シャニマスの世界で、色の見えない彼女はアイドルの脳を焼く 作:ヒナまつり
カシャ、カシャ…フラッシュがメイクをした僕を照らす。
真っ白のスクリーンの前ではどんな角度からも光が差して、フレームの中にある小さな世界を輝かせる。
その世界には照らされない場所なんてないみたい…それが少しだけ怖くて、グッと拳を握ってから僕は当てられた光に色を重ねた。
羽那の純白、円香さんの朱…今回の化粧品の桜というモチーフに合わせて重ねた色を眩しいぐらいの光が透けさせて僕に色が付いていく。
僕の色…それが何色かなんて今の僕には分からない。けど、どんな色を使えばカメラマンの人が要望する色に合わせて綺麗に見せれるのかは、何となく分かるから…本来の色を隠して2人の色で染めた。
その変化に応えるようにカメラマンさんがシャッターを切って、作られた世界が定まって世界の外から声が聞こえた。
「はい、オッケーです!かさねさん、やっぱり凄いですねー!」
そう切り上げたのは、僕のプロファイル写真を撮ってくれた人で今回は別のカメラマンの人のお手伝いをしている人だった。
何でも、今回のカメラマンさんと兄弟らしい。だから、その縁で僕を採用してくれた。
「─あ、僕だけ…じゃないです。色んな人が、僕を彩ってくれた…から。だから、ありがとうございます…」
そう…これは、僕だけの力じゃなくて。メイクアップアーティストさん、カメラマンさん。その他にも色んな人が一緒に作り上げてくれた…僕を輝かせるステージ、世界だから。
その感謝を込めて、僕は笑った。たった一人じゃ、色を作れやしない無色の僕だから─。
その時、カシャ…また、世界が切り取られた。撮影は終わった筈なのに─。
「─なんだ、そんな顔も出来るのか…」
カメラマンさんが呆けながらに漏らした言葉の意味は僕には分からなくて…
ただ、見惚れるように僕を眺めるカメラマンさんのモノクロなのに、輝く色を僕は拾った。
儚くて、息を吹いたら消えてしまいそうな…小さな灯。見たこともなかったのに、それに僕は安心感のような何かを覚えて、胸に閉まった。
「─こらっ、もう撮影終わってんだから写真撮るな!」
「…痛っ、兄さん─」
「─あはっ、仲…いいんですね?それじゃ、僕は行きますね…あ、その写真─別に消さなくていいですよ?きっと、そこに貴方のきらめきが、あったんでしょうから─」
そう、言ったのは…彼の瞳に微かに映った輝きからか拾ったこの色の灯からか、分からないけど─。
彼の何かが僕の身体を流れる寒さを和らげてくれた事だけは理解できたからそう答えて僕は色を仕舞いながら控え室に向かった─。
「あれが─かさねさん」
かさねの姿が見えなくなるまでカメラマンの彼はその跡を目で追い続けていた。
喋ることが苦手な上に職人気質だから物言いが多く、アイドルに厳しいと聞いていたのに今の彼からそんな姿は想像できなかった。
それどころか、少しだけ親近感が湧いた。彼も俺と同じでかさねの彩る世界に見惚れていたのだから。
だから、その口から感想を聞いてみたいと思って訊ねた。
「はい。カメラマンの貴方から見て…かさねはどう見えましたか?」
「─理想的な被写体。まるで、こっちの理想を覗いているみたいにピントを合わせてくる…。ただ、最後の笑顔…あれは別だった。写真を撮らないといけない、そう無意識で思ってしまう程──綺麗だった」
淡々と、恐れと敬愛を抱きながら彼は俺の瞳を見ながらそう答える。
その瞳には決して消えることのないような燃え盛る炎が映っていた。何処までも、何処までも引火していってしまうような熱が伝わって来た。
─彼にとって、かさねは強い光だったのかもしれない。これ程まで焦がれてしまう程の。
でも、かさねはその思いには気付けなかった。その色に気がつけなかった。
それが、彼女の根っからの自尊心の無さや自虐的な想いから来ていることは分かるのに、どうすれば自己を肯定出来るようになるのか…その解決策だけは浮かばない。
それを解決しなければ、彼女は何時になっても毒から変われないというのに─。
「─P?どうしたの、悩み事…?」
いつの間にか側に来ていたかさねは、不安そうな顔で俺の顔を見つめる。
─あぁ、駄目だ。こんな風にアイドルの前で不安がるなんて、ははっ、天井社長にまた研修からやり直されてしまうな…。
切り替えないと…。
「─いや、何でもないんだ。もう…準備は終わったのか?」
「うん、いつでも帰れるよ」
「そうか、じゃあ帰ろう。この後は、また個人レッスンか?」
「─うん、ダンスは良くなってきたけど…歌、難しいの。だから、ボーカルレッスン。ね、P?僕、伝え方…分からなくて。想いを乗せるって、どうするの?」
そう聞いてくるかさねは、無垢な一人の少女にしか見えない。けれど、彼女が気がついたら身体中を巡っている猛毒なのだと俺は知ってしまった。
彼女のことを眺めるにちかから…知ってしまったんだ──。
でも、それが彼女の優しさでもあることは分かるし…間違っていることはしていないことも分かっている。
けれど、かさねの…才能と卑下は誰かを動かして誰かを燃やして─知らない内に苦しめる。
俺は、どうすれば─いいんだろう?似ていて違う、三人のユニット。
美琴のために踊れるにちか、にちかのために踊れる美琴…その2人のために一緒に踊れるかさね。
そうあれる筈なのに、すれ違い続けている。まだ、誰も見つけれてないんだ…輝きかたを。自分を…。
そのために、俺は─。
音楽が流れる車内で、漠然とした課題を前に俺は立ち止まっていた。全員の幸せの為に─。
靴の擦れる音がする。息の揃ったように見える音が─。
「─あ、にちか。そこ、遅れてる…」
「えっ、あ…本当ですね─」
「少しだけ、フリの調整する?それとも…」
「─うん、よし。にちか、見てて?」
その瞬間、かさねさんは少し先の私になった。癖も、揺らぎも真似してその欠点を残したままで…。
出来る姿の私を映し出す。
分かりやすい。普段のかさねさんの特別が無くなった私の踊りだから…?
「…っ、かさねさん、ありがとうございます。えっと、こう…ですね?」
「うん、それなら問題ないと思う。美琴さん、どう?」
「─いいね。かさねちゃん、ありがとう」
また、床を蹴る音が鳴った。美琴さんと、かさねさん…2人の音は綺麗に揃ってて─私だけ違う。
2人とも、私より上手だから。私が下手くそだから。なのに、音が揃っていく。
だって、かさねさんが美琴さんと私の隙間を埋めるようにしているから。
遅れてるのに、それが正しいように見えるように調整してくれているから…。
美琴さんは、私を見てくれない。かさねさんは、私をずっと見てくれる。
でも、2人とも…思っていることは言ってくれない。
どう、思ったんだろう。─は、どう…思ったんだろう。
こんな、最低なメンバーのこと─。
「にちか…?大丈夫、今出来なくても…次出来るよ?それで、ライブまでに普通にすればいい…。僕も、はじめは全然だったし」
「─あ、はい!頑張りますねっ!」
「─うん。頑張ろう、僕ら美琴さんに追い付くために」
─違う、違う。とっくに、かさねさんは追い付いているのに。
私は─私はっ、仲良しをするためにアイドルになったんじゃ─っ。
「わっ、これにちかが作ったの?─あはっ、美味しい。美琴さんも食べます?レモン」
「うん、食べる。にちかちゃん、ありがとう」
そんな、想いは綺麗で、壊れているかさねさんの幸せそうな笑顔で消される。
だって、私が少しでも苦しそうだと…その笑顔が見えなくなるから。
なみちゃんみたいな、でもちょっと違うアイドルの笑顔が─。
見えなくなっちゃうから──。
「あー、あーー…うーん、違う。合ってるのに、合ってない。どうすれば…?」
音が響いて、歌になる。でも、僕があげた声には何もない…雑音で─美琴さんやにちかみたいに想いが込められてない、らしい。
─よく、分からない。歌に、声に想いが込められるの?どうやって、どうすれば?
色なら、分かる。何となく…見えているから。でも─。
「声は、声。泣きそうな声で歌うの?それとも嬉しそうな声?でも、美琴さんもにちかもそんな風には歌ってない。なのに─」
「あれ?かさねちゃん、レッスンっすか?」
グルグル、頭の中が考えで埋もれていた時…風が吹いた。誰よりも、自由で目を引く風が。
「わっ、あさひ?あれ、僕…レッスン室使用中ってしてなかった?」
「なかったすよ?それにこれから冬優子ちゃんと愛依ちゃんとレッスンするっす!」
冬優子ちゃん、愛依ちゃん…あぁStraylightのレッスンなんだ。邪魔、しちゃったな…。うーん、この後どこで僕、レッスンしよ…?
「えっ、そっか。分かった…ごめんね」
「─なんで、謝るんすか?かさねちゃん、別に悪いことしてないっすよ?あ、そうだ!冬優子ちゃんにもかさねちゃんのアレ見せたいっす!少しだけ待てるっすか?」
「─うん。少しなら…それに、今行き詰まってるし」
「良かったっす!じゃあ、待ってる間に踊るっすよー!ほら、かさねちゃんも!」
「えっ?僕も──っ!?」
風に誘われて、僕は舞った。少しだけ、見たことのあるダンスだったからあさひの色の真似をして踊れたけど、歌い出したあさひの声の、歌の真似は出来なかった。
どうしてか、分からない。でもやっぱり…空っぽ。あさひのは、こう胸に響いて…かっこいいのに。
雑音、ノイズ…こんなのじゃ、美琴さんの…にちかの隣に立てない。あさひの隣にだって…。
グルグル、黒が頭を舞う。そのせいで、色を見失って…楽しく無くなった。
その瞬間足が止まって、音が聞こえなくなって…次の楽しいを見つけようと走り出そうとして…。
「─あれ?どうしたっすか」
あさひの声で、振り向かれた顔を見て…そのお陰で色が見つかって脱ぐことが出来た。
「─ぁ。何でも、ない。大丈夫」
大丈夫じゃない─。そう言おうとしたのに、違う言葉が口から溢れた。
それは、全てを諦めていた頃の僕みたいな声で─。
「ありゃ、本当に大丈夫っすか?なんか、泣きそうな顔してるっすよ」
そう言われて、あさひの向こうにある鏡に写っている僕の顔が目に入った。
それは擦りきれて、白と黒に包まれて…何もないのに生きて、境界を無くした頃の僕。死にそうな顔で、生きているだけの僕。
─あぁ、そうだ。そうなんだ。…色は綺麗なだけじゃなかった。気がついたら無くなっちゃって褪せちゃって…でも力強く輝いているもので…。
そして─僕に、生きる意味をくれた物だ。それから、僕は色んなことを学んできたんだ。
決して、真似て重ねて…彩るためだけのものじゃない。保管しておくためのものでもない。
─自分を隠すためのものじゃない。それなのに、僕は僕を隠していた。色の中に…。
…あーあ、Pに僕が自分らしく叫ぶって約束してたのに─破ってた。
「─よし。ねぇ、あさひ?もう一回…踊ろ?」
「─っ、分かったっす!行くっすよー!」
─きっと、真似するのが間違ってる訳じゃない。でも、真似して隠すのは間違ってる。僕らしさを。だって…あの人はこんな僕を見てファンになってくれたんだ。こんな、僕だから愛してくれたんだ。
なら…!
「─っ!綺麗…でも、負けないっすよ!」
足を踏む、ステップを刻む…そこに色を襲て、でも僕は隠さない。声も、同じだ。色で隠すんじゃない…僕の、僕らしい声で、叫ぶ。
─いや、違う…それだけじゃ、気持ちは込めれない。なら、そこに色を襲る。
それで色のない、僕の色は透き通る色に彩られて声が歌に変わる。
あさひもそんな僕の変化に合わせて、更に自由に踊り始めるて…その一瞬、風が吹き荒れてこの世界には僕らしかいないみたいに彩られた。
あぁ、気持ちいいっ─楽しいっ!!これが、これが─アイドルっ!
「─あさひっ!レッスンの時間過ぎてるんだけどっ!?」
「─わっ!冬優子ちゃん!?どうしたんすか?わたし、時間通りに来たっすよ?」
2人の叫ぶ声が聞こえて、僕は崩れるように床へ身を投げた。
─汗、すご。身体、動かない…でも、これで─。
「─はぁ、はぁ…あれ?終わり…?」
「─わあ、かさね…ちゃんだよね?ごめんね、あさひちゃんがレッスンの邪魔しちゃったみたいで…」
ぼんやりとした僕の目に写ったのは二種類の色を持った女の子だった。
あさひと話しているときと、僕の時…それで色が変わった。何でなんだろう?よく、分からない…頭、回んないし。
「ううん、助かった。あさひのお陰で、掴めた。えと、冬優子ちゃんさん?」
「うん、ふゆは冬優子だよ?でも、ごめんね?出来ればふゆって読んで欲しいな。そっちの方が可愛いでしょ?」
「─?あさひ…は冬優子ちゃんって呼んでるよ?」
「そうなの、ふゆって呼んでくれないんだぁ。でも、かさねちゃんはふゆって呼んでくれると嬉しいな?」
そう言う、冬優子ちゃんさんの目に見える色は変わらないのに…後ろにある色が何だか怒っているみたいで…でも疲れてよく分からなくなった僕はにへらと笑ってこう言った。
「─あさひと同じがいい。だから、冬優子ちゃんさん~」
「そうっすよー!やっぱりかさねちゃんは分かってるっすね~!」
「─あぁもう!ふゆって呼べって言ってるじゃないっ!てかあいつがスカウトしてきた子って大体変な子しかいないんじゃないのっ!?いい加減にしなさいよっ!!」
ヒラリと捲れるように色が変わって、冬優子ちゃんさんは叫んだ。その変化に驚きながら、僕は眠気に襲われて目を閉じた。
─あ、そう言えば…これからStraylightで練習なんじゃ…ま、いいや…床、気持ちいぃ───。
*裏話
かさねの喋り方は初めと比べると色を学んだ後はそのアイドルの真似が少しだけ入っている…かも?