第八話 稲葉山城への招き
神童の噂が広まってから十日ほどが過ぎた。
ある朝、黒川館へ一騎の使者が駆け込んできた。
「斎藤家より使者にございます!」
書院へ通された使者は、宗久へ恭しく書状を差し出す。
「義龍様よりのお召しにございます。」
宗久は書状を開き、静かに目を通した。
やがて新九郎へ視線を向ける。
「新九郎。」
「はい、父上。」
「義龍様より、次の登城にはお前を伴うよう仰せつかった。」
新九郎はわずかに目を見開く。
(やはり、あの一件か。)
噂になっていることは聞いていた。
しかし、美濃国主自らが自分を召すとは思ってもみなかった。
「相手は美濃の主君だ。」
「礼を失することは許されぬ。」
「心得ております。」
◇
三日後。
宗久と新九郎は稲葉山城へ登城した。
険しい山上に築かれた城は、以前訪れた時と変わらぬ威容を誇っている。
だが、今回は控えの間で待つためではない。
義龍との謁見が目的だった。
近習に案内され、二人は広間へ進む。
上座には、美濃国主・斎藤義龍が静かに座していた。
宗久と新九郎は進み出ると、深く頭を下げる。
「黒川宗久にございます。」
「嫡男、新九郎にございます。」
義龍は静かに頷いた。
「面を上げよ。」
二人はゆっくりと顔を上げる。
義龍の鋭い眼差しが新九郎を見据えた。
「其方が新九郎か。」
「はい。」
「伏兵を見抜いたと聞く。」
「身に余る評判にございます。」
新九郎は静かに答えた。
「私は、父や家臣方から教わったことを思い返し、お伝えしただけにございます。」
義龍は表情を変えずに続ける。
「申してみよ。」
「何を見て、そのように考えた。」
新九郎は一呼吸置いて答えた。
「鳥の声が途絶えておりました。」
「林へ続く新しい草履の跡があり、折れた枝や踏まれた草も見受けられました。」
「さらに、人の汗の匂いも風に乗ってまいりました。」
「それぞれ単独では、まだ判断の決め手にはなりませぬ。」
「ですが、すべてが重なれば、人が潜んでいる可能性が高いと考えました。」
広間は静まり返る。
義龍は新九郎を見つめたまま、小さく頷いた。
「なるほど。」
「目だけではなく、耳や鼻までも使っておるか。」
「見事な見立てだ」
宗久は深く頭を下げた。
「身に余るお言葉にございます。」
◇
義龍は近習へ命じた。
「地図を。」
ほどなく、美濃国の絵図が運ばれてくる。
義龍はその一角を指した。
「黒川領から稲葉山へ至る街道だ。」
「敵が美濃へ攻め入るとすれば、どこを警戒する。」
新九郎は絵図へ目を落とした。
街道だけではなく、川幅や山並みまで見比べる。
やがて一か所を指し示した。
「この谷間にございます。」
「ここは道幅が狭く、少数でも足止めが可能です。」
「反対に、この地を失えば、黒川領からの援軍は遅れるでしょう。」
義龍は満足そうに頷いた。
「地形を読む力もあるか。」
「七歳とは思えぬな。」
新九郎は頭を下げる。
「父や家臣方のお教えのおかげにございます。」
義龍は穏やかに笑みを浮かべた。
「驕らぬことも武将には大切だ。」
◇
帰り際。
義龍は宗久へ言った。
「宗久。」
「はっ。」
「この子を大切に育てよ。」
「武だけではなく、人と地を見抜く目を持っている。」
「よく磨けば、必ずや大器となる。」
「恐悦至極にございます。」
宗久は深々と頭を下げた。
◇
その夜。
館へ戻った新九郎は静かにステータスを開く。
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【イベント達成】
『斎藤義龍との謁見』
EXP +25
兵法熟練度 +20
礼法熟練度 +15
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【イベント達成】
『美濃国主に認められし者』
観察熟練度 +20
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【称号効果発動】
『黒川の神童』
美濃国内での知名度が上昇しました。
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新九郎は静かに画面を閉じた。
美濃国主に認められたことは、一つの終わりではない。
黒川家を背負う武将として歩む、新たな始まりだった。
その日、美濃国主・斎藤義龍は、一人の童の才をその目に刻んだ。
そして新九郎もまた、知らぬうちに乱世の表舞台へと、一歩足を踏み出していた。
◇
それから数か月後。
初夏のある日。
一騎の早馬が黒川館へ駆け込んできた。
「ご注進!」
「義龍様、御病により御逝去なされたとの報にございます!」
書院に重苦しい空気が流れる。
宗久は静かに目を閉じた。
「……そうか。」
「美濃をよくまとめられたお方であった。」
家老・佐久間兵庫も深くうなずく。
「これより斎藤家は、嫡男・龍興様が家督を継がれますな。」
「若き御当主ゆえ、家中も何かと落ち着かぬやもしれませぬ。」
宗久は静かに立ち上がる。
「我らは国人として、これまで以上に領内を固めねばならぬ。」
「美濃の行く末は、これまでとは違う流れになるやもしれん。」
そのやり取りを、新九郎は黙って聞いていた。
(義龍が亡くなった……。)
(歴史は、また一つ動いた。)
前世の記憶では、義龍亡き後、美濃は若き斎藤龍興が継ぐ。
そして、その数年後には織田信長による美濃攻略が本格化していく。
まだ時間はある。
だが、決して多くはない。
新九郎は静かに拳を握った。
(その日までに、もっと強くならなければならない。)
乱世の歯車は、静かに、そして確実に回り始めていた。
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【史実イベント】
『斎藤義龍、病没』
EXP +80
知恵 +2
統率 +2
政治 +2
兵法熟練度 +30
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