第四話 初めての狩り
レベル2へ到達してから数日。
朝食を終えた新九郎は、父・黒川宗久に呼び止められた。
「新九郎。」
「はい、父上。」
「今日は山へ行く。」
「山……ですか?」
「鹿や猪の様子を見る。武士にとって狩りも修練の一つだ。」
新九郎の胸が高鳴る。
前世では経験したことのない、本物の狩りだった。
◇
黒川家の館から一里ほど離れた山林。
宗久を先頭に、家臣五名が弓や槍を携えて歩いていた。
新九郎は小さな脇差だけを腰に差し、家臣に守られながら後ろを歩く。
「若様。」
家老・佐久間兵庫が声を潜める。
「山では大声を出してはなりませぬ。」
「獲物が逃げるからですか。」
「その通りでございます。」
新九郎は小さく頷いた。
(戦も同じなのかもしれない。)
無駄な音は、自分の居場所を敵へ教えることになる。
◇
しばらく歩くと、宗久がしゃがみ込んだ。
「見てみよ。」
地面には二つに割れたような足跡が残っている。
「これは鹿の足跡だ。」
「新しいものですか?」
「昨夜のものだろう。」
新九郎も地面を観察する。
前世なら気にも留めなかった跡だ。
しかし今は違う。
これもまた、生きるための知識だった。
◇
さらに奥へ進む。
草むらが揺れた。
鹿だ。
美しい角を持つ雄鹿が、こちらを警戒している。
(鑑定。)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
種族:ニホンジカ
状態:健康
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(動物にも使える!)
思わず驚く。
名前は表示されないが、種族と状態は確認できた。
その瞬間。
宗久が静かに弓を構える。
風を読む。
息を整える。
そして――
ヒュッ。
矢が一直線に飛んだ。
鹿は数歩走ると、その場へ崩れ落ちた。
「……見事です。」
「狩りは武芸そのものだ。」
宗久は弓を下ろす。
「狙いを定め、一瞬で決断する。」
「迷えば逃げられる。」
新九郎は父の背中を見つめた。
戦国を生きる武士とは、こういうものなのだ。
◇
家臣たちが鹿を運び始める。
新九郎も近寄った。
命を落とした鹿を前に、自然と手を合わせる。
「……いただきます。」
前世の癖だった。
宗久は少し驚いた表情を見せる。
「なぜ手を合わせた。」
「命をいただくからです。」
宗久はしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
「その心を忘れるな。」
「武士も百姓も、生き物の命によって生かされている。」
「はい。」
その言葉は、新九郎の胸に深く刻まれた。
◇
帰り道。
山道を歩いていると、一羽の野兎が飛び出した。
「若様。」
小島源八が小さな木弓を差し出す。
「射てみますか。」
新九郎は驚いた。
「私が?」
「届かなくても構いません。」
「狙うことが学びになります。」
新九郎は木弓を受け取る。
ゆっくりと狙いを定める。
しかし、放った矢は大きく逸れ、野兎はあっという間に茂みへ消えた。
「……難しい。」
源八は笑った。
「誰も最初から当てられませぬ。」
「だからこそ、鍛錬を積むのです。」
その言葉と同時に、画面が現れる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【弓術 Lv1を習得しました】
【弓術熟練度:1/100】
【経験値 +2】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
続けてもう一つの表示が現れる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【狩りへの同行】
【経験値 +5】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(新しいスキル……!)
失敗した。
それでも経験になった。
この世界では、挑戦そのものが力へ変わる。
新九郎は木弓を握り直す。
(もっと上手くなりたい。)
その純粋な思いが、新たな成長への第一歩となった。
狩りの翌日、剣術の稽古を終えると、宗久が新九郎を呼び止めた。
「新九郎。」
「はい、父上。」
「昨日の狩りで、弓の重要さは身に染みただろう。」
「はい。剣だけでは足りぬと、よく分かりました。」
宗久はうなずき、視線を横へ向けた。
そこには、一人の壮年の武士が控えていた。
「紹介しよう。黒川家の弓術師範、村上与一だ。」
与一は新九郎の前で深く一礼した。
「村上与一にございます。若様、これより弓術の稽古をご指導いたします。」
新九郎も礼を返す。
「よろしくお願いいたします。」
与一は手にしていた小弓を差し出した。
「まずは構えと姿勢からです。弓は力任せに引くものではありません。体の使い方を覚えねば、矢はまっすぐ飛びませぬ。」
新九郎は小弓を受け取り、与一の手本に倣って構えた。
昨日の狩りで弓を手にしたとはいえ、こうして改めて教わるのは初めてに近い。
与一の指導は厳しかったが、理にかなっていた。
足の置き方、肩の力の抜き方、弦を引く指先の感覚。
一つひとつを確かめるように繰り返していくうちに、新九郎は弓という武芸の奥深さを実感していった。
(剣とはまた違う……。弓にも、弓の理がある。)
新九郎は小さく息を吐き、もう一度弓を構え直した。
戦国の武士として歩む以上、身につけるべき武芸は一つではない。
新九郎は新たな学びを胸に、静かに弓を引いた。
現在のステータス
名前:黒川 新九郎
年齢:3
レベル:2
EXP:19/150
HP:12/12
MP:12/12
筋力:2
耐久:2
敏捷:2
知恵:10
統率:2
政治:1
魅力:3
器用:4
運:5
SP:3
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【スキル】
・鑑定 Lv1
名前(人物のみ)
年齢
種族(動物のみ)
状態(健康・負傷・病気など)
・言語理解 LvMAX
・剣術 Lv1
熟練度:56/100
・礼法 Lv1
熟練度:28/100
・弓術 Lv1
熟練度:1/100
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【称号】
・転生者
・唯一の成長者
━━━━━━━━━━━━━━━━━━