「視聴者の皆さんこんにちわ! 私達、今日も頑張ってダンジョン育てていきます!」   作:rikka

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第一話:高校生、一宮リコはチヤホヤされたい

 人が神秘、あるいは怪異と歩みを共にして数千年。

 

 かつては精霊や妖精、日本では八百万の神々や妖怪と呼ばれる存在の力に助けられたり、あるいは互いの力を利用し合いながら我々の先祖は文明を村を築き、国を築いて守ってきました。

 

 だが、かつては恐れ敬う物であった神秘は徐々に共存へ、そして共存から管理する対象へと変化しつつあります。

 

 その象徴と言えるのが神秘の力を宿し、守り、そしてそれらを余さず利用するために用意された作られた『聖域』、あるいは『異界』などと呼ばれる区域です。

 

 日本では古くから『黄泉口(よみぐち)』や『宵口(よいぐち)』と呼ばれており、古代中国より伝わった陰陽五行を独自に発達させた陰陽道が技術として定型され、神秘的な事象への介入,干渉が可能になってからは『鬼穴』や『神河』と名付けられ、近代でもその呼び名が残っている地域がある。

 

 現在では、国際神秘管理機関で使用されている『ダンジョン』という呼称が一般化している。

 

       梓香(しこう)七年度版 新西京出版 基礎神秘学 ~中学一年~ 序文より

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「チヤホヤされたい!」

 

 馴染みとなった古いクラシックな喫茶店に、アタシという最高の女の声が響き渡る。

 

「ねぇ、一学期の間、私もうちょっとチヤホヤされたかったんだけど!」

 

 だというのにアタシの友人は二人とも反応薄いな!?

 

「うんうん、高校生活初日から毎日チヤホヤしてって言っていたね、リコ君」

「入学式後の自己紹介の時から変わってないね~」

 

 高校が始まってからすっかり馴染みになった、今ではもう珍しくなった古いタイプの喫茶店のいつもの席に、すっかり馴染みとなったこの三人組で集まっていた。

 

「『褒められたら伸びるタイプなので全員で思いっきりチヤホヤしてください』なんて宣言を自己紹介でする人を初めて見たよ。最初はそれが日本人の普通かと思った」

 

 と、イギリスから留学したというボーイッシュ王子様系のトウが頷きながら言っているが何が悪いというのか!

 

 何も言わずに褒めてくれる人間なんて片手で数えられるくらいしかないんだよ!

 

 アピールしてアピールしてアピールしてアピールしてアピールしてアピールしてアピールして!

 

 そして結果を出してまたそれをアピールしないとそこらの人なんて何も言わずに通り過ぎるだけじゃない!

 

「しかも~、その後に『では行きますよ皆さん? さん、はい!』とか……私あの時、ヤバい人とクラス同じになっちゃったと思ったもん。思ってるもん」

 

 とは、席が隣になったために仲良くなった三廻部(みくるべ)レイカが吐いた毒である。

 貴様、わざわざ現在進行形で言い直したな!?

 

「いいじゃん、褒められたかったんだもん」

 

 トウの金髪よりも目立つ綺麗な蒼みがかった髪を持つレイカは、ドリンクバーで錬成したよく分からない物をストローで口から体内へと取り込みながらテーブルの上にへばっている。

 

「ちくしょう、中学の時まではそれなりに可愛くって成績よくて運動能力抜群だってチヤホヤされてたのに、トウとかレイカみたいな美人が混ざったらアタシという存在が霞んでしまう」

 

 ちくしょー。中学の時まではトップオブトップの人間になろうと頑張ってなんとか維持できてたが、高スペックの二人と出会ってからはさすがに素のスペックが不足している。

 いや、どういうわけが気が合って友達になってたけど。

 

「いや、どうあがいてもボク達が君より目立つことは出来ないよ」

「ホント!?」

「リコちゃんの色物感を超える奴がいたらそれはもう人間じゃないね」

「アタシの色物臭が人間種の臨界点って言った?!」

「自分で言っちゃったよこの子は……」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「それで、今日はどうするんだい? またカラオケに連れていかれても、ボクはあまり二人が盛り上がるような歌なんて歌えないよ?」

「ちなみに駅ビルのゲームコーナーも却下~。この間リコちゃんクレーンゲームのプライズ取りすぎて目を付けられてるから~」

 

 うぬぅ、やはり目を付けられたか。

 さすがに子供達を集めて効率的なプライズの取り方の実技講義はやりすぎだった。

 

「いやいや、今日はそうじゃなくて、夏休みになにをするかって話」

「早いね~。終業式まで二週間はあるよ~」

 

 この喫茶店は、レイカのお母さんが営業している喫茶店である。

 元々料理が上手かったのに加えて、ある程度やっていけるようになってからはお茶葉もいいのを使いだしたのか、少し休憩するのにもここはちょうどいい。

 棚には昔の――それこそもう絶版になっているけど面白い漫画も並んでいて楽しいし。

 

 今日はジャンクの気分だったのでフライドポテトの大盛とピザ、そして欠かせないピースとしてカットレモンが添えられたコーラという黄金の組み合わせを注文している。

 

 ここはドリンクをお母さんがキンッキンに冷やしてくれるし。

 

「高校生活初の夏休み。トウにとっては日本初の夏休みか。正直来年になった途端に今度は大学受験がチラつくし、そもそも資格試験の勉強で早い所だともう冬から忙しくなるし……本当に楽しめる休みって意味だと、実はこれが最初で最後だと思うんだよね」

「あ~~。うん、まぁあるだろうね~」

 

 レイカは、母親譲りの滅茶苦茶目立つ青い髪を左右に揺らしながら手帳を開く。

 

「夏休みか~。私はこの店の手伝いと塾の夏期講習以外は特に予定は入ってないんだよね~。トウちゃんは?」

「私も特には。毎週金曜の夜には、いつも行っている日本語教室があるくらいかな」

 

「お持たせしました~。フライドポテトの大盛とマルガリータにビスマルク、それにコーラ三つよ~」

 

 ちょうどレイカのお母さんが、注文していた料理とドリンクを持ってきてくれた。

 まずは料理をテーブルの上に並べ、そしてコーラの入ったグラスを手に持ち、一瞬その手から冷気(・・)を発してグラスをキンッキンに冷やしてくれた。

 

「いつもありがとうございます。それにしても、いつも思いますが雪女(・・)の力は便利ですね」

「トウちゃん、ありがと~。まぁ、私はハーフなんだけどねぇ」

 

 ハーフだからこそ、純粋な雪女より街での生活に対応できるという物だろう。

 それではごゆっくり~、と厨房に戻っていくレイカのお母さんを見送って再び私達は向き合う。

 

 コーラですら飲む姿が様になっているトウは、喉を潤してすぐさまピザカッターを手に二枚のピザを切り分け始める。

 しまった、出遅れた。

 トウは相変わらず、ウチらの中でダントツに気遣いが出来る。

 ぐぬぬぬぬ……こういう方面の能力もキチンと伸ばさないと。

 

「よし、上手く切れた。……あぁ、それでなんの話だったかな」

「夏休みよ、夏休み。いかに貴重な高校一年の夏休みを満喫するか」

「あぁ、そうだった。それで、話を振ってきたという事はリコ君になにかプランがあるんじゃないか?」

「そう、それ!」

 

 そう、そうなのだ! よくぞ聞いてくれました!

 

「さっき言った通り、本気で遊べる夏休みってコレだけだと思うのよ!」

「あ~~。うん、まぁあるだろうね~」

 

 そう、自分にとって最大のステージである学校がないということは!

 

「だから皆遊びまわる! すると日常の中で見るのは家族と友達だけ! そこにはこの一之宮リコの姿がない!!」

「当たり前だよね」

「ならどれだけ頑張ってもチヤホヤされない!!」

「うんうん、そうだね~」

「死活問題だなんだよ!?」

「リコ君にとってはね」

 

 ホントに痛恨の事態と言える。

 中学時代に色々記録を立てたせいで、色んな部活から引っ張りだこになった結果どこにも入れなかったのはミスだった。

 

「勉強にせよ運動にせよ遊びにせよ、リコちゃんのモチベがいつも高くて結果を出し続けるのはスゴいな~と思うけど、なんかフッと燃え尽きない?」

「大丈夫よレイカ。どれだけ疲れ果てても、チヤホヤがある限りアタシは蘇れるわ」

「トウちゃん、私、たまにこの子が口にする物に睡眠薬仕込んだ後にベッドに縛り付けておく時が必要なんじゃないかな~って思う時があるんだ」

「あぁ……分かるとも」

 

 なんてことを! 寝る時間を増やしたらチヤホヤされるためにに自分を磨く時間が減るじゃない!?

 

 これでもキッチリ最低6時間以上は寝るように時間配分しているわ!

 鍛えるのは当然、どんな時でも自分のパフォーマンスを落とさないための努力を欠かした日はない!

 

「とにかくその話は後! というわけで! 活動の場を広げる事に致しました!」

 

 ええい、恐れ見よ!

 

「どしたの? スマホを突きつけて……動画サイトのチャンネルページ?」

「貼ってある画像は……首から下だけだが、私服姿の君か」

「ふっふっふ。昨日思いついて作ったのよ」

 

 

 

「動画投稿用の新アカウント!!」

 

 

 

「ふむ、やはりここのピザはビスマルクに限る」

「美味しいのは認めるけど、半熟の卵の黄身が垂れて口周が汚れやすくないかね~?」

「卵はともかく、口元が汚れやすいのは大体のピザに言える事だろう? あぁ、口を拭うための使い捨てのお手拭きならここに」

 

 

 

「――興味を持て! そして褒めろ!!」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「だからね? 新しい事をなにか初めて、その記録をアップして褒めてもらう機会を増やそうと思ったのよ」

「登録者0人だけどね」

「それで、その内容を皆で話し合おうと思ったのよ。あと出来れば手伝って」

「といっても0人だからねぇ~」

「開いたばかりって言ってるでしょうが!」

 

 こ、コイツら……っ。

 

 いや確かに、顔は隠しているが私の私服写真のヘッダー画像だけで100人くらいはイケるかもとか内心期待していたけども!

 

「まぁ、ともあれ動画か……君が作るとなると、それこそファッションとか料理とかじゃないかい? お洒落だし料理上手だろう?」

「そこらへんのチャンネルは飽和してる。目立つのには時間がかかる」

「あ~。そういえばリコちゃんが料理とかお化粧の勉強に使ってたのって雑誌よりも動画の方が多かったねぇ」

 

 うむ。めちゃくちゃ勉強した。

 雑誌とかと違ってより広い範囲から参考にする物を選べるし、料理も手持ちの材料で検索すればいい感じのモノがすぐに大量に出てくるし。

 

「というか、今主流のVじゃないんだ?」

「そういえばそうだね。顔出しは……どうなんだ?」

「ちょっと考えたけどさすがに初期投資がデカすぎる。リスク管理に関しては……企画の中で詰める!」

 

 とにかく何やるかをまず決めないとそこらが決められない!

 

「ゲーム実況はプレイしながら話し続ける……のは出来なくもないと思うけど、主役は私じゃなくてゲームだし……」

「教育は? リコちゃん勉強教えるの上手いって聞いてるよ~? 中学の時に、平均50点台の子を各教科ニ十から三十点ずつ上げたとかなんとか」

「教えるってなると個々人に向き合って個人の傾向とか見ないとそこまで効果が出ないからヤダ。そこらへん関係ない暗記モノとかの練習法とかは、これもやっぱり飽和してるから狙うには難しい」

「待ってくれリコ君。いきなりトップを目指すつもりかい?」

 

 何を言っているんだ留学生!?

 最低でもトップ狙える圏じゃないとチヤホヤの質が下がるでしょうが!!

 

「夏休みが終わるまでに、せめて一度はバズりたい」

「バズりたいって……」

「SNSの専用ページも……とりあえずアカウントだけは作ったから、そっちも使って宣伝工作も考えてる。まだ内容が決まったわけじゃないからほぼ白紙だけど」

 

 とりあえず、夏休みが始まる前までに方向性を決めて、モノによって必要ならば手続きやらの類も終わらせておきたい。

 

「パッと思いつくのはグループで企画実行する系だけど……何らかの専門要素がある物の方が根強くてリピーター多そうだよねぇ~」

「料理チャンネルとかはボクもたまに見るけど再生数は凄まじいし……あとは科学の実験系とか物作りとか」

「掃除は~? わざと汚れている物拾ってきて綺麗にするとか~」

 

 そうだよ。そうやって意見を出してくれると考えをまとめやすい。

 

「最近話題だと、野良ダンジョンの対処動画なんか話題じゃないかい?」

「あれは専門家を最低でも五人くらい集めてからでしょ~。V以上に初期投資もかかるし」

 

 野良ダンジョンか。

 山とか古い集落、街中だと無人の集合住宅とか病院がたまにそうなっているらしい。

 

 実際に目にしたことはないけど、ちょっと前に町の中心から少し外れた大きな病院にたまたま『網切(あみきり)』やら『垢嘗(あかなめ)』やらが大量発生してダンジョン化したとかニュースになっていたっけか。

 

(そういえば、その後の病院跡地調査の動画が再生数伸びてトップページのオススメに乗ってたっけ)

 

 ダンジョン攻略か~。

 いわゆる、田舎のスローライフの一環的なイメージが強いなぁ。

 専門的な野良仕事というかなんというか。

 

 発生した野良ダンジョンの攻略と駆除とか、あるいは有効利用のための整備動画も目を通したけど、市町村の役場に話を聞いてから調査許可が出てから~って流れで大変そうだし、手間が多いし車が必要だし……。

 

(今のアタシらだと持てて原付だしなぁ。アレコレ道具を運ぶ必要がある攻略はさすがに無理。ダンジョンの等級によっては危険度高いし)

 

「日本では自然発生するダンジョンはかなり少ないと思ってたんだけど、そうでもないのかい?」

「ん~~。ウチのお父さんが市役所勤めの陰陽師だから話は聞くけど、大きいのはなくても小さいのは結構ポコポコ湧くらしいよ。それで毎日、野良の調査やら管理ダンジョンの検査やらで忙しそうだもん」

「うへぇ……」

 

 レイカのお父さんは、以前見た時は普通にスーツ姿だったが対怪異の専門家だったか。

 そういえばこの子、三級陰陽師の資格取ったって言ってたな。

 

 悔しくて私も勉強始めたけど専門的な基礎知識が滅茶苦茶必要で、今は初歩の初歩――実践試験がない五級の参考書から始めているがそれでも難しい……。

 

「いや、そうか」

 

 ダンジョンに関しての知識は自分も少し曖昧だが、簡単に言えば魔力素とかマナとかの、神秘的なリソースが循環する畑のようなものだ。

 まぁ、それがなんらかの事情で自然発生して暴走する野良ダンジョンが有名になってしまっているが……。

 

「何が起こってもおかしくない野良が危険で人手がいるなら、そうじゃない所を作ればいいんだ」

 

 

 

「皆!」

 

 

 

 

「夏休みの間に、アタシ達でダンジョン作ろう!!」

 

 

 

 

 

「ほらレイカ君、口元に卵の黄身が垂れているよ。拭き取るからちょっと待ってくれ」

「ん~~。トウちゃん、いつもごめんねぇ」

 

 

 

 

 

「だから興味を持て!!」

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