シャニマスの世界で、色の見えない彼女はアイドルの脳を焼く 作:ヒナまつり
誰よりも前に走る光も、自分を隠して憧れになろうとする光も…魔法を失っても諦めない光も─全力で輝く。
どれが、だれこそが…そんなの関係なく一つが輝けばそれを追うように他も輝いて─。
お互いが、お互いを意識しているからこそ…一人じゃ見えない色が輝く。
─あぁ、あれがユニット…。あれが─。
「─さね…かさね、どうしたんだ?確か、レッスン室でレッスンしてたんじゃ…」
肩に触れた、少し冷たい風で僕は今事務所に居ることを思い出した。そして、不安そうに僕を見つめるPの色にも、気がついた。
だから、何時も通りで僕は言葉を返す。まだ、焼けている瞳で。
「─あ、P。うん、でもあそこ。ストレイライト使う予定だったんだ」
「─あ、そういえばそうだった…すまん、かさね!どうする?他で練習するか?」
「…ううん、今日はもう帰る。これ、飾りたいから」
「─それは…。そっか、送っていこうか?」
「ううん、平気。それじゃ、P」
─あつい、胸が高鳴るみたいにどくん、どくんって血が流れて…あの見たこともない色が、光が忘れられない。
だから、すぐに描いた絵はその輝きを映し出した。眩しい程に、見続けたら焦げちゃいそうな程に。
あれに、なれるの?僕が─?まだ、自分の色すら見えていないのに…?
そんな不安は、夜を覆うぐらい大きくなって月明かりも見えなくなる。
でも、なるって…決めたんだ。色のないアイドルの小さな輝きを見て─こんな僕でも何時の日か、ルカみたいに…ルカの傍に居られるように…アイドルに。
だから、頑張らないとあの、あさひとの練習で得れた色の着方をものにしていかないと…まだ叫ぶことなんて出来ない。こんな不完全な僕じゃ─。
だからその日から、僕は何時もよりも練習の時間を増やした。
朝、目が覚めたら美琴さんからお勧めされたゼリー飲料を飲んで走って、お腹が空いてもそこから夜までレッスンをして寝る前にもストレッチで身体を解して─。
ステップは、美琴さんに褒められるぐらいに上手くなった。歌も、先生に怒られなくなったし─にちかにも、褒められた。
色だって襲るのも上手くなって僕らしく、でもアイドルらしく彩れるようになったのに─。
でも、でも─まだ見えない。あの光が、輝きが…。何処にも、見当たらない。
僕には、足りない。何が、足りない…?どうすればいいの?
完璧は、何処にあるの?色が見つからないと輝けないの?なら、なんであの人は耀けていたの?
悩んで、悩んで…答えは見つからないのに時間だけが過ぎて、止まることなくどんどんソロライブが近づいてくる。
─あぁ、寒い…。Pの、背中を押してくれる言葉も隣に立っている2人でも…癒せないぐらいに凍えて、でもそれを誰かに伝えることは出来なかった。
だって、にちかの色は磨り減って濁って…どう触れればいいのか分からなくて…それも痛くて。
美琴さんは、切り詰めていて触れたら…僕の方が切れちゃいそうで…それにきっと、それが今緩んでしまったら壊れてしまいそうで…。
Pは、そんな不安定なシーズの為にも、事務所のアイドル達の為にも精一杯頑張ってくれてるから─。
こんな、小さなものは抱えるしかなくて…でもそれは重く、重く…持ってられないから身体に縛りつけて鍵を掛けた。
落ちてしまわないように、厳重に─。
「はぁ、はぁ─。よし…完璧。ライブ、もうすぐだね」
「あぁ、明日は初めてのライブだ。緊張しているか?」
─うん。怖いよ…だって、まだ見つけてない。輝きも、色もそれなのに…。
「─ううん。平気」
「─かさね、本当に平気か?もし、何かあれば…」
─じゃあ、教えてよ。僕の色を、輝きを…っ!それさえ分かれば、安心できるのに…。
「P、心配しすぎ。ふふっ、これで僕もアイドルになれるんだ…」
「…かさね」
「ほら、いこ?確か今日はステージの衣装、着るんでしょ?」
「─あぁ、そう…だな」
ビルの照らされた光が、視界の隅を通っていく。それはパッと光って…直ぐに消える。
色みたい、光も…。ずっと、そこにあるものじゃない。雲の上に、隠れてもずっとある星なんかじゃない。
でも、それすらない僕は…?どれだけダンスや歌が上手くなっても、色を襲ても…忘れられるんじゃないの─?
あの人みたいに、耀けなくて…ルカにも見つけてもらえなくて─あの2人の負担になるだけじゃないの?
それなら─いっそ…。
「かさね、俺はずっと応援してるからな。かさねが自分を肯定出来るようになるまで、代わりにずっと」
黒に塗りつぶされそうな僕に、優しい言葉が投げ掛けられる。それは、嬉しくて…でも酷く痛い。
だけど、そんな顔を見せることは出来ないから笑って答えた。
「─そっか。なら、そのままずっと見てもらう。Pに肯定されてるなら、安心…だから」
「─かさね…」
「あ、着いた。よし、P。行ってくるね…?美琴さんのこと、お願い」
また、Pの熱が僕を包む前にドアを開けた…逃げるみたいに。
そんな僕を追うように広がった世界の色を置き去りにして、他に向けるように誘導して─。
「あ、かさねちゃん?今日はプロデューサーさんは居ないんだ」
「─はい、忙しいみたいです。それで、今日は─」
「うん、衣装だよね?はい、これ!着替えてみて?」
スタッフさんの指示に従いながら、僕はその服を持って試着室でその服を着た。
283プロで、初めてのライブをする時は皆この衣装を着けているらしい。白と空色の服に黒のドレープの『白いツバサ』それは、空へと羽ばたくアイドルの為に作られた衣装…。
でも、それを着た僕は何処か不恰好に見えて…スカートも着なれないから、違和感が凄い。
こんなの、こんなのじゃ─。
「わー!すっごい似合ってるじゃないっ!うんうん、やっぱりかさねちゃんの髪にも瞳にも色がピッタリっ!楽しみね!ライブっ!」
「─にあって、る?僕が、この…衣装に?」
なんで、そんな笑顔で?うそ、ついてないの?だって、これはアイドルの為に作られた衣装で、僕なんかには…きっと。
「えぇ!あっ、写真…一枚だけ取ってもいい?お願いっ!」
きっと、似合う筈ないのに…。なんで─?
「えっ、と…うん。いい、ですよ─?」
「やった!はい、じゃあそのまま─っ!よしっ!ありがとうね?それで、何処か苦しいところとか違和感があるところはない?一応既に調整はしたんだけど─」
「ない、です。その、本当に─似合っていますか…?」
「もう、心配性?似合ってるわよ、とてもね!」
─分からない。この人は、嘘はついてないことは分かるけど…感性の違いなの?それとも、僕の目が─。
でも、その言葉は優しく…じんわりと僕を覆った。包帯や絆創膏みたいに。
痛みが、それで退くわけじゃない。でも、離れてしまった道を繋ぎ止めるみたいに…道を示すみたいに感じられて、だから…ほんの少し前に向けた。
「その、その写真…Pにも─送っていい?」
「もちろん!ちゃんと送って見せてあげて?きっと喜ぶから!」
「─うん。そうだと、いいな…」
暗く見えた空は、試着を終えて出てからは少しだけ雲の隙間から光を通して明るくなった。
先は、まだ見えないけど。道を照らすように…。
『かさね、写真見たぞ?似合ってた、空に羽ばたいていくかさねに』
お家に帰ってから流れてきた通知に、そんな言葉があった。
その言葉は今さっきみたいな痛みではなく、ぐるぐると回っていた感情を解けるように僕へ流れ込んだ。
それでも、不安や緊張が完全に無くなる訳じゃなくて…走り回って疲れきってからやっと、僕は眠ることが出来た。
次の日の朝は、嫌になるほど眩しい快晴で…影一つないみたいな世界だった。
─ランニングは…辞めといた方がいいかな。ライブ…だもんね。
「かさねちゃんー?起きてるー?今日、ライブの日よね?」
「わっ、お母さん…それにお父さんも─どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ!どうして、ライブのことお父さんに隠していたんだ!娘の晴れ舞台、生で見たかったんだよ!?」
「もう、そうじゃないでしょ!ほら、かさねちゃん?これっ!」
そう言って、お父さんとお母さんが差し出したのはお守りだった。ライブ成功祈願と書いてある手作りの─。
「な、なんで…?」
「かさねの、憧れが─未来が…幸せに満ちて欲しいからだ。だから、今日のライブ…成功させるんだよ?」
「えぇ、これは私たちの願い。だからね?お母さんとお父さんに、かさねちゃんの応援させてほしいの。テレビの前で、ちゃんと見ているから!」
きらきら、白と黒なのに…耀いている。その、光は僕を透けて通って…色んな色を、輝きを写し出した。
それは、ストレイライトとはまた違って…いや他の、何の色とも違って…僕だけのお父さんとお母さんから受け取った輝きだった。
それを見たとたん、雫が煌めいて硝子みたいにその色を世界に広めた。
白と黒しかない筈の、世界を。色んな色で…塗り尽くす。
─あぁ、そっか。そうなんだ、分かったよ。やっと、色がなかった理由も、光が見つからなかった理由も…。見てなかったんだ、ずっと。見ているふりをしていただけ。お母さんと、お父さんの色も…全部。あの日の、過去のせいで諦めていたんだ─だけど…もう─。
「─うん!見てて、僕のこと。お母さんとお父さんの子の、僕のこと!ぜったい、ぜっったい!耀いて見せるからっ─!」
「「任せて(なさい)」」
2人の声が、僕の背中を押した。雲一つない空は、羽ばたくには丁度よくて…照りつくような朝日に僕は軽い足取りで走り出した。
まだ、自分のツバサは見えないけれど…僕のことを、照らしてくれる光に出会えたから、僕の色をほんの少しだけ理解できたから─もう怖くない。緊張は、するけど。
「P、何時でも…行けるー」
「か、かさね?その、少し早いかもしれないな?」
─お父さんとお母さんの背中を押す力が強すぎたみたい。でも、それの方が丁度良かったのかも。だって、このままライブしたらきっと、ライブの時倒れるぐらい動いちゃう。
アイドルなら、ステージの上で倒れることはしちゃダメ…だもんね。
「─えっー?そっか、じゃあ少しだけ身体暖めてくる。時間、来たら教えて?」
「─あぁ、分かった。だけど、少しだけな?ライブ前に疲れたら駄目だからな?」
「─うん、分かった。少しだけ、ね?」
気がついた時には、僕に縛り付けていた重りは何処かに落ちていて…気の向くままに身体が動いた。
声が、出た。澄んだ声が。色も、好きに襲られた。僕の思いのままに。
きっと、今まで一番調子がいい。本当に、何処までも飛んでいけそうなぐらいに─。
「─おーい、かさね?そろそろ行くぞ?って、汗だくじゃないか!」
「大丈夫だよ、疲れてない。あ、でも拭かないと」
「む、無茶をしているわけじゃないよな?いや、疑ってるわけじゃないけどな?」
「うん、平気。よし、行こ?P、僕のスタートラインに」
「─あぁ。行くか!かさねの初ライブに」
汗を拭いてから、Pの車で向かった先はあの人よりは大きいけど小さなステージだった。
でも、人は意外と居て…お父さんとお母さんのようにでも、2人よりは少しだけ小さな輝きを抱えていた。
─あ、そっか。あの、カメラマンさんの灯もきっと…。
「─ふふっ、色だけじゃなかったんだ。僕が見えてなかったの。そっか、そっかぁ…。ねぇ、P?僕、少しだけ自分のこと…好きになれました。あ、でも少しですから…ちゃんとPは僕のこと見ててね?」
「─ん?おう、ちゃんと見てる。傍でな?」
「─うん、傍で。じゃ、行ってくるね?着替え」
「あぁ、いってらっしゃい」
Pの、優しい微笑みが僕を照らす。そのお陰で、残っていた緊張も和らいでステージの裏へ僕は歩きだした。
奈落と例えられるその場所に─。
「はーい、こっち準備オッケーでーす!次マイク調整行きますー!」
「あ、かさねさん!着替え終わったらこっち座っていてください!メイクアップの方が来ますので!」
「分かりました。ありがとうございます」
そこは、色んな人が動いてる場所で…ステージの上で耀くための道だった。
僕の為に、色んな人が準備をしてくれている。だから、もう僕なんかなんて、言えないなぁって思えて…なすがままに準備をしてもらった。
でも、その中で一つだけ我儘を言った。それは、奈落の底…光の溢れるそこでルカの写真を見ること。
だって、それが今僕がここに立っている理由で…この先に続くであろう憧れだから。
綺麗で、見惚れてしまう笑顔と完璧なダンス。きっと、ルカならそれをアイドルとしてファンの人に届ける。だから、僕も…!
「かさね、そろそろ出番だぞ…?準備は出来てるか?」
心配そうに僕の名前をPが呼んだ。綺麗で、大好きな色で。だから、僕は自信をもって答える。
「もちろん。Pや皆のお陰で…ね?じゃ、行ってくる。初めてのライブ、僕の…スタートラインに…!」
「─あぁ!行ってこい、応援してるからな!」
Pの言葉に押されて、僕は白と黒の世界へ羽ばたいた。そこで、皆の光を浴びて色を返すために─。