第十一話 戦雲
永禄四年(一五六一年)秋。
黒川領では椎茸栽培の準備が着々と進められていた。
山口源蔵は伐採する木を選び、柴田甚八は必要な道具を揃える。
新九郎も山へ足を運び、原木に適した椚や楢を確かめていた。
秋も深まり、いよいよ伐採を始めようとした、その日のことだった。
◇
「ご注進!」
館の門前に一騎の早馬が駆け込んできた。
馬上の武士は全身に土埃をまとい、荒い息をついている。
門番が慌てて道を開ける。
「急ぎ宗久様へ!」
使者は馬から飛び降りると、そのまま書院へ駆け込んだ。
◇
「申し上げます!」
宗久と兵庫が待つ書院で、使者は膝をつく。
「織田勢が国境を越え、美濃へ攻め入りました!」
部屋の空気が一変する。
宗久は静かに問いかけた。
「兵数は」
「詳しい数は判明しておりませぬ」
「ですが、国境の砦が交戦に入ったとの報せにございます」
兵庫が険しい表情で口を開く。
「ついに来ましたか」
宗久はゆっくり頷いた。
「龍興様も兵を集められるだろう」
「我らも備えねばならぬ」
◇
その日のうちに、美濃国主・斎藤龍興から動員の命が届いた。
黒川家にも出陣の準備が命じられる。
館の中は慌ただしくなった。
鎧を点検する者。
槍を運ぶ者。
兵糧をまとめる者。
普段は静かな館が、一気に戦支度の空気へ包まれていく。
新九郎はその様子を静かに見つめていた。
(戦が始まる)
内政を進める時間は、乱世には決して約束されていない。
だからこそ、一日一日の積み重ねが大切なのだ。
◇
夕刻。
宗久は書院で地図を広げ、兵庫と軍議を開いていた。
新九郎も呼ばれ、その場へ座る。
「新九郎」
「はい」
「お前なら、この道をどう見る」
宗久が国境付近を指差した。
新九郎は静かに地図へ目を落とす。
(思考支援)
青白い画面が静かに浮かび上がる。
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【思考支援】
消費MP:3
戦況を解析します
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解析中……
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推定侵攻経路 三つ
最有力 南街道
成功確率(推定) 84%
推奨
・街道沿いの警戒を強化
・谷間への斥候派遣
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画面が静かに消える。
新九郎は地図の一点を指した。
「父上」
「敵は、この街道を進む可能性が高いと思われます」
「途中に谷があります」
「斥候を増やせば、敵の動きを早く掴めるかと」
兵庫は地図を見つめ、小さく頷いた。
「確かに理にかなっております」
宗久も満足そうに笑みを浮かべた。
「良い着眼点だ」
「兵庫、そのように手配せよ」
「はっ」
◇
軍議を終えると、宗久は新九郎へ向き直った。
「新九郎」
「今回は留守を守れ」
「まだお前を戦場へ連れて行くつもりはない」
新九郎は一瞬だけ俯いたが、すぐに顔を上げた。
「承知いたしました」
「黒川家を守るため、館でできることをいたします」
宗久は静かに頷く。
「それでよい」
◇
その夜。
新九郎は寝所で静かにステータスを開いた。
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【イベント達成】
『初めての軍議』
黒川家の軍議へ初めて参加しました。
EXP +20
兵法熟練度 +5
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画面はゆっくりと消えていく。
戦乱は、すぐそこまで迫っていた。
織田軍侵攻の報から七日。
黒川館は静けさに包まれていた。
当主・黒川宗久をはじめ、家中の武士たちは斎藤家の命により出陣している。
館に残るのは老人や女子供、そして最低限の守備兵だけだった。
新九郎は毎朝、物見櫓へ上がり、西の空を見つめていた。
(父上……)
思考支援が導き出した答えは、あくまで最善の予測に過ぎない。
戦場では、どれほど優れた策も絶対ではない。
だからこそ、新九郎は無事を祈ることしかできなかった。
◇
七日目の昼過ぎ。
館の門前がにわかに騒がしくなる。
「殿がお戻りだ!」
門番の声が響き渡る。
新九郎はすぐに庭へ駆け出した。
やがて黒川家の兵が姿を現す。
鎧には土埃が積もり、誰もが疲労の色を浮かべていた。
それでも大きな傷を負った者は少なく、隊列も乱れていない。
宗久は馬から降りると、新九郎へ穏やかに微笑んだ。
「戻ったぞ」
「父上、ご無事で何よりです」
「案ずることはなかった」
その一言に、新九郎は胸を撫で下ろした。
◇
その夜。
書院には宗久、佐久間兵庫をはじめ、主だった家臣が集まっていた。
新九郎も同席を許される。
宗久は静かに口を開いた。
「今回の戦は、大軍同士がぶつかる戦にはならなかった」
「織田勢は国境付近を探りながら兵を進め、各地で小競り合いを繰り返した」
兵庫が続ける。
「我らは街道と谷を重点的に警戒し、敵の斥候を早期に発見いたしました」
「そのため兵を慌てて動かすこともなく、迎え撃つ備えを整えることができました」
「敵も守りの堅さを見て深入りを避け、ほどなく尾張へ退いております」
宗久は新九郎へ視線を向けた。
「新九郎」
「はい」
「お前の進言が役立った」
「街道への警戒を強めていなければ、敵に先手を許していたやもしれぬ」
兵庫も深く頷く。
「若様の読みは見事でございました」
「戦場へ出ずとも、軍を助けることができるとは」
新九郎は静かに頭を下げた。
「皆が動いてくださったからこその結果にございます」
宗久は満足そうに笑みを浮かべる。
「謙虚さもまた、武将には欠かせぬ器量だ」
「だが忘れるな」
「今回の勝ちは、敵を退けたに過ぎぬ」
「乱世はまだ始まったばかりだ」
「はっ」
新九郎は力強く応えた。
◇
軍議が終わると、宗久は障子の向こうに広がる山々を眺めた。
「戦は終わった」
「だが、領地を豊かにする歩みを止めるわけにはいかぬ」
「兵を養うにも、民を守るにも、財が要る」
「戦支度で遅れていた椎茸栽培も再開いたそう」
新九郎は深く頷く。
「はい」
「明日より源蔵、甚八とともに山へ入ります」
「必ず成功させてみせます」
宗久は静かに笑った。
「期待しておる」
◇
その夜。
寝所へ戻った新九郎は、静かにステータスを開いた。
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【イベント達成】
『初陣なき軍功』
献策が成功しました。
EXP +30
兵法熟練度 +10
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画面は静かに消えていく。
戦は終わった。
だが、それは束の間の平穏に過ぎない。
次なる戦に備えるためにも、今は領地を豊かにし、力を蓄える時だ。
新九郎は静かに目を閉じる。
明日から再び、黒川領の未来を築くための歩みが始まるのだった。