斬月転生   作:セフィロトの張根

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想定より読んでくれてるみたいで驚いたので初投稿です。


感想も送ってくれると嬉しいです!


第一話

目覚めると、金髪の若い女性が俺をのぞき込んでいた。

 

(誰だ?)

 

隣には、同じくまだ年若い茶髪の男性がいて、ぎこちない笑みを俺に向けている。

 

強そうでワガママそうな男だ。筋肉が凄い

 

不思議と嫌悪感はなかった。

 

恐らく、彼の髪が染めたものではないからだろう。

 

綺麗な茶髪だった。

 

「―――■■――■■■■」

 

女性が俺を見て、にっこり笑って何かを言った。

 

何を言っているのだろうか。

 

なんだかボンヤリして聞き取りにくいし、全然わからない。

 

もしかして、日本語じゃないのか?

 

「――――■■■■■―――■■■」

 

男の方も、ゆるい顔で返事を返す。

 

いやほんと、何言ってるのかわからない。

 

「――■■――■■■」

 

どこからか、三人目の声が聞こえる。

 

姿は見えない。

 

「あー、うあー」

 

体を起こして、ここはどこで、あなた方は誰かを聞こうとした。

 

引きこもってたとはいえ、別にコミュ障ってわけじゃないから、

 

それぐらいは出来ると思った。

 

のだが、口から出てきたのは、うめき声ともあえぎ声とも判別のつかない音だった。

 

体も動かない。

 

指先や腕が動く感触はあるのだが、上半身が起こせない。

 

(もしかして、事故の後遺症で……?)

 

嫌な予感が脳裏を掠める。

 

あれだけの大事故だったのだ、何日も意識不明で、今ようやく目覚めたにちがいない。

 

後遺症も残るだろう。

 

言葉がわからないのは、日本では助けられる医者がいなかったとか、そんな感じだろうか。

 

「■■■■■―――■■■―――」

 

男が心配そうな顔を俺に向け、何かを言う。

 

「――■■■■―――」

 

なんだろう。後遺症のことだろうか。

 

それにしても、入院費用は誰が払ったのだろうか。

 

ああそうだ、一人だけ引っ張りだすことに成功していたから、

 

彼が命の恩人として俺を助けてくれたのかも………。

 

「■■■―――■■■■■■」

 

と、思ったら男に抱き上げられた。

 

マジかよ、体重百キロ超の俺をこうも簡単に……。

 

いや、何十日も寝たきりだったのかもしれないし、体重は落ちているか。

 

あれだけの事故だ。手足が欠損してる可能性も高い。

 

死んだと思って目が覚めたら達磨。

 

(生き地獄だなぁ……)

 

物心ついた初日。

 

俺はそんな事を考えていたのだった。

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

一ヶ月の月日が流れた。

 

どうやら俺は生まれ変わったらしい。

 

その事実が、ようやく飲み込めた。

 

俺は赤ん坊だった。

 

抱き上げられて、頭を支えてもらい自分の体が視界にはいることで、ようやくそれを確認した。

 

どうして前世の記憶が残っているのかわからないが、残っていて困る事もない。

 

記憶を残しての生まれ変わり。

 

誰もが一度はそういう妄想をする。

 

まさか、その妄想が現実になるとは思わなかったが……。

 

目が覚めてから最初に見た男女が、俺の両親であるらしい。

 

年齢は二十代前半といった所だろうか。

 

前世の俺よりも明らかに年下だ。

 

34歳の俺から見れば、若造といってもいい。

 

そんな歳で子供を作るとは、まったく妬ましい

 

最初から気付いてはいたが、どうやらここは日本ではないらしい。

 

言語も違うし、両親の顔立ちも日本人ではない、服装もなんだか民族衣装っぽい。

 

家電製品らしきものも見当たらない(メイド服きた人が雑巾で掃除してた)し、食器や家具なんかも粗末な木製だ。先進国でないだろう。

 

明かりも電球ではなく、ロウソクやカンテラを中心に使っている。

 

もっとも、彼らが特別に貧乏で電気代も払えないという可能性もある。

 

……もしかして、その可能性は高いのか?

 

メイドっぽい人がいるから、てっきりそれなりに金があるのかと思ったが、

 

彼女が、父か母の姉妹と考えれば、なにもおかしい事はない。家の掃除ぐらいするだろう。

 

確かにやり直したいとは思ったが、電気代も支払えないほど貧乏な家に生まれるとは……。

 

でも、ただで美女の母乳を吸えるのは最高だ。

 

体が成長していないせいか、

 

それとも相手が母親であるせいか、

 

まったく興奮はしなかったが……。

 

-----------------------------------------------------------------------------

半年が過ぎた。

 

ルーデウスが眠っている時間。

 

その魂の奥底で、もう一人の存在が目を開いていた。

 

そう――私だ。

 

黒き斬月

 

ノワール。

 

いや、生まれた直後も見てはいたが、私は、パウロが完璧ではないが、愛情を持っていることは原作知識で知っている。

 

不器用な男なだけだ。

 

等身大の父親に見えた。

 

……ルーデウス・グレイラットという小さな命は、日に日に世界を知り始めていた。

 

笑い、泣き、這い回り、興味を持ち、手を伸ばす。

 

その一つひとつが、魂に刻まれていく。

 

そして――。

 

誰も知らない、その魂の内側。

 

静寂に包まれた精神世界。

 

黒い大地は、誕生の日とは違っていた。

 

小さな草が芽吹き、風が吹き始めている。

 

世界が、生き始めている。

 

その景色を眺めながら、ノワールは静かに目を閉じた。

 

『……変わってきたな。』

 

その隣では、ホワイトが寝転びながら空を見上げている。

 

『ったく、赤ん坊ってのは成長が早ぇ。』

 

『いや。』

 

ノワールは首を横に振る。

 

『成長しているのは肉体だけではない。』

 

『心もまた、この世界を形作っている。』

 

ホワイトは身体を起こし、周囲を見渡した。

 

『最初は何も無かった。』

 

『真っ黒なだけだったのにな。』

 

『ああ。』

 

『だが……今は違う。』

 

草木。

 

風。

 

空。

 

どれも、ルーデウスという心が少しずつ育った証だった。

 

『……面白ぇ世界だ。』

 

ホワイトは笑う。

 

『じゃあ俺たちも、少し身体を動かすか。』

 

ノワールは頷いた。

 

『確認は必要だ。』

 

私たちは互いの記憶を、影を介して共有している。

 

その中で、BLEACHの記憶にある技を、この世界の理に合わせて再現してみることにした。

 

試した結果、この世界の魔力体系へと落とし込めば、一応は行使できる。

 

もっとも――ここは精神世界だ。

 

魔力量も身体能力も、ここでは私たちの思うままになる。

 

だからこそ、実際にルーデウスが使えるとは限らない。

 

今の幼い身体では、魔力も足りず、肉体も耐えられまい。

 

それでも、今のうちに確認しておく価値はある。

 

後は、再現した技を実際にぶつけて検証するだけだ。

 

二人は距離を取る。

 

静かに。

 

互いを見据える。

 

『行くぞ。』

 

ホワイトの姿が掻き消えた。

 

響転(ソニード)

 

この世界ではどうやら周囲の魔力の動きを妨害しながら、

 

足元で魔力を爆発させて移動する技法となったようだ。

 

轟、と空気が裂ける。

 

次の瞬間にはノワールの背後。

 

だが。

 

ノワールもまた、その場にはいなかった。

 

瞬歩

 

響転(ソニード)と違い、魔力爆発を利用した高速移動技法だ。

 

それを用いて回避する。

 

ホワイトもそれに合わせて瞬歩で追いかける。

 

二つの影だけが、精神世界を縦横無尽に駆け抜ける。

 

目にも留まらぬ速度。

 

踏み込むたび、大地が震えた。

 

『遅ぇ!』

 

ホワイトが拳を振るう。

 

ノワールは巨大な刀で受け流す。

 

甲高い音が響く。

 

『速度に衰えは無い。』

 

『だが……お前の瞬歩は真面目すぎる。』

 

響転(ソニード)ほど荒々しくはない。』

 

ホワイトは笑う。

 

『それでいい。』

 

『俺は突っ込む。』

 

お前は支えろ!

 

再び交差。

 

今度はノワールの腕に黒い紋様が浮かぶ。

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)。」

 

魔力が全身を巡る。

 

全身の血管中に魔力が流れる感覚を感じる。

 

理論的にはこの世界の闘気に近いだろうな。

 

ホワイトの拳が叩き込まれる。

 

鈍い衝撃。

 

しかし身体は揺るがない。

 

『防御も問題ねぇか。』

 

『なら俺も。』

 

白い仮面が顔を覆う。

 

どうやら、これは単なる装備ではない。

 

肉体が変化している。

 

それだけではない。

 

変化した肉体へ闘気を巡らせ、さらに強化している。

 

肉体変化による異常な身体性能。

 

そこへ闘気による強化が重なった結果――これが(ホロウ)化か。

 

その姿は、(ホロウ)化した白一護にも似ていた。

 

影を介した共有によれば、ホワイト――白ルディが生まれた瞬間、ルーデウスの魂に眠っていた何かを取り込んだことが原因らしい。

 

その中でも、奴が受け継いだのは【変化】に関わる性質。

 

肉体を変質させ、己の在り方そのものを変える力だ。

 

ホワイトは、それを無意識のうちに操っているのだろう。

 

無論、私にも別の形でルーデウスの魂に眠る力が混ざっている。

 

魔術を扱う者としての性質。

 

それが、私の中に強く現れているものなのかもしれない。

 

……しかし、これは単純な分離ではない。

 

ルーデウスという魂に触れた結果、我々という異なる存在が、それぞれ別の可能性を引き出したのだろうか?

 

白銀の奔流が噴き上がる。

 

(ホロウ)化。」

 

圧倒的な魔力が周囲を震わせる。

 

ホワイトは右手を前へ突き出した。

 

黒い光が収束する。

 

「――虚閃(セロ)。」

 

轟。

 

黒い閃光が精神世界の彼方まで駆け抜ける。

 

だが。

 

荒れた大地は、ゆっくりと元へ戻っていく。

 

世界そのものが、二人を受け入れていた。

 

ホワイトが肩を回す。

 

『全部使えんな。』

 

『ああ。』

 

ノワールも刀を納めた。

 

『もっとも。』

 

『外では話が違う。』

 

ホワイトが眉をひそめる。

 

『ああ。』

 

ノワールは眠るルーデウスを見る。

 

『我々は力だ。』

 

『だが、力とは器があって初めて振るえるものだ。』

 

『今のあやつの身体では、我々の速度に耐えられない。』

 

『一歩踏み込むだけで骨が砕ける。』

 

『一振りするだけで魔力が枯れるだろう。』

 

『それに未だに外へ具現化する方法も見つかっておらんのでな。』

 

ホワイトは黙る。

 

『……使えねぇってことか?』

 

『違う。』

 

ノワールは首を横に振った。

 

『まだ、使う時ではないということだ。』

 

再現は成った。

 

『後は――あやつが、この力に届く日を待つだけだ。』

 

ホワイトは鼻で笑った。

 

『気の長ぇ話だ。』

 

『急ぐ必要はない。』

 

『ルーデウスの人生は始まったばかりだ。』

 

二人は、眠る小さな魂へ視線を向ける。

 

その表情は穏やかだった。

 

『こいつは変わる。』

 

ホワイトがぽつりと言う。

 

『ああ。』

 

ノワールも静かに頷いた。

 

『だから我々は、見届ける。』

 

その時だった。

 

精神世界の片隅で、小さな芽が一つ、静かに顔を出した。

 

ルーデウスが新しい世界を知るたび、この場所もまた、新しい姿へ変わっていく。

 

ノワールは芽に触れ、穏やかに目を細める。

 

『この世界は、あの子の心そのもの。』

 

『歩むほどに広がり、学ぶほどに実り、選ぶほどに形を変える。』

 

ホワイトはその芽を見つめ、不敵に笑った。

 

『だったら楽しみだ。』

 

『こいつがどこまで行けるのか、最後まで見届けてやる。』

 

-----------------------------------------------------------------------------

半年も両親の会話を聞いていると、言語もそれなりに理解できるようになってきた。

 

英語の成績はあまりよくなかったのだが、やはり自国語に埋もれていると習得が遅れるというのは本当らしい。

 

それとも、この身体の頭の出来がいいのだろうか。

 

まだ年齢が若いせいか、物覚えが異常にいい気がする。

 

この頃になると、俺もハイハイぐらいは出来るようになった。

 

移動できるというのは素晴らしい事だ。

 

身体が動くという事にこれほど感謝したことはない。

 

「眼を放すとすぐにどこかにいっちゃうの。」

 

「元気でいいじゃないか。

 

生まれてすぐの頃は全然泣かなくて心配したもんだ」

 

「今も泣かないのよねぇ」

 

両親はそんな風に言っていた。

 

さすがに腹が減った程度でビービー泣くような歳じゃない。

 

もっとも、シモの方は我慢してもいずれ漏らすので、遠慮せずぶっ放させてもらっているが。

 

ハイハイとはいえ、移動できるようになると、色んな事がわかってきた。

 

まず、この家は、裕福だ。

 

建物は木造の二階建てで、部屋数は五以上。メイドさんを一人雇っている。

 

メイドさんは最初は俺の叔母さんかとも思ったが、明らかに顔立ちが違った。

 

立地条件は、田舎だ。

 

窓から見た景色からは、のどかな田園風景が見えた。

 

他の家はまばらで、一面の小麦畑の中に、2~3軒見える程度。

 

かなりの田舎だ。

 

電柱や街灯の類は見えない。近くに発電所が無いのかもしれない。

 

外国では地面の下に電線を埋めると聞いたことがあるが、

 

ならこの家で電気を使っていないのはおかしい。

 

(さすがに田舎すぎるなぁ。

 

文明の波に揉まれてきた俺にはちょっと……

 

生まれ変わってもパソコンぐらい触りたいじゃん)

 

などと思っていたのは、ある日の昼下がりまでだ。

 

することが無いのでのどかな田園風景でも見ようと思った俺は、

 

いつも通り椅子によじ登り、窓の外を見てギョッとした。

 

父親が庭で剣を振り回していたからだ。

 

(ちょ、え?何やってんの?)

 

いい年してそんなの振り回しちゃうようなのが俺の親父なわけ?

 

(あ、やべ……)

 

驚いた拍子に椅子から滑った。

 

未熟な手は椅子を掴んでも身体を支えることが出来ず、重い後頭部から地面へと落ちていく。

 

「キャア!」

 

どしんと落ちた瞬間、悲鳴が聞こえた。

 

見れば、母親が洗濯物を取り落とし、口に手を当てて真っ青な顔で俺を見下ろしていた。

 

「ルディ!大丈夫なの!?」

 

母親は慌てて駆け寄ってきて、俺を抱き上げた。

 

視線が絡むと、安堵した顔になって胸をなでおろした。

 

「……ほっ、大丈夫そうね」

 

(頭を打ったときは、あんまり動かさないほうがいいんだぜ、奥さん)

 

と心の中で注意してやる。

 

あの慌てようを見るに、そうとう危ない落ち方をしたのだろう。

 

後頭部からいったしな、アホになったかもしれん。あんま変わらんか。

 

てか、後頭部がズキズキする。

 

まあ、一応は椅子に掴まろうとしたし、勢いは無かった。

 

母親があまり慌てていない所を見ると、血は出ていないようだ。

 

たんこぶ程度だろう。

 

母親は注意深く俺の頭を見ていた。

 

傷でもあったら一大事だと言わんばかりの表情をしている。

 

そして最後に、俺の頭に手を当てて、

 

「念のため………

 

神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん

 

『ヒーリング』」

 

吹きそうになった。

 

おいおい、これがこの国の「イタイのイタイのとんでけ」かよ。

 

と、思ったのもつかの間。

 

母親の手が淡く光ったと思った瞬間、一瞬で痛みが消えた。

 

(………え?)

 

「さ、これで大丈夫よ。

 

母さん、これでも昔はちょっとは名の知れた冒険者だったんだから」

 

剣、戦士、冒険者、ヒーリング、詠唱、僧侶。

そんな単語がぐるぐると俺の中を回っていた。

 

なんだ、いまの。

 

何したの?

 

「どうした?」

 

母親の悲鳴を聞きつけて、窓の外から父親が顔をのぞかせた。

 

剣を振り回していたせいか、汗をかいていた。

 

「聞いてあなた、ルディったら、椅子の上になんかよじ登って……今日は危うく大怪我する所だったのよ。」

 

「まぁまぁ、男の子はそれぐらい元気でなくっちゃ。」

 

ちょっとばかしヒステリックな母親と、それを鷹揚に流す父親。

 

よく見る光景だ。

 

だが、今回は後頭部から落ちたせいだろう、母親も譲らなかった。

 

「あのねあなた、この子はまだ生まれてから一年も経ってないんですよ。もっと心配してあげて!

 

「そうは言ったってな。

 

子供は落ちたり転んだりするものさ。そうやって丈夫になっていくものじゃないか。

 

それに、怪我をしたなら、そのたびにおまえが治せばいい。」

 

「でも、あんまり大怪我をされて治せなかったらと考えると心配で……。」

 

「大丈夫だよ。」

 

父親はそう言って、母親と俺を一緒に抱きしめた。

 

母親の顔が赤く染まる。

 

「最初は泣かなくて心配だったけど、こんなにヤンチャなら、大丈夫さ……。」

 

父親は母親にチュっとキスをした。

 

おうおう、見せつけてくれるねお二人さん。

 

その後、二人は俺を隣の部屋で寝かせると、

 

上の階へ移動して、俺の弟か妹を作る作業へと入っていった。

 

二階に行ってもギシギシアンアン聞こえるから分かるんだよ、リア充め……。

 

(しかし、魔法か……)

 

それから、俺は両親やお手伝いさんの会話に注意深く耳を傾けるようになった。

 

すると、聞く単語に聞きなれないものが多い事に気付いた。

 

特に、国の名前や領土の名前、地方の名前。

 

固有名詞は聞いたことのないものしかなかった。

 

もしかするとここは………。

 

いや、もう断定していいだろう。

 

ここは地球ではなく、別の世界だ。

 

剣と魔法の異世界だ。

 

………うん。

 

悪くない。

 

年甲斐もなくワクワクする。

 

そんな世界に記憶を持って転生できたのだ。

 

これでワクワクしないやつはニートになんかならない。

 

よし、決めた。

 

俺はこの世界で本気で生きていこう。

 

もう、二度と後悔はしないように。

 

全力で。

 

-----------------------------------------------------------------------------

精神世界。

 

以前まで何もなかった黒い大地。

 

そこには、一本の小さな木が生えていた。

 

ノワールは、その木を静かに見上げていた。

 

『……決めたようだな。』

 

背後から声。

 

ホワイトだった。

 

『魔術を見ただけで、あそこまで変わるとはなァ?』

 

ノワールは首を横に振る。

 

『違う。』

 

『魔術を見たからではない。』

 

『あやつは、可能性を見つけたのだ』

 

ホワイトは黙る。

 

現実のルーデウス。

 

小さな身体。

 

しかし、その魂には確かな炎が灯っていた。

 

『前世では……』

 

ホワイトが呟く。

 

『逃げ続けた。』

 

『……ああ。』

 

『でも最後には、誰かを助けるために動いた。』

 

『だからこそ、私はあやつを認めている。』

 

ノワールは答える。

 

『なぁ、ノワール。』

 

『……何だ?』

 

『俺たちの力ってよォ?』

 

ホワイトは自分の手を見る。

 

『結局、こいつ次第なんだな』

 

『ああ……』

 

『我々は刃だ。』

 

『だが、振るう者ではない。』

 

『選ぶのは、ルーデウス自身だ。』

 

『我々は、その歩みを支える。』

 

『……面白ぇ奴だ。』

 

ホワイトは笑う。

 

『魔術を見て喜んで。』

 

『剣を見て興奮して。』

 

『それでも最後に考えたのは――』

 

少し間を置く。

 

『もう後悔したくない、か』

 

ノワールは静かに頷く。

 

『あやつは強者になりたいのではない。』

 

『ただ、自分の人生を生きたいだけだ。』

 

その時。

 

精神世界に変化が起きる。

 

小さな木の枝から、新しい葉が生える。

 

ホワイトがそれを見る。

 

『また変わったな。』

 

『ああ……』

 

『決意というものは、心すら変える。』

 

『じゃあ……』

 

ホワイトは笑う。

 

『これからどうする?』

 

ノワールは現実のルーデウスを見る。

 

『見守るとしよう。』

 

『必要な時だけ、力を貸せばよい。』

 

ホワイトは肩を竦める。

 

『つまんねぇなァ。』

 

『そう言いながら、楽しみにしているだろう?』

 

『……否定はしねぇ。』

 

現実。

 

ルーデウスは決意する。

 

この世界で。

 

今度こそ。

 

本気で生きる。

 

精神世界。

 

二つの存在は、その魂の輝きを見つめていた。

 

白き刃。

 

黒き鞘。

 

まだ幼い魂に寄り添う、二つの可能性。

 

『生きろ、ルーデウス。』

 

ノワールが静かに呟く。

 

『お主の人生は、お主だけのものなのだ。』

 

ホワイトが笑う。

 

『進め!』

 

『俺が、道を斬り開いてやるよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

ノワールの持つ斬月が、淡い黒い光に包まれる。

 

一本だったはずの刀が、ゆっくりと二つに分かれていく。

 

同じ形。

 

同じ大きさ。

 

同じ重み。

 

巨大な刀身。

 

長い柄。

 

黒い柄に、銀色の刃。

 

飾り気のない、ただ力を込めるためだけに存在するような形。

 

始解前の斬月。

 

ホワイトは、目の前に現れた一本を見つめた。

 

『……斬月か。』

 

『ああ。』

 

ノワールは頷く。

 

『我々の根にある力だ。』

 

『ルーデウスという一つの魂から生まれた以上、貴様にも存在する。』

 

ホワイトは刀を握る。

 

ずしり、と重みが腕へ伝わった。

 

『……重ぇなァ。』

 

巨大な刀身を見る。

 

だが、不思議と手には馴染んだ。

 

まるで、最初からそこにあったかのように。

 

『けど……』

 

一振り。

 

空気が震える。

 

『悪くねぇ。』

 

ホワイトは笑う。

 

『この重さ……嫌いじゃねぇ。』

 

ノワールは静かに告げる。

 

『斬月は、形で完成するものではない。』

 

『振るう者の魂によって、その意味を変える。』

 

『守るために振れば、守る刃になる。』

 

『進むために振れば、道を切り開く刃になる。』

 

ホワイトは斬月を肩に担ぐ。

 

『つまり……』

 

『俺も、お前も。』

 

『同じ斬月を持つってことか。』

 

『ああ。』

 

ノワールは頷いた。

 

『我々は別々の存在ではない。』

 

『ルーデウスという一つの魂から生まれた、二つの意思だ。』

 

『だからこそ――』

 

『斬月もまた、一つだ。』

 

ホワイトはニヤリと笑う。

 

『面白ぇじゃねぇか。』

 

『なら俺は、俺の斬月にする。』

 

『任せろ。』

 

ホワイトは斬月を握り直す。

 

『俺はこいつを使いこなす。』

 

『そして――』

 

斬月を肩に担ぐ。

 

『誰にも届かねぇ速度で、全部ぶった斬れる刃にしてやるよォ!』

 

ホワイトの声が、精神世界に響き渡る。

 

その瞬間。

 

誰も気付かなかった。

 

ノワールも。

 

ホワイトも。

 

まだ眠るルーデウス自身ですら。

 

精神世界のさらに奥。

 

そこには、小さな光があった。

 

まだ芽吹かぬ可能性。

 

その鼓動だけが、静かに脈打っていた。

 

そして――

 

その光から伸びる細い糸が、

 

ノワールの斬月へ。

 

ホワイトの斬月へ。

 

誰にも気付かれることなく、

 

静かに繋がっていた。

 









死の恐怖ない世界では、

人はそれを退けて希望を探すことをしないだろう。













人はただ生きるだけでも歩み続けるが、

それは恐怖を退けて歩み続ける事とはまるで違う。

だから、人はその歩みに特別な名前をつけるのだ





『勇気』
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