シャニマスの世界で、色の見えない彼女はアイドルの脳を焼く 作:ヒナまつり
初ライブの後、僕はまた一歩前に進んだ。先なんてないって歩くことを諦めていたあの頃とは違って。
でも、その後にやったシーズでの30秒PR動画。そこで見たにちかや美琴さんの歩みと比べるとどうしても見劣りしているように感じてしまう。
どれだけ、ファンの歓声を浴びようとも…ステージの上の世界が好きになっても─やっぱり、まだ信じれない。
自分も、この…美しくてトゲのある世界にも。
だから、また僕はレッスンを繰り返した。あの日の感覚を忘れないようにもしないといけないから。それに─僕達シーズは皆でのライブを行って第一審査を越えたんだから。
「─1.2…タンッ!」
音を立てる、広げた腕から微かな光を通して生まれた影に僅かな色が付く。
まるで、ペンキを撒き散らすみたいに。でも、その僅かな色は単色じゃなく色んな色が混じってそれでいてまだ、無色に近かった。
あの日から、ライブで浴びたファンの人の光から生まれた色はもっと、もっと耀いていた。オーロラみたいに、色んな色もあって…。
きっと、あれは─。
「─かさねさん、かさねさん~?」
「─わっ、どうしました?はづきさん」
パンッと手を叩いたはづきさんに、僕の考えは掻き消された。でも、それでよかったのかもしれない。
汗、やばいし。身体何時もよりも重たいから。
「何度も呼んだのに気付かなかったので~。あの、あまりご無理はなさらないでくださいね?」
「─無理じゃ、ないですよ?美琴さんも、にちかもこれより頑張っていますから。その上あの2人と違って、僕はアイドルを目指した歴もアイドルだった経験もないですし…それに、僕はこの綺麗で苦しい世界じゃなきゃ、きっと死んでいましたから─」
口からスラスラと、言葉が流れる。それは、はづきさんの優しさに甘えているからなのか…ただの本音だから口から素直に吐き出せているのか…。
僕にも分からない。でも、これが本当だ。きっと、僕はこの世界に会えなければ…羽那に会って、ルカに憧れなければまたこの白と黒に囚われて、見る角度を変えることも出来なくてただ時間に殺されていた。
「─そうですか~。なら、長生きするためにも身体には気を遣わないとですね~?」
「─うぐっ、そ…そうですね。でも、あともう少しだけ─」
そう言って、動き出そうとした僕の足はふらついた。視界がほんの少し歪んで、時間が止まった。
─まだ、ここがレッスン室でよかった。ステージじゃなくて、良かった。そんな考えが先に走って、落ち着くまで身体を支えていると焦ったはづきさんの顔が見えた。
「─かさねさんっ、大丈夫ですか!」
「─?大丈夫。その、なんでそんなに焦っているんですか?」
こんなの、別に普通なのに。身体中が痛くなるのも、視界が歪むのも…レッスンなら平気だし。
ライブの日のために、頑張らないといけないんだから。
「──転んだら大変だな~って思いまして~」
「─あ、確かに。傷付くとメイクの人、大変ですもんね。ありがとう、ございます」
そうだ、気を付けないと。僕の身体はもう、芸術品みたいなものなんだから。誰かに、見られるためにあるんだから…。
「─よし、じゃあ今日はここまでにします。それに今日、寮に来て欲しいって恋鐘さんに言われてましたし。その…付き添い、ありがとうございました」
「…はい~。しっかりお身体を休めてくださいね~?」
念を押してくるはづきさんに、頷いてから僕は初めて行く寮に胸を期待させてまた歩みを進めた。
「~♪あ、綺麗な猫ちゃん~。どうしたの?お腹空いたの?」
人通りの少ない道、その道中で真っ黒な猫が僕の前に現れた。
その子は、全身黒だけどその瞳だけは炎みたいに燃えていてとっても綺麗で、なんでか僕にすり寄ってきた。
「─お腹、空いてるんだ。えっと、食べれるもの…あ、にちかにもらったサラダチキン、食べれる?」
少し解してから差し出したサラダチキンを、猫ちゃんは食べずに口に加えて持って行こうとする。でも、少し離れたら立ち止まってまた僕を見た。
なんだろうと、僕はその子の色を見て着いてきて欲しいって言われたからその跡を辿った。
どんどん、どんどん…猫ちゃんは止まらず奥に奥に進んでいって、街頭すら殆どないような暗い暗い路地裏でやっと止まった。
そこには、小さな子猫が何匹も居て…やっとそこでこの子の燃えるような熱は、この子達から受け取ったものなんだと分かった。
この子は、生きなきゃいけないんだ…子どもたちのために。だから、死なないと強い意思があって燃えるような光を持っている。
僕を着いてこさせたのも、きっとこのご飯を自分じゃ運びきれないからなんだろう。
「はい、猫ちゃん。ちゃんと、解したからゆっくり皆で食べるんだよ?」
知らない人を見て怯えていた子猫ちゃんたちを驚かせないためにゆっくりと動いてご飯を差し出した。
皆、各々がご飯を食べて…でも、その中で奥の方にいた一匹だけ…ご飯を食べなかった。
その子は、どの子よりも小さくて骨が浮き出るぐらいに衰弱している。
でも、誰もその子のことは見ない。僕がせめてと差し出したご飯も他の子が無理矢理取って…その子はそれを見るだけだった。
まるで、諦めたかのように。その姿が…何処か僕に似ていた。
きっと、この子はこのまま時間によって死を迎える。それでも、この子はそれもきっと知っていて諦めている。他の子もお母さんだって…そうなんだろう。
こんなに、子供を守るために必死なのに─。
あぁこの子も、僕みたいに何かが悪かったんだろう。どこかが他の子より何が劣っていて、そのせいでこうなってしまったんだろう。
─助けたい、そう思ってもお母さんは猫アレルギーで…どうすればいいのか分からなくて立ち止まった。
そんな時、僕の電話が震えた。非通知で、電話が掛かってきてるみたい。
誰だろう、そう思いながら電話を取ってみた。
「ふふー、私…メリーさん、今貴方の後ろにいるのー」
「─メリーさん?えっと、誰…?後ろに、いるの?」
「振り返っちゃダメー」
僕が思わず振り返ろうとしたら、既にその人は僕の後ろにくっついてきて後ろを振り向かないように圧をかけられた。
でも、この人が出す色に見覚えがあって僕は少し怒るような口調で喋った。
「摩美々さん、ですよね?こんなところ、あんまり来ない方がいいですよ?綺麗な人は、良くない人も惹き付けますから」
「かさねも、来ない方がいいんじゃないー?こんな風に持たれちゃうからー」
「わわっ、僕は猫ちゃんじゃないんですよー!それに、変な人にはちゃんと警戒してますから。摩美々さんだから、近づけただけですー!」
シャーッと、猫みたいに威嚇しながら下ろさせるために抵抗してみてもうんともすんとも摩美々さんは動かない。
「それでー、どうして路地裏にー?今日はかさねが寮に来るからって私呼び出されたのにー」
「─猫ちゃんに、着いてこいって。それで、着いていったらこんなところに来てました。もう、そろそろ寮に向かうところ…だったんですよ?」
「─ふーん?でもー、何か悩んでた…」
心配するように、色が変わって頼っていいのか…僕には決めれなくて、その時弱っていた猫だけを置いてご飯を食べ終わった猫ちゃん達は歩いていってしまった。
─振り返りもせずに…。きっと、子猫ちゃんも諦めるように眠るんだろう、そう思ったら僕も諦めてただ摩美々さんのなすがままに力を抜いた。
それなのに、声が聞こえた。掠れて、痛々しい弱い声が…それでも僕の耳に届いた。
にゃー、にゃーって甘えるように、それでも生きたいと叫ぶように。
あぁ、あぁ…本当に僕みたい。諦めていた振りをして本当は諦めれていなかったんだ…あの子も。
なら、手を伸ばしてあげないと。僕に色んな人が手を伸ばしてくれたみたいに。
そう思ったら、摩美々さんの拘束も直ぐにほどけて僕はその子を、小さな命を抱いた。
目を離したら、消えてしまいそうな命。真っ黒でそれ以外何もないのに、小さな灯火を抱いているその子を…消してしまわないように。ハンカチで優しく包んで持ち上げた。
「─へー、そんな顔…出来るんだー。ねぇ、まみみも触っていいー?」
「─はい、どうぞ。あっ…でもその前にご飯だけ食べさせてもいいですか…?」
「─平気ー。別に、それはそもそも許可を求めることなんかじゃないでしょー?」
「─そう、ですかね?あ、食べた…。ゆっくり、ゆっくりでいいからね…お水も、飲んで?」
生きたいという思いで、焦って全部食べようとする子猫ちゃんに小さく解したお肉を少しずつ差し出す。お水もほんの少しだけど飲んでくれて、そんなことを繰り返していると満腹になったのか子猫ちゃんは生きるために、目を閉じた。
それを、摩美々さんは優しく見守って子猫ちゃんの頭を撫でる─わけじゃなくて。
「─あの、摩美々さん?それ、僕ですよ?あのー、あの…」
僕の頭を、優しい笑顔で撫でてくる。愛でるみたいに…それが気恥ずかしくて、でも子猫ちゃんを起こせないから抵抗出来なくて受け入れるしかなかった。
「─ふふー、照れてるー?」
「─はい…その、子猫ちゃんを撫でてあげてください…」
「えー、でも寝てるの邪魔したくないからー」
摩美々さんの色は変わり続けて、気持ちが分かるようで分からない。でも、優しいことだけは分かるから諦めて僕はその心地よくて気恥ずかしい温もりを受け入れることにした。
夕焼けの中で、少し暗くなった世界では摩美々さんの顔が今どんな顔をしているのかよく分からない。でも、きっと何時もみたいに可愛らしい笑顔を浮かべているんだろう─あれ、夕焼け…っ!?
「─って、あぁーっ!僕たち、寮に行く時間遅れちゃいます!えと、えーっと…もう子猫ちゃんも一緒に行きましょーっ!」
「ふふー、めんどくさいけどしょうがないかー」
日が落ちてきたから暗い路地裏に、光が射し込む。それは、まるでこの子の未来を祝福するかのようで…僕はこの子を飼うためにどうするかと頭を回しながら、寮へ走った。
走って、やっと着いた坂の傍にあるその寮は暖かみのある光を放っていた。お家と似ていて、でも少し違うその光に導かれるように摩美々さんの案内で中に入っていく。
そこは、色んな色が混ざり合って綺麗な色をしている暖かいところで…入っていいのか少しだけ不安になるぐらいには眩しい場所だった。
「─わぁ、かさねさんっ!子猫連れてきたんですかーっ!可愛いですー!」
でも、そんな迷いは元気な果穂の声で掻き消されて、僕はその光の中に連れ出された。
「─うん、拾った。あの、寮って…ペット禁止だったりする?」
「えっと、確か大丈夫だった気がしますっ!ですよね、樹里ちゃんっ!」
「あぁ、平気だぞ?まぁ、寮の中で飼うなら許可もらわないといけないけどなぁ」
「へぇーそうなんだぁ。でも寮で飼えたらすっごくいいね!私、この子ずっと撫でに来ちゃうかもー!」
「あら、それなら智代子?その帰り道にランニングでもしましょう?」
「─それは……とても有意義で…ございますね」
果穂の声を聞いて扉から出てきた樹里ちゃんは不安そうにしている僕を見て優しく答えてくれる。それに、放課後クライマックスの暖かな誰もを応援する色が背を押してくれた。
だから、安心して僕は子猫ちゃんと共に明るい部屋に入った。
そこには、大きなテーブルと色んなご飯がいっぱい載っていてお昼から何も食べていない僕のお腹がぐるるって鳴いた。
「かさね、お腹空いとると?ちょいと待っといてね~?あと少しで出来るばってん!」
「もし……空腹が酷いようなら…こちらを…」
元気な恋鐘さんの声と、ゆっくりで聞き取りやすい凛世さんの声と渡された飴に連れて僕は席に着いた。
そこから、眺める景色はまるで夜空を眺めているときみたいにキラキラで心地いいものだった。それに─手を伸ばしたらその星に触れられるから…。
「─えっと…どうしたの?もしかして…怪我したの?」
「─あ、いや…その、この子寒そうで、霧子さんなら…何か持っているかな…って」
「なら、これはどうかい?その子にもとっても似合うと思うんだ」
咲耶さんが、取り出したのは真っ白でふわふわなタオルで子猫ちゃんを寝かせると、安心したようにフミフミしてまた眠りに落ちた。
「─うん。とっても…似合ってるね。それに、気持ち良さそう…」
「だねー!可愛い!かさねん、この子何処で拾ってきたのー?」
「えっと、路地裏。摩美々さんと、一緒に」
「そー、一緒にー」
「へー、まみみんと?三峰も、一緒に見たかったなー。かさねんが子猫抱くところー」
「ふふー、三峰…私写真撮ってるー」
「…えっ?いつの間に─?僕、撮られてたんですか…?」
わいわいと、綺麗な星たちと話し合っている内に僕の色もこの暖かな空間に広がっていった。
それに霧子さんと結華さんの言う通り、子猫ちゃんは白と黒のコントラストが似合っていて本来何時も、見ている白と黒の視界なのに…少しだけ違うようにその色たちは見えた。
それは、この星たちの傍に居るからなのか…子猫ちゃんの生きようとする輝きでなのか、分からない。
でも…この子もこの寮を気に入ったみたいだから…どうにかここで飼わせてもらえないかな…。
子猫ちゃんを見ながらそう悩んでいると、ちょんちょんと僕の肩に誰かが触れた。
「か、かさねちゃん…今日は眠くない?甜花、何時でも一緒に寝れるよ…」
甜花さんで目を擦りながら抱えたクッションを差し出しながらそう誘ってきた。
それは、あまりにも魅力的な誘いだった。朝から、練習を続けているから正直少し─いや、かなり眠いから。
「─なら、少しだけ…」
「て、甜花ちゃんー!?駄目だよ!今日はかさねちゃんの初ライブ成功祝いなんだから」
「うん、甜花ちゃん?お祝いが終わった後に寝ましょう。今日はかさねちゃん泊まるってご両親に伝えたんだもんね?」
僕の目の前に咲いたのは、綺麗な幸せの花。三人で、一つになるその色は僕の疲れた身体を触れるだけで癒してくれる。
あぁ、僕も…早く三人みたいにシーズとして支え合える何かに…なれるかな─。
そんな、暗い気持ちもこの明るさじゃ直ぐに消えて僕は笑いながら答えた。、
「─はい。それに、寮からだとお家…少しだけ遠いですから」
「─そっか。なら、今日は甜花となーちゃんと千雪さんと一緒に寝ようね…?」
「─いいんですか…?その、僕…アルストメリアじゃ、ないし─」
「準備出来たけんー!みんな、席着いてとー!」
呟いた、黒は暖かな恋鐘さんの声で消えて、皆席に着いた。
僕の視界の中に、皆の姿があって…まるで僕にここに居てもいいんだよってその景色は伝えてくれているみたいで…。
「今日集まっても貰ったんは、かさねの初ライブ記念やけん…かさね、今日はいっーぱい食べるとね!そいじゃ、いただきます!」
その声に連れて、皆がいただきますと言って食卓を囲んだ。
暖かで、美味しい手料理は僕の心に深く深く染み込んで瞬く間に、消えていく。それでも、その熱も美味しさもずっと、僕の中に宿っていて…見えなくなっても失くなった訳じゃないって思えた。
だから、思い出としてこっそり…写真を撮った。何時だってこの熱を思い出せるように─。
煌びやかな、星の中で…。