シャニマスの世界で、色の見えない彼女はアイドルの脳を焼く 作:ヒナまつり
あの暖かな日から、何度かシーズでの練習とライブを繰り返して、僕らはいつの間にかWingの第三審査を通過したらしい…。
なんだか、あんまり実感が湧かないけど…Pや美琴さん、にちかが安心したようになっていたから、きっと良いことなんだろう。
「─じゃあ、私もう少しやっていくからお疲れ様」
「─じゃ、じゃあ私ももう少し…」
「─えっと、僕は帰るね…?その、猫にご飯あげないとなので」
レッスン室、僕らはシーズとして練習をしている筈のに何時まで経っても色が混ざらない。あの日見たストレイライトとは全く違う僕らは、本当に綺麗に踊れているんだろうか…?時間だけが経って、結果だけは出ているから…これで良いのかもしれない。でも─。
そう思いながら、僕はレッスン室を出る。
一人で、ライブは出来るようになったのに…ユニットになると僕の輪郭はボヤける。あの2人の光に負けているからなのかな、それとも─僕らがまだ一つになれてないから?
やれることが増えるほど、壁はまた現れる。大きくなりながら─。
それでも、憧れが…夢が僕らの先に有る限り止まらない、止まることなんか出来ない。
「にゃー」
「わ、よしよし。コタ…はい、ご飯」
すり寄ってくる子猫ちゃんに、皆さんから名前を着けて貰ったのは何時だっけ…。あ、もうこんな時間─練習…しないと。
暑くなってきた世界は、僕の体力を容赦なく奪っていく。それでも、にちかや美琴さんの隣に立つためにギャップを埋めないといけない。
2人とも、きっと僕よりも練習しているから─。もっと、もっと…。
ステップを踏んで、ターンをして声を出す。何度も、何度も練習したこと。ふらつきも、動きによる声の変化も抑えて完璧に…。
それでも、やっぱり何かが足りない。初めてライブをした時と、何かが違う。美琴さんにも近くなって、にちかにも近くなったのに何かが…。
絵を描いているときも、練習をしている時もその違和感に頭が支配されて、ある日レッスン室で2人と踊る僕は鏡に映る自分が自分じゃないように見えた。
そして、それは新しく貰った…シーズとしての衣装に袖を通した時に更に大きく、深くなった。深海みたいに…。
「これが─僕」
「お三人とも、お似合いですよ。…とっても」
そう言う、はづきさんの顔に影が射した。それでも、色んな色が入り交じるここではそれが何色なのか僕には見分けれなくて、ただ…その言葉だけを咀嚼した。
「ありがとう、この衣装に見合うパフォーマンスをしなくちゃね」
─そっか、そうだよね。綺麗で光るこの衣装に着飾られてるだけじゃ、ダメ。でも、これ…本当に僕なの─?
また、嫌な感じが僕の中を巡る。視野が狭くなって、ただ…奈落の底で見上げたところにある光に照らされて生まれた色を返すことしか僕の頭にはなかった。
それでも、やっぱりステージに立った2人の色には叶わない。色んな、一つだけの色じゃない小さな色の塊は、眺めるには良いけど大きな色には混ざると消えてしまうから。
それに─ここにあるのは僕を照らす光じゃなく、シーズを─2人を照らす光だから…。
「─三人とも!シーズは、本戦進出だっ!やったな…!」
Pが、喜んで…にちかがまた濁って、美琴さんは何時もみたいに命を燃やすような練習をして─。
それでも、僕は2人とは違ってまだ深海にいた。だって、僕は普通に少しは慣れたかもしれない。
けど、アイドルの…にちかや美琴さん─出会った皆のところにはまだ…立てていないから。ステージに、一人で立っていた時はなれていたのに─。なりたいのに…絶対に─。
暗い世界で、また僕は溺れた。そんな僕をPは放っては置かないけど変われない。でも、そんな時…熱狂した人々の声が響いた。
その人たちは、皆こう言う…カミサマって。それが、僕には何なのか分からなかった。少し、見たことのある色だったけど…知らない色だったから。
それでも、気になって僕はその暗いライブハウスに入っていった。そこは、当日券を売っていたから…。
コツ、コツ、僕の足音が大きく聞こえて…どうにか静かにとゆっくりと進んだ先に、アイドルがいた。
真っ黒な、アイドルが─。その人は、周りからの光に照らされてもその色を変えない。そして、その変わらない色を求めるみたいに、観客は手を伸ばす。
それは、狂喜とも取れるぐらい恐ろしく…綺麗な世界で。
小さな僕には、皆が求めるその先に…誰が立っているのか分からなかった。それでも、それでも─分かってしまった。
この声、ほんの少しだけ…見たことのある色。そして、僕の憧れの人だったから。
震える、声が…伸ばした手が─信じたくないから、もっともっとあの人は綺麗で耀いていたから…こんな風に、自分を傷つけるような色なんかじゃなかった筈だから。
でも、観客の隙間から…見えてしまった。金の糸が──。
また、会いたくて焦がれていた人。何時か、その人の隣に立ちたいと望んで、夢を見ていた存在──。
それ、なのに……。僕が見ていた筈の太陽は夜を祝福するかのような真っ黒に、染められていて…いつの間にか僕も、それに染められて──何も、もう何も…考えれなかった。顔を上げることも、動くことも出来なかった。
ルカが、自分の頭をマイクで叩いて…悲しそうに何かを呟いていても…それに、観客が泣いて叫んでその熱すらも塗り潰すルカの黒に染められても…。
ただ、僕は眺め続けていた。胸を締め付ける痛みと久しぶりの凍える冬の到来だけを感じながら─何かが折れる音が聞こえた…。
──気が付いた時には、僕はまたあの公園に居た。大切な思い出だけがある、公園に…。
星は、見えなかった。ただ、灰色の空だけが何処までも、何処までも続いていた─。
そこに眩しい、星は─もう…何処にもない。迷っても、それを見れば僕は進めていたのに─光が、進むべき先が見えなくなった。
そう、分かってしまった瞬間…世界は無色になった。白も、黒も─もう何もない。ただ、ぼんやりと浮かぶ何かに、なった。
その手を伸ばしても、伸びてることすら分からない無色の世界で、僕は溺れるように目を閉じた─。
「─かさね…」
何時もは誰よりも早く俺に気が付くかさねに声を掛けても、かさねは俺に気が付かない。そんな日が何度も続いて…俺はやっと肩に触れてからなら、気が付いてくれると分かった。
「──P、どうしたの?」
それでも、かさねがこんな風になった原因は聞き出せないでいる。好きだった、絵ですら今のかさねの視界には映りもしないみたいで弱っていることは分かるのに。
「─今度、ストレイライトのレッスンがあるんだが…見学するか?」
「─ううん、申し訳ないから…いい。僕、練習してくるね」
歌も、踊りもビジュアルだって、急に磨かれた。その、儚く壊れているような人を引き付ける雰囲気も─それは、アイドルとしての成長とも云える。
だが─その変化がかさねにとって良いことなんかじゃないとは分かりきっているから離れていく手を取った。─取ろうとした…。
でも、それは霧に包まれているかのように俺の手からすり抜けていってもう…見えなくなった。
追いかけても、追いかけても…雲のようにかさねの手には触れられない。それに、そんなかさねの変化に伴ってシーズも変わりつつあった。それは特別と憧れの傍に立っているにちか、特別に有るものを持っていない美琴で─。
「─今さっきの、かさねちゃんの踊り…もう一回見せて貰えない?」
「─は、はい!録画データで良ければ─!あ、わ…私も見ます」
その焦りが、Wingの決戦間近という焦りを加熱させた。今、俺が出来るのは三人のメンタルケアだけだ…。だけど、かさねは──。
CHAINにあるかさねからのメッセージでは、明日は学校の登校があるらしい。その後に、レッスン室でレッスンをすると。
それなら、その時迎えをして…聞こう。また、逃げられてもあの日の夜のようにひび割れたガラスに写るかさねに触れられると、そう信じて─。
学校、面倒くさい場所。レッスンをするのに向いてる場所がないし、今の僕には絵を描けないから。
だって、どんな色も同じ無色だから─。だけど、唯一いい点があるとしたら休み時間、僕はあるデッサン室をほぼ貸しきりに出来てそこでレッスン出来ること。
だから、今日も何時もみたいに─初めてライブをした時の気持ちで、ステージに立った。
その瞬間、僕が…僕じゃなくなる─アイドルになる。
世界の全てが、僕に向けて光を放っているみたいになってその中心で、僕らしく笑顔で心を震わせる。
自由に身体を動かせる楽しさ、僕の声が歌として物語を奏で、その中心でいるアイドル。きらきら─耀いて……絶望─を歌う。
─いや、違う…アイドルは、そんなのじゃ…。ルカ、みたいに綺麗で──っ!
頭の中に浮かぶのは大好きなルカの笑顔じゃなくて…泣き叫ぶみたいな、あの歌だった─。
それに引っ張られて─僕たちの歌は、ルカの歌に変わった。僕は、輝きじゃなく叫びを─痛みを歌って…声にならない声で僕を歌う。
暗闇、何も見えない程の暗闇…それすらない、無色の海─。でも、そこに灯台のように光が灯った─。
何も、見えなくなった僕に…多彩の色が光が差したんだ。
それは、鏡のように無色の僕の身体から反射してまた…その人の元へ送られる。
そのお陰で、その人の輪郭が無色の海に浮かび上がった。
ふわふわと、漂うような色で─目の奥には美琴さんみたいに大きな炎が浮かんでいるその子は、僕を見つめて離さない。
だから、アイドルらしく僕はその視線を独り占めした。貰った光と色を僕の物にして…。
色のない世界に、色が戻ってくる。虹色の…色が─。それが、僕を僕らしく彩って耀きになる─。
初めてライブをした時のように、僕はその時、アイドルになれたんだ。
誰かのお陰で誰よりも耀いて、その人の灯火に色を返す…ルカとは違う白と黒の憧れに─。
それは、僕が忘れていたアイドルとしての、僕としての楽しいという気持ちだった。この、時間しか流れない退屈な世界で…僕が得た幸福だったんだ。
この為になら、きっと…僕は死んだっていい。ルカの隣に立てなくたっていい。ただ、僕のことを見てくれるファンや観客の人へ僕を返せればそれで、いいんだ。
だから──。
「─ありがとう、虹色さん……」
「─ありがとう、虹色さん……」
無色の子は、そう言いました。世界を色づけながら…。
私は、ただここで納得のいかなかったデッサンをやり直していただけだったんですが…突如として現れた綺麗で、でも何処か壊れてしまっているその子の色が無くとも、人を引き寄せる叫びに目を奪われていただけだったんですけど─。
「─えっと、私こそありがとうございます?アイドルのライブなんて初めて見ましたぁ」
心が動かされる感覚が、まだ身体に残っています。無色の時の助けて上げたいと思わず手を伸ばしてしまいそうになる庇護欲も、急に雰囲気が変わってただこの変化を見届けていたいという観測欲も…まだまだ、心の奥底から涌き出て来ています…!それに、あそこに…隣に一緒に立ってみたいっていう強欲な考えすらも─!
「─そうなの。ねぇ─虹色さんは、僕のどう感じた…?」
「そうですねぇ─始めは、世界が無色になったように見えましたぁ─!」
不安そうに、それでも誇らしそうに聞いてくる無色の子は少しだけライブの時より小さく見えました。
だけど、ライブを見て感じた思いは口から止めどなく溢れてしまって私ですら何て言ったのか分からなくなっちゃいました─!
でも、それを聞く無色の子は遮ることなく嬉しそうに私の言葉を受け取ってくれました…。その時にはもう、無色でも虹色でもなく誰よりも綺麗な太陽のような光でした。
それは、きっと小さく色々あって眩しい過ぎるせいで自分には見えないような色で…私はそれを描かないといけないと思ってしまって目の前にあるキャンバスに描き始めました。
無色のように見えて、沢山の色と星を包容しているこの小さな子を─。
何度も、何度も描き直して納得のいくものが出来たのは、お昼休みが終わる5分前でした。
でも、その時間も小さな子は私を眺めながら色んな景色を見せてくれました─。路肩に咲いているお花、誰よりも白い人…そんな見惚れてしまいそうな景色を─。
そのお返しに、私も自信作を見せました。私が見えた、小さな子の姿を─。
「─これが、ぼく…これが──」
ポロポロ、雫が溢れました。それが、嬉しさから流れているんだってことは、小さな子の顔を見れば直ぐに分かりました。そして私の絵が、この子の心を動かせた…その事実が私の心を動かしました─。
そして、決めたんです…。私は、この誰よりも綺麗で誰よりも繊細な太陽を傍で支えてみたいって…。その上で、私がもっと色んな人の心を動かすことが出来るようになりたいなぁ…って!
─彼女みたいに…!
「─僕、樒 かさね。君は…」
「私は、郁田はるきと申します~。よろしくね、かさねちゃん!」
「─うん、よろしく…はるき─ちゃん」
少し、真っ白な頬を赤らめながらかさねちゃんは返事を返してくれました。それは、まだ不安定で揺れているように見えて…手を握りました。私よりも小さな、でも少し筋肉質な手を…。
そして、私達が別れてから調べて…私は暗い気持ちになりました…!だって、もうかさねちゃんはユニットを組んでいて…今はWingという新人アイドルの登竜門で決勝に進んでいる程、凄い人だったのですから…っ!