「視聴者の皆さんこんにちわ! 私達、今日も頑張ってダンジョン育てていきます!」   作:rikka

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第三話:大事な物

「あら、妹が言ってた面白くて優秀な三人って貴女達ね? よろしく~」

「はい。久須美先生からの紹介で来た、一宮(いちのみや)リコです」

「トウ・アッシュフィールドです」

三廻部(みくるべ)レイカで~す」

 

 連れてこられたのは近くの国立大学――が、所有している山の麓の野原だった。

 すごいな、こんな広い場所を手をつけないまま大学が所有していたなんて。

 

「はい。もう知っているかもしれないけど四月朔日(わたぬき) 千聖(ちさと)です。この大学で『神秘性地質学』の研究をしている准教授よ」

 

 クールビューティーの見本のような我らが担任、四月朔日(わたぬき)久須美(くすみ)教諭から紹介されたのは、他ならぬ彼女の姉だった。

 

 よく似ているのだが、こっちはおっとり系の美人だ。

 言っちゃなんだが、先生よりも男受けはいいだろう。

 

「ここの土地を使ってもいいんですか?」

「ええ、ちょうど私達も九月から研究……というか実習としてここに研究用のダンジョンを開いていく予定なんだけど、その時の比較対象として君達には五等級ダンジョンを開いて欲しいんです」

「五等級……。詳細不明ですが無害と認定された特定神秘生物三種一類のみで構成された、基礎区画一つまでのダンジョン……ですよね」

「お、ちゃんと講習内容が身に付いてるね? うん、偉い偉い」

 

 当然だ、やるからにはとことんやる。

 まだあと数回講習が残っているが、すでに資格試験の勉強も始めている。

 

「それじゃあ着いてきて。そんなに離れてないから」

「「「はーい」」」

 

 そうして歩く事十分少々。

 少しだけ山の斜面を登った先に、『関係者以外立ち入り禁止』のプレートが吊るされた赤いコーンで入り口が簡単に封じられている洞窟――というか横穴があった。

 

「はい、ここが皆さんに管理してもらうダンジョンです。……まぁ、今はただ横に掘っただけの穴なんですけど」

「結構大きな横穴のようですけど、本当にボク達が使っていいんですか?」

「ええ」

 

 トウの質問に、准教授はその近くにある丘を指して見せる。

 そこにはここと同じように、大きな横穴が掘られている。

 その側には、掘るのに使ったのだろうショベルカーが止められていた。

 

 ……いいなぁ。

 そこまで自力で出来たら出来る事増えそうだし、十八になった時に車の運転免許取ったら一緒に勉強してみるかぁ。

 

 重機使うのに必要な免許ってなんだっけ。大型?

 

 さすがに年齢的に厳しいし、まだ取れないけど候補には入れておこう。

 

 …………いや待て、ここは大学の私有地だな?

 基本的な操縦をついでに教えてもらう事は出来ないだろうか……っ。

 

 出来る事が増えるのは私としても好ましい。

 

 目立つ機会が増える。

 

「本来の私達の研究は……大雑把に言えば人工的なダンジョンの運営が自然物のそれに比べてどれだけ影響力が違うのか、その差から自然物のダンジョンがどういう過程を経て効果を発するのかを辿る研究なんだけど……ここ最近ちょっと行き詰っててね」

 

 ダンジョンは基本的に、その中に住む神秘生物の生態系によって通常では起こり得ない現象を発生させる。

 

 しっかり封鎖せずに廃棄されたり、自然発生した野良のダンジョンなんかが問題視されるのはそういった理由だ。

 

 先日も廃ビルが気が付いたらダンジョン化してしまって、街中なのにその全ての階から虹色に輝く砂が海水と共に溢れ出すとかいう意味不明な事故が起こったばかりだ。

 

「そこで、違う人間が作るダンジョンがどう発展して作動していくのかを比較しながら実験していこうって話になったのよ~。あと、近距離で同系統のダンジョンが作動した場合、影響が出るかどうかの実験でもあるわね」

 

 ふむふむ。

 いや、これはかなり渡りに船だ。

 専門家の力を借りられるのは大きい。

 

 最初は先生や役所の人に相談しながら誰か紹介してもらったり、あるいは交渉してお力を借りようとしてたから本当に助かる。

 あとで名刺もしっかりもらっておかねば。

 

「准教授、ボクらはダンジョンの作成経過を動画にしてアップするつもりなんですが、それは問題ないんですか?」

「えぇ、大丈夫大丈夫。アップする時にウチの大学が協力してることを明記してくれればいいわ。……というか、ウチも大学の名前出して動画上げたりするから……むしろ、たまにそっちのダンジョンの映像使っちゃったりするかもだけどそっちは大丈夫? 毎日夜に記録取るために入っちゃうし」

「リコ君、どうだい?」

「全然問題ありません! ありがとうございます!!」

 

 というか断る理由が全くない!

 専門家が視てくれるなら、対処不能レベルのトラブルが発生する可能性はグンッと減る。

 それに動画的な意味でも、アカデミックな視聴者層が視ているだろう所から流れる人もいるだろうし、すごいありがたい!

 

「とりあえず、中に入って広さなどを確認させてもらっていいですか?」

「ええ、いいわよ~。明かりとかはないから、足元には気を付けてね~」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 中は思った以上に広く、そして地面はまっ平らだった。

 もうちょっと凸凹しているかと思ったが、重機を入れたのもあって地面の土はしっかり固められていて歩きやすい。

 

 広さは……ちょっとした倉庫くらい?

 六畳二間……いや、八畳分二間くらいはあるか。

 ここから始めて、整えながら徐々に拡張していかなければならない。

 

(五等級じゃ、よく動画に上がっているような曲がりくねった迷路みたいなダンジョンになる可能性は低い――というか、まずないだろうけど……)

 

 基本的にダンジョンは、基礎区画に住み着き空間を支配した精霊が、その存在の核を守るために作り出す物だ。

 

(とはいえ、シャベルを使う機会も多そうだ。人の手である程度成長手助けしないと暴走して野良化しちゃうこともあるっていうし)

 

 ちゃんとした工務店に行って、作業服含めて道具をしっかり揃えておく必要がある。

 

「今はただの横穴だけど、最初に餌を放り込んで儀式をして、最小の神秘生物が生息し始めたら木版なんかで蓋をしてから小さい出入口を作るからね~」

 

 これから私達はダンジョンを作成するわけだが、ダンジョンを作るのは結局精霊や魔物といった神秘だ。

 人間がやるのはそのお手伝い――管理や方向性の誘導といった物になる。

 

 核となる部屋にまずは一つの精霊を呼び寄せ、そこを完全に巣――正確には精霊自身の空間としてもらう。

 そうして空間そのものに作用する力を利用しながら、様々な効果を付与していくのが近代になって確立した人工的なダンジョンの設営・運営法らしい。

 

 まだ講習での座学で触れただけだし、今の段階では出来ない事もあるみたいだけど。

 

「ええ、そう。今回は観測がしやすい『水』を基盤としたダンジョンにするため、作業が開始されたらこの一角に皆でちょっとした池を掘ってもらう事になるわ」

「という事は、魚を放すんですか?」

「ん~~~。まずは虫かしら。水辺にいる虫や水草を投入して、それらを好む精霊の定着を待つ事になるわ」

「……蛙とか、たしか好まれますよね? 農家やってる叔父さんが、蛙を買い取る神秘関連の業者がいるっていっていたような……」

 

 核となる精霊の外敵がいなければ、近しい存在をどんどん誘い込んで共生して空間内の――すなわち神秘の力を増す。

 

 逆に、外敵になり得る物が侵入し、それが排除できなければ空間を拡大させ曲がりくねらせ、外敵を排除するための神秘生物を作り出す。

 

 基本的に外敵はいない方がいいんだけど、企業や専門家が作るダンジョンはこの外敵や発生する神秘生物すら利用して効果の大きいダンジョンを作り出すらしい。

 

「ええ、確かに蛙は水系の精霊が好むけど、ちょっと初期に与える餌としては上等すぎるのよ」

「上等……ですか」

「そうそう。最近の研究で分かった事だけど蛙って魔力効率が比較的良いから、精霊種はもちろんやや大きめの神秘生物も捕食することがあるのよ。つまり、下手に与えるとちょっと大きすぎる神秘を寄せちゃう可能性があるわ」

「そんなにですか?」

「ええ。二十世紀に入ってから神秘が人間社会に溶け込んでからは更に拡大して、もはや神秘はどこにでもある存在に成った。ならばその、()()()()()()()()()のための餌として、回収業者がアチコチで蛙を集めているわよ」

 

 ひと昔前には厄介者として増え続けていたウシガエルなんかが、今は回収業者が増えて増殖が止まっているらしい。

 凄い事だと思う。

 精霊とか魂の話じゃなく、金になると分かった時の人間の行動力がだ。

 

「虫や小動物の死骸をスライムや精霊のような弱い神秘生物が食べる――正確には同化する事によって魔力へと分解する。これは人間だって含まれると考えられているわ。……その習性を平安時代の研究者が『魂喰らい』と見て恐れた結果、埋葬方法をそれまでの土葬から火葬に変えて、墓地周りを整備する仕事の地位を上げたって言うのは有名かしら。元は平安時代の神秘研究機関である陰陽領に鬼火の観察記録があってそこから……いえ、ごめん、すごく脱線したわね」

「あ、私のお父さんが市役所の陰陽師なのでそこらへんは聞いたことがあります」

 

 レイカのお父さんは市役所勤めの陰陽師だ。

 

 市内で発生した神秘生物問題の解決や、その予防のための管理などを担当する環境部の神秘生物対策課に務めている……というよりは契約しているという話をレイカやレイカのお母さんからチラホラ聞いている。

 

 夜に緊急の呼び出しで叩き起こされる事が滅茶苦茶多いとか、野良ダンジョンが発生するたびに役所や現場の詰所に一週間――街中で発生した時は半月は泊まり込みになるとか。

 

(最初はレイカのお父さんにアポ取ってから話を聞かせてもらったりして、知識面で間接的にでも協力してもらえたらなぁとか考えていたけど……この分ならば大丈夫そうかな)

 

 最近は日本でも野良ダンジョンの発生率が上がっていると話題になっている。

 

 この周辺でも、防災法関係だかで立て直し予定だったそれなりに歴史の長い複合商業施設が、閉鎖されてからたった一週間でダンジョン化したというビッグニュースがあった。

 

 今でも施設周りは封鎖され、ダンジョン対策のための調査をアレコレやっている。

 

 それこそ、さりげなく協力を仰ごうと思っていたレイカのお父さんが家に帰れないレベルの忙しさだとか。

 

 ある程度情報が集まった上で市や県での対処が難しいと判断されれば攻略班の募集が始まり、攻略されるまでの間周辺の店舗はいつも以上に賑わうだろう。

 

(発生率が上がってネットも含めてニュースに上がりやすい。だったら動画需要だって伸びてるハズ)

 

 うん。やはり題材としては悪くない。

 こうして素晴らしい人脈も出来た以上

 

「あら、レイカさんは陰陽師のお家なのね。それじゃあ、貴女も?」

「一応陰陽術師の三級免許は取ってます~。ダンジョン運営を動画にするって話が出てからは、ひょっとしたら必要になるかもと思って二種の試験勉強を始めてますけど~」

 

(マジか。あのレイカが試験勉強まで!)

 

 なにかと面倒くさがりのレイカが、それでも自分のやりたい事に付き合ってくれるだろうという事いは確信を持っていたし実際そうだったので感謝して先日久々のホームパーティーで手料理で持て成したんだが、まさか資格試験の勉強に手を付けてくれる程だとは思ってなかった。

 

 私がやろうと思ってまずは三級試験の勉強始めていた所だったのに!

 

(……これは今度、いい土産を持っていかねばなるまい。梅屋のアイスプリン一箱……いつも通りの好物まんまだと遊びとサプライズが足りないか。ちょっと何か探しておかないと)

 

「ふむ。とにかくこれでようやく場を得た訳か。リコ君、せっかくだし色々撮っておかないか?」

「そうだね、初回の撮影も考えないといけないし」

 

 さて、実際に目にすると思った以上にやりがいのある作業になりそうだが、一番大事なのはなにより動画だ。

 

 ちゃんと道具を揃えて、初回の撮影に入らなければ。

 

 拙い物でも形になればとりあえずヨシ。

 動画を撮って音を撮って、チャンネルの方針をキチンと伝えられれば――

 

 

「あっ!!!!!!!!」

「? どうした、リコ君」

「忘れ物~?」

「忘れ物っちゃ忘れ物だけど……こういう活動する上で一番大事な物まだ買ってなかった!!」

「? なにかあったかな?」

「作業服その他諸々は後日合わせて買うつもりだったろう?」

「儀式用の品も、購入そのものを動画の素材にするから今度下見済ませてからだったよね~?」

「違う。それも大事だけど、そもそもこういう動画取るのに一番大事な奴!!」

 

 

 

 

 

 

「屋外でしっかり音を拾えるピンマイク!!!!!!」

「「……………………あ」」

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