第十話 山へ
永禄四年(一五六一年)夏。
翌朝。
新九郎は家老・佐久間兵庫、山仕事に長けた山口源蔵、木材を扱う柴田甚八の三人を伴い、黒川領の山へ入っていた。
昨日、父・宗久より許しを得た椎茸栽培。
その第一歩として、原木となる木々と栽培に適した場所を調べるためである。
朝の山は涼しく、木々の間を吹き抜ける風が心地よい。
鳥のさえずりと沢のせせらぎが響き、豊かな自然が広がっていた。
「若様、この辺りは代々黒川家が守ってきた山にございます」
源蔵が辺りを見渡しながら言う。
「薪や炭だけではなく、山菜や木の実、獣など、多くの恵みを領民へ与えております」
「山とは、領地そのものを支える宝なのです」
新九郎は静かに頷いた。
「父上も同じことを仰っていました」
「山を守ることは、人を守ることなのですね」
「左様にございます」
◇
一行はさらに奥へ進む。
やがて源蔵が一本の大木の前で立ち止まった。
「若様、こちらが椚にございます」
新九郎はそっと幹へ手を添えた。
(鑑定)
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名称:椚
分類:ブナ科
用途:椎茸栽培・薪・木炭
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(間違いない)
さらに歩くと、源蔵は別の木を指差した。
「こちらは楢にございます」
新九郎は再び鑑定を発動する。
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名称:楢
分類:ブナ科
用途:椎茸栽培・薪・木炭
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「椚も楢も十分にありますね」
源蔵は感心したように頷く。
「若様は木々の見分けまでご存じとは、驚きました」
新九郎は微笑んだ。
「書物で少し学びました」
知識庫の存在を明かすことはできない。
だが、それ以上詮索する者はいなかった。
◇
しばらく歩くと、小さな沢へ辿り着く。
湿った空気。
木漏れ日。
穏やかな風。
新九郎は足を止め、周囲を静かに見渡した。
(思考支援)
青白い画面が音もなく浮かび上がる。
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【思考支援】
消費MP:3
周辺環境を解析します
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解析中……
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成功確率(推定):91%
推奨
・この地点を栽培地に選定
・椚を優先して使用
・秋から冬に原木を伐採
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(ここなら十分だ)
新九郎は静かに画面を閉じた。
知識を示すだけの知識庫とは違う。
思考支援は、今ある情報を整理し、最適な答えを導き出してくれる。
もちろん絶対ではない。
だが、経験の浅い自分にとっては、何より頼もしい力だった。
「兵庫、この場所で試しましょう」
兵庫は周囲を見回し、小さく頷く。
「確かに風通しも良く、管理もしやすそうです」
源蔵も地面にしゃがみ込み、土や木々の様子を確かめる。
「申し分ございませぬ」
「ここなら良い椎茸が育つでしょう」
甚八も力強く頷いた。
「秋になれば、原木を用意いたします」
◇
館へ戻ると、新九郎は宗久へ今日の成果を報告した。
「父上」
「どうだった」
「椚と楢を確認いたしました」
「また、栽培に適した場所も見つかりました」
宗久は満足そうに頷く。
「順調のようだな」
「はい」
「ただ、原木を伐るにはまだ時期が早うございます」
「秋から冬にかけて準備を進めたいと存じます」
宗久は穏やかに笑った。
「焦らぬところがお前らしい」
「領地を治める者は、先を見る目を持たねばならぬ」
「励め、新九郎」
「はっ」
新九郎は力強く頭を下げた。
◇
その夜。
寝所へ戻った新九郎は、静かにステータスを開く。
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【イベント進行】
『椎茸栽培計画』
進捗 5%
EXP +15
政治 +1
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画面は静かに消えていく。
まだ始まったばかりだ。
しかし、この小さな一歩が、やがて黒川領を支える大きな力になる。
新九郎は障子の向こうに広がる山々を見つめながら、静かに未来への決意を新たにした。