第二話 初めての稽古
弘治三年(一五五七年)春。
三歳になった黒川新九郎は、黒川家当主・黒川宗久のもとで学問と武芸を学び始めていた。
武士の子として生まれた以上、剣も学問も避けては通れない。
だが、新九郎には誰にも知られていない秘密があった。
この世界で、自分だけが「レベルアップシステム」を持っていることだ。
◇
「若様、本日より剣術の稽古を始めます。」
庭では、剣術指南役の小島源八が木刀を手に待っていた。
「よろしくお願いします。」
三歳の子どもとは思えないほど落ち着いた礼に、源八は思わず笑みを浮かべる。
「まずは勝つことではございません。」
「正しい立ち方、正しい構えを覚えていただきます。」
「はい。」
源八は新九郎の足の位置を直し、木刀の握り方を教える。
「肩の力を抜き、腰を落としてください。」
「……こうですか?」
「その通りです。」
稽古は一刻ほど続いた。
振っては直され、構えては直される。
単純な動作の繰り返しだったが、新九郎は一度教わるだけで次々と覚えていく。
「驚いた……。」
源八は思わず呟く。
「若様は覚えが早すぎる。」
◇
夜。
寝所へ戻った新九郎は、小さく息を吐いた。
(疲れた……。)
三歳の体では、一刻の稽古でも十分に重労働だった。
ふと、いつものように呟く。
「ステータス。」
青白い画面が目の前に現れる。
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名前:黒川 新九郎
年齢:3
レベル:1
EXP:2/100
HP:10/10
MP:10/10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
知力:10
統率:2
政治:1
魅力:3
器用:4
運:5
SP:0
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スキル
・鑑定 Lv1
・言語理解 LvMAX
・剣術 Lv1(熟練度 5/100)
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称号
・転生者
・唯一の成長者
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「……増えてる。」
昨日まではなかった項目が表示されていた。
EXP。
そして、剣術の熟練度。
その瞬間、再び画面に文字が浮かび上がる。
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【剣術を習得しました。】
【剣術熟練度 +5】
【経験値を2獲得しました。】
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「なるほど……。」
新九郎は小さく頷く。
戦わなければ経験値は得られないと思っていた。
しかし違った。
努力そのものが経験値になる。
武芸を学べば武芸の熟練度が上がり、経験値も少しずつ蓄積される。
(つまり、毎日の積み重ねが俺を強くする。)
前世で遊んだゲームとは違う。
この世界では、地道な努力にもきちんと意味がある。
新九郎は思わず笑みを浮かべた。
◇
翌日から新九郎は生活を変えた。
朝は読み書き。
昼は算術。
午後は剣術。
夕方は父から兵法を学ぶ。
そして夜になると、必ずステータスを確認する。
数日後。
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【兵法 Lv1を習得しました。】
【兵法熟練度 3/100】
【経験値 +2】
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さらに数日後。
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【礼法 Lv1を習得しました。】
【礼法熟練度 4/100】
【経験値を1獲得しました。】
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毎日ほんの少しずつだが、自分は確実に成長している。
誰にも見えない画面だけが、その証拠だった。
◇
ある日の夕刻。
父・宗久と家老・佐久間兵庫が書院で話していた。
「義龍様も家中をまとめるのにご苦労なされております。」
「先の長良川の戦より一年。未だ家中には道三公へ恩義を感じる者も少なくない。」
「されど、今の美濃の主は義龍様だ。我ら国人は主君に忠を尽くすのみ。」
「左様ですな。」
新九郎は木刀を握ったまま耳を澄ませる。
(義龍……長良川……。)
歴史の教科書で見たことがあるような名前だ。
だが、まだ記憶ははっきりと結びつかない。
(焦る必要はない。)
(今は学び、強くなることだけを考えよう。)
新九郎はそう自分に言い聞かせ、再び木刀を構えた。