第十五話 乱世の洗礼
永禄五年(一五六二年)初夏。
黒川領では田植えも終わり、領民たちは今年の豊作を願いながら畦道を行き交っていた。
山では蜜蜂が巣を育て、椎茸の原木にも菌が静かに広がっている。
領内は穏やかな日々を取り戻していた。
その穏やかさは、一人の男の来訪によって破られる。
◇
昼過ぎ。
館の門前が突然騒がしくなった。
「お願いにございます!」
「宗久様にお目通りを!」
土煙を上げながら数人の商人が駆け込んでくる。
門番が慌てて門を開くと、その中の一人が膝をついた。
着物は泥だらけで袖は裂け、額には乾いた血が滲んでいる。
「市兵衛殿!」
新九郎は思わず声を上げた。
男は黒川家と古くから付き合いのある商家の支店長であり、新九郎の母方の親戚でもある山田市兵衛だった。
普段は穏やかな笑みを絶やさぬ男だったが、今は疲労の色が濃く、その表情には焦りが浮かんでいた。
宗久はただちに書院へ通すよう命じる。
「まずは水を」
「怪我人がおれば手当ても急げ。」
「はっ」
家人たちは慌ただしく動き始めた。
◇
書院。
市兵衛は深々と頭を下げる。
「宗久様……」
「お力をお貸しください」
宗久は静かに頷いた。
「何があった」
市兵衛は震える息を整えながら語り始める。
「黒川領へ向かう山道にて野盗どもに襲われました」
「積荷の半分を奪われ、護衛二人が斬られました」
「命は取り留めましたが、深手を負っております」
兵庫が尋ねる。
「人数は」
「二十人ほど」
「刀や槍を持ち、山中へ逃げ込みました」
宗久は静かに目を閉じる。
「尾張側から流れてきた者どもか」
兵庫も頷いた。
「近頃、境付近で同じような話を耳にしております」
「商人だけではなく、村人まで襲われ始めれば厄介です」
市兵衛は頭を下げたまま続ける。
「このままでは、誰も黒川領へ荷を運ばなくなります」
「商いは信用で成り立ちます」
「危険と知れば、皆、別の道を選ぶでしょう」
その言葉に宗久は静かに頷いた。
商人が来なくなれば、塩も鉄も布も手に入らない。
領民の暮らしも、黒川家の財政も立ち行かなくなる。
決して見過ごせる問題ではなかった。
◇
宗久はゆっくりと立ち上がる。
「兵庫」
「はっ」
「足軽五十を集めよ」
「直ちに討伐へ向かう」
「承知いたしました」
兵庫はすぐに書院を後にした。
源八も静かに立ち上がる。
「私も供いたします」
「頼む」
宗久が頷いた、その時だった。
「父上」
新九郎が一歩前へ進み出る。
「私も同行させてください」
書院が静まり返る。
宗久はしばらく新九郎を見つめていた。
「新九郎」
「戦は稽古ではない」
「人が傷つき、人が命を落とす」
「その覚悟はあるか」
新九郎は真っ直ぐ父を見返した。
「ございます」
「私は黒川家の嫡男です」
「いずれ家を継ぐ以上、領民を苦しめる者から目を背けることはできません」
宗久は静かに息を吐いた。
その瞳には、父としての心配と、当主としての決断が入り混じっていた。
やがて口を開く。
「よかろう」
「だが、一つだけ忘れるな」
「今回は初陣ではない」
「戦を学ぶために連れて行く」
「決して勝手な行動はするな」
「源八の側を離れることも許さん」
「心得ました」
新九郎は深く頭を下げた。
宗久は源八へ視線を向ける。
「新九郎を頼む」
「命に代えましても、お守りいたします」
♢
翌朝。
討伐隊はまだ薄暗さの残るうちに黒川館を発った。
宗久を先頭に、兵庫、源八、足軽50名。
その中には、新九郎の姿もあった。
馬を進めながら宗久は静かに言う。
「野盗とはいえ侮るな」
「追い詰められた獣ほど恐ろしいものはない」
「はっ」
一行は国境近くで市兵衛たちを襲った現場へ到着した。
街道には壊れた荷車が横倒しとなり、積荷の一部が散乱している。
兵庫は辺りを見回した。
「足跡は山へ続いております」
新九郎も地面へ目を落とす。
(思考支援)
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【思考支援】
『追跡』
解析中……
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人員 21
進行方向 北東
距離 約630メートル
推定潜伏地 1か所
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画面は静かに消えた。
「父上」
「こちらです」
新九郎は迷うことなく山道を指差した。
宗久は一瞬だけ息子を見つめ、頷く。
「兵庫」
「若様の示す道を進め」
「はっ」
◇
しばらく山中を進むと、小さな谷間に粗末な小屋が見えてきた。
焚火の煙が細く立ち上っている。
兵庫は木陰から様子を窺った。
「見張りが2人」
「中にも10数人おります」
宗久は静かに命じる。
「包囲しろ」
足軽たちは音もなく散開した。
◇
「黒川勢だ!」
「囲まれたぞ!」
兵庫の号令とともに討伐隊が一斉に踏み込む。
槍がぶつかり、刀が火花を散らす。
怒号が谷へ響いた。
新九郎は宗久との約束どおり、源八の後ろで戦況を見守っていた。
その時だった。
討伐隊に追われた1人の野盗が、脇道から飛び出してきた。
源八は別の敵と斬り結んでいる。
兵庫も離れていた。
野盗は新九郎を見つけ、口元を歪める。
「餓鬼か!」
「運がいい!」
刀を振り上げ、一気に間合いを詰めてくる。
一瞬。
新九郎の体が自然に動いた。
腰を落とし、1歩踏み込む。
鍛え続けた剣が迷いなく走る。
鋭い一閃。
野盗の刀を弾き、そのまま胴を斬り裂いた。
男は目を見開き、数歩よろめく。
そして力なく地面へ倒れ伏した。
静寂。
新九郎は動かなかった。
刀を握る手だけが小さく震えている。
(……人を斬った)
初めて、自らの手で命を奪った。
胸の奥が重く締め付けられる。
「若様!」
源八が駆け寄る。
「ご無事ですか!」
「……はい」
声は震えていた。
宗久も歩み寄り、倒れた野盗を見下ろす。
そして静かに新九郎を見る。
「見事であった」
「己の命を守るべき場で、ためらわなかった」
「黒川の嫡男として立派な働きだ」
その言葉に周囲の足軽たちも頷いた。
「若様、お見事!」
「鮮やかな太刀筋でした!」
「さすが宗久様のご嫡男!」
称賛の声が次々と上がる。
しかし、新九郎の耳には遠く聞こえるだけだった。
視線は倒れた男から離れない。
(これが……乱世)
人を守るために、人を斬る。
それが、この時代を生きる武士の宿命だった。
◇
戦はほどなく終わった。
野盗の多くは討ち取られ、生き残った者は縄を掛けられる。
奪われた荷も無事に取り戻された。
宗久は積荷を確認すると、小さく頷いた。
「これで商人も安心して領内を往来できよう」
市兵衛は深々と頭を下げる。
「この御恩、生涯忘れませぬ」
宗久は静かに答えた。
「商いが栄えれば、領もまた栄える」
「これからも黒川領へ品を運んでくれ」
「もちろんにございます」
市兵衛は力強く頷いた。
その様子を見ながら、新九郎は胸の内で静かに思う。
(父上の言う通りだ)
(領民を守ることも、商人を守ることも、すべては領を豊かにするため。)
(蜂蜜も椎茸も、やがてこの領を支える力になる)
武だけでは国は栄えない。
銭も、民も、すべて守ってこそ武士なのだ。
その意味を、新九郎は少しだけ理解した気がしていた。
館へ戻る夕暮れ。
山の向こうへ沈む夕日を見つめながら、新九郎は静かに拳を握った。
新九郎は、乱世の現実を初めてその身で知った。
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【イベント達成】
『国境の野盗討伐』
黒川領の商隊を救い、野盗を討伐しました。
報酬
EXP +250
統率 +1
政治 +1
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【イベント達成】
『初めて人を斬る』
乱世で初めて敵を討ち取りました。
報酬
EXP +150
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【スキル熟練度上昇】
剣術熟練度 +30
兵法熟練度 +10
観察熟練度 +5
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【レベルアップ】
Lv19 → Lv20
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名前:黒川 新九郎
年齢:8
レベル:20
EXP:0/2200
HP:110/110
MP:495/495
筋力:54
耐久:52
敏捷:56
知恵:99
統率:49
政治:43
魅力:43
器用:59
運:37
SP:18
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【固有スキル】
・鑑定 Lv5
・言語理解 LvMAX
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【スキル】
・観察 Lv4
・学問 Lv5
・兵法 Lv5
・礼法 Lv4
・剣術 Lv5
・弓術 Lv4
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【アクティブスキル】
・知識庫
・思考支援
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【称号】
・転生者
・唯一の成長者
・黒川の神童
・野盗討伐者
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