ようこそ配信者ちゃんの教室へ(全年齢向け)   作:ロボっピ

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5月 その1

インターネット・エンジェル『エンジェルちゃん』の初配信から、一夜明けた翌朝。

 

通学路は、いつになく異様な熱気に包まれていた。

すれ違う生徒達の誰もが、同じ話題で持ちきりなのだ。

 

「おい、昨日の配信見たか!?」

「見た見た! エンジェルちゃん、マジで可愛すぎだろ!」

「本当にうちの学校の生徒なのか?ちょっと今日の休み時間、色んなクラス回って探してみようぜ」

「バカ、特定行為は禁止だって本人が言ってただろ。変装してるらしいし、分かるわけないって」

 

スマホを片手に盛り上がる男子達の横を、私は何食わぬ顔で通り過ぎる。

 

(探せるもんなら探してみな。絶対に見つけられないだろうけど)

 

 

 

 

 

教室に到着し、席へ向かうと隣の彼は既に登校しており読書をしていた。

 

「おはよ、"清隆"」

「ああ、おはよう」

 

挨拶を交わし、席について自分も鞄から本を取り出す。

Dクラスの教室もまた、通学路と同じように昨夜の配信の話題で持ちきりだった。

 

「俺、昨日エンジェルちゃんにスパチャ送っちゃったわ!」

「マジかよ。いくら投げたんだ?」

「5000ポイント! どうせ明日になればまた10万ポイント入るし、残ってたポイントほとんど投げたわww」

「うわ、先越された! 俺も次の配信で絶対、投げるわ!」

 

大声で笑い合う男子達の姿に、私は心底呆れる。

けれど、彼らのおかげで私の目的は驚くほどのスピードで進んでいた。

今朝、確認したフォロワー数は、すでに100人を超えていた。この勢いなら、あと2、3日…いや、今日にでも目標の150人は確実に達成できる。

 

「……フォロワーの伸びは順調だな。結城、例の『約束の件』、忘れるなよ」

 

手元の本から目を離さないまま、清隆が私にだけ聞こえるような微かな声で呟いた。

その言葉に、私の身体がぴくりと反応し、読書を続ける彼の横顔に視線を向ける。

 

フォロワー150人達成。それは収益化の条件であると同時に、清隆に『初めて』を捧げることを意味していた。

 

「……わかってるよ」

 

少しの間をおいてから、私は静かにそう返した。

 

 

 

 

 

 

_________そして5月1日の朝

 

朝食を食べながらポイントの残高を確認した私は、思わず声を漏らした。

 

「マジか……」

 

画面に表示された数字は、前日から1ポイントも増えていない。

事態は思っていたよりも深刻らしい。

 

 

 

通学路に出ると、上学年だと思われる生徒の数人は相変わらず、エンジェルちゃんの話題で盛り上がっていて、昨日と変わらない光景だった。

 

だが、一年生の校舎に入ると明らかに空気が変わった。

 

どこか戸惑った様子でスマホを確認する生徒達が目に入る。そこから自分の教室へと進むにつれて、廊下にいる生徒達の動揺は目に見えて大きくなっていった。スマホを見て顔色を悪くしている者も少なくない。

 

重い足取りで教室のドアを開けると、案の定、室内はすでに大騒ぎになっていた。

 

「ねえ、どうなってるの?」

「やっぱお前も? 俺だけじゃないんだな」

「ポイント振り込まれてなくて自販機で何も買えなかったんだけど!?」

 

クラスメイト達の飛び交う悲鳴を背に受けながら、私は自分の席につく。

鞄を下ろすと、それまで静かにスマホを眺めていた清隆が、こちらに声をかけてくる

 

「結城、来たか」

「おはよう。……ねぇ、うちのクラスだけだよね」

「何がだ?」

「ポイントでこんなに騒いでるの」

 

まさか学校側の不手際で支払いが遅れた、なんて都合のいい話はあるはずがない。

だとしたら――私達が気づかないうちに、何か致命的な減点ルールを踏み抜いたと考えるのが自然だった。

 

「それは、これから先生が話してくれるだろ」

 

清隆は表情を変えないまま、淡々とそう告げた。

 

 

 

 

 

ホームルーム開始のチャイムが鳴り、教卓に立った茶柱先生は、いつも以上に冷酷な気配をまとっていた。

 

「ホームルームを始める前に、何か質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ」

 

その言葉を待ち構えていたように、数人の生徒がすぐさま挙手をし、ポイントが振り込まれていないと口々に騒ぎ立てる。

 

そんな彼らを、茶柱先生は憐れむような冷え切った瞳で見下ろした。

 

「騒ぐな。ポイントなら今朝、間違いなく一斉に振り込まれている。振り込まれていないとすれば――今月のお前達の支給額が『ゼロ』だからだ」

「――は?」

 

誰かが呆けた声を漏らし、教室中が凍りついた。

誰もが状況を理解できず口をつぐむ中、茶柱先生は教卓に両手を突き、教室内をじっと見渡した。

 

「そうだな……結城。なぜだかわかるか?」

「え、私……?」

 

突然名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がる。

クラス全員の視線がいっせいに私に向けられ、なぜ自分が……と戸惑いながらも、私は咄嗟に思いついたことを口にする。

 

「……授業態度、とかですか?」

「そうだ」

 

茶柱先生は薄く目を細めると、チョークを手に取り、黒板に数字を書き連ねていった。

 

 

遅刻欠席98回

 

授業中の私語や携帯操作391回

 

 

この1ヶ月間、クラスの生徒達がどれだけ怠惰に過ごしてきたかを示す、冷酷な記録。

 

「この学校は実力でお前達を測る。授業態度も当然、査定の対象だ。お前達は、毎月貰えるはずだった10万ポイントの価値を、自らの手でドブに捨てたんだよ。すべては自己責任だ」

 

反論のしようもない、絶対的な正論だった。

 

私自身、配信用の機材やパソコンを買い揃えたせいで、手持ちのポイントはかなり少なくなっている。今月の支給がないのは正直辛い。

けれど、明かされた学校のルールを前にして、今更騒いでも貰えないものは仕方ないと、すぐに諦めることにした。

 

(それにしても、4月中に配信を始めてよかった)

 

茶柱先生の言葉にそれぞれが絶望し、悲鳴を上げる中、私は内心でそっと息をついた。

 

その時、ポケットに仕舞われた私のスマホが、短く震えて通知を告げる。先生の目を盗んで布越しにそっと覗き込んだ画面には、〈登録者数150人達成のお知らせ〉という文字が、静かに浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、清隆が学校の放送で呼び出されたため、私は一足先に自分の部屋へと帰宅していた。

 

今月のポイント支給がゼロという最悪の状況。

けれど、学校側から届いたフォロワー150人達成についての通知のおかげで私の心には確かな余裕があった。

 

(これで生活費の心配はいらない。……もっとも、あの清隆との『約束』が、本当に行われるんだと思うと、別の緊張感はあるのだけれど)

 

「まずは、目の前の仕事をこなさないとね」

 

そう小さく呟いて、私は気持ちを切り替えた。

 

今日の撮影用に買ってきた食材をキッチンに並べ、動画の撮影準備を始める。

ライト付きのスマホスタンドを設置してカメラの角度を調整した後は、画面の向こうのファンを魅了する『エンジェルちゃん』になるためのメイクを始めた。

 

鏡に映る自分を、完璧なアイドルへと仕上げていく最中のことだった。

ピンポーン、と部屋のインターホンが鳴る。思っていたよりも遅かったなと思いながらも、訪問者を迎えに、私はメイクする手を止めて玄関へと向かった。

 

ガチャリと鍵を開けてドアを引くと、そこに立っていたのはやはり清隆だった。

 

「やっと来た。遅かったね」

「……ああ」

「さ、早く入って」

 

他の生徒に清隆が私の部屋に入るところを見られでもしたら、余計な噂を立てられかねない。何より、隠密に進めたい『エンジェルちゃん』の活動に支障が出るのは絶対に御免だった。

 

誰かに見られる前に、私は手早く清隆を室内に招き入れ、すぐにドアを閉めて鍵をかける。

 

靴を脱いで上がってきた清隆は、見た目こそいつも通りのポーカーフェイスだった。

だけど、彼がまとっている空気は明らかにいつもと違っていて、どこかピリついた不穏な気配が微かに混ざっている。

 

「……清隆? もしかして機嫌悪い?」

「顔に出ていたか? 自分ではいつも通りにしているつもりだったんだが」

「いや、あんたが表情に出たことなんてないから。不機嫌そうなオーラが出てたからそう思っただけ。……何かあったの?」

 

私が尋ねると、清隆は部屋の椅子に腰掛け、いつもより少しだけ低い声で言った。

 

「さっきの呼び出しだが……茶柱が堀北の前で俺の実力の件をバラした」

 

そう前置きして、彼は事の詳細を淡々と話し出した。

 

進路指導室へ行くと、茶柱先生から「今からする話を静かに聞け」と部屋に待機させられたこと。その後、堀北が「自分がDクラスになったのが納得いかない」と抗議しにやってきたこと。一通りの話を終えたところで、茶柱先生がそこに清隆がいることを堀北にバラし、引き合わせたこと――。そして、帰ろうとした堀北を呼び止め、彼の入学テストや小テストの記録を見せ、わざと点数を調節して50点にした事を明かされた、ということだった。

 

 

すべてを聞き終えた私は、思わず声を荒げた。

 

「はあ!? もしかして、私の事もバラしてないよね!?」

 

(あいつ、私のことわざわざ指名してきたし)

 

ホームルームでの出来事が脳裏をよぎり、一気に不安が押し寄せてくる。けれど、そんな私の杞憂を打ち消すように、清隆はすぐに首を振った。

 

「それは大丈夫だ。というより、お前はポイントを使って契約しているんだろ? なら大丈夫なのでは?」

「他人の個人情報を勝手にベラベラ話す、人の口なんて信用できる訳ないじゃん!」

 

私は苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

正体を隠して、配信活動を行おうとしている身としては、他人のデータを勝手に開示して巻き込んでくる茶柱のやり方は、到底信用できるものではなかった。

 

「清隆、次呼び出されたらちゃんとスマホで録音しておきなよ。あいつの都合で勝手に喋られちゃ、堪ったもんじゃないから」

 

一通り毒づいてから、私はふぅ、と小さく溜め息をつく。それから、目の前の椅子に座る彼に容赦のないジト目を向ける。

 

「てか、清隆もテストの点数、全部50点なのもキモい。普通の人間は毎回50点とるなんてありえないから。やるなら平均点狙いなよ」

「……キモい、か」

 

清隆は私の放った単語を、小さく復唱した。

相変わらずの鉄面皮だし、表情筋は一ミリも動いていない。けれど気のせいか、心なしかショックを受けているように見えるのは私だけだろうか。

 

「自分では一番無難で、目立たない数字を選んだつもりだったんだが……」

「そんなわけないじゃん。狙って全部50点取る方がよっぽど不自然だし難しいんだからね? 隠すならもっと上手くやりなよ」

 

呆れたように言う私に、清隆はそれ以上反論せず、「そういうものか……」とでも言いたげに、静かに視線を落とした。

 

 

 

それから、私はメイクを再開し、清隆はノートパソコンを開いて作業を始め出した。

静かになった部屋で、私は鏡に向かって手を動かしながら、ふっと思ったことを口にする。

 

「それにしても、堀北さんか。清隆も厄介なのに目をつけられたね」

「そうだな」

 

画面から目を離さないまま、清隆が短く応じる。

 

「今朝のホームルームで、茶柱が私達に『不良品』だって告げた時、堀北さんすごい顔してたじゃん。プライド高そうだし、相当お怒りだったんだじゃない?きっと、何がなんでも清隆の力を借りようとしてくるよ」

「お前は不満はないのか? 堀北と同じ点数で、頭も悪くないだろ?」

「別に。不良品だって事は事実だしね、特に思う事はないよ」

 

私は肩をすくめて、リップを唇に滑らせる。完全に意識を元の仕事へと戻した私を見て、清隆もパソコンの画面を少し閉じた。

 

「……それじゃあ、そろそろ撮影を始めるぞ」

「そうだね。じゃあ清隆、そこに立ってカメラの画角を確認してくれる?」

「……問題ない。照明の当たり方も、お前が一番綺麗に見える位置で固定されている」

「ありがと。じゃあ、録画ボタン押して」

 

清隆がコクンと頷き、レンズの横の赤いランプが点滅を始める。

 

その瞬間、私は頭の中でカチリとスイッチを切り替えた。さっきまでの苛立ちや呆れをすべて消し去り、画面の向こうのファンを魅了する『エンジェルちゃん』になりきった

 

「はーい、皆さんこんにちは! エンジェルちゃんだよ♪ 今日は料理企画なので、じゃーん! 白いエプロン姿なの!」

 

そう言って、エプロンの裾を少しだけ持ち上げ、カメラに向かってあざとく首を傾げる。

 

「どう? 似合ってる?」

 

カメラの向こう側へと可愛く問いかけ、ファンが悶絶するであろう数秒の"間"をあけておく。それから、ぱっと表情をさらに輝かせて、今回のテーマを発表した。

 

「今日の記念すべきエンジェルキッチン、第一回目のお題は……『豆腐ハンバーグ』! ヘルシーでとってもジューシーな特製豆腐ハンバーグを作っちゃうぞぉ!」

 

バチッとカメラ目線でポーズを決めた後、私はカメラの後ろの清隆に小さく目配せをする。

 

一旦録画を止め、清隆が手際よくスマホを流し台のスタンドへと付け替えてくれた。私が調理を行う手元が綺麗に映るように、アングルを素早く調節してもらう。

よし、これで手元の撮影準備もバッチリ。清隆が再び録画ボタンを押したのを確認して、私はボウルと食材を目の前に引き寄せた。

 

「じゃあ、さっそく作っていくよ! まずは鶏ひき肉を用意するんだけど、ひき肉は豚でも、合い挽きでも、みんなのお好みで大丈夫だよ。……あ、大事なポイント! 豆腐はしっかり水をきってね!そうじゃないと、タネが緩くなって形が崩れちゃうから」

 

手元を映すカメラの前で、私は手際よくタネをこねていく。

 

「このレシピだと、一回でだいたい6個くらい作れるよ。冷凍で作り置きもできるから、お弁当のおかずにもぴったり♪」

 

ハンバーグをじっくり焼き上げ、特製の和風あんをかければ完成。お皿に盛り付けて、私は再びカメラに視線を戻した。

 

「できたよ! エンジェルちゃん特製、豆腐ハンバーグ! 召し上がれっ♪」

 

バチッとカメラ目線で決めてから、私はスッと箸をカメラの後ろへと差し出した。

 

「じゃあ、ピにさっそく味見をしてもらいまーす。あ〜ん♡……どう?」

 

清隆がもぐもぐと咀嚼し、満足そうにコクンと頷く。その姿に私はパッと顔を輝かせた。

 

(よし、ここは後で『美味しい!』って大きく字幕を入れよう)

 

「わーい、合格もらったよー! みんなもぜひ作ってみてね。それじゃあ、今回はここまで!バイバ〜イ!」

 

カメラに向かって思いきり手を振ると、清隆がタイミングを合わせて録画ボタンを押し、無事に撮影が終了した。

 

レンズの赤いランプが消えた瞬間、私は大きく肩の力を抜いて、いつもの声で清隆に声をかける

 

「清隆、私ちょっと着替えてくるから、その間に告知の投稿作っておいてくれる? 画像は良さげなのを切り取ってくれればいいから」

「ああ、分かった」

 

清隆にスマホを託し、私はエプロンを外して衣装を脱ぐために部屋の奥へと向かった。

 

その間に、清隆は慣れた手つきで私のスマホを操作し、出来立てのハンバーグを嬉しそうに差し出している部分を切り取った画像とともに、投稿日時を記載した告知文をパパッと作成してアプリのタイムラインに投稿する。

 

私が部屋着に着替えて戻ってくる頃には、すでに投稿は完了していた。

 

「ありがと。……あ、もう反応が来てる」

 

清隆からスマホを受け取って画面をスクロールすると、早くもファンからのコメントが次々と流れてくる。

 

 

『料理もできるとか最高!』

『エンジェルちゃん、マジで嫁に欲しい……!』

『めちゃくちゃ美味しそう。ぜひ、師匠と呼ばせてください!』

 

 

「フフ、みんな大げさだなぁ……」

 

嬉しさに口元を緩ませながらスマホを置くと、ちょうどお腹も空いてくる時間だった。私はテーブルの上の出来立てのハンバーグを見つめてから、機材を片付け終えた彼を振り返る。

 

「ねえ、清隆。せっかくだし、食べていきなよ」

「……いいのか? ありがたくいただく」

 

多めに作ったとはいえ、食欲旺盛な男子高校生に豆腐ハンバーグだけでは物足りないはず。そう思った私は、ほうれん草のお浸しと、具を多めに入れた豚汁を追加で作り、テーブルに手際よく並べていく。

 

2人で向かい合って席につき、「いただきます」と小さく手を合わせて箸を動かす。

一口食べた清隆は、もぐもぐと咀嚼した後、いつもと変わらない淡々とした声で、けれど真っ直ぐに私を見た。

 

「……やっぱり、お前の作るものは美味いな。上手く言えないが、こういうのをホッとする味と言うんだろうな」

「そ、そう思うなら、もう少し美味しそうな顔したら……っ!」

 

褒められ慣れていない私は、彼の真っ直ぐな言葉に激しく動揺してしまい、思わず声を上ずらせて抗議する。

 

「俺としては口角をかげてるつもりだが」

「嘘!ピクリともしてないから!」

 

("清隆に美味しいって言ってもらえた……嬉しい")

 

胸の奥を占めたその純粋な喜びに、私自身はちっとも気がついていない。ただ、熱くなった顔を誤魔化すようにフンと鼻を鳴らして、必死にそっけない態度を取り繕う。

 

そんな私を、清隆は静かに見つめながら、どこか満足そうに再びハンバーグを口に運んでいた。

 

「……そんなに気に入ったなら、これからも作ってあげてもいいけど。……お弁当だって、余り物で良ければ、だけどね」

 

差し出された私の言葉を、清隆は咀嚼するように一瞬だけ間を置いた。

ゆっくりと箸を置き、その切れ長の瞳がまっすぐにこちらへ向けられる。感情の読めない、いつも通りの静かな眼差し。

 

「……そうか。毎日それだけの余り物が出るなら、俺としては大歓迎だ」

「なっ……」

 

からかわれているのか、本気で言っているのか。

相変わらず淡々としたトーンなのに、妙にこちらの退路を断つような言い方をされて、今度こそ顔が完全に火照ってしまう。慌てて視線を逸らし、手元のコップに逃げた。

 

「べ、別に毎日なんて言ってないでしょ! 気が向いた時だけなんだから!」

「ああ、分かっている」

 

必死に言い訳を重ねる私を、清隆はそれ以上追及することもなく、ただ小さく息を吐いてハンバーグに箸を戻した。その掴みどころのない態度が、余計に私の心臓をうるさくさせる。

 

その後は、少し気恥ずかしい空気のまま、けれどお互いに箸を止めることなく綺麗に完食した。

 

片付けを終え、清隆が鞄を持って玄関へと向かう。

私はスマホを操作し、アプリから振り込まれてきていた今回の動画の収益分のポイントを確認する。

 

「はい、これ。学校から配信の収益化の許可が降りて振り込まれたから、約束通り報酬の半分を送ったよ。確認して」

 

端末を近付け、取り分である半分を清隆の口座へと送金する。

しかし、清隆は自分のスマホの画面を確認すると、すぐに手元で器用に指を動かした。その直後、私のスマホが震え、たった今送ったばかりのポイントの半分が送り返されて来た。

 

「え……? ちょっと清隆、何これ。ポイント戻ってきてるんだけど。どうして?」

「これから食事を作ってくれるんだろ?その食費代だ」

「別に気にしなくてもいいのに……」

 

小さく呟いて視線を落とすけれど、頭の中では彼の言葉が何度もリフレッシュされていた。

『これから』ってことは、本当にこれからも当たり前に、私の料理を食べるつもりなんだ。そうやって未来の約束を淡々としたトーンで引き寄せられてしまうのが、なんだかすごく、くすぐったい。

 

「俺が気にするだけだ。それに、お前の料理にはそれだけの価値がある。……それじゃあ、ごちそうさま」

「うん。……じゃあ、また明日ね」

「ああ、また明日、学校で」

 

清隆は少しだけ目元を和らげると、静かに廊下を歩き出していった。

 

パタン、とドアが閉まり、静かになった部屋で私は自分の赤くなった頬に両手を当てる。

茶柱や堀北のことでピリついていた放課後の空気は、温かい夕食の時間と、帰り際のちょっぴり悔しくて甘いやり取りの中で、すっかり綺麗に溶けて消えていた。

 

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