第十六話 未来への備え
野盗討伐から半月ほどが過ぎた。
それ以来、宗久は月に幾度か新九郎を伴って山へ入り、狩りを通して実戦の勘を養わせた。
鹿や猪を仕留め、時には村を荒らす狼を討つこともあった。
新九郎は武芸を磨きながら、確かな経験を積み重ねていった。
永禄五年(一五六二年)夏。
黒川領では田植えも終わり、青々とした苗が風に揺れている。
山では蜜蜂が盛んに花を渡り歩き、椎茸の原木も静かに育ち続けていた。
新九郎は日々の狩りや鍛錬のせいか、肩つきにも逞しさが増している。
背丈は少し伸び、木刀を構える姿にも幼さより武家の嫡男らしい落ち着きが見えるようになっている。
◇
ある朝。
宗久は新九郎を書院へ呼んだ。
「新九郎」
「はい、父上」
宗久はしばらく息子を見つめ、静かに口を開いた。
「背も伸びたな」
「はい」
「先の野盗討伐と狩りでも、お前の働きは十分見届けた」
「剣だけでは戦はできぬ」
「これより槍と馬を学べ」
「はっ」
新九郎は深く頭を下げた。
宗久は襖の外へ声を掛ける。
「入れ」
襖が静かに開き、二人の武士が姿を現した。
一人は長槍を携えた壮年の武士。
一人は日に焼けた精悍な顔立ちの男だった。
「槍術師範・渡辺重蔵」
「馬術師範・木村又兵衛」
二人は揃って一礼する。
「渡辺重蔵にございます」
「木村又兵衛にございます」
「若様、これよりご指導申し上げます」
新九郎も丁寧に礼を返した。
「黒川新九郎です」
「よろしくお願いいたします」
◇
その日から新九郎の日課は少し変わった。
朝は読み書きや学問。
午後は日ごとに武芸を変えて学ぶ。
剣術の日。
槍術の日。
弓術の日。
そして馬術の日。
重蔵は槍を渡しながら言った。
「槍は剣とは違う」
「長さを活かし、敵を近寄らせぬことが肝要です」
「はい」
最初は長い槍を思うように扱えなかった。
それでも重蔵の教えに従い、構えと突きを何度も繰り返していく。
また別の日。
又兵衛は馬の首を優しく撫でながら言った。
「若様」
「まずは馬に乗ることではございませぬ」
「馬を知ることです」
新九郎は馬に餌を与え、身体を洗い、毎日世話を続けた。
やがて馬も新九郎を覚え、穏やかに鼻を鳴らすようになる。
「良馬とは、主を見極めるもの」
「若様が信を示せば、馬もまた信で応えます」
「はい」
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【スキル習得】
・槍術 Lv1
・馬術 Lv1
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【スキル熟練度上昇】
・槍術熟練度 +10
・馬術熟練度 +10
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◇
槍術と馬術の稽古が始まって三か月。
暑さも少しずつ和らぎ始めた頃、新九郎は日替わりで武芸を学ぶ生活にも慣れていた。
剣術の日。
弓術の日。
槍術の日。
馬術の日。
それぞれの武芸には異なる理があり、一つとして無駄なものはない。
その日の槍術の稽古を終えた重蔵は、槍を地へ立てると満足そうに頷いた。
「若様は剣の癖が抜けましたな」
「槍の間合いも、よく掴んでおられます」
「ありがとうございます」
「ご期待に添えますよう、鍛錬を重ねます」
重蔵は小さく笑みを浮かべた。
「三か月でここまでとは……」
「正直、ここまで早く身につけられるとは思っておりませなんだ」
「この調子で鍛錬を重ねられれば、末が楽しみでございます」
◇
馬術の日。
木村又兵衛は馬を降りた新九郎を見て、満足そうに頷いた。
「若様」
「馬上での姿勢も安定し、手綱さばきも実に見事になりました」
新九郎は馬の首を優しく撫でながら頭を下げる。
「ありがとうございます」
「まだ学ぶことは多くございます」
又兵衛は穏やかに笑った。
「その向上心が何よりでございます」
「三か月でここまで馬と心を通わせる若君は、そうそうおりませぬ」
「いずれ名馬に跨り、戦場を駆ける日が楽しみでございます」
◇
ある日。
宗久は新九郎を伴い、領内の村々を巡っていた。
稲穂はまだ青く、田では農民たちが汗を流している。
村長たちは宗久を見ると深く頭を下げた。
「宗久様」
「若様」
宗久は畦道へ視線を向ける。
「今年の作柄はどうだ」
「雨にも恵まれ、このままなら平年並みにございます」
「そうか」
新九郎は村人たちの表情を静かに見渡した。
笑顔もある。
しかし、水路の補修を願う者、獣害に悩む者もいた。
宗久は一つ一つを聞き、兵庫へ指示を出していく。
「堤の補修は収穫後だ」
「山際の村へは見回りを増やせ」
新九郎はその姿を目に焼き付けた。
(これが領主の仕事か)
戦だけではない。
民の暮らしを守ることもまた、武士の務めだった。
◇
館へ戻った夕刻。
兵庫が一通の書状を手に書院へ入ってきた。
「宗久様」
「尾張境より報せにございます」
宗久は書状を受け取り、目を通す。
「……信長か」
兵庫も頷いた。
「近頃、尾張では兵の動きが活発になっております」
「国境を行き来する商人も増え、街道の往来も以前より賑わっております」
「まだ戦には至りませぬが、備えは必要かと」
宗久は静かに書状を畳んだ。
「境の見張りは引き続き怠るな」
「商人からの話も細かく集めよ」
「はっ」
新九郎も静かに地図へ目を落とす。
(信長は確実に動いている)
今はまだ尾張国内を固めている段階。
だが、その先にあるのは美濃だ。
新九郎は心の中で静かに決意する。
(備えられる時間を、一日たりとも無駄にはしない)
◇
その夜。
一日の鍛錬を終えた新九郎は、自室へ戻ると静かに腰を下ろした。
新九郎は小さく息を吐いた。
「ステータス」
青白い光が静かに広がり、見慣れた画面が目の前へ浮かび上がる。
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名前:黒川 新九郎
年齢:8
レベル:22
EXP:320/2400
HP:120/120
MP:505/505
筋力:64
耐久:62
敏捷:66
知恵:101
統率:59
政治:53
魅力:48
器用:69
運:42
SP:24
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SP振り分け
筋力:69(+5)
耐久:66(+4)
敏捷:71(+5)
知恵:101(変更なし)
統率:63(+4)
政治:56(+3)
魅力:50(+2)
器用:73(+4)
運:43(+1)
SP:0
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【固有スキル】
・鑑定 Lv5(MP消費なし)
・言語理解 LvMAX
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【スキル】
・観察 Lv5
・学問 Lv6
・兵法 Lv6
・礼法 Lv5
・剣術 Lv6
・弓術 Lv5
・槍術 Lv2
・馬術 Lv2
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【アクティブスキル】
・知識庫
・思考支援
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【称号】
・転生者
・唯一の成長者
・黒川の神童
・野盗討伐者
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新九郎は静かに画面を閉じた。
積み重ねた鍛錬は、確かに力となっている。
だが、この程度で満足するつもりはなかった。
美濃を巡る時代の流れは、着実に動き始めているのだから。