魔法少女は犯罪です!! 作:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!
この世界に置いて魔法の存在が正式に認められたのは、一九四七年の夏頃とされている。最も百年も前の事で、初期の頃の魔法が神の力だの新技術だのと持て囃されていた時代を知る者など居はしない。今では専ら悪魔の術である。
魔法とは人智を超えた奇跡ではない。
悪魔と契約を交わし、その代償として現実を書き換える異端の技術。その力を振るう者は魔法少女と呼ばれ、国家資格でも英雄でもなく、人類社会にとって最も危険な災害指定存在として扱われている。
契約者は例外なく肉体を書き換えられる。性別、肉体構造、果ては生命活動そのものまで悪魔の都合に塗り替えられ、二度と契約以前の身体へ戻る事はない。彼女達が魔法を使う度、代償は魂へと積み重なり、人としての在り方は少しずつ摩耗していく。
故に、この世界で魔法少女とは救いの象徴ではない。
災害であり、犯罪者であり、悪魔の尖兵である。
その脅威に対抗する為、各国は百年という歳月を掛けて対魔法戦術を発展させた。魔法を魔法で制するのではなく、科学と工学、情報戦、そして膨大な犠牲の上に築かれた戦術体系によって。
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薄暗い廃墟に、カツ、カツ、と靴音が響く。
それに混じるのは、荒く乱れた呼吸。
ある男は己の判断ミスを仲間に拭わせる羽目になったことを悔やみながらも、報告だけは欠かさない。
『おい、そっち行ったぞ。"盾"いるんだろ、逃がすなよ』
ノイズ混じりの通信に、青年は軽口で返す。
「了解。ハーゲンダッツ奢りでお願いします。……盾が出るまでもありませんよ。"侍"で十分です。それより、ちゃんと降伏勧告はしました? 見た感じ、魔法歴も長くなさそうですけど」
『三回したよ。全部無視だ。』
「なら問題ありませんね。」
通信を切る。
視線の先には、一人の魔法少女。
悪魔を隠そうともせず、人目のある街中で魔法を使用したため通報された、典型的な初犯だった。
展開する魔法障壁も荒削りながら形にはなっている。飲み込みは早いのだろう。
(……センスはある。)
だが、それだけだ。
鎮圧局の新人である自分に追い詰められる程度なら、契約してから精々数週間。
経験の差は埋められない。
角を曲がった瞬間、魔法少女は目を見開いた。
「ひゃっ!?」
「動かないでください。」
青年は刀を腰に下げたまま、静かに告げる。
「最後にもう一度だけ警告します。魔法の使用を停止し、抵抗をやめて投降してください。」
少女は震えながら首を振る。
「い、嫌っ!」
障壁が幾重にも重なる。
青年は小さく息を吐いた。
「……残念です。」
刀を抜く。
「早くお縄に付きましょうか。
――豊川玲奈さん。」
「えっ……!? な、なんで私の名前を――」
一瞬。
その瞳から戦意が消えた。
"侍"の役目は、その一瞬を逃さないことだ。
白刃が閃き、魔力障壁を音もなく両断する。
砕け散る光。
防御を失った少女へ、背後から駆け込んできた影が飛び掛かった。
「確保!」
"猟犬"が腕を極め、魔力封鎖具を両手首へ装着する。
「いやっ……離して!」
もがく力は、拘束具によって急速に失われていく。
青年は刀を納め、インカムへ報告した。
「こちら侍、北条 要。対象・豊川玲奈を確保。負傷者なし。悪魔との接触も確認できず。これより身柄を本部へ移送します。」
「了解。お疲れさん。ハーゲンダッツな。」
「グリーンティーでお願いします。」
一息ついたところで、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば悪魔……あぁ、契約生物はどうでした? 近くに居たと思うんですが。」
『あぁ、逃げられた。青いヤツ。"ブルーコスモス"だっけ? あいつら逃げ足だけは速いんだよな。』
思わず苦笑する。
「ガンダムにでもハマってるんですかね、上層部は。どう見てもカーネーションでしょう、あれ。」
『違いが分かるの、お前くらいだよ。』
「現場の人間なら誰でも思ってますよ。」
軽口を交わしながら拘束された豊川玲奈へ歩み寄る。
猟犬が拘束具のロックを確認し、小さく頷いた。
「封印良し。魔力反応、安定しています。」
「ありがとうございます。」
しゃがみ込んで、少女と目線を合わせる。
涙で濡れた瞳は恐怖に揺れている。
「……さて、豊川さん。」
「わ、私は……。」
「安心してください。あなたはまだ人を傷つけていない。」
その一言に少女は息を呑んだ。
「だからこそ、鎮圧局はあなたを殺しには来ていません。」
「……え?」
「逮捕です。取り調べを受け、その後は契約の危険性や悪魔についても説明を受けてもらいます。」
少女は困惑したように青年を見つめる。
「ニュースじゃ……魔法少女はみんな、その場で……。」
「あれは抵抗した人と、人を害する人です。」
怯える魔法少女その解を淡々と答える。
「降伏した契約者には、法に則った手続きがあります。そもそも独断での殺害を行える人は一握りですし」
その言葉を聞いた少女の肩から、ようやく力が抜けた。
その時だった。
ピピッ。
青年のインカムがピッと短く鳴る。
『侍、聞こえるか。予定変更だ。』
「はい、こちら"侍"オーバー」
『逃げた契約生物の追跡班から連絡。ヤツが半径二キロ圏内を離脱していない。……近くの未契約者を巻き込む可能性が高い。』
青年の表情から笑みが消える。
「契約相手を探している?……最悪人質か。」
『そういうことだ。対象の移送は"猟犬"に任せろ。お前は第三小隊と合流して契約生物を追え。絶対に新しい契約者を出すな。』
「了解。」
通信が切れる。
青年は立ち上がり、刀の柄へ手を添えた。
「"猟犬"、移送をお願いします。」
「侍は?」
「契約生物狩りです。」
そう呟くと、青年は暗い廃墟の奥へ視線を向ける。
タッ、タッ、タッ。
瓦礫を蹴る靴音が廃墟へ反響する。
青年は走りながらインカムを押した。
「と言うか、あちらには新羽隊長が居ますよね? 俺、出る幕あります?」
『何でも足止めで手一杯らしいよ。その上、結界に籠もって出てこないと来た。』
「結界? 契約生物がどうやって?」
『さあ? スペアの魔法少女か……若しくは民間人を盾にしてるか、かな。取り敢えず対結界兵装を持ってるのは、この辺りじゃ貴方くらい。一応"雷"も向かわせてるけど、貴方の方が早いよ。』
青年は小さく舌打ちする。
「……あっちは対妖精兵装だから、結界破壊を積んでないのか。」
刀の柄へ手を添え、口角を僅かに上げた。
「では――侍の器用万能さを、妖精どもに教えてあげましょう。」
『頼んだ、新人。』
「了解。」
通信が切れる。
青年は一段と速度を上げ、崩れかけた廃ビルの階段を一気に駆け上がる。
直後、耳を劈くような爆発音。
ズンッ――という重い衝撃が建物全体を揺らした。
「派手にやってるなぁ……。」
屋上へ飛び出した青年の視界に、青白い半球状の結界が映る。
直径二十メートルほど。
廃墟の一角を丸ごと包み込むように展開され、その外では十数名の鎮圧局隊員が展開していた。
機関銃、対魔法狙撃銃、重器。
どれだけ撃ち込んでも、結界には波紋一つ立たない。
その前方では、一人の巨漢が巨大な盾を地面へ突き立てていた。
「"盾"、前へ!」
「了解!」
直後、結界の内側から無数の光弾が降り注ぐ。
轟音。
だが、それらは全て盾役の防御障壁に阻まれた。
「ちっ……!」
廃ビルから飛び降りた青年は思わず眉をひそめる。
(これじゃ近付けない。)
その時だった。
「お、来たか。」
低く落ち着いた声。
振り向けば、隊員達の中央に立つ長身の男性がこちらを見ていた。
髪を後ろで束ね、軍刀を腰に提げた隊長――新羽だった。
「よぉ要、逮捕お疲れ。」
「隊長!」
「説明は?」
「移動中に聞きました。」
「なら話は早い。」
新羽は結界を顎で示す。
「あの中に契約生物がいる。姿は目視で確認済みだ。」
「魔法少女は?」
「幸いな事にでいいか?居ない。」
青年は目を瞬かせた。
「……居ない?」
「契約を切られたのか、最初から囮だったのかは知らん、今あの中には契約生物と、取り残された民間人が三人。」
「なるほど……だから撃てない、と。」
「そういうことだ。」
結界は外からの攻撃だけを弾いている。
無理に高火力兵器を使えば、内部の人質ごと吹き飛ぶ。
だから隊員たちは足止めしかできない。
新羽は青年の腰の刀へ視線を向けた。
「一番外は目くらまし。二枚目は衝撃分散。本命は三枚目だ。壊せるか?」
「少し時間をください。」
「十秒できなきゃ、俺がやる」
「十分です。」
青年は静かに一歩前へ出る。 腰に差した刀の柄へ右手を添え、ゆっくりと腰を落とした。
周囲ではなおも銃撃が続いている。 対魔法狙撃銃が火を噴き、重機関銃が絶え間なく弾丸を浴びせる。 しかし、その全ては青白い結界の表面に淡い波紋を浮かべるだけで、決定的な傷を付けるには至らない。
爆発。 怒号。 金属音。
戦場を満たすあらゆる音が耳へ飛び込んでくる。 それでも青年は瞼を閉じ、小さく息を吐いた。
一度。
二度。
呼吸を重ねる度、余計な音が遠ざかっていく。 鼓動だけが静かに身体へ響き、視界の中心には結界だけが残った。
今、青年の視界にあるのは結界だけだった。
(外殻は魔力を散らす偽装……。)
(二枚目は衝撃を逃がす緩衝層。)
(そして――。)
彼は目を細める。
青白い膜のさらに奥。
僅かに脈動する、本命の核。
「……見つけた。」
刀を静かに抜く。
その刃には魔力ではなく、対魔法処理が施された銀色の紋様が浮かび上がる。
侍。
魔法を使わず、魔法を斬る者。
「盾。」
青年は短く呼び掛けた。
「はい!」
「五秒だけ道をください。」
「了解!」
巨大な盾が前へ突き出される。
同時に、結界内部から再び光弾の雨。
轟ッ!!
爆発が盾を揺らし、火花が散る。
それでも女性は一歩も退かない。
「今!」
その声と同時に青年が駆けた。
一直線。
盾の影から飛び出し、光弾の隙間を縫う。
結界まで残り五メートル。
四。
三。
二。
刀を逆袈裟に構える。
「抜刀。」
刹那。
銀閃が走った。
キィィィィン――
耳鳴りにも似た高音。
一枚目の結界が音もなく裂ける。
間髪入れず、返す刃。
二枚目。
衝撃を逃がす層が抵抗するが、刃は止まらない。
「まだだ。」
最後の一枚。
最も厚く、最も硬い核。
青年は踏み込み、全身の力を刀に込める。
「――断ち斬れ。」
ガギィィンッ!!
火花が弾ける。
一瞬、拮抗。
そして。
パリン――。
硝子細工が砕けるような音と共に、三重結界は内側から崩壊した。
「結界消失!」
「お疲れ、後はベテランの仕事だ、」
「は…ぃ」
そこで視界は暗転した