第十九話 春の実り
永禄六年(一五六三年)早春。
厳しかった冬も終わりを迎え、黒川領にも穏やかな春が訪れていた。
山肌に残っていた雪は日ごとに姿を消し、木々には淡い若葉が芽吹き始めている。
田畑では春耕の準備が進み、村人たちは忙しく鍬を振るっていた。
新九郎もまた、この春を心待ちにしていた。
一昨年より始めた養蜂と椎茸栽培。
その成果が、ようやく形となる時が来たのである。
◇
朝。
宗久は新九郎を伴い、裏山へ向かった。
「まずは蜂を見よう」
「はい、父上」
二人は養蜂場へ足を運ぶ。
世話役の彦兵衛が深く頭を下げた。
「宗久様、若様」
「蜂たちは皆、無事に冬を越しました」
新九郎は巣箱へ手を添え、小さく呟く。
「鑑定」
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養蜂箱
状態:良好
蜂群:健康
冬越し:成功
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(よかった)
蜂たちは無事に冬を越えた。
このまま群れが順調に育てば、初夏には初めて蜂蜜を採れるだろう。
それまでは群れを弱らせないことが何より大切だった。
宗久も巣箱を見渡し、小さく頷いた。
「無事に冬を越えたか。」
「はい。」
「このまま花が咲けば、今年は初めて蜜が採れます。」
「だが、採り過ぎてはなりません。」
「蜂が越すための蜜は必ず残します。」
宗久は静かに頷いた。
「なるほど。」
「欲張れば来年がなくなるということか。」
「その通りです。」
彦兵衛も深く頭を下げた。
「承知いたしました。」
その時だった。
彦兵衛は思い出しように、巣箱を指差した。
「宗久様、若様」
「昨日、新しい群れが入りました」
新九郎は静かに頷く。
「順調ですね」
「はい」
「この春、最初の群れにございます」
宗久は満足そうに巣箱を見渡した。
「報告どおりになったな」
「はい、父上」
「山の群れが無事に入ってくれました」
「これで養蜂も、さらに安定いたします」
「うむ」
「この調子なら、今年の採蜜も期待できよう」
彦兵衛も嬉しそうに頭を下げた。
「大切に世話を続けてまいります」
◇
続いて二人は椎茸の原木置場へ向かう。
世話役の庄吉が駆け寄ってきた。
「若様!」
「どうやら今年は当たり年でございます!」
原木には肉厚な椎茸がいくつも顔を出していた。
新九郎は一本へ視線を向ける。
「鑑定」
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椎茸
状態:収穫適期
品質:極上
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思わず小さく笑みが浮かぶ。
「収穫しましょう」
「はい!」
庄吉たちは慎重に椎茸を摘み取っていく。
宗久も一つ手に取り、その厚みに感心した。
「見事だ」
「これほど揃って育つものか」
「一昨年より原木を選び、管理を揃えた成果です」
新九郎は静かに答えた。
◇
収穫を終えた頃。
新九郎は一本の原木を見つめていた。
他の原木よりも菌の回りが良い。
「鑑定」
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椎茸原木
菌活性:高
状態:良好
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(……これだ)
知識庫に眠る知識が静かに蘇る。
(菌がよく回った木を使えば、新しい原木にも菌を移せる)
現代の駒菌ではない。
だが、この方法でも十分効果はあるはずだった。
新九郎は庄吉を呼ぶ。
「庄吉」
「はい」
「この原木を少しだけ切り分けてください」
「この木をですか?」
「はい」
「小さな木片にしてください」
庄吉は不思議そうな顔をしながらも、小刀で原木を切り分け始めた。
◇
新九郎は出来上がった木片を一つずつ手に取る。
「鑑定」
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菌木片
椎茸菌:活性・高
雑菌:なし
活着予想:83%
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「これを使います」
続いて別の木片を見る。
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菌木片
椎茸菌:活性・低
雑菌:あり
活着予想:21%
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「これは使いません」
庄吉は首を傾げた。
「若様」
「違いがお分かりになるのですか」
新九郎は穏やかに笑う。
「良い木は、不思議と分かるものです」
本当は鑑定スキルのおかげだった。
だが、それを明かすことはできない。
◇
宗久も作業を見守っていた。
「新九郎」
「何をするつもりだ」
「菌のよく回った木を、新しい原木へ移します」
「そうすれば、来年以降、椎茸を増やせるかもしれません」
宗久はしばらく黙って息子を見つめる。
常識では聞いたことのない話だった。
だが――。
養蜂も。
椎茸栽培も。
ここまで新九郎の考えは結果を出してきた。
「……よかろう」
「まずは試してみよ」
「ありがとうございます」
新九郎は深く頭を下げた。
黒川領の椎茸栽培は、ここからさらに新たな一歩を踏み出そうとしていた。
◇
宗久の許しを得た新九郎は、庄吉たちとともに作業へ取り掛かった。
菌のよく回った原木から切り出した木片。
新しい原木には、あらかじめ小さな穴が開けられている。
新九郎は木片を一つ手に取った。
「鑑定」
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菌木片
椎茸菌:活性・高
雑菌:なし
活着予想:良好
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「これを打ち込みます」
木槌で軽く叩く。
木片は原木へぴたりとはまった。
庄吉も真似をしながら作業を続ける。
「若様」
「これほどで本当に増えるのでしょうか」
「分かりません」
新九郎は正直に答えた。
「ですが、試さなければ何も始まりません」
「もし成功すれば、山へ頼らずとも椎茸を増やせます」
庄吉は静かに頷いた。
「やってみましょう」
◇
昼頃。
収穫した椎茸は一か所へ集められた。
庄吉が数えながら報告する。
「今年収穫できた原木は六十二本」
「一木につき八から十二ほど実り、どれも肉厚で傷みもございません」
「生椎茸にして、およそ四貫(約十五キロ)ほどございます」
宗久は目を見開く。
「試しに始めたものとしては十分だな」
新九郎も静かに頷いた。
(思っていた以上だ)
だが、ここで終わりではない。
新九郎は収穫籠を見つめながら、頭の中で思考補正を走らせる。
「思考補正。椎茸販売の利益率比較」
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生椎茸
・足が早い
・輸送中の損耗が大きい
・売り先が限られる
・実入り:低
干し椎茸
・水分を抜いて軽量化
・保存性が高い
・遠方へ運べる
・売り先が広がる
・実入り:高
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新九郎は目を細めた。
(なるほど。乾かすことで水分を抜き、重さを減らし、日持ちを伸ばす)
(それだけではない。香りも旨味も凝縮され、保存食としての価値が上がる)
(つまり、椎茸は“採って売る”より、“干して価値を高めて売る”方が理にかなっている)
「このうち一部は領内で消費し、残りは干し椎茸へ加工します」
新九郎がそう告げると、宗久は満足げに頷いた。
「賢い選び方だ」
「生のままでは売り切る前に傷む」
「干せば、商いの幅も広がる」
庄吉も感心したように息を吐いた。
「なるほど……」
「同じ椎茸でも、扱い方でこれほど違うのですね」
新九郎は小さく笑った。
「物は、売り方で価値が変わります」
◇
数日後。
干し上がった椎茸が書院へ運び込まれた。
厚みがあり、形も揃っている。
宗久は一つを手に取り、香りを確かめた。
「見事だ」
「天然物にも引けを取らぬ」
そこへ市兵衛が館を訪れた。
新九郎は木箱を開ける。
「こちらをご覧ください」
市兵衛は干し椎茸を手に取り、思わず息を呑んだ。
「これは……」
「これほど厚く、形の揃った干し椎茸は見たことがございませぬ」
「しかも、この量……」
宗久は静かに言う。
「試しに始めた栽培だ」
「まだ多くはない」
市兵衛は首を横へ振る。
「いえ」
「量よりも価値がございます」
「生のままでは日持ちがせず、遠くへ運ぶほど損をいたします」
「ですが、干し椎茸なら違う」
「保存が利き、京へも堺へも運べる」
新九郎は静かに口を開く。
「その通りです」
「生のまま売れば、足の速さが弱点になります」
「ですが、干し椎茸にすれば、保存が利き、遠方へも運べる」
「しかも、乾かすことで旨味が凝縮され、香りも立つ」
「同じ椎茸でも、価値の見え方が変わるのです」
市兵衛は目を細めた。
「なるほど……」
「それは商いとして、実に強い」
宗久も腕を組んだ。
「毎年安定して手に入るなら、領の財にもなるな」
新九郎は頷く。
「今年は試験栽培です」
「来年は、さらに収穫を増やせる見込みがあります」
宗久が口を開いた。
「市兵衛。本店でも見てもらえるか。」
「承知いたしました。」
市兵衛は深く頷いた。
「必ず」
「京の商人たちも、この品なら必ず欲しがりましょう」
◇
その夜。
新九郎は静かに寝所で呟く。
「ステータス」
青白い画面が浮かび上がる。
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【長期イベント達成】
『椎茸栽培の確立』
達成率:100%
黒川領において安定した椎茸栽培に成功しました。
新たな産業が誕生しました。
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報酬
EXP +300
知恵 +5
政治 +5
統率 +2
魅力 +3
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【称号効果発動】
『唯一の成長者』
長期イベント達成ボーナス
EXP +100
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【新イベント発生】
『さらなる量産へ』
菌木片による接種法を確立し、
黒川領の椎茸収穫量を飛躍的に向上させよ。
進行度 0/100
予想達成期間 約一年
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達成報酬
EXP +500
知恵 +3
政治 +5
統率 +3
魅力 +2
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新九郎は静かに画面を閉じた。
椎茸栽培は成功した。
しかも、ただ増やしただけではない。
生のまま売るよりも、干して売る方が理にかなっている。
黒川領にとって、それは単なる山の恵みではなく、確かな産業の芽だった。
だが、それは終わりではない。
黒川領を豊かにするための、新たな挑戦が始まろうとしていた。
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【称号獲得】
『黒川の開拓者』
黒川領に新たな産業を生み出し、領地の発展へ大きく貢献しました。
その功績が認められ、領民や家臣からの信頼が高まります。
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【称号効果】
・領地運営時、政治・統率がわずかに上昇
・領民からの信頼を得やすくなる
・産業・開発系イベントの成功率がわずかに上昇
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名前:黒川 新九郎
年齢:9
レベル:25
EXP:980/3300
HP:132/132
MP:530/530
筋力:69
耐久:67
敏捷:72
知恵:106
統率:66
政治:61
魅力:53
器用:75
運:49
SP:9
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【固有スキル】
・鑑定 Lv5(MP消費なし)
・言語理解 LvMAX
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【スキル】
・観察 Lv6
・学問 Lv7
・兵法 Lv7
・礼法 Lv6
・剣術 Lv7
・弓術 Lv6
・槍術 Lv4
・馬術 Lv4
・将器 Lv2
・号令 Lv2
・統制 Lv2
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【アクティブスキル】
・知識庫
・思考支援
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【称号】
・転生者
・唯一の成長者
・黒川の神童
・野盗討伐者
・黒川の開拓者
効果
・領地運営時、政治・統率がわずかに上昇
・領民からの信頼を得やすくなる
・産業・開発系イベントの成功率がわずかに上昇
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