シャニマスの世界で、色の見えない彼女はなにを見る 作:ヒナまつり
少しだけ、暇になった時間に…僕はスタッフの人に操作して貰った携帯の中に写る黒い髪と金の糸のようなメッシュが混じった彼女とその笑顔に染められている僕の写真を眺めていた。
そこには、無垢に明日を望む彼女の笑顔から生まれた穏やかな色と僕の憧れが詰まっていて…少しだけ感慨深くなったんだ。
だって、それが僕が今…アイドルというきっと向いてない仕事を目指そうとしたキッカケで、前世と今世で二度目に得た色だったから。
「かさね、そろそろ出番よ…?準備は出来てる?」
小さなステージの控え室で、僕の名前を心配そうに呼ぶ声が聞こえた。
僕は携帯へ伏せていた目をそちらに向け、彼女から溢れる暖かな橙色に心を癒されながらそれに、僕は緊張なんかしてないかのように余裕を持って答えた。
だって、きっと憧れたあの子だったら初めてのステージすらも光り輝く笑顔でファンを彩りながら舞うと思うから─。
「もちろん。Pや皆のお陰で…ね?じゃ、行こ。初めてのライブ、僕の…スタートラインに…っ」
安心したように色付いていくプロデューサーの顔を見てから、僕は色んな色に溢れた世界へと歩みを進めていく。
この先に、見つかる更なる色で僕の無色な身体を染めて鮮やかなグラデーションを作るために─。
子供の僕から見る世界は…いつも色がなかった。
全てがモノクロで、人の顔も機微も…雨や晴れも何一つ僕の瞳には写らない。ただ、世界は少しずつでも確実に動いていることだけが見えていた。
そして、幼稚園の頃…僕と仲の良かった小さな女の子が楽しそうに僕を描くと言って始めたお絵かきで描かれたそれは僕にとっては輪郭だけ描いて中身を白と黒で塗りつぶした…化け物のような姿にしか見なかった。
それなのに仲の良かったと思ってた彼女は自信満々に口を広げて僕に見せびらかす。
それが何処か恐ろしく感じて僕はずっと一緒に居た家族と言われた者に絵を見せながらその事を話した。
その頃の僕にとって、白と黒で作られた世界が普通だってそう思っていたから。
でも"普通"はそうじゃないってのを家族と言われるものに突き付けられて…拒絶するように─あんたはおかしいと、そう言われたんだ。
その時の蔑むような瞳にすら僕は色を見出だせなくてなくてただ凍えるような痛みだけが心に張り付いて…その痛みから透明な雫がただ地面へ流れて白と黒の世界を汚していった。
でも、やっぱりおかしいと分かっても色なんか僕には一切写らなかったんだ。
そして、もうその痛みを感じないように、それから僕はおかしい僕を隠して生きてきた…いや、自分を殺してただ時間が過ぎるのを待っていった。
小学校、中学校…高校。その何処かの時の流れに、僕を救ってくれるものがあることを祈りながら…。
でも、何時になっても世界は変わらなくて背と身体だけが大きくなって視界は広がったのに白と黒の境目は薄くなっていくだけで…。
やがて大人になって仕事をし続けながら僕の瞳に何も、影も光すらも写らなくなった頃…僕は眠るように目を閉じた。
もう、起きることがないように力を込めて──。
でも、目が覚めてしまった…。苦しみだけが残ったまま、小さな小さな可愛らしい女の子へと─。
一体何が起きたのか、僕にも分からなかった。
男であるはずの僕が女の子になっているのも、幼稚園…僕にとって異常性を突き付けられた、世界にヒビが入ったその頃に戻されたのも。
─でも、また無限に続く無色の世界が広がっていくことだけは理解できてしまって…無気力になった。
そんな僕を見て、今世の家族は色んな事をしてくれた。
食べたこともない食べ物や、変な動きをするオモチャ…果てには日本中や世界中を回ったり。
そんな中…僕は少しの合間に滞在した岡山の公園で初めての白と黒以外の色に出会った─。
それは、空から延びる白よりも眩しい光と柔らかさを感じさせる後から調べて知った空と呼ばれる色で…。それが僕の目の前に翼を広げた降り立った…。
僕はその色と彼女の屈託の無い笑顔から溢れる暖かみの美しさに見惚れて思わず擦りきれた声を漏らしてしまった。
「──きれい…。」
「…あはっ、もうおえんよ?ああさん、急にいらまかすけぇ…」
でも、そんな僕の言葉に帰ってきたのは白い肌を朱に染めながら聞き慣れない日本語で…直ぐに家族から貰った岡山弁の方言集からそれを読み取った。
それで分かったのは彼女が、僕の事をお兄さんと言ったことと褒めた事を冗談だと思っていることだった。
…まぁ、確かに髪は長いのが嫌で短くしてはいるし無駄に顔が美形だから男に見られるのは、分からなくもないけど…。
でも、綺麗なのは初めて僕の心の底から出た本当の言葉だったから…それだけは信じて貰いたくて僕はその子の真っ白な手を取った─。
「…わっ、ああさん…っ?」
「─ぁ、こんな…でーれー、しれぇくてあおじゃろう…だから…えっと、きれいなな~?」
方言集から、どうにか意味が合うように綴った言葉が青の彼女にどんな形で届いたかは分からない。
けれど、そんな言葉でもその子は青よりも白が混じった瞳を輝かしながら触れた僕の手を握り返すように力を込めて、口を広げて言葉を返してくれた。
「もう、ああさんや。おえんけえ…ぼっけぇうれしいが?」
その顔の動きが、過去の経験から笑顔だって知っては居たけれど…彼女の笑顔に宿った特別な色にまた見惚れてしまう。
だってそれは、初めて見た普通の色とはまた違う…心の底から惚れてしまいそうな熱い芸術品のような何かで、感動から込み上げる涙を仕舞うことなんて出来なかった。
そして、白黒の僕から流れていく透明な涙が色に溢れた彼女に触れた時…その色達を溶かし混ざって─色となって地面へと降り注いだその瞬間、世界はモノクロではなく色んな色に染まっていった。
─先ず目についたのは空に広がる彼女の瞳のように澄み渡る青や水色…そして、その光に照らされるように草木や花には数えきれない程の色が各々の命を生き方を示すように輝いていった…。
青に、緑に…黄色に─あぁっ、なんて綺麗なんだろう…っ!─これが、皆が見た…普通の世界…っ!
その感動は、僕の停滞していた時間を進めるには充分で…初めて色付いた世界で僕と彼女は二人、子供のように遊び回った。
白や黄色の花を束めて冠にしたり、透明な川で水を掛け合ったり…本当に色んなことで遊んだ。その時の時間の変化による色の変化も僕にとっては心地の良いものだった。
だから、またここで遊ぼうとその子と約束をした…。そして、その時になって僕らはまだ名前を知らないことを思い出して自己紹介をしあった。
「…えっと、私は、すずきはな!ああさん…じゃなかった、お兄さんは?」
「─すずき…はな…。─あ、僕は…かさね。─しきみ、かさね…。─よろしく」
「…あはっ、うんっ!…よろしく。」
それまた綺麗な笑顔で羽那は僕のイントネーションを真似するように色をくれた。
その日から、僕達は暇な時間にその公園に集まって色んな事で遊んで色んな色を見せて貰ったんだ。
それは僕にとっては初めての幸せな思い出で…このまま彼女の傍で一緒に生きていたいとそう思うぐらいには絆された。
けれど、そんな時間は長くは続かなかった。僕はそもそもここではなく東京の人間で…彼女はここ岡山に住むただの綺麗で可憐な女の子だったから─。
でも、彼女から離れる度に僕の瞳は…世界はまた色を失っていく。それが、また欠陥品の僕に戻っていくようで怖かったんだ…。
だから折角会えて友達になった彼女と別れたくないってそう家族に伝えて…でもその我が儘だけは通らなかった…。
それが、辛くて苦しくて…最後に羽那に会える日、僕は思わず泣いてしまった。
もう会えないということを伝えないように、隠そうとしていたのに…彼女から貰った色を失うことが怖くて堪らなかったんだ。
「…えっ、かさねお兄さん帰っちゃうの?明日から、会えないの?も、もう…おえんよ?そんな嘘ついたって─」
だけど、僕が漏らした弱音の、そのせいで羽那の綺麗で大好きな笑顔が濁った…。
「やだ、やだ…やだよ。そんなの…わ、私かさねお兄さんと話すために…これからも頑張るよ?方言じゃなくて、こうやってちゃんと話すから…だから、一緒にいよ?」
そう泣く彼女の涙から滲む色が、輝きが黒に溢れていく─。それは、僕が彼女から色を奪ってしまったように見えて…震える声で僕は、彼女の色がこれ以上無くならないように適当な理想を語る。
「─はな。大丈夫、僕達なら何時かでまたきっと会える…。だからね、その日まで─元気で、僕が見惚れちゃったあの色で…笑っていてほしい。─だめ、かな」
「…あはっ、うん…そうだね─?何時か、何時かまた…絶対会えるよね…うん、分かった。それまでちゃんと、かさねお兄さんがまた…綺麗だって、そう言ってくれるように…いっぱい笑うから─。だから、約束…だよ?」
甘い甘い声で、羽那はそう言って僕の小指と彼女の小指をあわせて指切りをした。
その頃には、彼女の笑顔も色もすっかり元通りになって夕焼けの中…僕らはたった数日の、けれど長く濃い思い出を思い出すかのように語り合って笑顔でお別れをした。
そして、その日からたまに僕の視界の隅で少しだけ色が灯り始めた。
路地裏に小さく咲く白い花。どこか孤立しているような赤い壁、モニターに写る羽那のように明るい笑顔をするアイドル…。
ほんの少し、けれどその大きな変化に僕は今までのように時間の流れを待つだけの無気力なままでは生きていられなかった。
まぁ、でも色が出るまでは今までのような退屈な時間を過ごして、色が見えたらそれを興味がなくなるまで眺めて…そうやって少しだけ変な子として小学や中学を過ごし、中学最後の夏の日に、そこでまた僕は第二の運命の出会いを果たした。
それは…何時も通りのなにも写らない世界で、暇そうにカフェで外を眺めていた僕へ話しかけてきた…モノクロの中に輝く金の糸。
「…ねぇ、アンタ。何か…悩んでんの?」
ぶっきらぼうで、羽那とは違う…でも、僕を気遣ってくれたその金の色は…僕に、新たな夢と色付く世界をくれたのだった─。