第二十三話 礎
永禄六年(一五六三年)夏。
黒川館では、国境の備えと並行して館の普請も進められていた。
戦が始まってからでは遅い。
宗久は兵を鍛える一方で、館そのものも少しずつ守りを固め始めていた。
◇
館の裏では、土塁の補修が続いている。
崩れた箇所へ新しい土を盛り、木槌で何度も突き固める。
職人たちは汗を流しながら黙々と作業を続けていた。
その様子を見つめていた新九郎は、小さく口を開く。
「父上」
「何だ」
「この土塁は、毎年補修しておりますね」
宗久は静かに頷いた。
「雨が降れば崩れる」
「土とはそういうものだ」
「もっと崩れにくくできるかもしれません」
宗久は息子を見つめる。
「……できるのか」
新九郎は心の中で静かに呟いた。
(知識庫)
青白い画面が音もなく浮かび上がる。
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【知識庫】
石灰建材
石灰・砂・砕石・水を混合し、
時間をかけて固める建築技術。
耐水性・耐久性に優れ、
土塁・橋・建物の基礎などに利用できる。
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(これなら……)
新九郎は静かに画面を閉じた。
「父上」
「少し試させてください」
「結果が良ければ、館の守りにも使えると思います」
宗久はしばらく考えた後、小さく頷いた。
「よかろう」
「失敗を恐れず試してみよ」
「ありがとうございます」
◇
翌日。
新九郎は石灰焼きを任される職人たちを集めた。
焼き上がった石灰。
川砂。
砕石。
そして水。
木桶へ入れ、木の棒でゆっくりと練り合わせていく。
職人の一人が不思議そうに尋ねた。
「若様」
「これは何を作っておられるので」
「土より丈夫な建材です」
「まずは小さく作って確かめます」
出来上がった建材を木製の型枠へ流し込み、木槌で何度も突き固める。
「ここからは待ちます」
「すぐには固まりません」
◇
一か月後。
型枠が慎重に外された。
そこには淡く白い壁が姿を現していた。
職人が木槌で叩く。
コン。
乾いた硬い音が響く。
「……固い」
「石ほどではないが、土とはまるで違う」
兵庫も壁へ手を当てる。
「雨にも強そうですな」
新九郎は静かに頷いた。
「土塁にも使えると思います」
宗久は完成した壁を見上げる。
「この建材に名はあるのか」
新九郎は少し考え、穏やかに答えた。
「白く仕上がります」
「『白土』と呼びましょう」
「白土か」
宗久は静かにその名を繰り返した。
「覚えやすい」
◇
宗久は完成した壁を見渡し、静かに命じた。
「兵庫」
「はっ」
「黒川館の要塞化へ着手する」
兵庫の表情が引き締まる。
「まず土塁の補強」
「続いて見張り小屋を新築する」
「兵糧蔵、井戸、橋台も順に白土を用いて造り替えていく」
「急ぐ必要はない」
「だが、戦になる前に出来る限り備えを整える」
「承知いたしました」
その日から館では新たな普請が始まった。
職人たちは型枠を組み、白土を流し込み、時間をかけて養生する。
最初に完成した見張り小屋は、これまでのものより堅牢で、雨風にも強かった。
宗久は満足そうに微笑む。
「兵を鍛えるだけが備えではない」
「館もまた、戦うのだ」
その瞬間。
新九郎の視界へ青白い画面が浮かぶ。
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【条件達成】
新たな建築技術を確立しました。
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【新スキル習得】
『普請』
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土塁。
石垣。
堀。
橋。
建物。
築城と建築に関する知識が、一つの技術として頭の中へ流れ込んでくる。
新九郎は静かに画面を閉じた。
武だけでは領は守れない。
館を守り、橋を築き、道を整える。
その積み重ねが黒川家を支える礎となるのであった。
◇
それから数か月が過ぎた。
永禄六年(一五六三年)晩秋。
黒川領では黄金色に染まっていた田も刈り終え、村々では冬支度が始まっていた。
裏山では蜜蜂が無事に巣を大きくし、椎茸の原木も順調に育っている。
館では白土による普請が着実に進み、領内では新たな産物が実りを迎えていた。
その日の書院には、宗久、新九郎、兵庫、そして勘定役が集まっている。
畳の上には帳面が幾冊も積み上げられていた。
一年を通じた黒川家の収支である。
兵庫は最後の帳面を閉じると、静かに一礼した。
「宗久様」
「今年の勘定がまとまりました」
宗久は静かに頷く。
「申せ」
兵庫は一度息を整えた。
「干し椎茸、蜂蜜、その他の産物を合わせまして――」
「今年一年の商いによる純益は」
「三千二百四十貫文にございます」
書院が静まり返る。
宗久は兵庫を見つめたまま、しばらく言葉を失った。
「……三千二百四十貫」
「間違いないのだな」
兵庫は帳面を差し出した。
「私も信じ難く思い、勘定役と共に三度確認いたしました」
「相違ございませぬ」
勘定役も深く頭を下げる。
「間違いございません」
宗久は帳面を受け取り、一枚一枚目を通した。
収穫量。
売上。
経費。
利益。
どこにも不自然な点はない。
「……黒川家で、このような利益を見る日が来ようとは」
思わず漏れたその言葉に、兵庫も静かに頷いた。
「私も長く黒川家に仕えておりますが、このような数字は初めてにございます」
宗久はゆっくりと帳面を閉じ、新九郎へ目を向けた。
「新九郎」
「はい」
「お前が始めた商いは、見事に実を結んだな」
新九郎は静かに頭を下げた。
「領民の皆が力を貸してくださったおかげです」
「私一人では、この結果には至りませんでした」
宗久は穏やかに笑みを浮かべた。
「その言葉を忘れぬ限り、お前はさらに大きくなれる」
しばらくして、宗久は兵庫へ視線を向けた。
「市兵衛を呼べ」
「はっ」
兵庫は立ち上がり、書院を後にした。
ほどなくして、市兵衛が姿を現す。
「宗久様」
「若様」
「お呼びと伺い参りました」
宗久は帳面へ軽く手を置いた。
「今年の勘定がまとまった」
「商いによる純益は三千二百四十貫だ」
市兵衛は目を丸くした。
「……三千二百四十貫にございますか」
「そこまで参りましたか」
宗久は頷く。
「そなたの働きあってのことだ」
市兵衛は静かに首を横へ振った。
「私など微力にございます」
「品が良いから売れるのでございます」
「京でも堺でも、『もっと持って来られぬのか』と尋ねられる日々でございました」
「特に干し椎茸は品薄にございます」
「並べれば、その日のうちに売り切れてしまいます」
「蜂蜜も武家や豪商の間で評判となっております」
新九郎は静かに尋ねた。
「来年も売れそうですか」
市兵衛は力強く頷く。
「必ず」
「むしろ、来年は今年以上の注文になるかと」
「黒川の名は、少しずつではございますが、商人の間へ広がり始めております」
宗久は満足そうに頷いた。
「ならば来年は、さらに励まねばならぬな」
夕日が書院へ差し込む。
乱世の中で生まれた新たな産業は、確かに黒川家を支える柱へと育ち始めていた。
◇
その夜。
新九郎は静かに寝所へ戻った。
昼間、兵庫から渡された帳面。
そこには、この一年で黒川家が得た利益が細かく記されていた。
三千貫を超える利益。
その数字を思い返しながら、新九郎は小さく息を吐く。
それは一人の力ではない。
領民が畑を耕し。
山で椎茸を育て。
蜂を世話し。
商人が各地へ品を運び。
皆が一年かけて積み重ねた、黒川領そのものの実りだった。
「ステータス」
青白い画面が静かに浮かび上がる。
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【条件達成】
黒川家の商いは安定した利益を生み出しました。
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【新スキル習得】
『商才』
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「商才……」
その名を口にした瞬間だった。
頭の中へ、不思議な感覚が流れ込んでくる。
品を見れば、その価値がおぼろげに分かる。
相手の言葉を聞けば、本当に求めているものが自然と見えてくる。
利益だけを追えば、人は離れる。
信用を積み重ねれば、人も品も自然と集まる。
商いとは、銭を動かすだけではない。
人と人とを結ぶ営みなのだと、まるで昔から知っていたかのように理解できた。
再び画面へ文字が浮かぶ。
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【商才】
市場の流れを読む力が向上します。
品の価値を見極める能力が向上します。
売買・交渉・利益計算に補正が加わります。
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新九郎は静かに笑みを浮かべた。
「なるほど……」
武だけでは領は栄えない。
兵を養うにも、民の暮らしを守るにも、まず領が豊かでなければならない。
そして、その豊かさは人が運んでくる。
領民。
商人。
家臣。
皆が安心して力を尽くせる土地こそ、本当に強い国なのだ。
新九郎は静かに画面を閉じた。
武を磨くこと。
国を富ませること。
そのどちらも欠かすことのできない道だった。
窓の外では、秋の夜風が収穫を終えた田を静かに渡っていた。
その音を聞きながら、新九郎はゆっくりと目を閉じた。
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名前:黒川 新九郎
年齢:9
レベル:28
EXP:640/4000
HP:144/144
MP:575/575
筋力:74
耐久:72
敏捷:77
知恵:115
統率:72
政治:67
魅力:56
器用:80
運:55
SP:18
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【固有スキル】
・鑑定 Lv5(MP消費なし)
・言語理解 LvMAX
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【スキル】
・観察 Lv7
・学問 Lv8
・兵法 Lv8
・礼法 Lv7
・剣術 Lv8
・弓術 Lv7
・槍術 Lv5
・馬術 Lv5
・将器 Lv3
・号令 Lv3
・統制 Lv3
・普請 Lv2
・商才 Lv1
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【アクティブスキル】
・知識庫
・思考支援
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【称号】
・転生者
・唯一の成長者
・黒川の神童
・野盗討伐者
・黒川の開拓者
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