シャニマスの世界で、色の見えない彼女はアイドルの脳を焼く 作:ヒナまつり
白黒の公園の中で、黒と金が舞う。腕を振るうその度に、それは周りに絵の具を振り撒いて、色を染め上げていく。
その景色を、僕は携帯を持ちながら眺めていた。
「─かさね、どう?こんな感じで出来てる…?」
「─うん。……ルカの色、普通の時より濃くなってる。─やっぱり、何時見ても…ルカは綺麗。あ、ルカ。そのまま…写真撮る」
カシャ、カシャと僕の写真を撮る度にルカの色は変わり続ける。それに影響されて世界も色を変わるから、会う度、練習する度と何度も幾ら撮っても美しい瞬間が無くならない。
だから、何時もルカがもういいだろ?って僕に呆れて休憩に入った時が僕の視界からまた世界から色が消える瞬間で、電気のようにパッと消えるせいでいつもルカからも色が消えてないか不安になる…。でも─
─あぁ、楽しい…。世界が、色に染まる瞬間も…ルカの綺麗な色も全部から一瞬でも目が離せないって思っちゃう程に。
─それに、ルカも…楽しそう。…アイドルって、そんなに楽しいものなのかな」
「──っ、かさね!もしかして、アイドルになる気になった?」
色の消えたベンチで今さっき撮ったルカの写真を眺めながら考えていた僕の手を、嬉しそうな顔をしたルカが握ってそう叫んだ。
「──ルカ?もしかして、僕…声漏らしてた?」
「あぁ、アイドルってそんなに楽しいのって!」
「──そっか。でも、やっぱり……なる気はないかな。僕、やっぱりルカみたいな、自分の色がないから」
─僕が世界を染めれるのは、僕の世界に色を生み出した羽那やルカ、テレビの先にいる誰かや草木の色を真似してるから。
それは、結局誰かの真似でしかなくて作り物の色…だからアイドルという誰かの偶像になんてなれやしない。
「──私はかさねにも…いや、かさねにはかさねしかない色があるってそう見えてる。だから、やっぱりやってみようよ。─アイドル」
そう、思うのに…断る度悲しそうな顔で食い下がるルカを見るとその心が揺らされる。
─ルカの言う通りに私だけの色、それが本当にあるのなら…アイドルをやっていたかもしれない。
でも、内側にしたカメラに写る僕には一切の色がなかった。
ただ、濃淡と幼い少女が擦りきれた瞳でこっちを無表情で眺める顔がある、それだけ。
だから、また僕は食い下がるルカを宥めてこの楽しい時間を過ごす。
こんな一瞬が何時までも続くようにと祈りながら…。
「─ねぇ、ルカ。次は、何時会える?」
「─あぁ、最近仕事が忙しくなってそんなに会える時間取れないかも…。練習も、もっとしないと…美琴に追い付けないから」
─でも、やっぱり世界は残酷でこの一時すらも僕から奪おうとする。
「─頑張って。ルカ…僕、応援してる。…じゃあ、また─ね」
痛い、苦しい。また、白黒の世界をたった一人で眺めることが。
例え、色を真似て世界を彩れるようになったってそれは変わらなくて。
けれど、その痛みを漏らすことはルカに迷惑を掛けることになるから必死に隠してルカと別れて家に帰る。
「─はぁ。なんで、夏なのに…こんなに寒いんだろ」
ため息の混じった僕の声に、返ってくる言葉はない…。それが、今までは普通だったのに─。
ルカと出会ってから、何回も会って練習してたせいで寂しい。
こんなことになるなら、誰とも会わず関わらなければ良かった、そう思って…でもルカとの思い出が、撮った写真が腐ることを許してはくれない。
だから、今日も一人で色のない寒い帰り道を歩く。
また、ルカに会える日があるってそう信じて…。
──でも、梅雨が過ぎて、紅葉が舞って…世界を白が覆っても金の糸は僕の前に現れることはなかった。
ただ、その間僕は動きはしないメッセージを眺めてから白黒の世界で日々を過ごしていた。
その頃には、逆にルカと会っていた時のあの暖かさや楽しさは思い出になって…でもやっぱり寒さも痛みも消えなかった。
だから、それを誤魔化すために僕は絵を描くことにした。
ルカと出会ってから見てた色を忘れないように、写真以外で残すために。
だって、色は何時の日か色褪せてしまうものだから…。
それがこうしてか、僕の高校選びは芸術系の高校からの推薦という形で直ぐに終わった。
白黒の世界をまるで見ているかのような表現とそこに咲く唯一の色を持った花とのコントラストが有名な人に評価されたみたいで。
けれど、最近はその絵を描くことも辛くなってきた。
だって今の雪にまみれた世界では草木は隠れて色を探せなくて、ルカとも会えてないから色というインスピレーションが湧かないから。
最近は色探しも少しずつ辞めて部屋に引きこもることにした。
どうせ、出会いなどないしこの痛みを癒してくれるものも存在しないのだから。
それに、もし…また同じ喪失を味わったら僕が僕で居られない気がしたんだ。
それぐらいに、僕にとってルカは大切な人で…でも、あの子は、ルカはそうじゃなかったんだろう。
そんな風に考えてしまう程にこの寒さは僕を蝕んで、僕の作る偽物の色以外忘れてしまいそうな時、また僕は新たな出会いをしてしまったのだ。
何処までも自由な、銀の風が色を連れて─。
それは、突然台風のように僕の視界に現れた。
白い雪を撒き散らしながら、その乱反射する光の中で何処かで見たことのある踊りをするその子は僕の事なんか気にせず踊り続ける。
その、舞の一瞬一瞬が僕の世界に再び色を生み出す。
彼女が生み出す世界はルカや羽那のように彼女達の色を溶かしたような世界ではなく、色とりどりの自由で絵の具を撒き散らすかのようにめちゃくちゃで…でも目を離せない美しさを持っていた。
だから、僕は彼女に見られないことをいいことにその色を真似してみたんだ。
元気で自由な空を舞う翼のようなその色を…。
雪に足がとられても、息が絶え絶えになって苦しくなっても…久しぶりに見た色を決して離さないように─。
「──っ、はぁ…はぁ─。これで、完成─っ」
僕の白いキャンバスは、彼女が作り出した色に染め上げられて…白銀の世界を塗りつぶす自由な絵が生まれた。
「──すごいっ!ねぇ、もう一回やって!」
息を吸うのも忘れて集中していたから、彼女に見られていたことに気付いてなかったから突然聞こえた声に驚いて僕の中から色が消えて世界もまた白黒に包まれてしまった。
「─あっ、色…消えちゃった。…えっと、真似して─ごめん」
「─えっ?別に謝らなくていいよ?それよりも、今さっきのぐわーって面白いヤツもう一回やってー!」
「─ぐわーっ…?面白い…?え、えっと…」
一体、何の事を言ってるんだろう…?僕何か、変なことしてたかな…。
そうやって、僕が考え込んでいると彼女は不満げに僕を見ながら身体を動かしながら説明してくれた。
「ほらっ、こうやってぐわーって周りを面白くしたやつ!─よっ、ほっ…こうして、あれ?あれー?わたしには出来ないみたい」
「─あっ、色染めるやつ…のこと?…えっと、こうして─こう、だよ?」
「おぉーっ!凄い凄いっ!なんかぐわーってなって楽しい!それ、どうやってやるの?」
「…えっと、ルカの時は…自分の動きに合わせて─こう。すると少しずつ、色濃くなる…よ」
ルカとの練習を思い出しながら、僕はルカの色を真似して世界を染める。
それは一つ一つの動きにキレをつけて、その上で自分を見て貰うようにアピールを決める…ただ、それだけ。
でも…そうすると、世界はその色に染まってくれる。なんでかは、よく分からないけれど…ルカと僕で見つけた方法。
だから、彼女にもそう教えてみた。
すると、水を得た魚のように彼女は直ぐに色を引き出しながら踊り始めた。
─ルカでも、もう少し時間が掛かったのに…。凄いな、この子…。
「──わぁ…すごい。すごいよ、銀の人…!綺麗─っ」
「─あっ、どう?出来てた?でも、さっきのとこもっと良い感じに出来そう…」
彼女は花が咲くような元気な笑顔で僕に出来たか確認したかと思ったら直ぐに自分のダメなところを探し始めた。
そんな執着とも言える集中力に目を惹かれながら、彼女が生み出す色んな色を眺めて、偶々持ってきていたキャンバスノートと絵の具でその光景を描くことにした。
銀の風が白銀の世界に色を撒き散らす、そんな光景を…。
──でも、気がついたら世界は暗くなってきていた。
それだけ、僕たちは集中していたんだろう。その証拠に僕のパレットは絵の具でぐちゃぐちゃになって一杯だったし、彼女は汗だくで格段に自分の中の色を引き出せていた。
それに、今までで一番と自信をもって見せれる絵が僕のキャンバスに刻まれていた。
「─出来た…。うん、綺麗。でも、もっと…」
「うーん、こうじゃない…もっとキレを出して、ステップを─うん、もっと…出来る。よし」
でも、僕たちは貪欲に限界のその先に手を伸ばそうとする。
きっと、僕たちは同じ思いからそう言ってるわけではないけれど、眺めている先は何処か似ているように思えてかじかんだ手を足を無理矢理動かそうとして、優しい声に止められた。
「──あさひっ!やっと見つけたぞ、こんなとこで何してるんだ?」
「─あ、プロデューサーさん?あれ、なんでここにいるっすか?」
「─あさひを探してたんだ。何処にいるか分からないってみんな心配してたんだぞ…?」
そう叫ぶ男の人は、世界を染めるんじゃなくて…世界に色を溢れさせるそんな人だった。今まで出会ってきた思い出とは違う色に、また僕は見惚れて真似をする。
でも、どうにも上手く出来ない。手がかんじかんでいるから?それとも、元々の色のない僕には出来ないこと?
そうやって、色々試して…やっぱりダメで嫌になってルカと羽那の色を混ぜながら、世界に色を溢れさせようと息を吐いた。
でも、それはやっぱり世界を染めるだけで世界そのものの色を引き出すことは出来なかった。
だって、僕の目に写ったのは白い息何かじゃなく…黒と金を包む輝く純白だったから。
「─はぁ、ダメ。…どうして?色、そのままの…見てみたいのに」
「─プロデューサーさん、わたしはこれっす、これを真似してたんすよっ!ほらっ、楽しい感じがするっす!」
「─っ。─あぁ、確かに…凄い。あさひが真似しようとするのもわかる気がするよ。…そうだ。あの、アイドルに興味はないかな」
─?アイドル…?そういえばルカが楽しいって言ってた。
─それに、アイドルになれば…ルカにもう一度会えるかも…。でも、そんな思いでやっちゃダメ…だよね。それに、ルカみたいになれる気がしない…。
「─プロデューサーさん、この子のことアイドルにするっすか?いいっすね!あ、でも小学生ってアイドル出来るんすか?」
でも、そんな悩みはあさひと呼ばれた女の子の失礼な発言に吹き飛ばされた。
─おかしい、ルカに中学生らしくなってきたって言われてたのに…。なんで、今さら小学生?こんなにも大人なのに…
「─むっ…僕は小学生じゃない。大人…来年高校生だし」
「─えー?絶対嘘だー。プロデューサーさんもそう思うっすよね?」
「─え、あ…あさひ?も、もしかしたら本当に来年高校生かもしれないからそう言うのは─」
「もしかしたらでも…嘘でもない。僕は、今中学三年生で…来年高校生。ほら」
そう言いながら、見やすいように差し出した生徒手帳を二人は眺めてから不思議そうな顔を見合わせた。
─えっ?これでも信じれない…?僕ってそんなに子供みたい?これでも、前世合わせて二十歳は越えてるよ?な、なんで?
「─ね、なんか言ってよ。…ねぇってば─」
「─ま、まさかの先輩だったっす。プロデューサーさん、これがマジックってやつっすか?」
「いや、あさひ…マジックではないぞ。これはな─逆年齢詐称って言うんだ」
天然同士の会話が的確に僕の豆腐な心をぐちゃぐちゃに砕いてくる…。こいつら、絶対楽しんでる…!僕のこと虐めること楽しんでるっ!
「─いや、どっちも違う。ただの、成長不足だから。でもこれから、ぐんって大きくなる。…プロデューサー?を越すぐらいに」
「─夢を見ることは自由っすもんね!応援してるっす!」
無邪気な笑顔であさひは元気よく僕の手を取ってそう言う。その言葉は逆に僕の壊れかけな心を踏み潰して、何故か視界が歪んだ。なんでか分かんないケドっ!
「あ、あさひ…?それは、あんまり良くないかも─」
「─ぐすっ。アイドル、興味ない。僕、帰る…っ!」
「えっ、あれ?泣いてるっす?なんでっすか…?分かんないっす。プロデューサーさん、どうにかしてくださいっす!」
「え…?あー、うん…まだ成長期だから何とかなるかもしれないな!ははっ…!」
苦笑いでそう慰めてくるプロデューサーとかいう巨人の言葉で僕は完全にプッツンと怒って寒い身体で走り出した。
「─もう、いい!…僕は、僕はアイドルなんか一生ならないからっー!」
「─あっ、って携帯とノート落としたぞーっ!あ…行っちゃったな…あさひ、追いかけっ子じゃないからな?追わなくていいぞ?」
そう叫ぶプロデューサーの声で落とし物だけ取りに行こうと振り返って、僕は直ぐにまた前へ走り出した…。
だって、あさひが僕のことを狼みたいな顔で追いかけようとしていたんだ…。このままじゃ、食べられちゃう─!
「あ、そうなんすか?でも、プロデューサーさん。今追ったらなんか楽しそうじゃないっすか?」
「いや、可哀想だから…な?それに、今戻ったらあさひが欲しがってたアレがあるぞ?だから戻ろう…な?」
「─うーん、分かったっす!じゃあ、追いかけるのはまた会ったらにするっす!プロデューサーさん、早く帰るっすよー!」
─はぁ、やっと帰ってくれた…。少し、様子を見てから荷物を取りに戻ろう…。久しぶりに色に出会えたのに、こんな目に合うなんて…災難だ─!
「…あっ、携帯─壊れてるっ!?そ、そんなぁ…僕、なにか悪いことした…?」
誰も居なくなった公園で、画面の割れた携帯を振るえる手で持った僕の呟く、その声だけが寂しく響いた─。
「─あぁ……違うんだ─違うんだよ、美琴。私は美琴と一緒に…っ!なんで、なんで…こんなことに─」
暗い暗い、黒に塗りつぶされた部屋で嘆く声だけが響く。
そんな時に、辛い時に何時も開くのはかさねとのメッセージだった。
不思議で、世界に絶望してるような顔をしてるくせに私を見る時だけはこの世で一番幸せって顔で笑う小さな小さな淡い月。
それが、忙しい私の心の支えになったのは一体何時の日か覚えてない。
でも─。
「─かさね、かさねも…私から、居なくなるんだ…っ」
会えなくなってからメッセージを送るのが怖くなって、でも久しぶりに会いたくて送ったメッセージには何時になっても既読のつかない。
─もう、かさねも新しい場所に行ったんだ。私を置いて…。
「─なんでだよ…んでこうなるんだよっ!」
叫んでも、叫んでも…答えなんか帰ってきやしない。あの笑顔も、私の真似して難しくて悩んでいる姿も…なにもかも全部見えない。
そう思った瞬間から、私の世界から色が失われたような気がした。
かさねが、あの子が言っていたみたいに…ただ、真っ黒な世界だけが続いて…今日もまた、その暗闇の中で目を閉じた─。
ため口あさひが好き。