「視聴者の皆さんこんにちわ! 私達、今日も頑張ってダンジョン育てていきます!」 作:rikka
「最初は屋内での活動で考えてたからうっかりしてたわ……」
「そういえば、君が活動内容の候補として挙げていたのってそういう物ばかりだったよね」
ダンジョン候補地の下見を終えて、撮影計画を練るためにアレコレ写真を撮ってからの緊急企画会議。
曲がりなりにも動画配信者として始めるならば一番大事な事を見落としていた。
一宮リコ、一生の不覚!!
「え~、どれどれ……三千円に四千五百円……あれ? 意外とお安い~?」
「明らかな安物は論外ね。カメラは幸い、アタシの母さんが専用の録画機材持ってたからそっちを借りるけど……」
「しかしリコ君、マイクは上を見れば見る程キリがないのでは?」
「それでもお金をかけるべきだとアタシは思うのよ」
時間はお昼。
週末お昼なんていう稼ぎ時に私達で喫茶店の一角を占拠するわけにはいかず、急遽私の部屋にお菓子とお茶を持って集まっていた。
「画質はいいの。機材が揃っているというのもあるけど、最悪スマホのカメラでも問題ないと思う」
「その旨は?」
「最低限の画質さえ確保できていれば、それで十分伝わるからよ」
ワンコインショップで買ってきた二百円のホワイトボード(どこがワンコインじゃい!)で大きく『絵』と『音』と書く。
「無論、綺麗に取りたいというのは当然だし、余裕があれば――出来るかどうかまだわからないけど収益化まで行った時には考えようと思う」
いや絶対そこまでいくと決めてはいるのだが、さすがに今の段階で断言するわけにはいかない。
「でも、絵は見えれば絶対に伝わる。よほど質が悪くてカクカク、あるいはモザイクみたいな動画しか取れないってんなら問題だけど、幸い古いとはいえちゃんとした道具を借りれた」
「リコ君は母上の物だったね。問題はないのかい?」
「バッテリーが長持ちしないらしいけど、それでもぶっ通しで三時間は持つのは確認してるわ。最悪、私が新品買ってこっちを予備にする」
そして、私は残るもう一方をペンでグルグルと囲む。
「で、問題はこっち!」
「音か」
「いくらくらいかけるつもり~?」
「可能な限りいい奴!!」
それこそ十万クラスの奴を買いたいところなのだが、三人での活動なのだから三つ……出来れば予備として四つは揃えておきたい!
「動画は目で見て耳で聞くものだけど、私は割合的に耳――音や声の割合は大きいと考えてるわ」
「小さかったら聞こえないもんね~」
「そこらは編集時に多分調整できる。私が怖いのは、いざという時の故障。それになによりノイズ!!」
せっかく大学の先生の協力を取り次げたのだ、話を聞きたい時に必要になるかもしれない。
つまり、専門家の解説なんていう有難い素材に瑕が入るような真似は避けたい。
「あ~~、それは確かに嫌だね~」
「場合によっては素材が溜まってからショート動画も作るつもりだし、だからこそ流し聞きしている層からへのマイナス要素は最初から削っておきたい」
「なるほど。だからマイクにこそ資金を……。ああ、リコ君の考えは分かった」
(言い出しっぺのアタシが揃えるのは当然とはいえ、これだけ物を揃えるのはギター修得した時以来ね……っ)
「OK! と言っても、さすがに最高品質は無理なのよね」
「マイクはそれぞれで用意でいいんじゃないか? この金額くらいならば別に――」
「駄目! 発案者である自分が揃えることに意義があるの!!」
幸い、ペットショップでのバイトで金はある。
予算は三十万。
夏休み中にそこまで行くかは分からないが、ある段階からしたら色々とお守りやら神具が必要になる。
夏休みの間のチヤホヤ補給分の活動とはいえ、出来る事ならば長く活動したい。
――ああ、そうだ。一宮、もしダンジョンの実験と管理をいつのも二人とするのなら、夏季休暇のグループ研究に盛り込んでやってもいいぞ。
――本当ですか!?
――いわば大学との合同研究活動だからな、神秘関連の研究に携わっていたとなれば内申にも書ける。あの二人も。
――おぉ……っ。
――無論、出来るのであれば夏期以降の活動も許可するが、その場合は定期的なレポート提出が必要になるぞ。
――二人も、ですね?
――二人がこういう形での内申をいらんというなら話は別だが……まぁ、上手く仕切ってみせろ。
――了解です!
長く活動することで――いや、夏季休暇の間だけの活動だけでも二人にキチンと利益を提供できる。
二人の進路などは聞いていないが、行きたい学校への推薦を狙うなら悪くないだろう。
「というわけで、そこそこデカい投資になる以上、ぶっちゃけ適当な品をポチって『ハイ終わり!』って待つのは怖いのよ。破損や偽物とかの嫌なトラブルも踏まえると」
「まぁ、だろうね。なにより時間がない」
「というわけで、一息吐いたら町まで出るわよ! 実際の商品見ながらいい物を探すわ!」
「……リコちゃんリコちゃん」
「ん? どったの?」
「だったらどうしてわざわざ一回ここで調べたの?」
「相場を調べて予算の割り振り考えておきたかったのよ!!」
「…………ああ、そう」
あまり現金下ろしたくないし、持ち歩きたくもないからね!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「録音用のピンマイクですか」
「はい。ダンジョン内での研究や記録に使用するので、防水と対神秘加工があればいいんですが……」
アタシの家からバスでニ十分。
駅前のショッピングモールから少し外れた所にある、本来ならば車で来るような大型家電ショップに足を運んでいた。
「そうですね、それでしたら……」
若い割にはぽっちゃりしている男性店員は、それなりに接客に慣れているのだろう。
不快にならない笑みを浮かべて、掛けられている商品を探り出す。
「あ、ちなみにダンジョン内での活動は攻略をお考えで?」
「いえ。大学の実験への協力で、ゼロから五等級ダンジョンの作成と経過観察をやる流れになってまして」
「ああ、なるほど。でしたら駆動時間に関してはそこまで重視は……」
「はい。長いに越したことはありませんけど、数時間声を綺麗にしっかり拾ってくれれば問題ありません」
色々決めていく中で、基本的に動画はライブ配信でもやらない限り二十分から三十分位を目安に作る事を考えている。
長期の作業をやる事もあるだろうが、録画も後々の編集を考えると手が離せない場合を除き一時間ごとに切るだろうし、バッテリーチェックもその時にやるだろう。
「予算は、とりあえず三万を目途に考えているんですが」
「なるほど、分かりました、それですと~」
手のひら一枚半ほどの様々な商品が掛けられている中、店員は一つを手に取る。
「お値段と性能を合わせればこれでしょうか。一度充電すれば五時間は記録できるワイヤレス・ピンマイクです」
「対神秘性は?」
「お値段三万という事で少々低く、それでも四等級までの神秘干渉は確実に防げますし、三等級でも二種までの神秘生物の干渉は入りません。野良ダンジョンならともかく、ゼロからの研究試掘となれば最適かと」
ダンジョンでの配信は、たまにその視覚・聴覚情報に霊障のような神秘による干渉が混ざることがある。
昔と違い今では通信技術そのものに防呪対策が施されているために、かつてアメリカを騒がせた『呪いの着信』事件のような事はまず起こらないが、それでも対策は必須となる。
法律的な意味で。
キチンと対応した機材の使用が義務付けられているのだ。
現にお母さんが貸してくれるという録画機材も、ダンジョンの実験手伝いの件と合わせて話をしたら、知り合いの解呪師にメンテをしてもらうと言っていた。
「他に、耐久性が高いのはありますか? いくつか見比べてみたいんですが」
「畏まりました。そうですね。今のに比べて少し値が付くんですが、こちらは昨年の今頃に出た新商品でして――」
ピンマイクを見ながら想像する。
実際に簡単な絵を書きながら二人と、どういう動画を撮るのか考えていた。
カメラ係はレイカが担当することになった。
トウは私と一緒に表に出て補助を担当するけど、メインは編集をやってみたいそうだ。
基本無料の動画編集ソフトをもうパソコンにダウンロードして、先日スマホで撮った試し撮りの動画を取り込んで練習に使っているらしい。
私も編集作業をやるが、恐らくパートに関して話し合ったうえで分担する事になるだろう。
(私とトウなら十分絵にはなると思う。だけど問題はダンジョンの攻略動画じゃなくて実験・解説系の動画近い。少なくともこの夏休みの間は。そうなると動きが少ないのが問題よね)
ライブ配信ではなく動画にした理由がそれだ。
絵だけでは恐らく視聴者への掴みが弱い。
ついでに言えば予習や実際の発言の確認も必要になってくる。
「どちらかといえば攻略組の方が内部記録の保管用に使うマイクですが、その分信頼性が高く、この一年の間でダンジョン関係者の方がよく購入されております」
「なるほど……」
トウに目配せすると、もうスマホで商品番号を打ち込んで調べている。
どうやら、ネットに転がっている評判そのものは悪くないようだ。
撮影までに動作確認はしっかりやっておきたいし、遅くとも明日までには決めたい。
(とりあえず候補だけでも決めておかないとな)
裏返して商品の説明文を見る。
いかにも見てくださいと言わんばかりのフォントで『完全防水!』『呪いや霊障を完全カット!!』と書かれている。
幸いなのは安物っぽいうさん臭さは確かにない事か。
「すみません、決めてから明日改めて来――」
商品を収めているケースや箱の説明文を撮影してもいいだろうか。
そう言おうとした時に、
「……? っ!? リコちゃんトウちゃん! 急いでここ出よ――」
突然レイカが、そう叫んで私達の腕を引っ張った。
初めて聞くレイカの焦ったような叫びに一瞬身体の動きが止まった瞬間。
世界が、
肉を力任せに引き裂くような音と共に、なんてことのない家電量販店がねじ曲がり、五メートル先にいた他の客や店員たちの姿が消える。
「……やっぱり……異界化してたんだ……」
異界化。
レイカがボソリと呟いた単語は、ここ最近受けた講習で散々習った言葉だ。
一定の閉鎖空間が、神秘生物の支配下に置かれた状態になる事を差す言葉。
程度によっては災害保険の対象に数えられる神秘事象。
そしてそれがなんらかの刺激によって、空間そのものが複雑化するこの現象こそは――
「レイカ!」
「はい!!」
ダンジョン化現象だ!!!!
「撮影開始!!」
「あいあいさー!!」
こんな所で美味しいネタが飛び込んでくるなんて!!
レイカもえらい! 一番性能がいいスマホを持っているだけあって即座に動画撮り始めて!
さぁ、今日が私の動画配信者デビューだ!
まずは今日の出来事を記録して素材にしてくれる!!!
「…………いえ、あの……お客様……避難を……」
「すまない店員さん。音頭取ってるあっちの子はその……ちょっとアレで……」
「こうなると止められないんだ」