描き始めて冬のコミまどの同人誌の表紙が出来上がる。