第九話 進化するシステム
永禄四年(一五六一年)夏。
斎藤義龍の病没から、ひと月ほどが過ぎていた。
美濃では新たに斎藤龍興が家督を継いだものの、若き当主のもとで国内はどこか落ち着かない空気に包まれていた。
黒川館でも、宗久と家老・佐久間兵庫が書院で向かい合っていた。
「龍興様はまだお若い」
兵庫が静かに口を開く。
「家中をまとめるには、しばらく時を要しましょう」
宗久は腕を組み、小さく頷いた。
「周囲がどう動こうと、我らのなすべきことは変わらぬ」
「まずは領内を固めることだ」
「兵を養うにも、民を守るにも、豊かな領地があってこそだからな」
襖の外で話を聞いていた新九郎は、静かに頷いた。
(父上の仰る通りだ)
(乱世を生き抜くには、武だけでは足りない)
(黒川領そのものを強くしなければ)
◇
その日も新九郎は鍛錬を欠かさなかった。
朝は学問。
昼は兵法。
午後は剣術。
夕刻は弓術。
夜は宗久から領地経営を学ぶ。
三歳から積み重ねてきた努力は、少しずつ確かな力となっていた。
夜。
寝所へ戻った新九郎は、小さく呟く。
「ステータス」
青白い画面が静かに現れた。
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【経験値を獲得しました】
学問 +4
兵法 +3
剣術 +4
弓術 +3
EXP +18
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【レベルアップ】
Lv15 → Lv16
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「ようやく十六か」
地道な鍛錬を積み重ねた結果だった。
その瞬間。
画面全体が黄金色の光に包まれる。
今まで一度も見たことのない表示が浮かび上がった。
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【条件達成】
知恵90以上
学問 Lv4以上
兵法 Lv3以上
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【システムアップデート】
新機能を解放します
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【MPシステム更新】
最大MP算出方法を変更します
知恵 × 5
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MP
90
↓
450
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【新機能解放】
・アクティブスキル
・知識庫
・思考支援
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「……システムが進化した」
新九郎は思わず息を呑んだ。
これまで意味を持たなかったMPが、大きく増加している。
そして、新たな能力まで解放された。
「知識庫」
そう呟くと、画面が切り替わる。
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【知識庫 Lv1】
消費MP:3
検索したい項目を入力してください
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新九郎は試しに思い浮かべた。
(椎茸)
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【検索結果】
『椎茸』
・クヌギ、コナラなどの原木を使用
・原木へ種菌を植え付ける
・湿度管理が重要
・収穫まで一定期間を要する
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「なるほど……」
さらに別の言葉を思い浮かべる。
(養蜂)
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【検索結果】
『養蜂』
・日本ミツバチ
・巣箱の作り方
・採蜜方法
・蜂蜜の保存方法
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さらに試してみる。
(黒川宗久)
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【検索結果】
『黒川宗久』
黒川家当主。
美濃国○○郡を治める国人領主。
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新九郎は目を見開いた。
「父上まで……?」
前世には存在しない人物だ。
にもかかわらず、知識庫には当たり前のように記されている。
つまり、この知識庫は前世の知識だけではない。
この世界の人物、歴史、地理、技術まで記録された、膨大な書庫なのだ。
システムが保有する膨大な知識が、必要な形へ整理されて表示される。
まるで世界中の書物を集めた巨大な図書館から、一冊だけを瞬時に取り出したようだった。
「これなら……」
黒川領の山には、豊かな自然がある。
椎茸も。
養蜂も。
うまくいけば、新たな産物になるかもしれない。
兵を養うにも、民を守るにも、まず必要なのは財だ。
新九郎は静かに画面を閉じた。
「父上にお話ししよう」
思い立った時こそ動く。
その一歩が、黒川領の未来を変えるかもしれない。
新九郎は書院へ向かって歩き始めた。
書院では、宗久が数通の書状に目を通していた。
新九郎は襖の前で一礼する。
「父上、少々お時間をいただけますでしょうか」
宗久は筆を置き、穏やかに頷いた。
「入れ」
新九郎は静かに書院へ入り、宗久の前へ座る。
「申してみよ」
「黒川領をさらに豊かにするため、一つ試したいことがございます」
宗久は興味深そうに新九郎を見た。
「ほう」
「何を考えておる」
「椎茸を育てとうございます」
宗久はわずかに眉を上げた。
「椎茸か」
「山へ入れば採れるものではないか」
新九郎は静かに頷いた。
「はい」
「ですが、山で偶然見つかるのを待つだけでは、収穫は安定いたしません」
「人の手で育てることができれば、毎年安定して採れるようになります」
宗久は腕を組んだ。
「そのようなことが本当にできるのか」
「できると考えております」
「黒川領の山には、椚や楢の木が多くございます。」
「それらを生かせば、椎茸を育てられるはずです」
宗久は新九郎を見つめる。
「誰から聞いた」
新九郎は一瞬だけ言葉を選んだ。
「書物で学んだことと、黒川領の山を見ているうちに思い至りました」
完全な嘘ではない。
知識庫が示す内容も、元を辿れば誰かが書物に記し、積み重ねてきた知識なのだろう。
だからこそ「書物で学んだ」と答えたことは、あながち間違いではない。
だが、その知識を一瞬で引き出せるシステムの存在だけは、誰にも話すわけにはいかなかった。
宗久は静かに頷く。
「もし失敗すればどうする」
「その時は、私の考え違いにございます」
「ですが、最初から大きく始めるつもりはございません」
「まずは小さく試し、うまくいくことを確かめてから広げたいと存じます」
宗久は小さく笑みを浮かべた。
「慎重なのは良い」
「最初から欲を出さぬ者は、大きな失敗もしにくい」
新九郎は続けた。
「もう一つございます」
「申せ」
「養蜂にございます」
「蜂を育て、蜜を採るのです」
宗久は再び眉を上げた。
「蜂蜜か」
「蜂を飼うこと自体は昔よりございます」
「ですが、黒川領の山を生かし、計画的に蜜を採れば、新たな産物になります」
「蜂蜜は甘味としてだけでなく、薬としても役立ちます」
「ただ……」
新九郎は一呼吸置いた。
「蜂が新たな巣を作るのは春から初夏」
「今年は時期を過ぎております」
「今年は椎茸栽培の準備を進めとうございます。養蜂は来春より試したいと考えております」
宗久は感心したように頷いた。
「思いつきで申しておるのではないようだな」
「季節まで考えておるか」
「はい」
「急げば良いというものではございません」
「備えあればこそ、機を逃さずに済みます」
宗久は少し考えると、襖の外へ声を掛けた。
「兵庫」
「はっ」
佐久間兵庫が書院へ入る。
「新九郎の考えを試してみる」
「山口源蔵と柴田甚八を付けよ」
「まずは山の一角を使い、椎茸栽培を試させるのだ」
「養蜂は来春の準備を進めよ」
兵庫は深く頭を下げた。
「承知いたしました」
新九郎も一礼する。
「ありがとうございます、父上」
「必ずや成果をお見せいたします」
宗久は立ち上がり、障子の外に広がる山々へ目を向けた。
「新九郎」
「はい」
「あの山々は、黒川家が代々守り、受け継いできた宝だ」
「木を伐るだけではない」
「獣を育み、川を潤し、人を生かす」
「山には、まだ我らの知らぬ恵みが眠っておる」
宗久は静かに新九郎へ視線を向けた。
「その恵みを生かし、領民を豊かにできるというのなら、試す価値はある」
「励め、新九郎」
「はっ」
新九郎は力強く頷いた。
父と並び、山々を見つめる。
(まずは椎茸栽培の基盤を築く。)
(養蜂は来春)
(この山の恵みを生かし、黒川領をさらに豊かな土地にしてみせる)
乱世を生き抜くための戦いは、剣だけではない。
領地を豊かにする知恵こそが、未来を切り開く武器となるのだった。
アクティブスキル
■ 知識庫
消費MP:1
システムが保有する膨大な知識へアクセスする。
* 農業
* 兵法
* 医学
* 建築
* 鍛冶
* 治水
* 経済
* 歴史
* 動植物
* 製造技術
検索すると、
* 作り方
* 必要な材料
* 手順
* 注意点
* 応用方法
まで表示される。
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■ 思考支援
消費MP:3
思考能力を飛躍的に向上させる。
* 戦略立案
* 内政計画
* 人材運用
* 地形分析
* 損益計算
* 外交方針
* 最適解の提示
一瞬で大量の情報を整理できる。
現在のステータス
名前:黒川 新九郎
年齢:7
レベル:16
EXP:18/1700
HP:90/90
MP:450/450
筋力:45
耐久:43
敏捷:47
知恵:90
統率:40
政治:32
魅力:35
器用:50
運:30
SP:3
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【固有スキル】
・鑑定 Lv4(MP消費なし)
・言語理解 LvMAX
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【スキル】
・観察 Lv3
・学問 Lv4
・兵法 Lv3
・礼法 Lv3
・剣術 Lv4
・弓術 Lv3
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【アクティブスキル】
・知識庫
・思考支援
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【称号】
・転生者
・唯一の成長者
・黒川の神童
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