シャニマスの世界で、色の見えない彼女はアイドルの脳を焼く   作:ヒナまつり

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長めっす


偶像って…

 

 「…むぅ、むかつく─。携帯…壊れちゃったし、小学生って─っ!」

 

 パタパタ、壊れた液晶と落とし物に紛れて置いてあった名刺を眺めてベッドの上で足をバタつかせながら昨日の出来事を思い出していた。

 

 ─すっごく失礼な、あの人達のことを。

 

 「それに…また、アイドル─」

 

 液晶の、その先に写るその人たちを…僕はこの目で見たことはない。

 

 だからキラキラに輝いて、フリフリな衣装を着る…アイドルについてなんてそれだけしか僕は知らない。

 

 だから、やってみないかって言われたって─。

 

 『やっぱりやってみようよ、アイドル』

 

 突然頭の中に浮かんだのは、ルカの…悲しそうにしながらも食い下がる顔とその言葉で─。

 

 「─ルカ…。アイドル、したらまた…会ってくれるのかな。もし、もし─会ってくれるなら…」

 

 きっと、あの時するって言えば見えた筈の色も笑顔も今は見ようとすることも出来なくて…だから、逆にアイドルになれば会えるんじゃないかってそう思ってしまう。

 

 だって毛布にくるまっても、エアコンをつけても…あの日、ルカと会えなくなった日から寒さは変わらないから。

 

 凍えてしまいそうな、吹雪の中に一人で取り残されたみたいなこの寒さが。

 

 でも、あの日…あさひと呼ばれる子とプロデューサーって人と話していた時だけは少しだけ暖かかった気がした。

 

 ならきっと、ルカと会えればこの寒さは消えてくれる…そんな気がする…。

 

 ─でも…。

 

 「アイドルって…なんなんだろ─?」

 

 調べようにも携帯が壊れてて…でも、お母さんが昔アイドルにハマっていたのを思い出した。確か、伝説のアイドル?とかいう人を好きだって…。

 

 だから、ご飯の時にお母さんに聞いてみた。その伝説のアイドルって人について。

 

 「─ねぇ、お母さん。伝説のアイドルって…どんな人?」

 

 「あ、かさね…っ。お母さんにその話振っちゃ─っ」

 

 何故か妙に焦るお父さんを尻目に僕は瞳を輝かせるお母さんを見て、何となくその理由が分かった。

 

 「かさねちゃんっ!八雲なみ様に興味を持ってくれたのー?あの人はね、すっごいのよ!まずプロデューサーとの出会いから─」

 

 余りにも長いお母さんの説明が耳から耳へ通りすぎりながらも、とにかく凄い人ってことだけは分かった。

 

 特別な人…。やっぱり、アイドルってのはそういう人がなるものなんだろう。

 

 ルカも、あさひも二人だけの世界を塗り替えれる特別な色があって。だから、アイドルになれたんだ。

 

 ─でも、僕は…。

 

 リビングにある鏡には、白黒の世界に染められているだけの僕が写っている。

 

 誰にも見えている筈の色すら、見えない。欠陥品の、劣っている僕なんて─アイドルには…っ。

 

 「な、なぁ…かさねはどうしてその質問をしたんだ?─アイドルに興味なんてなかったじゃないか」

 

 雑音とノイズに溢れた僕の耳に、お父さんの優しい声が入ってくる。

 

 そのお陰で、苦しくなった呼吸が…少しだけ楽になった。

 

 「─あ…えっと、アイドルに…スカウトされたの。283プロって…とこ」

 

 「─えーーっ!?ほ、本当なの!?」

 

 「─えっ、うん。…これ、貰った」

 

 差し出した名刺をお母さんは直ぐに目を皿にしながら見て、携帯で調べ始めた。

 

 やっぱり、優しい…。でも、きっと色が見えないことを知ったら─。

 

 「これ、本物じゃないっ!ねぇ、貴方っ!うちのかさねちゃんがアイドルになるかもしれないわっ~!?」

 

 「─そうか。いや、お父さんも昔から思っていたんだ。かさねは可愛いからアイドルにだってなれるって」

 

 喜ぶお母さんと沁々した顔で頷くお父さんはきっと親バカなんだろう。でも、色がなくてもその明るさが色のない僕の世界で唯一の救いで…だから、こんなに喜んで貰えるならアイドルになってみたいってそう思える。

 

 でも、本当に僕は可愛いの?そもそも可愛いければアイドルになれるの?

 

 そんな疑問が溢れて、口に漏らす。

 

 「─そうなの?僕、可愛くないと思う…ケド。それに、アイドルって…よく分からない」

 

 「なら、八雲なみ様のライブ映像見てみない?それで、少しは分かるかもしれないわ」

 

 そう言ってお母さんがテレビに映し出したのは、キラキラと輝いて、色のついた世界の映像だった。

 

 誰も彼もが、八雲なみさんの色に染まって…映像を見ているだけのお母さんすらも、その熱狂に巻き込まれて…そんなのきっと楽しくて堪らない筈なのに、でも──。

 

 「…苦しんでる」

 

 僕の口から漏れた言葉は、輝きに照らされてる皆の耳には届かなかった。

 

 綺麗な色なのに、もっともっと眺めていたいって普段ならそう思うのに…。

 

 これが、これが偶像アイドルだって言うのなら…ルカは、あさひはなんであんなに楽しそうに輝いていたの…?

 

 そして、なんで皆は─こんなに苦しそうに踊るこの人を見て…助けたいって思わないの…?

 

 テレビに手を伸ばして、でもその手は空を切る。

 

 だって、それはもう終わった過去の映像で─彼女はもう…アイドルでは無くなっているんだから。

 

 「─これが、アイドル…」

 

 「えぇ、これがアイドル…八雲なみ様ね!」

 

 何時もは白黒でも輝いているお母さんの笑顔は、彼女の色に染まって鮮やかに彩られているのに…恐ろしく感じた。

 

 ルカの輝きでもなく、あさひの無邪気さでもなく…八雲なみさんの悲しみこそが、この人を彩った…その事実が。

 

 そして、それこそがアイドルなのだと叫ぶお母さんの言葉で僕は八雲なみさんの色も、パレットに残した。

 

 アイドルになれば、この人みたいに苦しみを、僕の寒さを歌えば…何時の日かまたルカに会えるかもしれないからとそう信じて。

 

 「…ありがと、お母さん。─僕、そろそろ部屋に戻るから…」

 

 ─色を見えることが幸せだと思ったことはあったのに、見えることが痛いだなんて…思うことになるとは考えもしなかった。

 

 雪が降り積もる、外を眺めながら…僕はこの白黒の世界に、大嫌いだった世界に…少しだけ安心感を持った。

 

 でも、やっぱりこの寒さだけは消えてくれない。あの人も、八雲なみさんも…こんな寒さを抱えていたのかな─。

 

 月明かりに照らされたベッドの上で、そう考えて目を閉じた。

 

 


 

 朝、雪が溶けて固まってツルツルと滑る道を歩いて…僕はあの日あさひとプロデューサーに出会ったあの場所に居た。

 

 何となく、ここに来たくて…。

 

 そんな理由だから、僕は暇になってベンチに座って空を見ていた。

 

 そしてなんの色もない、空を─あの人の色で染めてみた。

 

 辛くて苦しくて、でもそうしなきゃいけない…作り出した色で。

 

 「──ぁ、こんな…感じ─」

 

 ルカや、羽那…あさひの色を真似した時より、その色は馴染みが良かった。

 

 僕は、色をつくって染まるだけのキャンバスだから…自然の色に似せることは出来ても─自然の色を作ることは出来ないから。

 

 きっと、こんな色の方が似合っているのだろう。誰かに望まれて、誰にも望まれたから作られていったこの色が。

 

 だから、今までよりも遠く、遠くまで色を延ばせた。視界に写る空も、座るベンチも全部その色に作られた色に染められて。

 

 雑多な色の中で僕は、八雲なみになった。

 

 痛い、苦しい…。泣き出しそうなのに、でも笑って踊る。まるで悲劇のピエロのように。

 

 まぁ、練習したこと無いし歌や踊りは、きっと酷いものだっただろうけど…。

 

 「───綺麗。……なみちゃん、みたい」

 

 そんなものを、褒めてくれる人が居た。僕の、八雲なみの色を…綺麗って、より綺麗な色を持っているのに。

 

 だから、あの映像のようにその子に向けてウインクをした。

 

 緑の綺麗な、その子に。

 

 「──それ、あのライブの…っ」

 

 「…正解。─もしかして、なみさんのファン?」

 

 「─あ…はい!なみちゃんのファンです!えっと、貴方もですか…?」

 

 憧れの人に会えたみたいな顔をして、緊張しながらその子は僕に恐る恐るそう聞いてきた。

 

 「…僕は─お母さんがファンなの。ごめんね。それと─敬語じゃなくて、いいよ?…多分、同い年だし」

 

 「─え?えーーっ!?お、同い年ですか?わ、私もう少しで高校生ですよ?」

 

 ─うぐっ、また…僕は小学生に見られた─?な、なんで…今日はお母さんが選んだ中で一番大人っぽいの着てるのにぃ…。

 

 「─うん、僕も。…えと、僕は樒 かさね。緑の人は?」

 

 「み、緑の人ですか~?かさねさんって失礼な人なんです?わ、私は七草 にちかって言います。もう緑の人って呼ばないで下さいね~?」

 

 「─うん。絶対。にちか、よろしくね」

 

 「──っ…は、はい!こちらこそよろしくお願いしますっ!」

 

 そう少し叫びながら返事をするにちかは、退屈な…虚しいこの色を明るく彩ってくれた。

 

 ─きっと、この子もアイドルなんだろう。それか、羽那みたいにまだ見つかってない子。

 

 綺麗って言ってくれたけど…にちかの方が綺麗だってそう言おうとしたけど、それより先に敬語で話してくる方が少し悲しくて、聞いてみた。

 

 「─むっ、敬語。なんで?」

 

 「─だ、だって…今さっきの完全になみちゃんで─!そんな凄いかさねさんにため口なんて出来ないんです!」

 

 「…そっか。無理なら、いいよ。─悲しいけど」

 

 「─え、えっと…すみません。でも、やっぱり無理ですー!なみちゃん、憧れの人なので!そ、そうだ─!別のライブの真似もしてくれませんか─?」

 

 おどおどしながら、でもはっきりと心を言ってくれるにちかの言葉は咀嚼する必要なく、僕に届いて…。

 

 きっと、これが…誰かに憧れを、幸せを届けるのが《rt》偶像《/rt》アイドル《/ruby》なんだってそう思えた。

 

 でも残念ながらなみさんのライブを見たのはあの時見たひとつだけだったから、その期待には答えられなかった。

 

 「─ごめん。にちか、見たことあるのこれだけ。…ほかは─」

 

 「─じゃ、じゃあ!一緒に見ませんか─?なみちゃんのライブっ!それで、真似して欲しいところがいっぱいあるんです!─あ、お時間ありますか…?」

 

 花が咲くように、にちかの無邪気な笑顔が世界を更に温かく彩って、僕の荒んだ心も穏やかになる。

 

 ─それに、今までずっと感じていた寒さだって。

 

 だから、僕も思わず頬を緩めてこの気持ちを彼女へ伝えた。

 

 「ん、大丈夫。─それに、それでにちかが喜んでくれるなら…僕も嬉しい。にちかの笑顔、好きだから」

 

 「─えっ…?わ、私の笑顔ですか…?そんな、好きになんてなって貰うほどのものじゃ─」

 

 「─?とっても、綺麗だよ?…で、何処で見るの?」

 

 「─あ、わ…私の家で…って、出会って直ぐの私なんかの家は嫌ですよね!えっと、どうしよう─」

 

 ─家…ナンパ?この場合、逆ナンになるのかな…。やっぱり、僕は男らしいということ…!だって、羽那は僕のことお兄さんって呼んだし…!

 

 「─ふふっ、別にいいよ。…友達の家、行ったこと無いし」

 

 「─友達…?わ、私とかさねさんがです─!?そ、その恐れ多いと言いますか…」

 

 「─むぅ、にちか。…僕と友達、嫌?」

 

 「─い、嫌…そんなこと無いです!ても、私は─」

 

 「じゃあ、よし。─僕らは友達。じゃ、にちか…お家行こ?ここに居たら、失礼なやつ来るかもだから─」

 

 そう言いながら、にちかの手を取って朝とは違って色に溢れた世界へと足を踏み出した。

 

 ─その瞬間…。

 

 「─居たっすー!プロデューサーさん~!」

 

 銀の風が突然突風のように近づいてきた。失礼な、とっても失礼なっ! 

 

 「─げっ…にちか、走る…よ!」

 

 「─えっ?えっーー!?」

 

 「おぉ!また追いかけっ子すか!今度は絶対に捕まえるっすよー!」

 

 「な、何なんですかーっ!って、かさねさん…っ!?」

 

 「─っ!すべっ…!?」

 

 運の悪いことに僕の足が踏みしめた場所は滑りやすい氷で、力を込めた瞬間に足は滑って僕は頭から地面へと落ちそうになった。

 

 でも─。

 

 「─こ、根性ーっ!…よ、よしっ!かさねさん、怪我無いですー!?」

 

 手を引いて浮かんだ僕をそのままお姫様抱っこでにちかは抱え込んだ。

 

 ─わぁ!すごっ…!あはっ、あははっ…!よし─!

 

 それは、まるで王子様みたいで、少しときめいた心とまた新たな色に戸惑いながらも僕はそのまま笑顔で拳を振り上げた。

 

 「─ごー!にちかー!あの、失礼なやつら撒けー!」

 

 「─あぁ、もう!ちゃんと後で説明してくださいねー!?」

 

 「…わぁー!二人ともすっごい面白いことしてるっす!─あ、プロデューサーさん!わたしもあれしたいっす!プロデューサーさん号発進っす!」

 

 「─あ、あさひっ!?…わ、分かった!というか、別に追わなくてもいいんだがな─!?」

 

 「─えーっ!つまんないっす!ほら、ごーっす!ごー!」

 

 「わ、分かったからあさひっ!腕の中で暴れると危ないっ─!」

 

 どんどんと遠ざかる失礼ズの声に笑いながら必死に走るにちかの顔を見上げる。

 

 そこには、彼女らしい…彼女しかない特別な色で溢れていてそのまま、僕はその色に上書きされた。

 

 ─でも、なみさんの色を忘れることはしなかった…。だって、きっとあの人がこの色の為に努力したのも苦しみながらアイドルとして短い時間でも生きたのは、きっとこんな子の笑顔のお陰なんだろうと─そう思ったから…。

 

 「─ふふっ!やっぱり、にちかのこと…大好きっ!」

 

 「─ちょっ!なに口走ってるんです!?あぁ、もう!わ、私もかさねさんのその笑顔好きですー!こー言えば充分ですかっ!?もう、今日はほんとなんなんですか─!」

 

 ………好き?

 

 「───ふぇっ?」

 

 「えっ、何です!?私なんか変なこと言いましたー!?かさねさん?─あの、かさねさん…?」

 

 「──好きって、言った。ぼくの、えがお…。─うぅ、にちか、変だよぉ…」

 

 ─かお、暑い…!すきっ、すきってー!よくない…よくないよ─っ!

 

 「えっ!?えーー?!な、なんでそんな反応するんです!?かさねさんから言ったんでしょ!」

 

 「─ぼ、僕は良いの!でも、にちかはダメっ!だっ、だって…にちかみたいな、綺麗な人が言うと─すっごいの~っ!」

 

 「かさねさんこそですーっ!私なんかより可愛いのにっ!好き好きって!どんな風に生きてきたらそんな風に軽口で口説いてくる人に育つんですかっ!」

 

 走ることを止めて、町中で僕達は顔を赤く染めながら言い合う。もうその時にはプロデューサーとあさひに追われていることなんか忘れていて…。

 

 「──ふ、二人とも…そこまでに、はぁ…ふぅ─」

 

 「よっ!かさねちゃん捕まえたっすー!ついでに、にちかちゃん?も捕まえたっす!あ、あれ?プロデューサーさんー?」

 

 プロデューサーの腕から飛び降りたあさひに僕の身体は猫みたいに持ち上げられていてそこでやっとこの失礼ズから逃げていたことを思い出した。

 

 「─あ…っ!うぅ、にちかぁ…たすけてぇ」

 

 「ダメっすよー!もうかさねちゃんはわたしのものっすからー!これからまたあのぐわーってやつやってもらうっす!」

 

 「ち、違うだろ…あさひ。ただ、アイドルに誘うって…っ」

 

 「─アイドル…?かさねさん、アイドルやるんだ…。──あ、あのっ!プロデューサーさん!わ、私もっ、アイドル!やりたいんです!その、ダンスだけでも見てくれませんか!?」

 

 「─えっ?そ、そんなぁ…にちかは、敵だった─!?」

 

 味方だと思い込んでいたにちかは必死にプロデューサーへ自分をアピールする。

 

 きっと、僕なんかと違ってちゃんとアイドルに憧れがあって、その為に頑張ってきたんだって分かる程に。

 

 だから、少しだけ渋い顔をしていたプロデューサーは少しだけとにちかのそのお願いを聞いた。

 

 そして、僕達の目の前で踊ったにちかの踊りは……正直、凄いとは言えないものだった。というか、あさひは途中で僕に色をねだるぐらいには平凡のものだった。

 

 きっと、プロデューサーもそう思ったんだろう。だから可愛らしい笑顔でどうですかと聞くにちかに苦い顔で言葉を返した。

 

 「ちゃんと、テストしてみないとなんとも言えない。よかったら、きちんと場所をあらためて─」

 

 だけど、僕はその煮え切らない対応に不満を抱いた。というか、にちかの色に…。

 

 にちかの本来の色を抑え込んで、他の…八雲なみさんの色を混ぜようとしている。だから、色が濁って彼女の才能が消されている。だって、彼女は僕と違って元々、色があるんだから…。

 

 「─にちか…。自分らしく、やってみて?誰かの真似じゃなく、自分の─色を生かして」

 

 「──や、やっぱり分かっちゃいます?かさねさん、得意ですもんね…っ。でも、真似をしなきゃ…私はっ」

 

 ─色が濁った。にちかの、天真爛漫の豊かな緑に黒の雫が落ちた。ほんの一滴、でもそれだけで見てくれは天と地の差が出る。だから、僕は優しく…羽那の色を纏ってにちかの手を取った。

 

 「─違う。にちか…?僕はにちかの、そのままが好き。悲しいにちかじゃなくて、元気で…はつらつとしてて、こんな僕の笑顔を…好きって言ってくれる、そんな優しいにちかの色が─好きなの。だから、だからね…一回だけでいいから─」

 

 「わ、分かりましたっ!分かりましたからそれ以上言うのは止めて下さいっー!こ、これで駄目だったら私がなみちゃんの真似できるまでずっと練習付き合って貰いますからね!」

 

 涙を拭いながらにちかは覚悟を決めて、自分らしく笑顔を浮かべた。それは、誰にも真似できないにちかにしか出来ない見惚れてしまいそうな小さな花の輝きで、つられて僕も笑ってしまうほどだった。

 

 だから、自信満々に僕はにちかとプロデューサーへ言葉を投げた。これからが、本番だって伝えるために。

 

 「─うんっ!その時は、いくらでも付き合う。だから、自分らしくやってみて?プロデューサー、ちゃんと見ててね?」

 

 「─分かった。…ありがとう、かさねさん」

 

 「ふふっ、これでもおねーさんっ!だからねー」

 

 「かさねちゃん、それ逆に子供っぽいっすよー?」

 

 ─うぐっ!あ、あさひ許さない…!僕は、大人なんだっ!プロデューサーぐらい大人なんだっ!

 

 そうやって、強がりながらにちかの踊りを見届ける。

 

 そこに広がった景色は、にちかの少し平凡で…でも目を離したくないとそう思える彼女らしい、取っつきやすい輝きだった。

 

 誰もが見返す程の輝きではない、思わず見惚れてしまいそうな美しさではない。

 

 でも、そこにあるだけで誰かの笑顔を守れるぐらいには魅力的で身近な星。

 

 それこそが今のにちかで、いつか輝く蕾だった。それを、プロデューサーがどう見るか、そんなのは知らない。でも、僕は踊りきったにちかに向けて走って近づいた。

 

 「─あ、かさねさん…。どうでしたか?やっぱり─」

 

 「─綺麗だった!にちからしくて、可憐な…僕の大好きな、アイドルだったよっ!」

 

 「─あぁ、確かに。俺も、今の方が良いと思った。ただ…」

 

 「ただ…?」

 

 「まだ絶対に輝けると言える程じゃない。それでも、アイドルをしたいと言うのなら、ここに連絡をして欲しい。まぁ、でも俺はにちかさんにアイドルをして欲しいとは思ったよ」

 

 そうやって、笑い掛けるプロデューサーの顔を見てにちかは肩にかかっていた力をやっと抜いた。

 

 でも、にへっと笑うとにちかは僕の手を力強く取って叫んだ。

 

 「じゃあ、成功ではなかったので…かさねさんには私の特訓に付き合って貰いますね~?あ、プロデューサーさん?かさねさんが欲しいなら私をアイドルにすることです!それでは~!」

 

 「──へっ!?にちかぁー!?」

 

 また無理矢理お姫様抱っこされて僕はにちかに連れ去られる。でも─そこには、憧れを追うのではなく…自分を磨くために足掻こうとするにちかの笑顔があった。

 

 ─だからって、おとなしく誘拐されるかぁー!

 

 「あさひ!へるぷ~!」

 

 「あー、かさねさん。すまん、あさひはもう帰ったぞ?」

 

 「──くそったれーっ!」

 

 青空の中で、僕の虚しい声だけが宙へ舞った。だけれど、やっぱり…少しだけ暖かな風が吹いていた。

 

 ─でも、アイドルって楽しいのかもしれない。そう、少しだけ思えたのだった…。




にちにちしてきた…。
というかこれからが怖い…エピを見直すのが一番怖い…!
ので、しあわせ~なシャニマスのエピを見ながら書きます…。
ちなみに、感想とかお気に入りとかしてくれるとあはーってなるので是非お願いします。
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