お気づきかもしれませんが、
主人公の名前が、変更になりました。
理由はわかりますね?
ノワール→シュヴァルツ
OSRを学びたい……(´・ω・`)
3歳になる日の前夜、それは起こった。
眠るルーデウスの枕元。
突如として、淡い光を帯びた魔力が渦を巻き始めた。
「……え?」
眠りの浅くなったルーデウスはゆっくりと目を開く。
部屋には誰もいない。
それなのに、空気そのものが震えていた。
「何……これ?」
無理もないだろう。
その魔力は、外から集まっているのではない。
ルーデウス自身の体内から溢れ出しているのだから。
毎日のように魔力を枯渇させ、回復を繰り返したことで膨れ上がった膨大な魔力。
それが今、この夜に限って制御を離れ始めていた。
渦巻く魔力は、やがて一本の筋となって枕元へ集束していく。
まるで、何かを形作るように。
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精神世界。
黒い空の下。
シュヴァルツは静かに目を開いた。
『……始まったか。』
その呟きと同時に、ホワイトも異変に気付く。
黒い空を見上げる。
『また、あれか……?』
世界が震えている。
大樹の枝葉が揺れ、地面の奥底から低い振動が響く。
ドクン――。
黒い霧の奥。
以前から存在していた小さな違和感。
シュヴァルツが数十か月、観察し続けていたもの。
『やはり、間違いではなかったか。』
ホワイトが横目で見る。
『前から調べていたやつか?』
『ああ。』
シュヴァルツは頷く。
『あやつの肉体には、生まれた時からとある因子が存在していた。』
『この世界に存在する、ラプラス因子。』
『本来ならば、変化させる性質を持つだけの因子。』
『だが……あやつの場合は違った。』
『膨大な魔力耐えられる異世界の魂。』
『前世の記憶という莫大な情報。』
『そして我らという存在の内包。』
『それらが影響し、因子そのものが変質している。』
ホワイトが眉を上げる。
『つまり、普通のラプラス因子じゃねぇってことか。』
『そうだ。』
シュヴァルツは黒い霧の奥を見る。
『魔力への適応性。』
『肉体の変質性。』
シュヴァルツは静かに続ける。
『我々が取り込んだものも、そのラプラス因子の一部だ。』
ホワイトが目を細める。
『じゃあ、俺たちの中にあるものと……あいつの中にあるものは同じってことか。』
『正確には、同じ根源から分かれたものだ。』
シュヴァルツは黒い霧の奥を見る。
『我々が取り込んだのは、あやつの肉体に存在していたラプラス因子の一部。』
『しかし、最も大きな因子は残っていた。』
『あやつ自身の器の深層に。』
その瞬間。
黒い霧の中心に亀裂が走る。
ドクン――。
『殻を破るか。』
ホワイトが呟く。
シュヴァルツは静かに答える。
『ああ。』
『眠っていたラプラス因子が、初めて完全な形で現れる。』
亀裂から紫色の魔力が溢れ出す。
しかし、そこに意思はない。
感情も、思考も存在しない。
ただ、魂に刻まれた因子が、その性質を現象として表しているだけだ。
『これは、変化ではない。』
シュヴァルツは目を細める。
『変化の性質を持つ因子が、自らを変質させた結果……』
『辿り着いたのは、具現。』
黒い霧が晴れていく。
そこに現れたのは、存在ではない。
力の形。
可能性を現実へと引き出すための、新たな形態。
『完現術に似たその性質のラプラス因子、故にこう呼ぶとしようか。』
『完現ラプラス、と。』
『ラプラス因子が、あやつという存在によって変質し、現出した姿だ。』
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現実世界。
俺は、目の前で起きている光景を理解できずにいた。
さっきまで枕元で渦巻いていた魔力。
それが消えたわけではない。
一つに集まり。
凝縮され。
形を得ていた。
「……何だ、これ。」
そこにあったのは。
一本の刀だった。
俺の身長を超える巨大な刀身。
身を隠せるほどの身幅。
普通なら持ち上げることすら不可能だろう。
黒い刃。
飾り気のない、ただ真っ直ぐな形。
なのに。
不思議と怖くなかった。
むしろ。
ずっと前から知っていたような感覚がある。
「刀……なのか?」
恐る恐る手を伸ばす。
指先が柄に触れた。
その瞬間。
身体の奥で、何かが繋がった。
「……っ。」
魔力が流れ込んでくる。
いや。
違う。
流れ込んでいるんじゃない。
俺の中にあるものと、この刀が同じものだと理解した。
これは魔術で作った武器じゃない。
召喚したものでもない。
俺の魔力を加工して作ったものでもない。
もっと深いところ。
魂の奥にあった何かが、形になったものだ。
それと同時に俺の服装に変化が起こった。
普段着ている寝間着が、
黒い着物とズボン型の黒い袴とそれを締める白い帯となったのだ。
「……俺の中に、こんなものが?」
呟く。
返事はない。
誰かが話しかけてくることもない。
ただ。
巨大な刀だけが、そこに存在している。
俺は刀身を見る。
その黒い表面には、何も映らない。
けれど。
確かに感じる。
これは俺の一部だ。
理由は分からない。
仕組みも分からない。
でも。
これは、これから先。
俺と共にあるものだ。
そんな確信だけがあった。
「……斬魄刀。」
口から出た言葉に、自分でも驚いた。
なぜ、その名前が浮かんだのか分からない。
聞いたことなんてないはずだ。
なのに。
それが、この刀を表す言葉だと理解できた。
誰かが教えたわけではない。
声が聞こえたわけでもない。
ただ。
この刀が形を得た瞬間。
その存在を定義するための情報が、俺の魂の奥から浮かび上がった。
まるで、最初から知っていたかのように。
俺は、ゆっくりと刀を握り直す。
すると。
ほんの僅かに。
今まで感じたことのない力の流れを感じた。
魔力とは違う。
魔術とも違う。
だけど。
確かに俺の中から生まれた力。
「……一体、何なんだよ。」
答えは出ない。
夜は静かなまま。
部屋には俺と、一本の刀だけが残されていた。
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昨夜のルーデウスの精神世界。
黒い空の下。
ホワイトはしばらく沈黙していた。
『……なあ。』
シュヴァルツが視線を向ける。
『何だ。』
『今の言葉。』
ホワイトは刀を見る。
『あいつ、自分で言ったよな。』
『斬魄刀、って。』
『それにあれ、【死覇装】だろ?』
シュヴァルツは静かに目を細める。
『ああ。』
『だが……私が教えたわけではない。』
ホワイトが眉をひそめる。
『じゃあ、何だ?』
シュヴァルツは現れた刀を見る。
『私が前世から持ち込んだ知識。』
『完現ラプラスは、その記憶を読み取り、その器に最も相応しい名として形にした。』
『だから、あやつは理由もなくその名を口にしたのだ。』
ホワイトは少し黙る。
『……つまり、斬魄刀自身が名乗ったわけじゃない。』
『ああ。』
シュヴァルツは頷く。
『我々がそう呼びたいと思っていたからだ。』
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まずい。
これを誰かに見られたら説明できない。
そう思った瞬間だった。
刀身から伸びた影が、ゆっくりと床へ広がった。
「……え?」
影が刀を包み込んでいく。
まるで沈むように。
巨大な刀は、音もなく影の中へ消えていった。
ついでに俺の服装も元に戻った。
まるで
「……消えた?」
いや。
違う。
消えたんじゃない。
なぜか分かる。
まだ、そこにある。
ただ、今いる場所が変わっただけだ。
俺はしばらく影を見る。
そして。
ふと思った。
(出てこい。)
すると。
足元の影が揺れた。
水面のように波紋が広がる。
次の瞬間。
影の中から柄が現れた。
ゆっくりと。
まるで、俺の手元へ戻ってくるように。
黒い刀身が姿を現す。
「……本当に出た」
思わず声が漏れる。
さっきは偶然だった。
でも今は違う。
俺が思った通りに動いた。
「……便利なのか、不気味なのか」
三歳児の身体で扱うには、あまりにも大きな刀。
まるで最初から。
俺が持つことを知っていたみたいに。
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精神世界。
黒い空の下。
魂の内側と外界を隔てていた境界に、初めて穴が開いた。
『どーやら斬魄刀のおかげで、ようやく外に干渉できるみてえだな!』
私がルーデウスに合わせて、斬魄刀を手動で仕舞ったり出しているとホワイトはそう言った。
『とりあえず、魔力操作とその応用たる魔術だけだがな。』
『お主の【肉体変化】も干渉出来なかったではないか……。』
『我々の声は未だ届かぬ。』
『おそらくは、斬魄刀が形成されてすぐにだからというのもあるだろう。』
『時をおけば、届くやもしれん。』
影に仕舞って分かったが、斬魄刀はルーデウスに触れていなくても我々の干渉に関しては、
何も変わらないようだ。
外界へ存在していること自体に意味があるようだ。
ナイスだ、完現ラプラス。
『つーことは、しばらく様子見か?俺の役目は……あれか、パウロの親父との訓練の時か?』
『シュヴァルツの記憶にも闘気を教えていた描写ねえから何とも言えねえなこりゃ……。』
『岩斬りを教えてる時にでも伝えられたらいいんだけどな。パウロの親父、感覚派だし。』
『私は……特にすぐさま教えるべきものは無いな。
そんな会話を二人でした。
ちなみに、完現ラプラスはホワイトが頭に乗せていた。
こちらの世界で覚醒した完現ラプラスの姿は透明な結晶体に入った、青黒く光る宝石をしていた。
……お前もしかして崩玉か?
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翌日。
俺は三歳になった。
そして。
昨夜の出来事は、夢ではなかった。
部屋の隅。
そこに意識を向けると、確かに感じる。
あの刀の存在を。
ただ。
今は出すつもりはない。
さすがに、朝から巨大な刀を振り回して両親を驚かせるほど、俺も考えなしではない。
ちなみに試しに持ってみたが――。
重かった。
当然だ。
今の俺は三歳児。
この身体では巨大な刀を扱うには限界があるらしい。
それでも。
あの刀は俺の中にある。
その事実だけは変わらなかった。
鍛えよう。
父親が剣を振り回しているのをよく見るし、教えを乞うのもいいかもしれない。
そういえば。
最近になって、ようやく両親の正式な名前を意識するようになった。
父親は、パウロ・グレイラット。
母親は、ゼニス・グレイラット。
そして俺は。
ルーデウス・グレイラット。
普段は二人とも俺を「ルディ」と呼ぶ。
互いのことも名前で呼ぶことは少ない。
だから今まで、正式な名前として意識する機会がなかったのだ。
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「あらあら、ルディは本が好きなのね?」
俺が本を持って歩いているとそう言って笑った。
二人は俺が本を持っていることを咎めるようなことは無かった。
食事中は脇に置いているのもあるだろう。
魔術教本は、家族の前では読まないように、特に気を付けていた。
この世界における魔術の立ち位置がどの程度なのか分からない。
生前において魔女狩りというのもあったしな。
常識が分からないというのもある。
なんせ、使い過ぎると気絶するような代物だ。
成長を阻害させるとか思われているかもしれない。
という訳で、家族の前では魔術のことは隠している。
もっとも、窓の外に向かって魔術をぶっ放した事もあるので、
もうバレてるかもしれないが……。
許してくれ……。
射出速度がどれだけ出るのか好奇心が湧いたのだ。
メイド――リーリャさんと言うらしい――は、偶に険しい顔で俺を見てくるが、
両親は相変わらずなので、大丈夫だと思いたい。
止めさせられても構わないが、成長期があるなら、伸ばしておきたい。
才能は伸びる時に伸ばしておかないと……。
使えるだけ使っておこう!
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ある日の午後、とうとう魔術の秘密訓練に終止符が打たれた。
魔力量が増えてきたから、中級の魔術を軽い気持ちで詠唱したのだ。
選んだのは、水系統の水砲だ。
サイズは1の速度は0だ。
その時は、桶からちょっと溢れるぐらい水が溜まると思っていた。
結果――
壁に大穴が開いた。
凄まじい量の水が放出されたのだ。
遠くの畑に空中で飛び散った水が撒かれていくのが見える。
俺は、啞然としたが諦めた。
壁の大穴という証拠が残っているのだ。
どうしようもない……。
「何事だ!」
「うおっ……。」
最初にパウロが飛び込んできた。
そして、壁に開いた大穴を見て啞然としていた。
すまんなパウロ。
家壊して……。
「ちょ、おい、なんだこりゃ……。ルディ、大丈夫なのか……?」
いい奴だなパウロ。
どう見ても俺がやったようにしか見えないだろうに、
俺の身を案じているのだ。
俺だったら家壊されたのに切れているね。
「あらあら……。」
続いてゼニスが部屋に入ってきた。
父親より冷静だった。
壊れた壁とその周囲の水の痕跡を順に見ていき――
「あら……?」
俺の開いていた魔術教本に目を止めた。
そして、俺と魔術教本を見比べると、
俺の目の前でしゃがみこんで、優しげな顔で目線を合わせた。
しかしながら、目の奥が笑っていなかった。
正直怖かった。
が、目を逸らさないで真摯に振る舞った。
「ねえ?ルディ、もしかして、この本に書いてあるのを声に出して読んじゃった?」
「ごめんなさい……。」
俺は頷きながら、謝罪する。
悪いことをした時は、潔く謝ったほうがいい。
前世の失敗は繰り返さないぞ!
「いや、おまえ、これ、中級の……。」
「きゃー!あなた聞いた!?やっぱりウチの子は天才だったんだわ!」
「将来はきっとすごい魔術師になるわよ!」
パウロの言葉を、ゼニスが悲鳴で遮った。
どうやら、ゼニスは俺が魔術が使えたのが嬉しくてしょうがないらしい。
あの様子では、俺の心配は杞憂だったらしい。
リーリャは平然と無言で片付けを始めている。
薄々感づいてそうだな、悪い事じゃないから特に気にも止めなかっただけで。
……もしくはこの二人が歓喜する様子が見たかったのかもしれないな。
「ねえあなた、明日にもロアの街で募集を出しましょう!
才能は伸ばしてあげなくっちゃ!」
ゼニスは一人で興奮し、天才だの才能だのと騒いでいる。
他に例が無いから、すごい事なのかの判別がつかない。
俺のひとりごとで天才だと思われたのかもしれない。
我が子が教えてもいないのに文字を読み、
本の内容を口に出して喋れるならそれは天才だろう。
俺だって自分の子供がそんなんだったら天才と思うしな!
「あなた、家庭教師よ!ロアの街ならきっといい魔術の先生が見つかるわ!」
……才能がありそうと見るや英才教育を施そうとするのは、
この世界でも変わらないようだ。
と、まぁゼニスは魔術師の家庭教師を付ける事を提案したのだが……。
これにパウロが反対した。
「いやまて、男の子だったら剣士にするという約束だったろ?」
男だったら剣を持たせ、女だったら魔術を教える。
そう言う取り決めをしていたらしい。
そして、その場で夫婦喧嘩を始める二人。
犬も食わないぞ……。
その横でリーリャは、平然と掃除していた。
すまんな……。
「午前中は魔術を学んで、午後から剣を学べばいいのでは?」
口論はしばらく続いたが、
掃除を終えたリーリャがため息混じりにそう提案することで、口論は止んだ。
……俺の意見は?
ま、いいんだけどね。
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そう言うことで、家庭教師を一人雇うことになった。
貴族の子弟の家庭教師というのは、それなりだが給料が良いらしい。
パウロも、ああ見えて下級貴族である騎士なのだそうだ。
給料も相場と同程度は出せるとか。
とは言ってもここは国の辺境。
優秀な人材は勿論、魔術師もほとんどない。
魔術ギルドと冒険者ギルドに依頼を出した所で、はたして応じる者がいるかどうか……。
その心配は杞憂だった。
あっさりと見つかったらしく、明日から来てくれるそうだ。
我が家での住み込みである。
仕方ない、この村には宿屋が無いそうなのだ。
……田舎過ぎないか?
引退した冒険者が来るというのが、両親の予想だ。
若者なら田舎には来ないし、宮廷魔術師なら王都に仕事が幾らでもある。
この世界では、魔術の教師が出来るのは上級以上の魔術師と決まっている。
ゆえに冒険者のランクとしては中の上か、それ以上。
長年魔術師として研鑽を積んだ中年か老人だろう、という話だったが――
「ロキシーです。よろしくおねがいします。」
――やってきたのはまだ年若い少女だった。
見た目は、中学生ぐらいだろうか?
茶色の
水色の髪を三つ編みにした、ちんまり佇まいをした、
鞄一つと、魔術師が持っていそうな杖を持った彼女を、
家族三人でお出迎えした。
両親は、彼女の姿を見て、絶句していた。
そりゃそうだろう。
それなりに歳を重ねた人物を想像していたのだろうに、
こんなちんまかったのだ。
まあ、俺にしてみれば、
ロリっこ魔術師の存在は別段不思議ではない。
ロリ・ジト目・無愛想。
実にパーフェクトだ。
ぜひ俺の嫁に欲しい。
「えー、あー、君が、その、家庭教師の?」
「ず、随分とその……。」
言い難そうだから俺が言ってやろう。
「小さいんですね!」
「あなたに言われたくありません。」
ぴしゃりと言い返された。
幼子に何て言うんだ。
「はぁ……。それで、わたしが教える生徒はどちらに?」
ロキシーは、溜息をすると、そう言って辺りを見渡して聞いてくる。
俺だよ。
「あ、それはこの子です。」
ゼニスに抱っこされている俺が紹介される。
キャピっ☆。
すると、ロキシーは目を見開いたのち、ため息をついた。
俺の渾身のウインクはお気に召さ無かったらしい。
「はぁ……、たまにいるんですよねぇ、
ちょっと成長が早いだけで自分の子供に才能があると思い込んじゃうバカ親……。」
ボソリと呟かれた。
聞こえてますよ!
ロキシーさん!
「何か?」
ゼニスの顔に影が差している。
あれは怒っている顔だ……。
ほら見ろ、パウロも冷や汗掻いてやがる。
「い、いえ。しかし、そちらのお子様には魔術の理論を理解できるとは思いませんが?」
ロキシーは慌てた様子で、訂正した。
「大丈夫よ。」
「うちのルディちゃんはとっても優秀なんだから!」
ゼニスの親馬鹿発言である。
「はぁ……。分かりました。やれるだけの事はやってみましょう。」
折れたようだ。
これ以上は無駄だと思われたのかもしれない。
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「まずは、ルディがどれほど魔術を使えるか試してみましょう。」
最初の授業は、庭でやることになった。
前世のトラウマで少しソワソワする。
「まずはお手本です。」
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、
清涼なるせせらぎの流れを今ここに、
ウォーターボール。」
ロキシーの詠唱と同時に、彼女の杖の先にバスケットボールサイズの水弾が生成された。
その後、その水弾は庭木の一つに向かって高速で飛翔し木の幹を簡単にへし折った。
「どうですか?」
「はい。その木は母さまが大事に育ててきたものですので、母さまが怒ると思います……。」
パウロがそれで怒られているのを俺は見たぞ。
「え?そ……それはまずいですね。」
ロキシーは慌てて木に近づくと、倒れた幹をうんしょと立てた。
「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん、ヒーリング」
木の断面の繊維がウニョウニョして、折れる前へと戻っていった。
なんだったら、なんか花も生えている。
おー、すげー。
「先生は治癒魔術も使えるのですね!」
「え?ええ。中級までは問題なく使えます」
「すごい!すごいです!」
「いいえ、きちんと訓練すればこのぐらいは誰にでも出来ますよ。」
ロキシーは褒められて、嬉しそうだった。
こいつぁ、チョロそうだ。
「では、やってみてください。」
「はい。」
俺は手を構える。
無詠唱は、何気なく使っているが、実は禁忌に触れるとかなのだろうか。
ロキシーも詠唱していたし、しばらくは詠唱をすべきだろう。
大事なことかもしれないしな。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん……ハッ!」
おっと、風で捲れたロキシーのパンツで集中が途切れてしまった。
「詠唱を端折りましたね?」
ロキシーは難しい顔をしてそう言った。
「はい。」
少し冷や汗を搔きながらそう答える。
「いつも詠唱を端折っているのですか?」
「いつもは……無しで。」
ロキシーの再びの問にほほを搔きながらそう答える。
「無し!?……そう。いつもは無し。なるほど。」
ロキシーは驚き、後ろを向いて頭を抱えた。
「これは鍛えがいがありそうですね。」
取り敢えずフフンと鼻を鳴らしておく。
「ああぁー!」
そんなことをしていると叫び声が上がった。
様子を見に来たゼニスだった。
「「あ。」」
丁度その時木の折れる音がして、ロキシーと二人でそう声を漏らす。
「ロキシーさん!あなたね!ウチの木を実験台にしないで頂戴!」
「えっ!」
ロキシーは、なぜ私が!と言った顔で驚いている。
「まったくもう!」
その後、ゼニスは庭の木をヒーリングで華麗に修復すると、家の中へと戻っていった。
「早速失敗してしまいました……。」
「ハハッ、明日には解雇ですかね………。」
「先生すみません、僕のせいで……。」
ロキシーは、地面に指でのの字を書きながら落ち込んでいた。
俺は彼女の肩をぽんと叩いた。
「先生は今、失敗したんじゃありません。」
「経験を積んだんです。」
最後にニヒっとしておいた。
「そ、そうですね。ありがとうございます」
ちょっと仲良くなれた気がした。
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午後はパウロと鍛錬だ。
俺の体格にあった木剣がないため、基本的には体作りが中心となってくる。
ランニング、腕立て伏せ、腹筋、などなど。
パウロは、とりあえず最初は体を動かす、ということを中心にやらせるつもりらしい。
パウロが仕事で指導が出来ない日も、基礎体力訓練だけは毎日欠かさずやるように言いつけられた。
基礎は大事だというしな!
頑張ろう。
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その後、ロキシーの歓迎会をみんなでした。
こういう祝いごとはいいものである。
人は、
光を教えられて歩くのではない。
ただ、
暗闇の中で、
最初の一歩を照らされるだけだ。